135話 城の攻略(1)
二日後、俺たちはクランバレスト城のふもとにまでやってきた。
といっても、ふもとからまた山道を登っていかないといけないので、ミーシャのテンションは低いが。
「ねえ、レナ、猫になるから犬の背中に乗せて……」
「姉御がそう言うなら、私はいいですけど……」
「レナ、甘やかさないでくれ。ミーシャは一回味を占めると、ずっとやるからな」
それに飼い主として猫の面倒は俺が見るのが筋だ。
「そんなにしんどいなら、俺の背中に乗れ」
「あっ、いいんだ!」
「ただし、また元気になったらしっかり歩くこと。いいな?」
「やっぱり、ご主人様はやさしいわね!」
猫になったミーシャは早速乗ってくる。長らく。背中に乗せていたから、慣れている。昔はけっこうずっしり来るなと思ったものだが……。
「お城があるぐらいですから、前回のような険しい山や森はないはずです。ゆっくりと行きましょう。付近でのモンスター出没情報もそこまで多くはないですし」
ヴェラドンナはもともと国のことに詳しいのか、きっちり情報をくれる。
「廃城とはいえ、お城だもんな。周辺までモンスターに支配されてたら、さすがに王国も対処に乗り出さないといけないよな」
「おそらくモンスターも人間が動かない程度に勢力を扶植しているのでしょう。どうも、大型モンスターの寿命は人間よりも長いようですし、気づいた頃には人間の土地を支配しているという形を狙っているんでしょう」
けっこう悪質な攻撃だ。けど、種族が違うなら、そういう手を打ってきてもおかしくはないよな。
二時間ほど歩いて、クランバレスト城に到着した。
途中でミーシャも人の姿になって、歩いてくれた、
山の上にある城だけあって大きな堀などはないが、規模は相当デカい石の建物だ。モンスターが怖いというより、お化けのほうが怖い、そんな気持ちになる。
「見た目はいかにもな朽ち果てた廃城だけど、こんなところでモンスターも生活したいのか?」
ゲームでもよく、こういう荒れたところにモンスターが出てくるけど、あれって絶対に不便だと思う。
「実情はわからないけど、行ってみるしかないわ。それにご主人様も城攻めってあこがれだったんでしょ?」
「地下に潜るダンジョンよりはテンションも上がるな」
城につながる木の橋はかなり腐食が進んでいたが、歩けないほどではなかった。ただ、穴が何箇所も空いているので、歩ける面積は狭い。堀の水は腐っているのか、毒々しい色で臭気もきつい。
「絶対に落ちたくないですね……。ダメージはないかもしれないけど、心理的につらい……」
「レナは身軽だから、大丈夫なんじゃないの?」
「でも、こういうところで調子に乗って落ちたら最悪なんで、ここは慎重にいきます……」
そして、俺たちが橋にかかると――
堀の両側からレイスが顔を出してきた。
「やっぱりモンスターの根城みたいだな!」
レイスはあまり近づいてこずに、毒を含んだような息を噴いてくる。
これはかなり厄介だった。なにせ、回避できる場所が橋の上なのでほとんどない。
ヴェラドンナが防ぎきれずに毒の息を食らった。
「しくじりました……」
レナは回避は行えているが接近戦が身上なので、攻めに転じようがなく、困惑していた。それは俺も似たようなものだ。
「こいつら、全然近づいてこないな! かなり鬱陶しい攻撃してくる!」
「毒に犯すのが目的なんでしょうね……。旦那、こっちも危なっかしい足場で疲れてきました……」
ダンジョンの中だとずっと接近戦でやれていたから、こういうのは慣れてない。このパーティーの意外な弱点だな……。遠距離攻撃には対処がしづらい。
もっとも、ミーシャが一人いればすべて解決するのだが。
「ったく、面倒な敵ね」
ミーシャの手から火球が飛んで、レイスにぶつかる。
すぐにレイスは燃え尽きて、絶命した。
「はい、次はそっちね」
同じように火球で焼き殺した。飛び道具が使えるミーシャにとったら何の問題もなかったらしい。
「野生のモンスターと比べると、知能的ね。はい、毒も回復するから」
ミーシャは治癒の魔法でヴェラドンナの毒もあっさり解除した。
「あらためて、ミーシャさんの偉大さを感じました」
真顔でヴェラドンナが言った。
俺もレナも同じことを感じていた。ミーシャがいないと、遠くから攻撃されると、すごくもろいな。そりゃ、魔法使いがパーティーによくいるわけだ。
「これはお城の中も、なかなか骨があるかもね。気合入れていきましょ!」
ミーシャはむしろ、戦闘に張り合いがありそうだからか、生き生きとしていた。少なくとも、ここまでの道中よりは。
目の前にかなり傷んだ金属製の扉がある。扉は内側のかんぬきも開いていて、中に入れるようになっている。
「さて、どんなことになってるのかしら――わっ! これはすごいわ!」
最初に入ったミーシャが声を上げた。
俺たちもすぐにそのあとに続いた。




