105話 通路発見
「あれ? 何か感じるわ……」
「感じる? まさか、モンスターの気配でもあるのか?」
ずっと、モンスターはこのフロアには出てきてなかったのだが、このまま出会わないままだろうというほど楽観視はしてない。なにせ、ここはダンジョンの内部なのだから。
「ううん、そういう何かがいる気配とは全然違うやつ。なんだろう……隙間風みたいなものが吹いてるっていうか……」
見たかぎり、かなり立派な神殿だから手抜き工事をしているところがあるとは思えないのだが。
こういうことに関しては、やはり盗賊のレナのほうがぴんと来るものがあったらしい。
「隙間風? 姉御、それってもしかして地下へ続く階段から吹いてるものじゃないですかね?」
レナが身を乗り出して、タイルのほうに入っていった。ちょっとドキっとするが、罠が仕掛けられてるタイルじゃなかった。
「だとすると、お尻のあたりから感じるんだけど……あれ、もしかして……」
ミーシャは壁の側を向くと、もう一度手を壁のほうに突き出した。
ただ、これまでと違うのは、その場所がうんと低いところだってことだ。床に落ちてるものでも拾うような姿勢で、手を伸ばしていく。
すると、手が壁の中に吸い込まれるようにして消えた。
「ミーシャ、どうなってるんだ!」
「別に痛みとかはないから、手が切断されたんじゃないわよ。きっと、これ、幻影よ。壁があるような幻影を見せてるだけ!」
今度はミーシャは猫みたいに四つん這いになって、顔を壁の中に突き入れた。また壁の中に顔が入ったように、こっちからは見える。
「あっ! 通路があるわ! ここが正解だったのよ!」
ミーシャの声が不自然な反響をして聞こえた。その先が狭い通路だという証拠だった。
「マジか! ちなみに危険はないか?」
慎重になりすぎてるかもしれないけど、地下35階層だからな。通路でいきなり強力なモンスターが出てこないとも限らないし、罠だって怖い。
「見たところ、敵らしきものは何もないわ。ちょっとだけ入ってみるわね。念のため、二人はそこで待ってて」
三分もせずにミーシャがこっちに戻ってきた。幻影のせいか、壁からミーシャの顔がにゅっと出てきたように見えて、ちょっと不気味だった。
「入口のあたりは何も問題はないと思うわ。二人も入ってきて」
「わかった」「道をちゃんと見つけられて、よかったです」
体を折り曲げるようにして中に入ると、タイル三枚の幅と同じぐらいの横幅の通路があった。
高さもしゃがまないといけないぐらい低いときつかったが、二メートルちょっとぐらいはあるらしく、かろうじて、引っかからずに歩けそうだ。大きな剣などを肩につけてたら、ぶつかるだろうが。
「これは大発見ですね!」
レナの声が通路に反響する。
「もう少し声を落とせ! 誰かに気づかれるかもしれないだろ!」
「あっ、すいません……。つい、盛り上がっちまいました……」
レナってこういうところは雑だよな。でも、盛り上がる気持ちはわかる。ずっとわからなかった謎が見事に解けて、その先へ進むことができているのだから。
「前からは何も迫ってきてるようには見えないわね。ご主人様とレナは念のため、背後にも注意して」
ミーシャは割と淡々としていた。通路自体は実にシンプルな一本道で迷いようもない。圧迫感があるので、とっとと広い場所に出てほしいが、もう少し道は奥まで続いている。距離感がわかりづらくなる道だ。
数分歩いただろうか。奥に扉が見えてきた。カギなどはかかっていなくて、すぐに中に入れた。
「なんだ、これ……?」
入った途端、俺は思わずそうつぶやいてしまった。
その小部屋には、床に奇妙な正方形のプールのようなものがあった。水かどうかはわからないが、液体らしきものが十センチぐらいは入っているように見える。
プールの底に魔法陣みたいなものが描かれている。
「あれ? 階段はないんですか? どう考えてもここだと思ったんだけどな……」
レナはきょろきょろと壁を見回している。
「どう考えても、この魔法陣が目的だろ。これが何かはわからないけど……」
「入れば何かわかるかもしれませんけど、あまり入りたくはありませんね……。私、魔法に関することはあまり詳しくないんで……」
レナはじっと魔法陣を観察している。とくに発光したりだとか、変化はない。
「ねえ、ご主人様、これ、私たちがこの世界にやってきた時の召喚円に似てない?」
「あっ……そういえば、こんなところから出てきたような……」
ずいぶんと前の記憶だけれど、まさに俺とミーシャのスタートに当たる日だったから、それなりに強く頭に残っていた。
「だとしたら、これってほかの世界から誰かがここに出てくる仕掛けなのか?」
「あるいはここから、ほかのどこかに飛べるかもしれないわよ。私たちが出てきた時は違う世界から来たから一方通行だったけど、これはそうじゃないかも」
「この魔法陣が地下36階層への入口かもしれないってことか……」




