表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

風船の夜

作者: 早良敦司

午前、二時。仄かに蒼い空気の中を、ふわふわ泳ぐ。

ふわふわ。ふらふら。煙みたいに、ゆらゆら、歩いていた。

自販機の白が、眼に痛い。

車の音が酷く五月蝿い。

歪んだ空気がキモチワルイ。

きしきしときしんでいる空。心地よい蒼の闇は、此処にはない。

見上げると、そこには、空を吸い込んでいくような赤い月。

貴方も飢えているの?何を求めるのかも解らないまま、流されていく私のように。

くるくると回って賞賛。ああ、今日の月は、なんて綺麗なんだろう。

欠けたる事もなき望月。永久に輝き続ける、狂気の象徴よ。

――叶うなら、せめて憐れみを。私に、一片の狂いを。

どくん。後頭部で、心臓が跳ねた。私の体は空っぽだから、もうどうでもいい。

私の一揃いの呼吸機関。それは肺、それとも鰓?そもそも、私は、普段呼吸なんかしてたのかな。

わからない。どうやって、私は呼吸してたんだろう。何故、私の体は、こんなに空洞なんだろう。

息を吐いても、吐き続けても、まだ、私の中に空気が。わからない。誰か、私に呼吸の方法を教えて。

私の中に溜まっていく空気。喉の奥に絡みつくざらついた粘体。

温い酸が胃からせり上がり、口を満たす。耐えきれずに、アスファルトの上に撒き散らした。

吐いて、吐いて。枯れるまで、何度も何度も繰り返して、痙攣が止まらなくなったら、

内臓まで吐き出してしまうかもしれない。体の中は空になって、空気だけが溜まっていく。

今なら多分、私の体に切りつけても血は出ない。

夜になるたび、私は流れてゆく。

月を見ても狂う事なんて出来ない私は、ただ、流れるしか……



月を題材とした掌編小説で、「風鈴の夢」と対になる作品です。

古くから、満月は人を狂わせる力があると言われてきました。

日本ではあまり馴染みがありませんが、狼男、人狼の伝説などはその好例でしょう。

私は日が落ちてから散歩するのが趣味の一つなのですが、地上低くを漂う赤茶けた満月を見て

ふと、感動こそすれ、そこから何の変化も、何の力も得られぬ自分に恨めしさを感じました。

この作品は、そんな想いから生まれています。

また少し違った想いを込めた「風鈴の夢」と、併せてご覧になっていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分も月は好きです。光のある様子をみると隣の芝の方が青く見えるように、自分のところが色あせて見えたりたりもしますが、それでもその月を傍から見ることでより青く見れるのなら、ここもまたありかなと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ