139話 魔法石、記録更新
いったい、何の話をしてたんだ?
だけど、女子の話題にあまり深く立ち入るのもよくない気がするしな……。
「それでは帰りましょうか。資料となるものもすべて荷物として運べそうです」
ヴェラドンナが手際よく作業を行っていたらしい。
「あっ、盗賊としてはずせないものが一つだけ残ってます」
レナはそう言うと、ボスの死体を探りはじめた。
「そっか、魔法石か……」
「死体を触るというのもあまり楽しいことじゃないですけど、冒険者というのは本来、こういう仕事ですからね。それに、高い値のつく魔法石なら、それがモンスターも名を残す価値を持ちますし」
そういう意味では石をとるのはボスのためでもあるんだな。やがて、野球ボールぐらいのサイズがある丸い水晶みたいなものが出てきた。
「これ、おそらく前回よりいい値段がしますよ……」
「前回は三億ゲインだったから、日本円で30億円を超える額か……」
大リーグ選手の年俸みたいな額だな。金額が多すぎて、よくわからないけど。
「まだ日も高いし、近くの町まで歩きましょ。あまり野宿はしたくないしね」
ちなみに城を出ると、そこには入った時の光景が広がっていた。つまり、ボスを倒した時点で空間に関する魔法も解けていたというわけだ。もともと、廃城を飾りたてつつ、そこにたどりつくまでの空間をゆがめたのだろう。
●
俺たちは三時間ほど歩いて日暮れ頃に町にたどりついた。コンタラという町だ。
早速、ギルドにボスの魔法石を見せたら、ギルド職員のおじさんが腰を抜かした。
「こ、こんな魔法石見たことが……。いったい、どこで……」
「クランバレスト城を支配しているモンスターを倒して入手しました」
それを横で聞いてた女性職員が驚くのを通り越して、青ざめていた。
そうか、強くなりすぎると、冒険者って化け物と同じような感覚になってくるんだな。常識で評価できない何者かになってしまうらしい。
ほかにも冒険者たちはいたが、もう昔みたいにケンカを吹っかけてくる奴とかもいなかった。むしろ、できるだけ俺たちに近づかないようにしてる感じだ。
「とくにSランクですって名乗ったわけでもないのにばれてるみたいね」
「多分、目立つんだよ。俺以外、全員獣人なわけだし」
ちょっと周囲の声に注意すると「獣人ってこんなに強いんだな……」「獣人差別する奴は見る目ねえってことなんだろう……」なんて声が聞こえてくる。
このパーティーで魔王を倒そうものなら、獣人差別もほぼなくなるんじゃないだろうか。
あと、逆側のほうでは「けど、ケイジさんってうらやましいな」という声が聞こえた。
「自分以外、全員女だもんな」「やっぱり、獣人趣味なのか?」
違うぞ! 偶然だぞ!
「ああいうハーレムパーティーって憧れるけど、実際に組むのって難しいよな」「女子冒険者のほうが男よりかなり少ないからなあ」
それは事実らしい。女でも強い奴は強いけど、冒険者って職業自体が野宿したり、ダンジョンで汚れたりする仕事だから、女子には敬遠される。レナというすごい例外がいるので、よくその事実を忘れそうになるけど。
「やっぱり、夜はとっかえひっかえやってるのかな……」「Sランク冒険者だぞ。絶倫に決まってるだろ」「徹夜なんて当たり前なんだろうな」「そっちのほうもSランクか」
おい! なんか、あらぬ誤解を受けてるぞ!
悪いけど、ちゃんと妻がいる。その妻がおそらく世界一強いから、浮気する勇気もない。
レナを正室にしてくれと言われたことはあるけど……それもミーシャの許しを得られるわけがないので、丁重にお断りした。
「なんか、変な想像をされてるみたいね」
ミーシャの耳がひくひく動いた。
「あっ、ミーシャも聞こえてたのか……。俺は浮気なんてしないからな……」
「うん、ご主人様がそういうことしないのは知ってるわ」
妙に真面目な顔でミーシャが言った。
魔法石の鑑定は、ギルドに詰めてる職員だけだと評価額が出せないようで、町の道具屋なども引っ張り出されて、ずいぶん仰々しい話し合いになった。
「結果ですが、四億ゲイン相当かと……」
40億円の価値か。レナの見立てに間違いはなかったというわけだな。
「お金の使い道に困るわね。何を買おうかしら」
「城でも本当に建てられそうだな」
「ボスの魔法石をもっと集めて、まとめて換金したらギルド財政にちょっとしたダメージになりそうね」
ミーシャ、本当にやりそうで怖いな……。
その晩、打ち上げを町一番のレストランで食べた。
店に入って乾杯をした直後、ヴェラドンナが「宿をとってきます」と言って、出ていった。そのあたりは使用人経験があるせいか、率先してやってくれる。
一仕事終えたあとの食事と酒は美味かった。
宿はいいところだったが、一人一部屋になっていた。ミーシャと別の部屋なのか。
ただ、ミーシャもとくに何も文句は言わなかった。もしかすると、たまには別の部屋がいいと事前にヴェラドンナに言っていたのかもしれない。
だが、部屋に入る前、ヴェラドンナに肩を叩かれた。
「少し、お話、よろしいでしょうか?」
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