表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/205

97話 演劇鑑賞

 カフェは大好評だったので、ミーシャの機嫌はますますよくなった。

 どれぐらいよくなったかというと、路地で人がいないと思ったら、ほっぺたにキスしてきたぐらいだ。


「私、これまでで一番ご主人様のことを好きになってるかも」

「それは俺も光栄だな」


 これで大通りでも歩こうものならSランク冒険者はバカップルって絶対に噂になるだろうけど、それもいいかもな。ある意味、それこそ本来の姿なわけだし。Sランク冒険者っていうのは別に聖人の称号じゃない。


 さて、次はどこに行こうかな。日本での定番だと、映画館とかなんだろうけど、この世界に映画館なんてあるわけがないし。


 かといって、動物園や水族園なんてものもない。買い物はすでにけっこうやったしな。ミーシャとしては買い物をするなら、まだまだ構わないのかもしれないけど、代わり映えという点では劣る。


 いや、この世界にも劇場ぐらいはあるぞ。


「ミーシャ、演劇って見たことはあるか?」

「ううん。一度もないわね」


 だったら、話は早い。


「せっかくだし、一度見に行こうか。今の時間からなら夕方の部に間に合うはずだ」

「たしかにデートらしくていいわね」


 ミーシャも俺の案に賛成してくれた。


 場所はすぐにわかった。見たことはなくても、やってる建物は有名だったからだ。


 俺たちは町の中心部にある大きな建物に入った。まず、背が高い。この劇場は上から見下ろすように見るから、上の席はけっこうな高さにあるためだ。


 日本にはこれぐらいのホール、どこにでもあるだろうけど、この世界だとほとんどないらしい。実際、王都の人間が劇場を誇りだと言っていたのを何度か聞いたことがある。重機なしでこういう建築物を作るのは相当な労力がかかるだろう。


 切符売り場に並んで二人分の切符を買った。


「ちなみにどんなお話をやるのかしら?」

「俺も全然知らないけど、オペラみたいなものらしい。話は悲劇なのかな。とある王家の愛憎劇なんだって」

「へえ、なかなか面白そうね」


 ――と始まる前は言っていたが、結論から言うと、ミーシャにとっては全然そんなことはなかったらしい。


 なにせ開始十五分ですでにミーシャは眠っていたのだ。


「くぅ、くぅ……」


 しかも寝息まで立てているレベル。


 たしかに暗くて眠気をもよおしやすいだろうけど、いくらなんでも早すぎるだろ……。せめて半分ぐらい見たところで寝ろよ……。


 まあ、大きないびきをかいて周囲に迷惑をかけてるとかそういうのとは違うから、別にいいか。


 俺のほうはまだ眠くなってはないし、劇に集中しよう。ちょうど、演者が歌いだすところだ。やっぱりオペラみたいな歌い方だな。それよりは激情的な歌い方な気もするが。


「くぅ、くぅ……。変な声がするわね……。モンスターの鳴き声かしら……」

 ミーシャが寝言で失礼なことを言った。歌ってる人もモンスターの鳴き声扱いされてるとは思わないだろうな……。


「ご主人様、あぶなひ……」


 どうやら夢の中では俺を守ってくれているらしい。

 そのまま、ミーシャが俺のほうにもたれかかってきた。

 俺の肩にぶつかってミーシャが止まる。


「危なかったわね、ごしゅじんさま……くぅ……」


 すっかり、夢の中では戦闘モードだな。


「ほんとうに、もんしゅたあのなきごえだったわね……」


 これには俺も苦笑するしかない。やっぱり、ミーシャは戦闘の世界のほうが合っているのかな。


 さて、もう一度演劇のほうに意識を向けるか。

 …………ダメだ。もたれかかっているミーシャのことが気になって、とても集中できない……。


 ミーシャの体温を感じる。なんというか、やさしい体温だった。


 俺も起こさないようにそっと腕を伸ばす。とても幸せな時間だ。もう、演劇はどうでもいいかな。ものすごく見たくて来たわけでもなかったし。


 ただ、演劇の歌声やセリフがいいBGMにはなっているし、これはこれでいいな。


「ごしゅじんさみゃ……ずっと、いっしょ……」


 そうだな。これからもずっと一緒にいような。

 こうして二人の絆みたいなものを確かめられたんだから、やっぱりここに来て正解だったかな。


 ミーシャの顔が俺のすぐ横に来ていた。

 俺はそっとミーシャの頬に口づけした。さっき、路地で頬にキスされたから、そのお返しだ。



 ちなみにミーシャは演劇が終わって、拍手が起こった時にやっと目覚めた。


「あっ、もしかして私、寝てたかしら?」

 寝ぼけ眼でミーシャが聞いてきた。


「うん、それはもう見事に寝てたぞ」

「ちなみに今、どのあたりのシーン?」

「いや、もう終わったんだけど」

「えーっ!? 私、見たかったのに……」

「開始十五分で眠る奴が言う言葉じゃないだろ」


 俺はミーシャの頭をぽんと叩いた。


「う~、ご主人様が体罰をやったわ……。飼い猫にひどいわ……」

「飼い猫じゃなくて、恋人だ」

 すぐに俺は訂正した。


 その言葉でミーシャはうれしくなったのか、俺にキスを求めてきた。

 劇場から人がはけていく中で、俺達は唇同士でキスをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ