136話 城の攻略(2)
「さて、どんなことになってるのかしら――わっ! これはすごいわ!」
最初に入ったミーシャが声を上げた。
俺たちもすぐにそのあとに続いた。
その言葉の意味がすぐにわかった。
その内部に足を踏み入れた瞬間、景色が激変した。
建物の中のはずなのに、空が広がっていて、建造物まで並んで、一つの町みたいになっているのだ。
「なんだよ、これ……。すごいことはわかるけど、意味がわからない……」
「おそらく、とてつもなく上等な魔法でしょうね。これだけの土地を制圧すると目立つから、古城の空間をゆがめたんでしょう」
ミーシャは初めて見る光景なのに割合に落ち着いていた。
ちなみに一番びっくりしていたのはレナで、中を「すげー、すげー!」と走り回っていた。
「だとしたら、相当強力な奴がボスってことだよな」
「どうかしら? 空間に関する魔法は王国だと伝わってないに等しいけど、王都のダンジョンの地下でも似たようなものがあったし、案外、難しくないのかもしれないわよ」
ミーシャなら、すべてがほどほどに見えるということだろう。
だが、そんなに呑気にしているわけにもいかなくなった。
建物のドアが開いて、次々にモンスターが出てくる。
多くは、二足歩行で服を着た獣みたいな奴らだった。角の形状的に過去に戦ったオーガの仲間だろうか。
「なるほどね。駐屯基地ってところね。じゃあ、まずは私が戦ってお手並み拝見といこうかしら」
ミーシャは敵の群れに突っ込んでいく。
そして、ぐるぐる右腕をまわして、パンチを決めた。
一撃でオーガが倒れた。それを防げるような奴はまずいないよな。
「ご主人様たちも戦ってみて。とくにヴェラドンナはレベルも上げたほうがいいから」
ミーシャの言葉に合わせて、後ろの俺たちも向かう。
まずは棍棒で殴りつけてくる敵の攻撃を剣で受ける。
「ああ、これぐらいか。レベル20相当ってところかな」
そう、危険というほどのことはない。レナも俺の横でほかの敵にナイフで斬りつけていた。
「よし、ヴェラドンナでも気をつければ倒せる。やってくれ!」
「わかりました。せっかくですし、違う武器も試してみましょうか」
ヴェラドンナが取り出したのは、尖った錐のような武器だった。それを両手に握っている。
「『暗殺者の針』と呼ばれる物です。ナイフよりも致命傷を早く与えやすいですので」
「お前、もしかして、暗殺七つ道具的なものを持ってたりするのか?」
いまだにヴェラドンナのことだとわからないことが多い。
「七つでは少ないですね。もっといろいろと使います。ただ、たんなる戦闘でならそんなにヴァリエーションは必要ないんですが」
やっぱり、こいつもすごい人材なんだなとあらためて思った。
次の瞬間には、その針と呼ぶには鋭く大きな武器がオーガの心臓に突き刺さっていた。
オーガは一撃で絶命する。さらにすぐ隣のオーガにもそれが刺さる。
「二刀流用の槍って感じね。あの子、なかなか面白いことをするじゃない」
ミーシャはよそ見をする余裕も当然のようにある。
「乱戦だとよさそうだな。どんどん刺していけるし」
ヴェラドンナの活躍もあり、軽く五十体ほどのモンスターを倒すことができた。残りの連中は危機を感じたのか逃げていった。
「あっ、二つレベルが上がったようですね」
そこでもヴェラドンナは軽い調子で言った。自分のことなんだからもうちょっと喜べよ。
=====
ヴェラドンナ
Lv25
職 業:暗殺者
体 力:174
魔 力:108
攻撃力:173
防御力:158
素早さ:190
知 力:168
技 能:急所突き・忍び足・隠密・二刀流(短剣)・背後攻撃・急速覚醒・拷問
その他:キツネの獣人・使用人・冒険者
=====
「拷問って技能が増えてるな……」
職業が職業だから、かなりえげつない名前だ。
「本当ですね。敵を見つけて一度使ってみましょうか。でも、下級のモンスターは人の言葉を使わないから意味がないですか」
「ご主人様、ためしに使ってもらったら?」
ミーシャが冗談を言った。
「絶対に嫌だ」
ひと息ついたので、その城の中の町の様子を調べる。ためしにオーガが出てきた家を見てみると、ベッドとテーブルがあるぐらいだった。ほかの建物でもそうなので、外観と比べると中身はかなりシンプルらしい。
「本当にベースキャンプって感じだな。これなら人間も警戒しづらいし、ちょうどいいだろ」
「そうね。あと、ボスがいる場所もだいたいわかるからいいわ」
あらためて進んでいくと、モンスターたちが引き抜いた木や壊れたテーブルを並べて、バリケードを作っていた。その奥にボスがいると言っているようなものだった。
直接、戦うとなると、物理的障害物が多いから大変そうだが――
「よく燃えそうね」
ミーシャがにやっと笑った。
ああ、焼く気だな……。
もう、ミーシャは敵に向けて、火炎の魔法を叩きつけていた。
すぐにバリケードが燃え上がった。




