141話 側室の条件
「あのさ、ミーシャが納得したのはわかるけどさ……あくまでもレナの気持ちに沿えないと幸せを考えてることにはならないと思うんだよな……」
いくら、レナの近くにいる男が俺だけだとしても、そんな消去法で選んでいいことではないはずだ。
「これはお嬢様の口からお伝えすることですね」
俺とレナの間に立っていたヴェラドンナが数歩下がった。
自然とレナと目が合うようになる。
もう、レナもうつむいてはいなかった。
「だ、旦那……私は、旦那のことが好きだっ!」
最後のほうは、少し目をつぶりながらレナは言った。それぐらい恥ずかしい言葉だったってことだろう。
「旦那に姉御がいるのは知ってる! 二人の関係がすごく長いものだってことも知ってる! けど、私が旦那を好きなのも本当なんだ! そこに偽りは何もないんだ!」
「こういう言い方が正しいかわからないけど、う、うれしいよ……」
俺はミーシャの夫だから、ほかの女性に恋心を抱くということはなかったし、しないようにしてきた。だから、そんな答え方になる。
「さて、最後の確認ですね」
ヴェラドンナがまた口を開いた。
「ケイジ様はお嬢様を側室にしていただけるでしょうか?」
かなり、とんでもないことを聞かれてるよな……。
「あのな、俺がいた世界では一夫一妻制が基本で……ミーシャがいるのにほかの女性を好きになるっていうこと自体が特殊なんだ。だから、そういうことは最初から考えないようにしてた」
「そのお気持ちもわかります。こちらとしては、ほかの前提はすべて解決しているということをお伝えすることが目的でしたので。私がいても邪魔だと思うので、退室いたします」
「えっ! ここで出るの!?」
引き止める前にヴェラドンナはとっとと出ていって、ドアを閉める。
だが、すぐにもう一度、ドアが開いて、
「聞き耳を立てたりすることもありませんから、ご安心ください」
と、言った。
「わかったから、帰ってくれ!」
必然的に俺とレナだけが残される。
無茶苦茶、気まずいぞ、これ……。
「ええと……とりあず椅子座ったら?」
「はい……」
怖々とレナは着席する。お見合いの席でももうちょっとお互い、気楽だろうというほどに空気が変だ。重いという表現が正しいのかよくわからないけど、空気が変なのは間違いない。
「俺、こういうの疎いからよくわからないんだけど、レナが将来後悔したりしないかなって、それが不安なんだよな……。レナに好きって言ってもらえることは光栄だけど、俺は立場的にレナだけを愛することって絶対にできないから……」
ミーシャもその愛が揺らがないという確信があったから、こういうことを許しているんだろう。
「それは覚悟の上です。それに、今の私が旦那を好きっていうことに何の間違いもありませんから……」
もう少し考えたほうがいいというようなことを言おうとして、言葉を飲み込んだ。
そんなこと考えたうえでここに来てるに決まってるよな。それはレナの人格を尊重してないのと同じだ。気づかいのようでいて、失礼に当たる。
だったら、ここは男らしく、決断するべきだな。
「レナ、お前も側室になるってことがどういうことかわかってるよな?」
「それも知らないのに、旦那と二人きりにはなりませんよ」
そう言うと、レナは顔を赤くして、下を向いた。そりゃ、照れるなっていうほうが無理な話かもな。
「それじゃ、俺からちょっとだけ要求させてくれ。こういうのは、そういう関係になってみないと見えてこないものもあるから、何か俺に問題があったら率直に言うこと。それと、できればその後もパーティーとしては仲良くやってほしいな。これはお願いみたいなものだけど……」
友達のままならずっと友達なのに恋人になったせいで相手が嫌いになるってことも世の中にはけっこうあるんだ。
そんなのもったいないじゃないか。こんな最高の盗賊とパーティーまで解消するのは悲しい。
「それだったら、ご心配いりませんぜ。だって、これまでずっとやってきたんですから」
レナははにかみながら笑った。
「姉御ほどじゃないけど、私も旦那とまあまあ長い間、冒険してきましたからね」
それもそうだよな。これだけ苦楽を共にしてきたんだから、案外と変化は小さいかもしれない。
俺は立ち上がって、部屋のカギを閉めた。
「レナ、それじゃ、俺のものになってくれるか?」
「そ、そのつもりで来ましたから……」
レナが緊張したようにうなずく。
「ああ、でも……はじめてなんで、旦那には優しくてほしいかな……」
「その『旦那』っていうのはやめてくれ……。いや、夫も旦那と言えば旦那なんだけど……ケイジって呼んでくれ」
「それは、恐れ多いです……」
「じゃあ、そうだな……旦那様にしてくれないかな。それだと、夫っぽさが明白になるし」
自分から様付けを要求してるみたいだけど、尊大にしようとしてるわけじゃないってわかってくれるよな。
「だ、だ、だ……旦那様……」
とつとつと、詰まりながらレナはそう俺を呼んだ。
これまで以上にレナがかわいく見えてしまった。
これで我慢しろっていうほうが無理だよな……。
俺はレナの手をそっととった。
「じゃあ、俺が教えてやる……」
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