125話 山賊瞬殺
朝早くから、俺達四人は北へ向けて出発することにした。馬は世話が面倒なので、徒歩で向かう。冒険者の足なら毎日かなりの距離を進むことができるし、急ぐ旅でもないので大丈夫だろう。
その朝に、ちょっと驚くことがあった。
ヴェラドンナがメイド服じゃない服を着ていた。
「戦闘が行われた時にあの服だとちょっと困りますし、暗殺が目的でなければ見た目で油断させる意味もありませんので」
まあ、その論法自体はもっともなのだが、スカートを動きやすさ重視でやけに短くしていて、けっこう目に毒だ。上の布の服も柄がしゃれていて、なんか女子高生ファッションぽさがある。
「なんだか、やけに若く見えるわね……」
ミーシャも驚いていた。
こうして、「二人と二匹」の旅がはじまった。
どういうことかというと、ミーシャとレナが猫とオオカミの姿で移動しているのだ。
「長旅なら人じゃないほうが楽なの」
「二足歩行より四足歩行のほうが体の疲れがたまりにくいんです」
たしかに人間みたいに二本の足だけで全体重を支えるのと比べると、効率はいい気がする。
セルウッド家付近の道はそれなりに整備されていたが、だんだんと道も狭くなってきて、普通の街道の道という雰囲気になってきた。
「ミエントに向かうのであれば、この先の分かれ道を左にとったほうが早くなりますね。ただし、あまり使われてない道ですので、山賊が出る恐れがありますが」
この世界の地理はヴェラドンナが詳しい。
「そんなのリスクのうちにも入らないわ。左にいきましょ」
俺もミーシャの意見に賛成だ。分岐を左に進む。
しばらく行くと、道がいよいよ細くなってくる。山を突っ切る道らしく、上り坂もきつくなってきた。
もっとも、Sランク冒険者と暗殺者のパーティーなので、ちょっとした山道ぐらいどうということはない。通常の旅人のペースよりはるかに速く進んでいく。
――と、途中でミーシャとレナが足をゆるめて、俺とヴェラドンナの隣に並んだ。
「私たちを囲もうとしてるわね」
ミーシャが小声で言う。
「モンスターじゃなくて人間か?」
「少なくとも人間より明らかに小型や明らかに大型の何かじゃないわね」
「これは山賊ですぜ。同業者の臭いがします」
レナ言うなら、それで正解なんだろう。
ヴェラドンナがさっと俺に接近して、俺の耳元に囁いた。
「殺してもよいでしょうか?」
一応、人間らしいから確認を求めたんだろう。
「そうだな、敵の殺意が明白なら、それでいい。あくまで物を奪えればそれでいいって奴ならこらしめるぐらいで許してやってほしい」
レナを助けた時とだいたい同じ評価基準で対応することにする。
もし、人を殺しまくってるような奴なら改心も難しいから殺してもいいだろう。
ヴェラドンナがナイフを握った。
「ワカリマシタ」
ぞくっと寒気がした。
そうか、ヴェラドンナってナイフを握った時に性格が変わるんだった。
もし、こんな暗殺者に囲まれたら、パニックになるだろうな……。
ヴェラドンナはおもむろに前方の森に入っていった。
しばらくすると、「うっ……」「ぐはっ……」といった、小さな声がいくつか漏れた。ただ、大きな悲鳴が聞こえることはなく、基本的に細い街道は静穏を保っている。
静かすぎて、ヴェラドンナが優勢なのか劣勢なのかすらわからないな……。でも、うかつに声を出すとヴェラドンナの計画がおかしくなる恐れもある。
「問題ないわよ、ご主人様。ヴェラドンナぐらいのレベルの山賊なら、徒党を組むわけがないわ。分け前が減るうえに、足もつきやすくなるから。大規模な山賊団の下っ端だけが来ている可能性はあるけど、どっちみちこの部隊がザコばかりなのは一緒」
「姉御の言うとおりですね。賊は大規模になるとかえってやりづらいんですよ。世が乱れてるなら、巨大な族の首領になることで、貴族みたいな地位も狙えますけど、今のご時世だとそういうのも難しいですからね」
猫・オオカミペアの話によると心配無用らしい。
しばらくしてヴェラドンナがいくつか皮袋を持って、立っていた。
ナイフは閉まってるので、もういつものヴェラドンナの空気に戻っている。
「身元がわかりそうなものがあったので、とってきました。やはり、このへんを根拠地にしている山賊ですね。共通の紋様が皮袋についていました。親分・子分の関係でも結んでいたんでしょう」
「そいつらはどうなった?」
「全員殺したうえで近くに池があったのでそこに投げ捨てました。放置しておくと野犬の餌になって死体が行方不明になりますから」
淡々と説明された。
「そうか……。お疲れ……」
やっぱり、ヴェラドンナは暗殺者としては一流だな。
「ちなみに、苦戦したか?」
「いえ。山賊にしても暗殺者にしても、敵に先に正体を知られる者が強いわけがありませんよ」
完全な正論をヴェラドンナはさらっと言った。
よほどの強敵と当たらない限りは心配しないでよさそうだ。




