127話 雪の森での戦い
ミエントの町を抜けると、そんなに時間を置かずに森の中に入っていく。
森はまだけっこう雪が残っていた。やはり、それなりに寒い気候らしい。ミーシャはいつもより、一枚多く着こんで、それに耐えていた。
「寒いのはけっこう体にこたえるわね……。日本に住んでた頃より寒いかも……」
ミーシャは雪国の地方都市で生活してはいたが、それでも外には散歩の時に出るぐらいだったから、全然寒さには強くない。雪国の家屋って断熱効果が高くて、下手をすると都市部の建物よりあったかいしな。
「寒いですか、姉御? 私はこれぐらいのほうが気持ちいいぐらいなんですけど」
盗賊らしい薄着のレナは全然平気のようだ。
「こちらもどうということはないですね」
ヴェラドンナもとくにつらかったりはしないようで、雪の道をさくさく進んでいる。
「あなたたちは雪国に強い動物の獣人だからでしょ! こっちは猫なの!」
ミーシャが文句を言ったが、それはそのとおりかもしれない。
「あ~、もしかするとモンスターより恐ろしい敵は寒さかもしれないわね……」
ミーシャは両手で自分の体を抱くような格好で進んでいた。
「しかし、モンスター、全然出てこなくないか?」
森に入って三十分ほど経つが、モンスターと遭遇していない。
「まさか、冬眠から目覚めてないんじゃないでしょうね……? そんなの見つけようがないわよ……」
だが、まがまがしい赤い色をした縄が木々にくくりつけられているところに出た。
少しずつ距離を置いて、木の板がかかっている。板にはこんな文字が書いてあった。
<この先モンスターの多発地帯につき、通行は推奨しません>
「ここからが敵の本拠地ってわけね。よし、行ってやろうじゃない!」
ミーシャが不敵に笑って、縄の下をくぐった。でも、そこで風が吹いて――
「うぅ……。もっと、寒くなるのは困るわ!」
ぶるぶるふるえていた。
看板の情報は正確だった。
数分と経たないうちにモンスターが襲ってきたのだ。
真っ黒な毛並みのオオカミみたいなモンスターだった。目が紫に発光しているから、モンスターとすぐにわかる。
数は十体以上いそうだ。さらに鳴きわめいて、仲間を呼んでいるらしい。かなり統率がとれている。
「ちょっとレナと似てるわね」
「姉御、それはないですよ! 私はもっとかわいいですからね!」
たしかにこのオオカミは全然かわいくない。
さて、すぐに戦闘に入るわけわけだけど――
「ヴェラドンナ、無理のない範囲で戦ってみてくれるか。力を見極めたい」
見極めたいのはヴェラドンナの力、モンスターの力の両方だ。おそらくだけど、この程度のモンスターなら窮地に陥るということはないはずだ。原則としてダンジョンのほうが地上よりもモンスターは強くなる傾向がある。この森は実質ダンジョンみたいなものかもしれないが。
「わかりました」
ヴェラドンナはナイフを握る。すっと、殺気がヴェラドンナに宿る。
「容赦なく、やります」
ミーシャもヴェラドンナに意識を配っている。危なくなったらすぐに回復をするつもりらしい。
しかし、その必要はなさそうだった。
ヴぇラドンナはゆっくりとオオカミに近づく。それに対してオオカミが突っこむ。
その途端、ヴェラドンナがオオカミよりもはるかに素早く動き、そのノド元にナイフを突き刺した。
ザシュ、ザシュ!
先に動いたほうが戦闘では手の内を読まれやすい。ヴェラドンナはわざとオオカミに仕掛けさせて、自分が有利な状況を作ったわけだ。
一度、戦闘になってしまえばオオカミたちもひたすら攻めかかるより手がない。ヴェラドンナに一斉に襲いかかる。
これを一匹ずつナイフで刺していく。すぐに致命傷になるわけではないが、確実に傷を与えていて、オオカミが一匹ずつ崩れていく。
俺たちのところにもオオカミがやってきた。さて、自分の手でオオカミの実力を測らせてもらうか。
ダンジョンの奥深くで見つけた剣で素早く切り裂く。
ほとんど力が入っていた感覚もないのに、オオカミの体が真っ二つになった。
「やっぱり、恐ろしい切れ味だな……」
神様が使うことを想定して作られた、最高水準の剣だ。ゴーレムの岩すら切ったぐらいだ。オオカミなんてものの数じゃない。
ミーシャもオオカミを何匹か殴って倒して、感覚を確かめていた。
「レベルで言うと、15ぐらいで戦える相手ね。ゴーレムよりちょっと弱いぐらいじゃないかしら」
「ということは、レベル15の奴には問題なくヴェラドンナは勝てるってことだな」
「そういうことみたいね」
戦闘自体はけっこう長く続いた。仲間モンスターが割とやってきたのだ。倒しても、倒しても、次が来る。
「冒険者が過去に全滅したりした理由もわかるな。敵は相当組織的だ」
数人のパーティーで攻めこんだ場合、これだけの長期戦は想定してないだろうから、どこかで力尽きる。疲労がたまるからな。
でも、こっちの実力なら、疲労が溜まる前に敵が全滅しそうだ。
「これ、レベルを上げるのにはちょうどいいかもな」




