14話 魔道書購入
今回で人間になれるかなと思ったのですが、尺的に明日になります!
よろしくお願いします!
ゴールドスライムは残らず何枚かに分けた皮袋に入れた。
「かなり重い……。のしかかられた時にも感じたけど……」
おそらく重さでいうと30キロ程度はあるだろう。
逆に言えば、たしかにここに金が入ってる割合を考えれば高値で売れるのもわかる。
「ご主人様が運んでると、隙が多すぎて危ないわ」
たしかに皮袋はかなり邪魔だった。
「ちょっと不格好だけど、仕方ないわね」
皮袋のうち半分はミーシャが紐を口にくわえて引っ張ることになった。
さすがLv71だ。これぐらい余裕なんだな。
「もし後ろから敵が来たら、手を叩いて教えてね」
「うん、わかった。俺も死にたくないからな」
多少びくびくしながらだったけど、俺たちは地上に戻ってきた。
正直、地下14層まで戻った時点でほぼ終わった気になったけど。
この階層の敵なら俺だけでも一対一ならほぼなんとかなるからだ。ゴーレムみたいなのも出てこない。
「地上に帰りつくまふぇふぁ、油断しふぁだめよ」
皮袋をくわえたまま、ミーシャが注意した。
実際、油断しかけていたので、反省、反省。
地上に戻ったら、即座にギルドに換金に行った。
これで盗まれたりしたら最悪だからな。
受付の女の人(ちなみにアリアさんと言うそうだ)は、
「あの、少し奥へ」
と言って、俺たちをあまり目立たないようにカウンターの中の階段から二階の事務所に連れていった。
「すいませんね、もし本物のゴールドスライムとなると、金目当てでケイジさんを狙う方がいないとも限りませんので……」
たしかにそうだ。
数千万円を持って歩いてますと知られたら不届き者が一人ぐらい出てきてもおかしくはない。
盗む気がなくても因縁をつけられるかもしれない。
なにせ、たいした金もない時から、冒険者狩りに遭ってるぐらいだからな……。
皮袋からのぞく黄金色のものを見て、アリアさんも息を飲んだ。
「すごい……。私もゴールドスライムを直接見るのは二度目です……」
ミーシャが得意げに「にゃーっ」と鳴いた。
「でも、よく達成されましたね。多くのゴールドスライム狙いの方は亡くなっています」
「運がよかったんですよ」
「ミャーッ!」
今度は威勢よくミーシャが鳴いた。
これは、うちのご主人様はすごいでしょと自慢しているな。
微妙な声の違いで、そういうのもわかる。長い付き合いなのだ。
「今、換金の担当者を呼んできますのでお待ちください」
あとから入ってきた換金の担当者(いかにも商人といった雰囲気のおじさんだ)は、
「おお、これはなかなかの逸品……」
と鑑定前からうれしいことを言ってくれた。
「そうですね、480万ゲインでどうでしょうか?」
もちろん、二つ返事でOKを出した。
これで120万ゲインの魔道書なんてすぐに購入できる。
「ただ、おそらく持って帰れる貨幣額ではないと思いますが、ひとまずその金額分の権利だけお渡しするということでどうでしょうか?」
そして、小切手帳を渡された。すでにギルドの名前は入っている。
あとは120万ゲインという数字と俺の名前を書けば魔道書は購入可能だ。
「ああ、それともう一つ吉報がありますよ!」
アリアさんが笑顔を見せて言った。
「Dランク冒険者に格上げになりました!」
うれしくはあるけど――
「俺、ギルドの依頼としては何も受けてないような……」
「いえ、23層まで行ってモンスターを倒したことが明らかなわけですから、Dランクぐらいは当然ですよ」
それなりに強くなっては来たんだな。
すぐに魔道書を買いに店に行った。
小切手を作っても、とくに店主には驚かれなかった。
たしかに高額商品が多いから貨幣で直接買おうとする奴はあんまりいないよな。
「魔導士の奥さんにでもプレゼントするんですかい?」
店主に尋ねられた。
「当たらずとも遠からずです」
宿のおかみさんにゴールドスライム討伐の話をしたら、サービスで何品も料理を出された。
「お祝いだよ!」
「むしろお金が儲かったのはこっちなのに、サービスされるっていうのも変な話ですね……」
「祝い事は多いほうがいいんだよ! 気にしなさんな!」
ダンジョンの奥まで入っていたので、人の優しさが目にしみる。
本当はこの料理もミーシャに食べさせてあげたいんだけど、さすがに猫のままではまだ無理だ。
「すいません、ミーシャ用にも特別に何か作っていただけませんか?」
ありがとうということを示すみたいに、俺の足にミーシャが顔をすり寄せた。
そして、食後。
ミーシャは変化魔法について書いてある魔道書を熱心に読みはじめた。
「なるほどね。そういうふうに念じるのか」
猫が本を読む光景も俺には見慣れたものだ。
魔法の習得にはおおざっぱに分けて三つのやり方がある。
一つは単純に魔法使いとしてレベルアップを繰り返す方法。
こうしていけば魔法使いとして必須のものはだいたい成長とともに覚えられる。
もう一つは能動的に既存魔法の習得を目指す方法。
多くは師匠の魔導士から習うのが普通だ。
特殊な魔法はたいてい、こうやって継承していく。
しかし、あらゆる魔導士に優秀な師がいるとは限らないし、逆に優秀な弟子がいない場合もある。
こういう時、魔導士は魔法の断絶を恐れて魔道書を作る。
だから魔道書が売り物として出回ることもあるわけだ。
もちろん極めて特殊な魔法の魔道書なら、店に売りに出されることもほぼないだろうけど。
なお、オリジナルの魔法を自分で編み出すことも原理上はできる。
これが魔法習得の方法第三だけど、まあ、今のところミーシャには関係ない。
ものすごい大魔導士になって、さらにその先の可能性を見出したい時に、それは考えればいい。
とはいえ、ミーシャの実力なら、いつかその道に進むこともありそうだ。
読みはじめた日を入れて四日間はひたすらミーシャは魔道書を熟読していた。
上手く肉球でページをめくっていく。
そして四日目。
「変化の魔法、試してみるわ」
落ち着いた声でミーシャが言った。
明日も昼12時と夜11時の更新を予定しています。




