137話 城の攻略(3)
すぐにバリケードが燃え上がった。
一箇所ならともかく、すべてが燃えたので、もう手に負えないといった感じだ。すぐにモンスターたちは逃げていく。
「はい、いっちょう上がり」
「ミーシャが攻撃魔法を覚えた時点で、もうこの世界でミーシャに勝てる生物はいなくなったと思う。ドヤ顔でよく燃えるバリケードを眺めている。超破壊的なキャンプファイヤーみたいだ。
「なかなか、気兼ねなく燃やせるものってないから、気持ちいいわね。ストレスも解消されそう!」
「うん、ストレスが解消できたなら何よりなんだけど……これ、俺たちも進めなくないか?」
敵からの攻撃もないが、炎が強すぎて、全然接近することができない。
「私、水の魔法はかつて失敗したママで、ちゃんと習得してないのよね……。風の魔法を使って消す?」
「それ、余計に広がりそうだから、やめてくれ!」
もしかしたら全域を燃やせばどうにかなるのかもしれないけど、さすがに反則だと思う。あと、ここ自体が作られた空間だし。
「じゃあ、氷の魔法を使うわね。それが溶ければどうにかなるでしょ」
氷を炎で水にして炎を弱めるという面倒な方法で、ひとまず消火できた。
それから先も町の各所でモンスターは待ち受けていた。感覚的には市街戦だけど、俺たちは順調に制圧していった。
そして、町の一番奥にある丘の上に、俺たちが入ってきたのとそっくりな城がそびえていた。
「なんか、入れ子構造で変な気分ですね……」
レナは混乱してきたのか、嫌そうな顔をした。
「そうだな。でも、倒したモンスターは幻覚じゃなくて本物だ。ヴェラドンナのレベルが上がったし。だから、あそこが居城と考えていいと思う」
「ですね。旦那はそのあたり、頭の回転速いですね」
「戦闘の機転だったら、盗賊のレナのほうが速いと思うけどな」
と、城に入る前にミーシャがぴたっと止まった。とくにモンスターの姿もないが。
「どうした、ミーシャ?」
「ここのボスは一度、ご主人様とレナで戦ってみて。二人もSランク冒険者なわけだし、その実力がどれぐらい通用するか、ここで確かめてみたほうがいいと思うの」
たしかに、ずっとボスはミーシャに頼りますというのも問題か。
「うん。俺は異論はない。レナ?」
「私ももちろん構いませんぜ。それと、ちゃんと自分の手でボスを倒さないと、親が私の自慢した時に恥ずかしいですからね……」
レナはそこで、顔を赤くした。
「あぁ……絶対、うちの親、私がSランク冒険者だって方々で自慢してるんですぜ……。冒険者になりたいなんて言ってた時は猛反対してたのに……。想像したら、むずがゆくなってきたぜ……」
それって、「俺、バンドで食っていくぜ!」って言った子供に反対してた親が、子供のライブを見に来るみたいな現象に近いな……。
親としては子供が危険なことをするのはやめてほしいけど、いざ、偉くなったらそれは誇らしいってことだな。俺は親になったことはないけど、わからなくはない。
「お二人が結婚のことを言わなくなっただけいいではないですか」
ヴェラドンナがフォロー? をしていた。
そして、俺たちは城の中に入った。
そこでもバリケードのようなもので、モンスターたちが必死の抵抗を試みていたが、ヴェラドンナの鋭い攻撃に突破されていた。
「ねえ? 燃やしちゃダメなの?」
「ボスが逃げるかもしれないし、ここは堅実に行くぞ。ゲームでもモンスターの城を焼いて攻略なんてありえないだろ?」
「そうね。今回は回復に専念することにするわ」
ミーシャがあまり手を出さなかったので攻略のペースは落ちたが、こっちもハイレベルな冒険者だ。着実に進んでいく。あと、城自体はそこまで広くないので、やがて、最上階のボスの間までたどりついた。
ボスは魔法使いみたいなローブを着たオーガだった。
「まさか、こんなところまで人間がやってくるとは思いませんでしたよ」
いかにもボスらしいことを言うな。
俺はレナの顔を見る。レナも俺のほうを見ていた。
「やるぞ」「はい!」
そして、二人で前に向かっていく。
「人間ふぜいが愚かな!」
ボスはいくつもの火球を放ってきた。やはり魔法を使うモンスターらしい。
弾は小さいが、速度はかなりのものだ。
火球が一発、俺にぶつかる。
熱に体が反応して、動きが止まる。そこにまた火球がぶつかる。足がもつれそうになる。
まずいな、これ、倒れたら集中攻撃を受けるぞ……。
「旦那、大丈夫ですか!」
レナが後ろからよろけていた俺を支えた。
「ありがとう、レナ……。助かった……」
「傷が重いなら一回、姉御に回復してもらってください!」
「いや――全然たいしたことない」
攻撃にひるんだせいで、過大評価していた。
改めて考えてみれば受けたダメージはしょぼい。威力はこけおどし程度だ。
俺の動きが止まったところにも火球はぶつかってくるが、耐えられる程度。
そこで、発想を変えた。
小声でレナに言った。
「レナ、俺を壁にしろ。俺が前に進む」
「えっ……。そんな……」
「何もおかしくない。戦士と盗賊の正しい役割分担だ。それに――」
ちょっと恥ずかしいけど口にした。
「強い男はかわいい女の子を守るものだろ」




