101話 罠だらけ
罠が発動した以上、このままずかずか進む気になどなれないので、レナに罠のチェックをしてもらうことにした。レナも自分の仕事が回ってきたとばかりにノリノリで罠を調べている。これで罠解除が終われば、また壁際を調べていくこともできるだろう。
そう考えていたのだけど、それは甘い算段だったらしい。
「なんだ、これ……? まったく見たことのない仕掛けだ……。何がどうなってるのか見当もつかねえ……」
やけに時間がかかっているなと思っていたら、そんなレナの困惑しきった声がした。
「これを、こうやるのか? いや、これ、リスクがあるな……。あの、旦那と姉御……ちょっと全方位に気を配っておいていただけませんか?」
「全方位? ――――わっ!」
すぐ目の前から弓矢が飛んできて、俺は慌てて飛びのいた。
じっとしていたら、頭を撃ち抜かれていたとしてもおかしくないぞ……。
「やっぱりな。こりゃ、最悪だな……」
「俺のほうが最悪だ……。いったい、何なんだよ……。解除作業中じゃないのか?」
「旦那、一言で言うと、この罠は解除に失敗すると、ほかの罠が作動するタイプなんだ……。だから、解除で試行錯誤をすることができねえんです……。ちなみに罠もガートレッド王国でよく見るものとは、別様式だ。一言で言うと試行錯誤しないと解除法がとてもわかりそうにねえ……」
「それって、今後もじゃんじゃん弓矢が飛んでくるってことかよ……」
だったら、罠解除もクソもない。
「そういうことですね……。私も盗賊として長くやってきましたけど、そこで学んだのはガートレッド王国での罠についてなんでさ……。ここのは別文明のものだから、どうすればいいのかさっぱりわからねえ……」
「話はわかったわ。それじゃ、罠を調べるのは中止にしましょ」
落ち着いた口調でミーシャがそう提案した。
「このまま続行すれば、一番罠に近づいているレナの身に危険が及ぶわ。そんなリスクの高いことをやらせるわけにはいかないでしょ」
人道的配慮からすれば当然そうなるよな。俺もレナが傷つく姿なんて見たくない。
しかし――その決定をしても何の進展にもなってない。
「なあ、だったら、このまま罠を踏みまくって探索するしかないってことか?」
どんなパワープレイなんだよ……。いくら、高レベルになっているとはいっても、ぞっとしないぞ。
「そうしなきゃ、先に進めないわ。やりましょ」
ミーシャはそれで恐れも何も感じてないらしい。
「やれないだろ……。もうちょっと安全な方法が何かないか考えようぜ……」
「だったら、私が盾になって進むわ。さすがにすべての床で罠が発動することはないだろうから、安全な床だけ目印をつけていけばいいでしょ」
すごい理論をミーシャは出してきた。もう、レベルが70を超えている奴にしかできないことだ。
「レナ、チョークぐらいはあるでしょ。それを貸して。私がチェックしていくから。幸い、床はタイル状だからどのタイルが安全かどうかチェックするのは楽だわ」
「わかりました……。でも、姉御、気をつけてくださいね……」
「気をつけないわけないでしょ。むしろ、あなたたちこそ気をつけてね。罠がどこで発動するかなんてわからないんだから」
こうしてゴリ押しによるダンジョン探索作業が行われることになった。
なお、罠の頻度はかなり高かった。
タイル三枚に一枚ぐらいは罠が発動したのだ。
まず、これまでもあった弓矢。
続いて、天井から落ちてくる石。周縁部の廊下は吹き抜けの中央部と天井もごく低い。気を抜くとつぶされるようになっている。
落とし穴というのもあった。穴の下には何本も槍が設置されていた。
なお、ミーシャはそのすべてを華麗にかわした。
石に関しては思い切り殴りつけて、逆に粉砕した。
「そんなのありかよ!」
石が粉々になった時には、逆に罠を仕掛けた人間が気の毒になった。罠を物理で解決する冒険者が来るとは考えていなかっただろう。
「いたたたっ……。これはやりすぎだったかしら……。日本で暮らしていた時、ご主人様に足を踏まれた時ぐらい痛いわ……」
「逆に言えば、それぐらいですむってことかよ……」
ミーシャは回復魔法を自分の手にかけて痛みを消していた。ミーシャの魔力はほぼ無尽蔵なので節約という発想は必要ない。
ちなみにミーシャの足を誤って踏んでしまった時はミーシャはものすごく怒って、俺の足をがぶがぶ噛んできた。おかげで靴下に穴が空いた。猫って好き勝手なところで寝ているので、人間の死角で寝ていることも珍しくないのだ。
「けど、これ、なかなか時間がかかりそうね」
ミーシャがずっと奥まで続く廊下を見て、ため息をついた。
「一時間もやったら、一度温泉がある階まで戻って休ませて」
「私はこの仕事をやってる姉御に逆らう権利はありませんから……」
レナが従容とうなずいた。
「俺もそうだ……。すべてはミーシャ様頼みだからな……」
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