100話 いざ35階層へ
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食べ過ぎも無事に回復した俺たちはいよいよ地下35階層を目指す旅に出ることにした。
「これが一つの到達点だからね。そこから先はまたどうするか考えればいいけど、まずは35階層より奥を一度見てみたいわ」
ダンジョンに入る前にミーシャが言った。
地下35階層とその先は偉大な冒険者の幽霊が語るところによると、まったく違う世界なのだそうだ。
だったら、それをこの目で確かめたいというのは冒険者として当然の欲望だろう。
「準備万端整ってる。一気にそこまで行こうぜ」
これまで34階層の倉庫で時間を食ってたからな。
「ああ、一気といっても、温泉には入ってからいくわよ」
そっか、ひとっ風呂浴びるのは確定なんだな……。
ダンジョンを歩いていると汚れるし、埃っぽいところも多いし、それはそれでいいか。
「よ~し、久しぶりの温泉、楽しみです!」
「レナ、あくまでも目的は35階層だからな!?」
微妙に緊迫感が抜けたまま、俺達はダンジョンに入った。
装備品も大幅に強化された俺達に死角などなかった。ピンチと呼べるものすらないままに温泉のあるフロアまで来て、また三人でお風呂に入った。
相変わらず、ミーシャは裸で入浴しているので目に毒だが、変に反応するとかえってからかわれそうなので平気なふりをすることにした。
だけど、俺が無理をしているのがミーシャに見抜かれたのか、それとも俺が堂々としているのか気に入らなかったのか、ミーシャが俺の背中に体を密着させてきた。
「お前、胸当たってるって……」
これはいくらなんでも平常心を保つのは不可能だ。
「当ててるのよ。このセリフ一度言ってみたかったの」
「とにかく離れろよ……ほら、ほかに見てる人間もいるんだし……」
と思ったら、レナは顔を真っ赤にして、横を見ていた。それはそうだろう。いくら夫婦だからってやりすぎだ。
「姉御、ちょっとこれが刺激が強すぎますって……」
「大丈夫よ。私なりにセーブしてるんだから」
これのどこがセーブになるのかさっぱりわからんぞ……。
「最近、ご主人様が私の裸を見ても平然としているから、ちょっと対策をとってみたの。効き目はあったみたいね」
「こんなの効き目あるに決まってるだろ……」
それでもはっきりダメだと言えないのは俺もそれなりにうれしいからだろうか。問題があるとしたら、レナがいるってことぐらいだからな……。
風呂の階でハプニング的なものもあったものの、俺達は見慣れた34階層までやってきた。
もう、倉庫の荷物もすっきりしていて、天井が低いことを除けば、これといった特徴もなくなっていた。
そして、何度も来たからこそ道もはっきりとわかる。俺達は地下へ降りる階段に最短ルートでやってきた。
「心の準備はできてるわね?」
「俺なら何も問題ない」
「私もいつでも発進できますぜ」
俺達は平常運転で35階層に降りていく、こんな冒険者パーティーは二度と出てこないかもしれない。
地下35階層は一言で言えば大神殿だった。
これまでも神殿のような装飾は地下深いところでは見られた。だけど、ここは神殿風の場所ではなく、完璧な神殿だ。柱もものすごく高い。つまり、天井もフロアとして四フロア分くらい上にある。
その分、階段も長くて螺旋階段をぐるぐるまわって、やっと35階層にたどり着いたぐらいだ。
「さて、ここにはどんなモンスターが巣食っているのかしらね?」
ミーシャはどちらかというと、戦いたくてうずうずしているといった感じだ。自分の力を試したいのだろう。俺とレナもそういうところはある。装備がよくなってから気も大きくなっている。
モンスターの気配といったものは表面上は感じられない。
ぐるっと周囲を見渡しても、何かが襲ってきたりはしない。かなり大型のモンスターも生息できる広さはあるようだが。
「ずっと中央で待っていてもしょうがないし、探索しようか。外側には小部屋みたいなのもあるだろう」
「そうね。それに、地下へ降りる階段は変なところにあるらしいし」
冒険者の幽霊の言葉だな。
壁のように見える先に通路があると、幽霊は語っていた。
中心部が吹き抜けで広々としているのに対して、外周は屋根付きの廊下になっている。その廊下の外側に部屋などが並んでいる。
その廊下に足を踏み入れようとした時――
「旦那、待ってくれ! これは直感的に嫌な予感がする!」
レナが大きな声で叫んだ。
「ここ、神殿の中枢部だろ。そんなセコい罠を仕掛けるか?」
「じゃあ、慎重に歩いていってくださいよ。これでもプロなんですからね」
それもそうだと思いながら、そうっと足を置いた。
――ヒュンッ!
俺の顔の横を弓矢がかすめた。
「どこかから罠が作動したみたいね」
「ねっ? 私の予感は当たるんですよ。この予感で生き延びてきたんですから」
ドヤ顔でレナが言った。
だけど、どうせなら何も出ないのが一番いいんだけどな。




