122話 新たな旅
数日、レナの実家で厄介になっていたが、そろそろまた出発しようかという話になった。最初に言い出したのはミーシャだ。五日目の夕食を食べ終わって、部屋でごろごろしている時間だった。
「ここ、ごはんがおいしいから、太っちゃうかもしれないから……」
「言いたいことはわからなくもない……」
ミーシャはこっちに来てから七人前や八人前を毎食食べている。いくらミーシャの代謝がよくても限界がある気がする。
「ただ、ミーシャって変化魔法で今の体型を作ってるんだろ。ってことは、原理的にはどれだけ太っても人間時の体型は変わらないなんじゃないのか?」
「いいところに気づいたわね」
わざわざミーシャがドヤ顔する。
「でも、猫の時の体重には加算されるはずなのよ。ということはデブ猫になってしまうかもしれないの。そんな姿をご主人様にさらすわけにはいかないでしょう?」
「俺はデブ猫もけっこう好きだけど」
人間から見ると、猫自体がかわいいので、デボ猫だろうと老齢猫だろうと、それなりのかわいさがある。
「それはうれしくもあるけど……やっぱりダメ! 愛に甘えちゃダメなの! ご主人様のためにいい体型を維持したいの!」
ということで、また出かけるのは決定になった。
問題は目的地だ。
「どうする? 普通に屋敷に帰ってもいいけど、どっか寄りたいところがあるなら、寄ってもいいけど」
実のところ、ダンジョンのあそこから先をいくのはなかなか怖い。この世界に戻ってこれないかもしれないからだ。
「あ~、その話ならね、ちょっと計画してることはあるのよ。長丁場になりそうだし、悪くないかなって」
「へえ。何だ?」
これで全国食べ歩きとかだったら笑うぞ。思いっきり太るタイプの企画だ。
「実はね、この世界、すごく恐ろしいものが存在しているのよ。それは何だと思う?」
「なんだ? なぞなぞか?」
ミーシャにとって怖い物なんて何もないはずだけど。猫の時は掃除機の音を嫌ってたと思うが。
「それってミーシャが怖い物か? それとも世間的な物?」
「後者よ。私なら多分倒せるわ」
ということは敵のような何かか。
「降参だ。答えを教えてくれ」
「あのね、どうして、この世界に私たちは呼び出されたか思い出してみて」
すぐに答えは出してくれないらしい。
「ええと……ミーシャと一緒に死んで、それで転生させてもらった……」
「そういうことじゃないの。この世界側の都合の話よ」
そっか。別にこっちの世界で女神を認識してて、それと取引してたんじゃないもんな。
「ええと……なんだっけ……。思い出せそうで思い出せない。ええと……ええと……あっ!」
何の情報も入ってこないし、王都も平和だったので、すっかり忘れていた。
「この世界には魔王が復活してたんだ! それの対策で異世界から人間を呼び出して、軍人にしようとしてた!」
魔王がいると言っても、すぐにどこかの町が攻め滅ぼされたってわけじゃないだろうけど、魔王のせいでモンスターの数が増えた。結果として、モンスター対策の人員は必要とされていたはずだ。
「そうそう。ちなみに魔王が現れたっていうのは五十年以上前のことよ」
「じゃあ、魔王も人間をつぶす気はないんだな。なんだかんだで五十年も両立してるのか」
そりゃ、王都も平和なはずだ。今、ここにある危機ってわけじゃないとみんな知っているんだ。せいぜい、王家の墓にモンスターが増えて困るとか、そういう次元だ。
「けど、魔王がいるというのは事実なわけよ。これを倒せば人のためになるし、ちょっとした伝説になるわよ。私としてはご主人様といちゃいちゃできればいいんだけど、何か目的があったほうがハリができるでしょ?」
たしかに魔王退治を目標に少しずつこの国を旅するのも悪くない。
「わかった。俺はOKする。でも、条件がある」
「いったい何?」
「レナもついてくるのが条件。あと、できればヴェラドンナも一緒がいいな」
どうせなら、一緒の旅を続けたかった。だって、もうレナもヴェラドンナも俺にとっては家族なんだから。どれだけかかるかわからない旅に出っぱなしというのは嫌だ。
「レナは来るなと言っても来るだろうけど、ヴェラドンナはわからないわよ。そもそもあの子は屋敷の管理が仕事なわけだし」
「でも、レナを見守るのが真の仕事だったわけだろ。なら、来るかもしれない。もちろん、すべては本人に聞いてみないとわからないけどさ」
「じゃあ、早速、聞きに行ってみましょうか」
「もう、夜だし、寝てるかもしれないぞ」
「こんなに早い時間から寝てる盗賊なんていないわよ」
なるほど、それも一理あるか。
大きな屋敷なので、レナの部屋に行くまでもちょっと時間がかかったが、数日、ここにいたので、迷うことはなかった。
けっこう重大なことを聞くわけだから緊張するな……。
コンコンとドアをノックする。
すぐにドアが開いた。




