113話 プライドをへし折る
再戦ということで俺はもう一度、木剣を構える。
「ご主人様、実力を見せつけてやって」
「旦那、Sランクの怖さを思い知らせてやってくださいね!」
外野が俺を応援――というより、敵の騎士を煽っている。
こんなに肩の力が抜けた戦いって珍しいな。練習試合でも、もうちょっと気合が入りそうなものなんだけど。なんか、子供に稽古をつけるみたいだ。
「次は負けませんからね!」
「じゃあ、全力で来てくれ」
騎士が全力で走ってくる。本人は華麗に走っているつもりなのかもしれないが、かなりどたどたした足取りだった。
何から何まで素人だ。素人に素人を塗り重ねたような、なかなかの救いがたさだな……。
これだったら、こかしたらこけそうだな。
俺は敵の攻撃を自分の木剣で防ぐ。
「てえぇぇぇぇい!」
声だけは一丁前だが、力がちゃんと剣に届いてない。腰が入ってないせいだ。
何度か打ってくるので、すべて木剣で止める。
そして、重心を前に出してきたところで、さっと足払い。
「うわああぁぁぁっ!」
思いきり、騎士は転倒した。
あまりにも見事にこけたので、観客から笑い声が起こった。お客さん、すいません、Sランクの強さを見せようにも相手が弱すぎると難しいんです。
その頭に木剣を突きつける。
「はい、チェックメイトだな。これが実戦ならこれで殺されてるぞ」
「い、今のも卑怯だ! 正々堂々と剣で勝負しろ!」
だいぶ、恨まれてるみたいだな。別に困らないけど。
「いやあ、いかにも足払いしてくださいっていうぐらいに隙があったものだから、我慢できなかったよ。それにこういう終わり方だとケガさせずにすむからさ」
また観客の笑い声。「おーい、Sランク冒険者様が困っているぞ!」「そのへんにしておけ!」といった声も。どうやら、この騎士が世間知らずなのは割と知られている事実らしい。
ひとまず、観客がことごとく、こっちの味方というのはありがたいな。騎士を攻撃して白い目で見られたら失うものしかないところだった。
「もう一度! もう一度! ちゃんと剣で勝負してください!」
かなり、ムキになってるな。そろそろ、自分の実力が足りないこともわかってきているらしい。しかし、素直に認めるにはプライドが高すぎるのだ。
「それはいいけど、君をケガさせるのは忍びない」
「ケガはしないようにやる! 僕が勝ちますから!」
そんなに言うならやってやろうか。
こうして泣きの三回目ということになった。これまでよりは騎士も真剣になってきている。自分が観客の笑い者になっているということぐらいは理解しているようだ。
「次こそ勝つ!」
「言葉にしなくていいから、結果で証明してみろ。でなきゃ、意味がないぞ」
さてと、真正面からやり合っても、相手の実力がなさすぎるから、惜しかったと勘違いされる恐れがあるな。
となると、背後に回りこむか。
はっきり言ってそんな簡単に背後をとることなんてできない。後ろから攻撃されるというのは言うまでもなく、絶体絶命のピンチなのだ。流れの中でもなかなかそんなことにはならない。
なので、それを意図的にできたら、とんでもなく実力差があるということになる。
結論からいくと、これだけ実力差があれば、狙ってできる。
またバカ正直に騎士が突っ込んできたので、俺は攻撃を受け流して、さっと後ろに。
すぐさま背後から腕を攻撃。
パシィィィン!
「痛っ!」
騎士が悲鳴をあげた。
「隙があまりにも多い! ほら、すぐに後ろを取られてるぞ!」
腕に何発か攻撃を入れたら、そのうち武器を落とした。
これで勝負アリということになるだろう。
「ご主人様、さすがね!」
「旦那、的確な攻撃ですよ!」
ひとまずSランク冒険者から褒めてもらえたのだから、間違ってはいないということになるだろう。
「もう、わかっただろ? 君は実力が全然足りてない。しっかり強くなるためにやるべきことをやるんだな。中途半端なことをやってると、本当に命を失うぞ」
教師になるつもりはないが、最後に一言だけ言っておいてやろう。
「い、今のも卑怯だ……。背後から攻撃するだなんて……」
あらゆる戦いが卑怯になるな……。
「あのなあ、背後から奇襲を仕掛ければ卑怯かもしれないけど、ごく普通に背後をとられてるってことはそっちの実力不足だろ。卑怯でも何でもない」
「もう一度だけ! もう一度だけやってくれ!」
観客のほうから「何回やらせる気だ?」などといった声が響く。この騎士が充分に恥をかいているのは間違いない。かなりの数の貴族がいるから、貴族社会の中での噂になるぞ。
「本当に次で最後なんだな?」
「当たり前だ! 正面の戦いなら僕が勝つ!」
聞き分けが悪すぎるから、次で完全勝利ということにしようか。Sランク冒険者の実力を見せられてないのも事実だしな。Sランクがどれだけのものか、片鱗だけでも見てる人にも味わってもらおう。




