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10話 告白と猫の限界

日間5位になりました! はじめてのことで感無量です! 今後ともしっかり頑張ります!

 その時まで、俺はミーシャから説教を喰らっていた。

「あれで、もし私が助けに行かなかったら、ご主人様は死んでいたかもしれないのよ」

 ルナリアを助けるためにインプに飛び込んだ件だ。

「冒険者としての状況判断が甘いわ。自分の命も大切にしないと」


「しょうがないだろ。ミーシャが俺の立場でも同じことをしたはずだ」

 俺もこの件には妥協しない。

 だって、ルナリアは俺を護衛として雇っていたんだ。。

 人としても、ギルドに登録している冒険者としても、俺はああするのが正解だった。


 しばらくの無言のあと、

 またミーシャが、人間っぽいため息をついた。


「そうね、私はそんな立派なご主人様を誇りに思っていたんだわ」

「わかってくれてうれしいよ」

「男らしかったのは事実よ。でも、命だけは大切にしてね」

「うん、わかった」


 たしかにミーシャが猫じゃなかったら、俺を追い抜いてさらにインプの顔に飛びつくなんてことはできなかっただろうからな。

 冒険者は一秒の差で生死が決まるんだな。

 俺も気をつけよう。もう、サラリーマンじゃないんだから。


 ミーシャが俺の膝に乗ってくる。

 俺はいつもより丁寧にミーシャの背中を撫でてやる。


「ご主人様の手、あったかい……」

「猫のほうが体温高いはずだけど」

「そういうのじゃなくて、精神的なものよ」


 ――こんこん、こんこん。

 ドアがノックされた。


 俺もミーシャもほぼ同時にびっくりした。

 客観的には猫を撫でていただけに見えるだろうけど、おそらく俺とミーシャの間ではもうちょっと親密な時間なのだ。


 小さい鍵穴から見ると、ルナリアの顔が見えた。すぐに開けた。


「いきなり来ちゃってごめんなさい……」


 ルナリアはもう泣きそうだった。


「あらためて、お礼を言おうと思って……」


「ああ、そういうことか。気にしなくてもいいのに――」


 直後、いきなりルナリアが俺に倒れかかってきた。

 いや、違うな。

 これは抱き締められているんだ……。


「命懸けで私のこと守ってくれて、本当にありがとうございます……」

「それが俺の仕事だからさ」

「でも、うれしかった……」


 こんなふうなシチュエーションは人生で経験がないので、どぎまぎした。

 冒険者をやっていてよかったと思った瞬間だ。


「あの……ケイジさん……」

 そういえば、ずっと名前で呼ばれてなかった気がするな。

「好きです……。私と婚約、してくださいませんか……」


 えっ、いきなり婚約から!?

 そうか、この世界ならそんなにおかしくないのか。


 ああ、違う、違う。


 一般論は関係ない。

 ルナリアが思い詰めてこんな言葉を口にしたこと。

 その事実だけが大事なんだ。

 彼女は自分の意志でここまで来て、想いを告げたんだ。

 冒険者が危険な職業だってことも、いろんなところに旅に出るかもしれないことも、全部知っているはずだ。


 それに対して、俺は――


「にゃ……」


 寂しげにミーシャが鳴いた。


 そうか、このままだとミーシャを裏切ってしまうんだな。


 ミーシャが俺を愛してくれていることは知っている。

 愛の重さを計るなんてことはできないけど、間違いないのはルナリアと出会うずっと前からミーシャは俺のことを愛してくれていたってことだ。


「ごめん」と俺は言った。

 もちろん、ルナリアに向けた言葉だ。


「俺を待ってくれている人がいるんだ。同じ冒険者の子なんだ」


「そうですか……」


 ルナリアは寂しそうに少しうつむいた。

 それから、ゆっくりと顔を上げた。


「ごめんなさい、びっくりさせてしまって」

「ううん、俺もうれしかった」

「あの、一つだけ聞かせてください」

「うん、何?」

「もし、その待っている人がいなかったら、私の告白受け取ってくれましたか?」

「当然さ」


「ありがとうございます」

 最後にルナリアは笑って、俺の部屋から出ていった。


「ご主人様に気をつかわせちゃったわね」

 ルナリアがいなくなったあと、ミーシャが言った。

「別にそんなことない。これでミーシャが悲しむことをしたら、飼い主失格だからな」

「そうね。でも……」


 ミーシャが疑惑の目を向けた。

「もし、私がこの場にいなかったら、ご主人様はあのままOKしてたりしないかしら?」


「あっ、俺のこと疑ってるな!」

「それと、若い女の子に抱きつかれてるのを見るのも癪だったわ。どうせうれしかったんでしょ?」

「そ、それは……男だからしょうがないだろ……」

 女の子に抱きつかれたくない男のほうがどこかおかしいのだ。


「さっき、無茶な特攻したことは許してあげるって言ったけど、やっぱり許すのやめようかしら」

「なんだ、それ! 横暴だろ!」


 このまま、痴話ゲンカみたいになるのなら、それはそれでいいかなと思ったが――想像より空気が重くなった。


「だって、ご主人様がほかの女に抱き締められてるのよ……腹だって立つわよ……」

 ミーシャは今にも涙を流しそうだった。

 声はふるえている。

「猫の体じゃどうしようもないのかなって、不安にもなるわ……」


 猫だから。

 そのままならなさによる苦しみはおそらく俺が考える以上のものなんだ。

 俺がその不安を取り除いてあげないといけないよな。


「ごめん、ミーシャもつらかったよな」

 すぐにミーシャを腕に抱えてやる。

 それでミーシャの気持ちが少しでも落ち着いてくれればいい。


「はぁ……ご主人様に撫でられるのはうれしいけど……これって結局、愛玩動物の関係性なのよね……」

 ある意味当たり前なのだが、ミーシャはそれでは満足ができないらしい。


「やっぱりこのままじゃダメね。ご主人様にも迷惑かけちゃうし」

「迷惑って何がだよ」

「たとえば…………キスだってできないでしょ?」


「キスなら、できると思うけど」

 当たり前だけど猫にも口はある。

「違うの! 猫と人間のキスじゃ意味がないの!」

 どうやら、ミーシャの中にはキスにも強いこだわりがあるらしい。

「むしろ、今はキスしないでね。ファーストキス的なものはちゃんと後にとっておくの! ――――よしっ!」

 ミーシャは何かを決意したようだ。


「ギルドで高収入の仕事を探すわよ! それで人間になる変化魔法について書いてある魔道書を買うの! ご主人様もLv11になったし、いいクエストも受けられるはずよ!」


「やけに気合入ってるな……」


「明日、早速、ギルドに行くからね! 絶対に人間の女の子になってらぶらぶするんだから! 人間同士でキスもするんだから!」

次回は昼12時頃の更新です。

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