表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/205

106話 冒険者の決断

「この魔法陣が地下36階層への入口かもしれないってことか……」


 わざわざ通路を隠していたぐらいなのだ。これが特別なものなのは確実だ。どこかに通じていると見ていいだろう。


 けど、だからこそ怖かった。


「旦那、姉御……これって仮にどこかにワープしたとして、この世界に戻ってこれるんですかね?」


 レナの言葉は俺とミーシャの不安も代弁していた。


 そうなのだ。階段なら崩落したりしないかぎり、いくら降りたってもう一度登ればもとのところに帰りつける。


 しかし、この魔法陣に飛び込んで移動できたとして、またここに戻ってこられる保証はどこにもない。


 これが俺とミーシャがこの世界に来て三日目とかなら、気にせず飛び込んだかもしれない。でも、この王国はすでに俺とミーシャの故郷も同然だ。レナにとっては故郷そのものだ。謎の異世界にでも行ったら、家族と会える可能性もなくなる恐れがある。


「冒険者の幽霊は地下45階層まで行ったとか言ってたよな……。だとしたら、ちゃんと戻れるんじゃないかな……」

 俺は仮説を述べてみたが、だからといって、飛びこむ気になったというわけではなかった。

 だいたい、あの幽霊がどこで死んだかの確認まではできない。実は戻ってこれなくなった先で死んだのかもしれない。


 ミーシャは俺の言葉には何も答えず、じっと水面を見つめていた。

 迷いみたいなものがミーシャにもあるんだろう。


「今日はここまで! 引き返しましょう!」

 ぱん、とミーシャが手を叩いた。


「無理をしすぎないで引き返すことは冒険者の鉄則よ。それに従うまで。王国に戻れば魔法陣について勉強することもできるし、それで安全が確保できてからでも遅くはないわ」


「そうだな。ミーシャの言うとおりだ。二度とここに来れないわけでもないしな。今日の収穫としてはここが見つかっただけでも充分だ」


「興味はすごくあるけどね。だからって、そのためにこれまで手にしてきたものをすべて懸けるのは愚かよ。少なくともレナは飛びこむべきじゃないわ。ご両親にあいさつでもして来てからのほうがいいわよ。現時点では永久とわの別れになるかもしれないから」


「それはちょっとおおげさかもしれないですけどね」


 それでも、レナの顔は明らかにほっとしていた。こういう結論は先送りにしたほうが無難だよな。


 俺たちは無駄に長い通路を引き返す。


「じゃあ、魔法陣のことがわかるまではダンジョン探索は一回中断ってことだな。代わりにどっか行こうか」


 長い間、ダンジョンに潜っていたから、気晴らしの意味でも違うところに行くのは悪くない。ダンジョンって日の光も当たらなくて陰気だから、次は解放的なところがいいな。


「それだったら、まさにレナのご両親にあいさつに行かない? ヴェラドンナも連れて」

「ミーシャ、それ、いいアイディアだ。Sランク冒険者にもなったわけだし、凱旋にもなる」

 親の意向に逆らったレナがちゃんと冒険者という立場で頂点にまでたどりついたのだ。両親も祝福してくれるんじゃないだろうか。


「帰るんですか……。ま、まあ……以前と比べれば肩身も狭くないですけど……」

 レナはまだ照れみたいなものがあるらしく「よし、帰りましょう!」とは言わなかった。俺も里帰りができたとして、そんなにテンション上げないと思うだろうし、その気持ちはわからなくもない。


「いいじゃない。ダンジョン潜るのも飽きてきたし、モンスターのいないところでもてなされたいわ。それにSランク冒険者って、貴族の中でもけっこう偉い地位に相当するんでしょ。貴族が貴族に会いにいくんだから、何もおかしなことはないわ。堂々としていればいいのよ」


「わかりました! ちゃんと胸張って帰りますよ!」


 レナも押し切られるような形でそう答えたので、親御さんのセルウッド家に戻るのは確定した。

 所有する土地の広さだと、王国でも第五位に位置する超大貴族だ。獣人の貴族は珍しいが、はっきり言って獣人では最高の地位を誇る家だろう。

 なので、レナも出自はとんでもないお嬢様だ。庶民が口をきくのも畏れ多いレベルだ。


 ちなみにレナの本名はミレーユで、家出をした時に偽名でレナを使ったまま、今に至っている。レナからすると、あまりにもお嬢様お嬢様した生活が嫌だったらしい。

 庶民からすると、その地位を捨てたことが理解できないだろうが、生まれながらにしてお嬢様だった身からすれば煩わしい立場以外の何物でもなかったのかもしれない。


「別に私は親と顔を合わせるのが恥ずかしいわけじゃないんですよ。でも、会うと、また結婚しろと言われるはずなんで、それが鬱陶しいんです……」

「あっ、それはありそう……」

「どうせまたSランク冒険者になったことだし、旦那と結婚しろとか言い出すんですよ……。姉御がいるの知ってるのに……」


 ていうか、まさにちょっと前にヴェラドンナに蒸し返されたばっかりなんだよな……。

 セルウッド家の関係者はとにかく俺とレナを結婚させたくて仕方がないらしい……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ