115話 最高の家族
無事にパーティーは進んでいった。これ以上のトラブルはまず起こらないだろう。酒に飲んで暴れるような奴は最初からこの会場に呼ばれてないだろうし。
最後に主催者であるマーセルさんが式を締める話をした。
「本日はご参加いただきましてありがとうございました。ケイジさんの戦いをご覧になられておわかりになったかと思いますが、Sランク冒険者の方々は人智を超えたような力をお持ちです。その力を遺跡の発掘などガートレッド王国発展のために使っているのもご存じのとおり。実に頭が下がる思いです」
それだけベタ褒めされると、逆に恥ずかしいな……。
「もしも、自分にあんな力があればもっと邪まなことに使ったかもしれません。しかし、そんなことをやらない強い意志をお持ちだからこそ、ここまで上り詰められたのかもしれませんな」
つんつんとミーシャが肘で小突いてきた。
「邪まなことをしないように私が見張ってるから大丈夫よ。変な虫がついたら絶対に払うから」
「わかってるよ。誰も浮気みたいなことはしない」
「ハーレムを作ろうとしたりするのもダメだからね」
ミーシャに監視されてる時点で悪いことをする勇気なんて生まれるわけがない。それでも浮気ができる奴なんて破滅願望がある人間ぐらいだろう。俺にそんな願望はない。平和に生きていくほうがいいに決まってる。
「そして、このSランク冒険者の中に我が娘ミレーユ、いえレナも入っております」
マーセルさんの話がレナになったので、レナがびくっと尻尾を立てた。
「最初はもちろん反対いたしました。そもそも冒険者というのは大変危険な職業です。いつ、命を落としてもおかしくありません。そんなものを貴族として育てられた娘がやれるわけがないと思っていました」
レナも話題になっているので、神妙な顔をしている。批判されるとでも思っているのかもしれない。
「しかし、娘は立派な冒険者の方と同行することができたおかげで、少しずつ少しずつ成長していくことができました。いつのまにやら、Sランク冒険者の地位までおこぼれのようにいただくことができました。親バカかもしれませんが……よくやったと思っています」
レナの顔があっけにとられたものになる。
まさか、冒険者であることを親に認められるとは思っていなかったのだ。
「ずっと、結婚相手が見つからないことを親としては心配していました。まあ、その心配は今もしているのですが、まずは娘が冒険者の頂点に立ったことを祝ってやりたいです。セルウッド家はSランク冒険者を出した家として、きっと語り継がれることでしょう」
「母親の私からも、おめでとうと言いたいです。Sランク冒険者の母にしてくれて、ありがとうと」
カタリナさんもそう述べた。
いつのまにやらレナは目に涙を浮かべていた。
「なんだよ、これ……。こんな人前でわざわざ言うなよ……。恥ずかしいじゃねえか……」
ミーシャがぽんとレナの背中を押した。
「御両親のところに行ってやりなさい。なんでもいいから、一言言ってあげたほうがいいわよ」
「わ、わかりました……姉御……」
ミーシャ、グッジョブだ。こういうのは誰かに言われないと動きづらいんだよな。
レナはゆっくりと両親の前に行くと、ぼそぼそと何か口にした。はっきりとは聞き取れなかったけど、最後に「ありがとうな……」と言ったのだけはわかった。
それから母親のカタリナさんに抱き締められていた。
「いいわね。私までもらい泣きしてきちゃった……」
たしかにミーシャも涙ぐんでいた。こういうのも感動の再会の一種なんだろうか。
「ていうか、俺達が呼ばれたのって、レナをこうやって迎えるためだったんだろうな。俺とミーシャはおまけだったんだよ」
冗談気味に俺は言った。
もちろん、それで腹を立てたりはしてない。なにせSランクの自慢の娘なんだから。とことん褒めて褒め抜いてやってほしい。これぐらいの協力だったらいくらでもする。
俺は何歩か前に出た。
「さあ、参加者の皆さん。どうか、Sランク冒険者のレナに惜しみない拍手をお願いします!」
俺の声に一斉に拍手と声が上がる。
みんな、育ちがいいから、こういうのはちゃんと協力してくれるな。
「旦那……ありがとうございます……。姉御にも感謝してます……。二人は命の恩人ですから……」
レナももう号泣していた。
冒険者の命が危なくなる時があるのは普通のことだろ。
さすがに山賊だったということは言えないからな。
ミーシャもとても微笑ましそうにレナと一家の様子を見つめていた。ヴェラドンナも鳴いているのが見えた。
実にいい家族じゃないか。こっちが嫉妬したくなるぐらいだ。
途中、俺が勝負を挑まれたりとアクシデントもあったが、終わってみれば素晴らしいイベントだったな。
俺からもあらためて言おう。
レナ、お前は最強で最高の盗賊だ。




