138話 城の攻略(4)
「強い男はかわいい女の子を守るものだろ」
どうしてもミーシャがいるから、強い男っていうのがかすんじゃうけど、俺だって世間的に見れば文句なしに強い男なのだ。体力だって普通の冒険者の倍はある。その俺が盾にならずにどうする。
レナは一瞬、ほうけたような、熱っぽい表情になっていた。
「旦那、そんなことを言うのは反則ですぜ……。旦那には姉御がいるっていうのに……」
「せ、戦場での話だよ……。それにレナがかわいいのは客観的事実だから、別に、も、問題ないし……」
そう、何も問題などない。今、俺たちが解決しないといけない問題は目の前のボスだけだ。
レナの火球の雨の間隙を突けるはず。
「レナ、できるだけ俺の後ろにいろ。これぐらいなら、いくらでもカバーできる!」
「わ、わかりました!」
レナをかばいながら、俺も動きつつ、敵の行動パターンを見る。
火球は俺を狙ってはいるけど、俺とボスの距離が離れると、避けないといけない数がまばらになる。
といっても敵が放った数は同じのはずだから、密度が落ちているわけだ。
離れれば離れるほど、この火球は拡散していく。シューティングゲームでもそういう弾幕ってあるよな。最初は固まっていて、だんだんばらけていくやつ。
つまり、敵が魔法を撃って、次を撃つまでの時間、そこで接近を試みることができれば、ダメージを与えられる。
「どうしました? もっと寄ってこないと倒せませんよ!」
たしかにボスとしても、ある程度俺が寄らないと致命傷を与えられないわけだ。こいつはボスだけど、戦略は防御寄りだな。こっちが撤退してくれれば、それでボスの役目は果たせるからな。
「旦那、私もあいつの動き、おおまかに読めましたぜ」
「そうか。じゃあ、次のタイミングで行くぞ」
あまりのんびりしていると、火球の流れ弾でじわじわ体力削られちゃうしな。
敵が火球をまた放つ。
今だ!
俺はその合間を縫って、どんどん敵に近づく。近づく、近づく!
「自殺行為ですよ! ここまでくれば、こちらの火炎弾の餌食です!」
敵の魔法使いが俺に向けて、魔法を撃つ。
俺は剣を振って、その何割かをはじく。
それでもある程度は喰らったけど、やっぱりたいしたことないや。修羅場のうちにも入らない程度だな。
「なっ、まだ倒れないですと……!?」
「お前が戦ってきた敵とレベルが違うんだよ!」
これで完全に隙ができたな。
俺の後ろからオオカミになったレナが飛び出る。
それこそ弾丸みたいな勢いでボスに突っ込む。
ボスが思わず、後ろに倒れる。
「よっしゃ! チャンスだ!」
俺もそこに続く。
剣を持って、ボスの体を刺し貫くのと――
レナがボスの首を噛みちぎるのが同時だった。
ボスは力を失って、がっくりとその場に倒れた。
「ま、まさか……。こんなことなら、もっと違う魔法で……」
「バカの一つ覚えで同じ魔法を使う戦法とったのが運のツキだな。あんた、もっと芸風は広いみたいだけど、宝の持ち腐れだぜ」
「ま、魔王様万歳……」
最期に魔王を讃える文言を残して、ボスは息絶えた。
「電撃作戦は成功したな」
レナがオオカミのまま寄ってきたので、その頭を撫でてやった。これなら、浮気にも多分入らないだろ。
後ろから回復の光を感じた。
ミーシャが回復魔法をかけてくれているのだ。ちくちくと体力消耗したからな。
「ご主人様、偉いわ。本当にきっちりボスを倒すんだから!」
「Sランク冒険者がボスに勝てないようじゃ、王国の命運も尽きてるからな……。また一つ拠点を落としたし、順調だな」
冷静沈着なヴェラドンナはもう気持ちを切り替えて、家探しをはじめていた。
「ここにも調査報告書らしきものがありますね。やはり地図があるので、ボスの居場所がわかります。全体的に北に集中してるようです」
「北か……。ふわふわのコートを買わないといけないわね……」
ミーシャは北と聞くだけで、寒そうな声を出した。モンスターは北から来ているわけで、しょうがない。
「レナはオオカミになっちゃったから、人に戻ったら服を着ないといけないわね。あっちの部屋で着替えるから、ご主人様は入っちゃダメよ」
「わかってるよ」
ミーシャはレナとともに隣の部屋に行った。何か女子トークでもしてるんだろう。俺は一息つきたいけど、ヴェラドンナがいろいろ探しているので、それを手伝うことにした。
「そういえば、ここのボスも名前がわからないままですね」
「『クランバレスト城のボス』ということにしとこう」
「皆さんの活躍は確実に記録に残るものですから、固有名詞がわからないのも残念ですが、しょうがないですね」
ヴェラドンナは資料を収集していた。おそらく、またレナの実家にでも送るのだろう。多分、そこから王都にも連絡はいっていると思う。
着替え終わったレナがミーシャと出てきた。
ただ、ちょっとぎこちない笑みを浮かべていた。
ミーシャもほとんど表情を顔に出してないからわからない。あんまり、楽しい話をしていたわけではなさそうだけど。
「だ、旦那、お疲れ様でした……」
「お、おう、お疲れ……」
いったい、何の話をしてたんだ?




