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108話 貴族のゴリ押し

「あんなに小さかったミレーユが冒険者の頂点に立つだなんて。信じられないわねえ」


 レナの母親であるカタリナさんは口調が全体的にゆっくりだ。この人も貴族階級の出身なんだろう。全体的におっとりしている。


「小さかったっていつの話をしてるんだよ」

 レナが問う。

「五歳?」

「小さいに決まってるだろ! どこに五歳でSランク冒険者にしか見えない奴がいるんだ?」


「私は五歳のあなたをはっきり覚えてるわよ」

「あ~、やりづらい……。だから帰りたくなかったんだ……。だいたい、家で働く職員を集めすぎだ!」

 実は夫婦の外側にはずら~っと家来に当たる人たちが頭を下げているのだ。大半はセルウッド家と同じライカンスロープだ。


「そうかしら? 私達にとっては普通なんだけど」

「おふくろの普通が世間で通用するわけねえだろ……」


「今回は皆様のSランク冒険者昇進のお祝いをいたしたく、お招きいたしました。どうか楽しんでいっていただければと思います。このセルウッド家が所領とする土地をはじめ、五百人ほどをお招きしております」


 わかっていたけど、やっぱりささやかでも何でもなかった。


「ただ、お祝いまではまだまだ時間がありますので、まずはケイジさん、ミーシャさん、こちらへ来ていただけますか? ミレーユはそのへんで時間をつぶしていなさい」

「えっ!? 親父、なんだよ、それ!」


「さあ、こちらへどうぞ」

「しょうがないわね。ご主人様、行きましょう」

 結局、俺とミーシャは困惑するレナを残して会議室用の部屋に入った。ヴェラドンナもついてきたので、レナだけはぐれた形だ。

 前の席にはマーセル・カタリナ夫妻が座っている。


 すぐにお茶が召使いのライカンスロープの手によって出された。


「ここにお連れしたのは改めて確認をいたしたいと思ったからなんですの」

 カタリナさんが笑みをたたえて言う。

「確認っていうと、何なんですかね?」


 こほんと、マーセルさんが空咳をした。

「娘を――ミレーユをどうか正妻にしていただきたいと思っておるのです」

 ミーシャがお茶を飲んでいたタイミングだったのか、ちょっとむせた。


「それはお断りしたはずですけど! 前回、この屋敷に呼ばれた時も、先日ヴェラドンナに提案された時も!」

「ねえ、ご主人様、ヴェラドンナに提案された時って何のこと? 私、聞いてないんだけど」

 あっ、ミーシャがむっとしている……。けど、これは俺は何も悪くないからな!


「本当に先日のことだけど、ヴェラドンナにレナを妻にしてくれないかって言われたんだ。もちろん断ったし、わざわざお前に言う意味もないから黙ってた」


「はい、こちらからそのようにお伝えいたしました」

 ヴェラドンナは涼しい顔で俺達の横で立っている。ヴェラドンナは俺達と同じ客ではなく、あくまでもセルウッド家の職員なのだ。


「そんなことがあったのね……。ご主人様、そういうことは事前に教えておいて。ご主人様のことで知らないことがあるのは私、嫌だから」

「わかった……以後気をつける……」


 最初から何もなければミーシャの機嫌が悪くなることもなかったので、俺も被害者みたいなものだ……。


「あの、ヴェラドンナにも答えましたけど、俺にはミーシャがいるんで、お二人の娘さんを妻にすることはできません。というか、その意思はどうせヴェラドンナ経由で届いてますよね?」

「はい。でも、我々としてもじかに確認しておきたかったのですよ。なにせ、娘の幸せのことですから」

 だったら、その娘がいないところで話し合うのっておかしくないかと思うが、貴族の結婚としてはこれが普通なのか。


「ミレーユは親である私達にはとても反抗的ですが、根は真面目だから、あなたが妻に迎えるには悪い娘ではないと思いますわ。母親である私が保証します」

「あの、別にレナが結婚するに値しないだなんて言ってませんからね? ただ、俺にはすでに妻がいるってだけのことです。このゴリ押しは無理がありすぎますよ」


「それはそうなのですがな……。ミーシャさん、形の上だけでも第二夫人ということに――いや、なんでもない……」

 ミーシャが思いっきりマーセルさんをにらんでいた。

「私とご主人様の間には、それはそれは長い歴史があるの。政略結婚で知り合っただなんて次元ではないの。だから、ご主人様もほかの女を好きになることは絶対に、絶対に、絶対にないから!」


 俺の心に関することを絶対三回も並べて決められてもと思うが、そんなことないぞと言う勇気はまったくないので、そういうことにする。


「マーセルさん、あなただって奥さんに愛を誓っているんでしょう? まさか愛人がいるとかそんなことはないわよね?」

「えっ、それは……」

 マーセルさんの顔色がちょっと悪くなった。まさか自分のことを言われるとは思ってなかったらしい。


「あら? もしかしてそういうわけではなかったのかしら?」

 ちょっと、ミーシャが嗜虐的な表情を浮かべた。

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