11話 一攫千金
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次の日の朝、ルナリアと出会ったら恥ずかしそうにちょっと顔をそらされた。
そのあとに、
「おはようございます……」
と言われたから嫌われたわけじゃないようだ。
ギルドに行くと、受付の人から、
「おめでとうございます!」
と開口一番に言われた。
「FランクからEランクに格上げになりましたよ!」
「ああ、護衛に成功したからか。でも、一つのクエストだけで上がるものなんですか?」
えらく楽に上がるな。
「まあ、Fランクからの脱出はすぐですよ。あと、昨晩、依頼者の方からあなたのご活躍をお聞きしましたので。若い娘さんでした」
ああ、ルナリアだ。
「モンスターの群れから依頼者をお守りしたことが明らかですから、これは当然評価するべきですので」
本当にルナリア、うれしかったんだろうな。
あるいは俺が早く上の冒険者にいけるように取り計らおうとしたんだろうか。
彼女の気持ちにこたえられないのがつらいな。
次に会った時はしっかりとありがとうと言おう。
「それと、これが報酬ですね」
「ありがたくいただきます」
直接おかみさんからもらってもいいんだけど、ちゃんとギルドを通さないとな。
「Eランクぐらいで喜びすぎだろ」
振り向いたら酔っ払いがテーブルに突っ伏しているのが見えた。
朝から飲んでる奴らにとったら、ほかの冒険者の活躍は楽しくないんだろう。
あと、実際、Eランクなんてまだまだしょぼいしな。
「さて、次はどんなお仕事をご希望ですか?」
「はっきり言うと、お金がたくさん入る仕事です」
ミーシャの目的がそれなのだ。
「なるほど……。そうですね、お金の入る仕事ですか……」
受付の子はいろいろと調べてくれているらしい。
「高額のものはあるんですけど、冒険者ランク的にEランクで受けられるものとなると……あんまり……」
たしかにそれもそうか。
Eランクで無茶苦茶儲かるなら、みんな冒険者になるよな。
「ああ、500万ゲインの仕事がありますね。これはギルドランクなども設定されていないです」
「500万!?」
変化の魔道書が4冊買えるぞ。日本円だと5000万だ。
「ちなみにどういうものなんですか?」
「北方にある王家の墓がモンスターの手に落ちてしまったので、それを取り返してほしいというものですが」
ミーシャが「みゃ」と鳴いた。
これは「ダメね」という意味だ。
「すいません、それはパスで」
理由は俺でもわかる。そんなのをEランク冒険者がどうにかできたなんて信じてもらえるわけがない。そしたらミーシャの秘密もばれるかもしれない。
「そうですね~となると……」
受付の人、お手数かけてすいません。
「依頼ではありませんが、地下23層にゴールドスライムが出現することはご存じですか?」
「いえ、初耳です」
だって、そんな地下深いところに踏み込んだことなんてないからな。
「ゴールドスライムというのはですね、金の含有量が極めて高いモンスターなんです。一体がそこの酒場スペースのテーブル一つ分ぐらいの重さはあるようです」
「となると、なかなか重量級のスライムですね」
普通のスライムとはダンジョンで遭遇したことはあるが、なかば液体なので重さを意識したことはない。
「そのスライムは死体からたくさんの金が獲れますし、さらに魔法石も珍しい輝きをしていて、これも高額で買い取れるんです。死体を丸ごと持って帰ることができたケースだと、当ギルドだと600万ゲインというのもあります」
「それだ!」
思わず叫んでしまった。
しかし、ほぼ同時に酒場のほうから笑い声がした。
「バーカ。地下23層だぞ。Eランク冒険者がたどりつけるわけねえじゃねえか」
ヒゲぼうぼうの男が言った。
たしかに男の言いたいこともわかる。
常識的には不可能だ。
でも、この男、ただバカにするだけじゃなくて、もうちょっと有益なことも教えてくれた。
「俺の知り合いの冒険者でもLv17前後のパーティーでゴールドスライム入手を目指した奴らがいる。なんとかそいつらは地下23層までたどりついた」
おっ、体験談だ。ありがたい。
ぶっきらぼうなだけでいい奴だな。
「しかしな、地下23層となると、モンスターと出会うたびに命懸けだ。そして、ゴールドスライムの出現率はかなり低い」
そりゃ、そんな宝の山がぼこぼこ入れば、もっとみんな探しそうなものだ。
「仮に23層にたどり着いても、スライムと出会う前に命の危険が迫って戻るしかなくなるってわけだ。ちなみにLv16の冒険者一人が帰る途中に死んだ。割に合わんぞ」
「ありがとうございます」
これ、バカにするのが目的じゃなくて、注意喚起だったんだな。
「冒険者の死因でけっこうあるんだ。金に困って、ゴールドスライムを目指して死ぬっていうのがな。お前はレベルはいくつだ?」
「Lv11です」
まあ、ミーシャはLv71だけど。
「一人で行くなら倍になっても足りんな。低階層のサソリやムカデを殺してこつこつ稼ぎな。分不相応のところに行くと死ぬぜ」
ミーシャはしゅんと首を垂れていた。
そりゃ、楽して儲かれば誰も苦労はしないよな。
俺とミーシャはギルドを後にした。
ダンジョン低階層で少し魔法石を稼いで、早々に宿に戻った。
◇ ◇ ◇
「は~、もし私が人間の姿をしてたら、一人で23層まで潜るのに……」
その晩、部屋でミーシャが言った。
「でも、猫の姿じゃゴールドスライムを持って帰る方法がないわ。まず、死骸を袋に入れることがひと苦労……。ままならないわね……」
夕飯に魚の干物が出たのに、あまりうれしそうじゃなかったからかなり悲しかったんだろう。
「私が人間の姿してたら、魔導士に弟子入りだってできるんだけど……。やっぱり猫じゃダメね……」
そんなミーシャの顔を見たくなかった。
だから、飼い主としてやるべきことは一つだった。
「ミーシャ、23層まで行こう」
「バカ! ご主人様の命に関わるわよ!」
条件反射のようにすぐに否定された。
「私は大丈夫でもご主人様は一発でも攻撃を受ければ死ぬかもしれないわ。15層のゴーレムのことは覚えてるでしょ?」
たしかにリスクはある。
でも――
「少しずつなら、潜っていけるはずだ。それに、ミーシャは回復魔法も使える」
俺とミーシャはしばらく見つめあった。
俺だって生半可な気持ちでは言ってない。
「わかったわ」
ミーシャがこくりとうなずいた。
「ただし、あくまでも23層は目標よ。危なくなった時点ですぐ戻る、いいわね?」
「うん、その判断はミーシャが決めてくれ」
次回は夜23時頃の更新予定です。




