140話 人間関係の重大な問題
「少し、お話、よろしいでしょうか?」
「あっ、ああ……。いいけど、いったいどんな話なんだ……?」
何か訳アリな空気がぷんぷんするので、そんなこと知らないと言えるわけがない。
そういえば、廃城のダンジョンに入る前あたりから、ミーシャもどこかおかしかったし、宿も別の部屋だし、何かしでかしてしまっただろうか……?
「もしかして、俺、何か悪いことした?」
ヴェラドンナは手を軽く左右に振った。
「いえ、それはありません。むしろ、はっきりと何もしてないぐらいです」
自分の責任じゃないということはわかったけど、相変わらず話の意図は不明だ。
「長くなりそうだったら、俺の部屋で話すか? 男の部屋で二人っていうのがまずいなら、宿の一階の空いているスペースでも」
「お部屋でまったく問題ありません。お話をさせてください。なるべく早いほうがいいですので」
俺はヴェラドンナを部屋に入れた。
とにかく、理由をはっきりさせないと落ち着かない。
ヴェラドンナを部屋に一つある椅子に座らせて、自分はベッドに座る。
ベッドにヴェラドンナを座らせるといつでも押し倒せる位置関係になるので、いろいろとまずいのだ。
とはいえ、ミーシャが嫁であるのに、そんなだいそれたことができるわけないと言えばそうなんだけど。
「それで、どういう話なのかな……?」
「少し話が長くなりますが、よろしいですか?」
「うん、そんな気はした。まあ、ゆっくりやってくれ」
こくんと小さくヴェラドンナはうなずいた。
「まず、私は立場上、レナお嬢様の幸せを願わないわけにはいきません。無論、ケイジ様やミーシャ様のことも考えて行動してはおりますが」
「別にそこは気にしてない。ヴェラドンナがセルウッド家に仕えてたことからすれば当たり前だ」
むしろ、はっきりそう言ってくれているほうがヴェラドンナの立場がわかってありがたい。
「なので、レナ様のご婚儀も頭の片隅には入れておりました。これは無理に政略結婚させるということではなくて、レナ様が自分が大切に思っている殿方と結ばれる後押しをしようとしていたということです」
「うん、それは殊勝な心がけだな」
「それで、ここしばらくお嬢様のために、いろんな方に状況の確認をしておりました。まず、ご当主様と奥方様に対して、お嬢様がケイジ様の正室になるのは無理だと納得させました」
俺は少しむせた。
「そこで俺の名前が出るのかよ……」
「はい。むしろ、旅の途中、お嬢様がほかの殿方にご関心を抱いたりしたところをご覧になったことがありますか?」
「ああ、それはないな。レナってそもそも恋に関心なさそうだったし」
レナは純粋な冒険者気質なのだ。Sランク冒険者という経歴もあるわけだし、いい男を探すだけならいくらでも探せるけど、そういうことを試みた様子すらなかった。
「そして、さらに私は、お嬢様はこの調子だと永久に結婚しないだろうということ、強引に相手を探しても上手くいかないから無駄であること、そういったことを説いて聞かせました」
なるほどな。本当にレナの幸せを第一に考えてたってわけだ。
「お二人の理解を得た私は、次にミーシャ様にお話をいたしました」
「そこでミーシャが出てくる理由がよくわからないんだけど……」
レナ個人に関することじゃなかったのか?
「私が真剣にお話をいたしますと、ミーシャ様も理解を示してくださいました。ミーシャ様は心の広いお方ですね」
「なあ、いったい何の話をしたんだ……?」
「私はお嬢様ご自身にお気持ちをうかがいました。そこでの確認もとれました。そこで、最後にケイジ様のところにやってきたのです」
「確認って何をすればいいんだ?」
するとヴェラドンナは立ち上がって、ドアをこんこんと内側からノックした。
がちゃりとドアが開いて、レナが入ってきた。
ただ、やけに顔が赤くて、いつものレナの雰囲気とは違う。
「旦那、多分、驚かせちゃったよな……?」
「レナ、まだ俺には話がよく見えてないんだけど……」
ヴェラドンナが俺とレナの間に立った。
「それでははっきりと申し上げますね。ケイジ様、お嬢様を側室にしていただけないでしょうか?」
「うえええええええ!!!」
思わず、変な声が出た。
そ、側室って、意味わかって言ってるのか……!?
「そんなこと、そもそも、ミーシャが許すわけないし――」
「姉御の許可なら得たんです、旦那……」
レナはうつむき気味だったけど、たしかにそう言った。
「そうです。ミーシャ様もずっとお嬢様が恋心を忍んで旅をするのはつらいだろうから、側室ならご自身は目をつぶると。はっきりそうおっしゃっているんですよ」
俺の知らない間にそんなことが……。
「条件はありました。それぐらい、二人の息が合ってるならいいということでした。そして、本日、ボスにお二人で戦っていただきました。結果は合格でした」
ミーシャが支援にまわったのは、そのためだったのか……。
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