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2191日を巻き戻す花

作者: 暮木椎哉

「くっそ暑いなあ……」

 蝉時雨が降りしきる真夏の街路を、中津川颯人は滴る汗を拭いながら歩いていた。

 夏休みの貴重な時間を母親の見舞いに費やす彼の孝行に感心した太陽が、ありがた迷惑にも、たっぷりの陽射しを褒美として大盤振る舞いしているかのような熱暑である。

 アスファルトから立ち昇る陽炎に、街並みの輪郭がゆらゆらと歪む。

 手に提げた紙袋から、プリンの小瓶が触れ合う乾いた音がかちゃかちゃと鳴る。帰り際に母親から「お見舞いに貰ったんだけど、食べきれないから」と持たされたのだ。厳選された高級玉子と和三盆を使った、シンプルながらも濃厚な甘さが舌の上で踊る逸品で、このプリンを買い求めるためだけに、遠方からはるばる足を運ぶ愛好者も多い。

「梨花と二人で、仲良く食べなさいね」

 母親が掛けた言葉が、颯人の心に重くぶら下がる。彼の三つ年下の妹、梨花はプリンに目がない。

「仲良くって言われてもな。喜んで受け取ってくれるかな、あいつ」

 独り言ちながら、眼の前に紙袋をかざす。

 ユーモラスなタッチで描かれた猫が、屈託のない笑顔を彼に向けていた。

 ――人の気も知らないで、脳天気に笑いやがって、こいつめ。

 詮無いとは知りつつも、颯人は紙袋の猫に毒づかずにいられない。

 梨花の態度が氷のように冷たくなったのは、彼女が中学校へ進学した頃からだった。挨拶や事務的な会話以外で言葉を交わす機会はめっきり減り、連れ立ってどこかへ繰り出すことも無くなった。ほんの数カ月前、彼女が小学校を卒業するまではべったりだっただけに、なおのこと颯人は、妹の豹変ぶりに心を悩ませてた。

 ――思春期とはいえ、あそこまで急激に変わるもんかね。

 仏頂面でプリンを受け取る妹の姿を想像しながら、颯人は商店街へと足を踏み入れた。

 連なる店の軒先には、髭文字で「夏祭り」と揮毫された提灯と紅白幕が垂れ下がり、街全体が浮き立った雰囲気に包まれていた。

 真っ黒に日焼けした法被姿の子供達が、ジュースで喉を潤しながら交わす、翌日に迫った花火大会に関する会話が颯人の耳に留まる。

 夏祭りの掉尾を飾る花火大会は、この街における夏の風物詩であり、会場の海岸には遠近を問わず、毎年多くの見物客が詰め掛ける。殊に今年はレーザーライトの有名なエンジニアを招聘しており、夜空を彩る花火と光線のコラボレーションが耳目を集めている。

 アーケードの柱にくくりつけられた、大会告知の捨て看板に描かれている花火のイラストに、光の競演に見とれて陶然とする梨花の顔が重なる。

 花火好きの梨花は、夏祭りの訪れを毎年心待ちにしている。兄妹二人だけの花火見物は、数年来の恒例行事だった。

 ――今年は誘っても、応じてくれないかもしれないな。

 顔を曇らせて看板から視線を外した時、つい先刻までは影も形も無かった女性の姿が、彼の視界に飛び込んできた。

「ん?」

 息だわしい暑さに似つかわしくない、長袖の黒いワンピースに身を包むその女性は、薄いメイクが施された端正な顔に驚きを浮かべ、直立不動で颯人を凝視していた。

「どこかで会ったことがある人かな」と颯人は思ったが、脳内のアーカイブをいくら漁っても、該当する顔見知りは検出されなかった。

 十秒ほどの短い時間、二人はアーケード街の真ん中で、無言のまま見つめ合っていた。

 やにわに女性が泣き笑いのような表情を浮かべ、飼い主を見付けた犬のように颯人の元へ駆け寄った。

「お兄ちゃーんっ!」

 女性は人目を憚る様子もなく、押し倒さんばかりの勢いで颯人にむしゃぶりついた。しなやかな女体の感触と、香水の爽やかな芳香が颯人を包む。女性慣れしていない颯人にとっては、驚きで脳細胞がポップコーンのように弾けるくらいのハプニングだ。

「ちょ、ちょっと、何なんですか一体?」

「何なんですかって、なんでそんな他人行儀なのよ。あたしよ、あたしっ!」

「だから誰なんですか貴方はっ?」

 唐突な抱擁に面食らう颯人の誰何に、女性ははっとした表情になった。

「あ、そっか。この見た目じゃ分からないか」

 女性は颯人から体を離し、選手宣誓をするスポーツ選手のように右手を高々と挙げた。

「中津川梨花、二十歳。未来の世界から馳せ参じました。賞罰なし。恋人なし。以上、よろしく!」

「は? 梨花? 何言ってるんですか?」

「言っておくけど、同姓同名じゃないからね。正真正銘、お兄ちゃんの妹」

 確かに、くりっとした目つきといい、まっすぐに通った細い鼻筋といい、顔の造形は梨花とそっくりだ。しかし、眼前の女性と颯人の頭の中にある妹とはでは、容姿が大きくかけ離れている。彼が知る中津川梨花は、男を魅了してやまない胸の膨らみやエロティズムをそそる腰つきなど持ち合わせていない、ぎゅっと抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢な女子中学生なのだ。

「それはちょっと無理がありすぎるんじゃないですか? あなたと梨花とじゃ、見た目が違いすぎますよ」

「敬語といい、あなたって呼び方といい、随分と距離がある言い方ね、お兄ちゃん。『お前』でも『梨花ちゃん』でもいいから、普段通りに呼んでくれていいのよ」

「梨花をちゃん付けで呼んだことなんて無い、てかそういう話じゃないでしょ。梨花に頼まれてこんな事やってんですか? 何の冗談かは知りませんが、たちが悪いですよ」

「冗談なんかじゃなくて、本当にあたしは――」

 出し抜けに、牛のいびきに似た音が女性の腹から鳴った。

 胃袋の主張に抗言を遮られ、女性は恥ずかしまぎれの笑顔を見せた。

「急にお腹空いてきちゃった。話しがてら、ちょっとそこらでお茶でもしない?」


 雑居ビルの隙間に建つ「ナイトホークス」は、六十年代をイメージした小ぢんまりとしたダイナーだ。内装やインテリアは、安っぽくありつつも懐かしさを感じさせるアメリカンレトロ調で統一されている。旧型のジュークボックスを改造したスピーカーからは、どこまでも広がる乾いた青空を連想させるサム・クックの歌声が薄く流れている。

「なるほど、君が梨花だってことは、信じるしかなさそうだ」

 颯人はテーブルに置かれた物的証拠――梨花を名乗った女性の運転免許証と、桜が咲き乱れる校門前で制服姿の颯人と梨花が行儀よく並ぶ記念写真から目を離し、真向かいに座る女性を見据えた。

「けど、本当に七年後の梨花だとしても、どうやって未来から来たんだ?」

「あたしにも全然見当が付かないのよね。道を歩いてたら急に辺りが暗くなって、気付いたらあの場所にいたんだからさ。ついさっきまで春だったはずが、いきなり真夏になってるし、目の前にいるのは高校生のお兄ちゃんだし。びっくりの連続だよ」

 二十歳の梨花は、分厚いベーコンと新鮮な野菜を挟み込んだハンバーガーにかぶりつき、アイスティーを口に含んだ。ラバーウッド製のトレーの上には、くしゃくしゃに丸められたハンバーガーの包みが二つ、彼女の健啖ぶりを物語るように転がっている。

「常識では考えられない事態が起きたってのに、随分とあっけらかんとしてるんだな。普通こういう時って、ショックで食べ物が喉を通らないもんなんじゃないか?」

「経緯はどうあれ、時間を遡った事に変わりはないし、お腹はどんな事情にもお構いなしで空くんだもん。じたばた足掻いたところで、事態が解決するわけでもなさそうだから、それならまずは腹拵え、てところよ」

 現状をすんなりと呑み込んで素早く頭を切り替える性格は、颯人が知る梨花のそれではあるのだが、同時に彼は、目の前にいる梨花の態度に違和感を覚えていた。

 出会い頭の抱擁といい、普通に言葉のキャッチボールを交わしていることといい、露骨に彼を毛嫌いする中学生の梨花からは想像も付かない親密さである。出会ってからまだ三十分と経っていないが、彼女が颯人を嫌っている様子は微塵も無い。

 ――七年も経ってるんだもんな。

 経緯はどうあれ、時間が全てを解決してくれたのだ、と颯人は単純に結論付けた。

「あれ、これって『ネリのおやつ』の袋じゃん。何が入ってるのかなー、と」

 ベーコンバーガーを片付けた梨花が、テーブルに置かれた紙袋の中を覗きこんで、顔をぱっと輝かせた。

「あ、『天使のたまごプリン』だ! 大好きだったんだよね、これ」

「だった?」

「あたしが高校に入る前に、店長さんがお母さんを付きっ切りで介護しなきゃならなくなったとかで、閉店しちゃったの。あの幻のプリンと再会を果たせるとは、夢にも思わなかったよ。いやあ、タイムスリップ万歳だね」

「言っとくけど、あげるつもりはないぞ」

「えー! 一個くらい、いいじゃない」

 梨花が口を尖らせる。

「駄目だよ。二個しかないだろ。一個は俺の、もう一個はこっちの時代の梨花のだ」

「いいじゃんいいじゃん。この時代なら、いずれまた買えるんだからさ」

「その理屈を持ち出すなら、梨花が自分で買えばいいじゃないか」

「そんな意地悪言わないでよー。この通り、お願いだから、あたしに一個譲ってっ!」

 梨花の懇願はそれから十分ほど続き、最終的に、根負けした颯人が折れる形となった。

 戦利品の瓶詰めプリンを愛おしげに両手で包み、梨花はほくほく顔になった。

「今食っちゃうのか、それ?」

「そうしたいところだけど、家に帰ってからのお楽しみに取っておくよ」

「ちょっと待て。今なんて言った?」

「ああ、大丈夫大丈夫。これを食べた後でも、晩ご飯はちゃんと食べられるから。プリンは別腹って昔から言うでしょ」

「そんな諺なんて知らないし、梨花の胃袋を心配してもいない。家に来るつもりでいるのか、て訊いてるんだ」

「自分の家なんだもの、帰るのは当然でしょ。いきなり過去の世界に飛ばされたんだから、自宅以外に行くあてなんてあるわけないし」

「友達の家とか、思い当たる場所はいくらでもあるだろ」

「冷たいなあ、お兄ちゃん。この姿なりで『やっほー、梨花でーす』なんて名乗ったところで、お兄ちゃんみたいに誰もすんなりとは信じてくれないよ。いちいち説明して納得してもらうのも骨が折れるし」

 颯人の脳裏に、中学生の梨花の顔がちらつく。

「だからってなあ、家にはこの時代の――」

「それにどの道、お兄ちゃんに会いに家へ行こうとは思ってたからね。タイムスリップしたのは、あたしにとってこの上なくラッキーな事だから」

「――どういう事だ?」

「しかもおあつらえ向きに、この日に戻って来るなんてね。舞台が整いすぎだよ」

「だから何の話なんだよ。じらさないで詳しく聞かせてくれよ」

「そんなにがっつかないでよ、話すから。一言で言うとね」

 梨花は、揚がりすぎて半ば焦げたフライドポテトを摘み上げ、颯人を指した。

「お兄ちゃんを助けようと思うの」

「俺を助ける? 一体、何から?」

「交換条件。詳細を話す代わりに、あたしを家に泊めること」

 フライドポテトの先端が、当惑顔をぶら下げた颯人の鼻先から逸れ、ベージュリップを薄く引いた唇に吸い込まれた。

「さんざん勿体ぶっておいて、その条件を持ち出すなんて卑怯だぞ」

「卑怯だなんて、ひどい言い草ね。いやなら泊めないって選択もあるんだよ」

「持って回った言い方をされて、はいさようならで終わるわけがないだろ。だいたい、家に連れて行くにしても、こっちの梨花に何て説明する気だよ。未来から来たお前が俺を助けに来てくれたって、正直に打ち明けろってのか?」

「あたしの素性を明かすべきか否か。うーん、それは避けたいかな」

 梨花の口調は、颯人の問いに答えるというよりも、胸三寸にある考えを確認するような響きを孕んでいた。

「信じてもらえるかどうかはさて置き、あたしが七年後の人間であることは、周りにはあまり知られたくないな。余計なトラブルの元にもなりかねないし。それに、この時代のあたし自身が、未来からやってきた自分を歓迎するかどうかすら怪しいよ。自分の未来を知る人間がいるだなんて、想像するだにぞっとしない話でしょ?」

「そういうものかな。この先起こることを事前に教えてもらえれば、何かと有利に働くと思うんだけど」

「違う、違うよお兄ちゃん。そうじゃないんだよ」

 梨花は舌を鳴らしながら、メトロノームのように指を左右に振った。

「危険を未然に回避できるメリットは確かに大きいけど、二十歳から先の人生は、あたしにとっても未知の領域。もしこの先、こっちの時代のあたしが未来の情報に頼りきった生活を送ったとしたら、七年後以降に起きる災難をあらかじめ知ることができなくなるの。それって物凄く不安じゃない? 煌々と辺りをくまなく照らしていた明かりが一斉に消えて、重苦しい暗闇に閉じ込められるようなものだよ」

 梨花は目の前に置いたプリンに視線を落とした。

「それにさ、未来を全部知るってことは、粗筋を全部知ってるロールプレイングゲームをイージーモードでプレイするくらい味気ないと思うんだよね。あらかじめ知り得た筋書きをなぞるだけの、予定調和で過ぎていく毎日。長い人生の内のたった七年間だけとはいえ、そんな無味乾燥な時間をこっちの時代のあたしに過ごさせたくはないな」

「梨花の考えは分かったよ。けど、こっちの時代の梨花には何て説明するつもりだ? 赤の他人を名乗るにしても、理由もなく家に泊めたりしたら、それこそ怪しまれるぞ」

「それはこれから考えるのよ」

 梨花は顎に指先を当て、思案顔で天井を仰いだ。

 氷が溶けて味が薄まったコーラをストローで吸いながら、颯人は答えを待った。

 ややあって梨花が、「うん、これでいいかな」と小さく頷きながら呟いた。

「お兄ちゃんの友達のお姉さんって事でどうかな。結婚して実家を出たけど、自分の浮気が元で旦那さんに家から叩き出され、路頭に迷ってるところを偶然お兄ちゃんに会った。事情が事情なだけに実家も敷居が高くて帰りづらいから、ほとぼりが冷めるまで中津川家に置かせてもらうことになった。どう? 即興にしてはいいシナリオだと思わない?」

「どこがだよ。昼ドラみたいなどろどろの愛憎劇を盛り込む必要なんて無いだろ。父さんが昔世話になった人の娘とか、当り障りのない設定にしておけよ」

「それだと、お父さんとお母さんを誤魔化しきれないないんじゃない? どこの誰だって問い詰められたら、すぐに嘘だってバレるよ。実在しない人間なんだもん」

「父さんは出張中だし、母さんも夏風邪こじらせて明後日まで入院中だよ。タイムリミットはまだ先だ。辻褄を合わせる猶予はあるさ」

「だけど、枠組みくらいはきっちり決めておかないと、いずれ襤褸が出るわ。場当たり的に嘘を重ねたところで、新しい矛盾が増えるだけよ」

「あちらを立てればこちらが立たずってやつか。難しいな」

「うーん、気にし始めたらキリがないね。連ドラの脚本家の苦労が、分かる気がするよ」

 眉間に皺を寄せ、梨花が腕組みをする。颯人も顎に手を当てて思索にふける。

 会話の空隙を、ジーン・ビンセントの足音を盗むような歌声が埋めた。

 沈黙を破ったのは、渋っ面のまま大きく息を吐いた梨花だった。

「ここで頭を悩ませてても、埒が明かないね。家に着くまでの間に考えるってことで、ひとまずここから出よっか」

「そうだな、そうするか」

 空のトレイを手にして梨花が立ち上がり、颯人もそれに従った。

 レジに向かう最中、「あ、そうだ」と何かを思い付いたように梨花が振り返り、空いた手で胸元のコサージュをつまんだ。

「帰る前に、服屋さんに寄っていい? これ春物だから、暑くって」

「未来の紙幣で支払おうとして店員にギャンギャンと責め立てられる、ベタな展開は勘弁してくれよ」

「その点は安心して。七年後でも、一万円札は諭吉さんよ」

 梨花はにっこり笑い、耳元を覆う髪を掻き上げた。小振りな耳たぶには、四角錐のラピスラズリを嵌め込んだピアスが光っていた。

 目の前の梨花が二十歳の大人の女性である事実を、颯人は改めて突き付けられた気がした。妹と意識してはいるものの、実年齢は梨花のほうが颯人よりも上だ。恐らくは、今の彼よりも多くの経験を積み、あらゆる葛藤や悩みを乗り越えてきたに違いない。

 学業や進路、恋愛、人間関係、家族――。

 颯人の心に、疑問が煙のように忍び込んできた。

「そういえば、あっちの俺って何をしてるんだ?」

 投げ掛けられた質問に、梨花は困り顔を浮かべた。

「えー、なによいきなり? 話さなきゃ駄目?」

「詳しくは訊かないさ。七年後ってことはとっくに社会人なんだろうけど、どんな仕事をしてるか、どこに住んでるか、さわり程度でいいから教えてくれよ」

「それを話すってことは、取引材料を失うってことなんだよね。どうしよっかな」

 言い澱む梨花の姿を見て、颯人の心に名状しがたい不安が広がっていった。

「――俺を助けるって、もしかして、俺の身にとんでもない事が起きるのか?」

「うーん、まあ、それもおいおい話すからさ。取りあえず、行こうよ」

 言葉を濁す梨花を颯人はなおも追及しようとしたが、彼女が浮かべた微苦笑の向こう側に安易に触れてはならない不吉な影を垣間見た気がして、言葉は喉に引っかかったまま出てこなかった。


 颯人と梨花が住宅街に辿り着く頃には日はすっかり西へ傾き、空には茜色と紫紺が織り成すグラデーションが広がっていた。風こそ立っていないものの、昼間の熱暑はいくらか和らぎ、涼しげな風鈴の音がどこからかかすかに響く。

 爽やかな真夏の夕暮れの情景を歩く二人の表情は、夕立前の空のように曇っていた。

「で、どうするんだよ、結局」

「うーん、どうしようかね」

 七分袖のドルマンスリーブのカットソーとアンクルパンツに着替えた梨花が、残光に目を細めながら唸る。道道で、梨花の偽素性についての意見を出し合った二人だったが、これといった妙案を得られないまま、とうとう自宅に到着してしまった。

「お父さんとお母さん、それにちびリカの三人が揃って納得するような矛盾のない理由ってことになると、なかなかいいアイデアが出てこないもんだね」

「ちびリカ?」

「この時代のだの、中学生のだの、いちいち頭に付けるのは、まだるっこしいでしょ。それはさて置き、こっちからは名乗るだけに留めておいて、素性や出自についてはちびリカに訊かれるまで言わないってことにしない?」

「出たとこ勝負ってことか。上手くいくかね」

 玄関を開けると、赤いラインが入ったスニーカーが、てんでバラバラに脱ぎ捨てられたままになっていた。ちびリカは水泳部に所属しており、夏休みを使って日々練習に明け暮れている。練習疲れで、靴を揃えるのも億劫なのだろう。

「ひょっとして、寝ちゃってるのかな?」

 梨花の呟きを否定するように、荒っぽい足音が二階から響いてきた。

「お兄ちゃんっ! またあたしの部屋から勝手に漫画持って――」

 息巻きながら階段を下りてきたのは、真っ黒に日焼けした肩をあらわにした、タンクトップ姿の梨花だった。頭では同一人物だと理解しているとはいえ、蕾のような幼さを残すちびリカが、七年経つと大人の色香を漂わせる梨花に成長することが、颯人には信じ難かった。

 突然の来訪者に目を丸くするちびリカに、颯人は掌を上に向けて梨花を指した。

「ああ、こちら、ええっと」

「高川英梨です。突然お邪魔して申し訳ありません」

 二十歳の梨花が、偽名を口にしながら嫣然とお辞儀をする。

 十三歳のちびリカが、慌てて頭を下げ返す。

「何日間か泊めることになったから。これ、英梨さんからのお土産」

 客人を連れてきた経緯をざっくりと端折りつつ、颯人が瓶詰めプリンを差し出すと、ちびリカは怪訝な顔付きのままで受け取った。

「ありがとうございます」

 ちびリカは舌先だけで礼を述べ、ポニーテールを揺らしながらキッチンへと消えた。

 その足取りが僅かに弾んでいるのを見取った梨花が、そっと颯人に囁いた。

「表向きは無愛想だったけど、プリンを貰えたのは素直に嬉しかったみたいね。お兄ちゃんに笑顔を見せるのが、照れくさいのよ」

「あの表情から、よく読み取れるな」

「そりゃそうよ。他ならぬ自分だもの」

 太陽が東の空から昇るくらい当然の事だとでも言いたげな梨花の言葉を聞いて、颯人は大きな溜息を付いた。

「あいつの気持ちが分かるなら、どうしてあいつが俺を避けるのか、是非ともレクチャー願いたいもんだよ」

「んー、どうだったっけ。あたし、お兄ちゃんを避けてたのかな?」

「すっとぼけるなよ。自分の事なんだろ?」

「七年前の事なんて、あんまり憶えてないよ。それよりさ、ちびリカがお兄ちゃんを嫌ってるとして、思い当たる節はないの?」

「まるで心当りが無いから、悩んでるんだよ」

「ふうん、そっか。心当たりが無い、ねえ」

 梨花は探るような視線を颯人に向けたが、にこやかな表情を浮かべて靴を脱ぎ始めた。

「まあ、そんな話はいいから、早くお兄ちゃんの部屋に行こうよ」

「ば、ちょっ、やめろって!」

 梨花にぐいぐいと背中を押され、転びそうになりながら階段を上がる。

 颯人の部屋に入るなり、梨花は携えていたポーチバッグからプリンの小瓶を取り出した。

「さあて、お待ちかねのプリンタイムと洒落込みますか」

 もどかしげに栓を開け、プラスチックの小さなスプーンで掬ったとろとろの山吹色を口に含む。佳麗な目鼻立ちがたちまちのうちに弛緩し、半開きの唇から吐息と一緒に魂まで漏れ出てきそうな恍惚の顔つきになった。

「あー、そう、これよこれ! 全身の細胞が蕩けそうな濃厚なコクと甘さに、絶妙なバランスで絡み合うほろ苦いカラメルソースのマリアージュ! いつ食べても、やっぱり絶品だわ。これが卵黄と蔗糖だけで作られてるなんて、どんな錬金術だって話よね。そうじゃなきゃ、本当に天使が楽園からこっそりくすねてきたのかな」

「よくもそんなに大袈裟な言葉が恥ずかしげもなくスラスラと出てくるな。グルメ番組でも、もうちょっと控えめな表現だろ」

「大袈裟なんかじゃないよ。作った人に対する、最低限のリスペクトだよ」

「リスペクトねえ。俺には真似出来そうもないな」

「しょうがないなあ。ニヒルなお兄ちゃんに、幸せのお裾分け。はい、あーん」

 颯人は照れ臭さを覚えつつ、鳥の雛のように首だけ突き出し、唇の真ん前に差し出されたスプーンの上のプリンを口に含んだ。舌の上で弾けたまろやかで奥深い甘さを、芳醇なカラメルソースが包み込む。梨花が評する通りの絶品であることは間違いないのだが、飛び上がらんばかりの感動を彼が得るには至らなかった。

「うん、確かに美味いな」

「えー、それだけ? 食べさせた甲斐がないなあ」

 反応の薄さに、梨花は明らかに不満気だった。

「最高に美味しいものを食べて歓喜に浸るのは、人間だけに許された特権なんだよ。お兄ちゃんは、その有り難みをまるで実感してないね。知ってる? 猫の舌って、甘さを感じる事ができないんだって。プリンの美味しさを知ることもできないなんて、可哀想だと思わない?」

 テーブルの上に転がる紙袋の猫は、梨花の同情など知ったことかと、無邪気な笑顔を振りまいている。

 喜色満面でプリンを賞味する梨花に、颯人は焦れながら話を切り出した。

「なあ、そろそろ教えてくれてもいいだろ。俺を助けるって、どういう意味なんだ?」

「んー、プリンを満喫し終わった後にしてほしいんだけどなあ」

 梨花はスプーンを口に咥えたまま、ダイナーで見せた写真を財布から取り出した。

 入学記念に撮影した、兄妹のツーショット。改めて見ると、一枚岩から掘り出した彫像のように鯱張る颯人の隣で、ちびリカは明らかに浮かない顔をしている。

「これってさ、お兄ちゃんと一緒に撮った最後の写真なの」

「最後って、どういうことだ?」

「お兄ちゃん、来年の春になったら死んじゃうから」

「んなっ?」

 鳩が豆のガドリング掃射を食ったような顔で、颯人は言葉を詰まらせた。

「ちょっとショッキングな宣告だったかな。大丈夫、お兄ちゃん?」

「どこがちょっとだよ、この上ない一大事だろ! 俺が死ぬって、どういうことなんだよ。事故にでも遭うのか? それとも重い病気か?」

「ううん、自殺」

「は? 自殺?」

「歩道橋の上からぽんと飛び降りて、走ってきた四トントラックにぐちゃ、てね」

 プリンの甘さで心が緩んだのか、兄の凄絶な死に様を語る梨花の口調はどこまでも軽い。

「ちょっと待てよ。なんで俺が自殺なんてしなきゃいけないんだよ。死にたくなるほどの悩みもないし、そこまで思いつめる性格じゃないのは、梨花だって知ってるだろ」

「そんな事言われても、心の動きなんて自分自身ですら十全にコントロールできるもんじゃないし、まして他人が読み取ることは不可能だからねえ。けど、お兄ちゃんの場合は違うかな。誰の目から見ても、自殺の原因がはっきりしてたから」

「どういう事だよ」

「明日の花火大会でね、爆発事故が起きるの。沢山の人が巻き込まれてね、お兄ちゃんもその中に含まれていたってわけ」

「……それで?」

「どうにか一命は取り留めたけど、お兄ちゃんは顔に酷い火傷を負った上に、片方の手が満足に使えなくなっちゃってね。半年の入院生活で心まで荒んじゃったみたいで、退院後は部屋から一歩も出てこなかったの。それである日、ふらふらっと家を出て……」

「自殺した、てわけか」

 颯人が話を引き取ると、梨花は無言で肯いた。

「全身黒尽くめなんて、変なファッションセンスの女だなって思わなかった? あれ、礼服。お兄ちゃんの七回忌から帰る途中だったの。歩きながら、あの時お兄ちゃんにああ言えばよかった、これもしてあげたかった、てぼんやり考えてたの」

「そして、過去の世界に戻った」

「そういうこと」

「他に、過去に戻った要因で思い当たるところはないのか?」

「ないってば。道を歩いてたら、いきなりなんだもん。今まであたし、無神論者で通してたけどさ、本当は神様っているのかもね」

 しんみりと締めくくった梨花だったが、一呼吸置き、明るい声を出した。

「でも大丈夫! あたしの情報で、お兄ちゃんは危険を回避することができるんだから」

「つまり、花火大会に行かなきゃ俺は助かるってことか」

「その通り。兄想いの可愛い妹に感謝しなさい!」

 梨花の自賛を聞き流しつつ、颯人は浮かない顔になった。

 死という名の終着駅へ続くレールから降りることができたにも関わらず消沈する颯人に、梨花が慰めるように言葉を掛ける。

「楽しみにしてたのかもしれないけど、今年は諦めなってば。どの道、事故で大会は中止になるんだからさ。花火を観たきゃ、来年行けばいいじゃない。命あっての物種だよ」

「花火が観たいわけじゃないんだけどな」

「え?」

 歯の間で転がした颯人の呟きを梨花が聞き直そうとした時、階下からちびリカが、気怠く兄を呼ばわる声が響いてきた。

 

「うん、結構いけるじゃない。やっぱりカレーは、二日目に限るよね」

 舌鼓を打つ梨花の隣では颯人が、真向かいではちびリカが、気まずい表情を浮かべながらぼそぼそとカレーを口に運んでいた。

 呼ばれてもいないのに、梨花は夕飯の席に図々しくも加わっていた。さすがにちびリカも「あなたに食べさせるカレーはないから」とは言えず、二人分のカレーライスを三等分して梨花に分け与えたのである。

 それにしても、とカレーを食べる梨花を見ながら颯人は思う。

 ――胃の中にブラックホールでもあるんじゃないのか、こいつ。

 ハンバーガー三個に加えてプリンまで平らげたというのに、梨花の旺盛な食欲は留まるところを知らない。一体この均整のとれた体のどこに収まるというのか。

「これっておに……颯人くんが作ったの?」

 呆れ顔の颯人に、梨花が話を振った。

「うん、まあね。母さんの入院中、食事は俺の担当なんだ」

「へえ、なかなかやるじゃん」

「カレーとスパゲッティしか作れないくせに」

 ――お前の料理より何万倍もマシだろ。

 ちびリカの嫌味に、颯人は内心で抗言する。

 中学生であることを差し引いてもなお、ちびリカの料理の腕前は壊滅的にひどい。調味料は目分量、火加減水加減はいい加減、味見など一切せず、それでいて余計な自己流アレンジには余念がないという、料理下手の四大要素を全て兼ね備えている。

 上等な肉も、瑞々しい野菜も、ちびリカの手にかかれば、悪夢を具象化したような正体不明の物体に姿を変えられてしまう。

 梨花はたまごプリンを錬金術の賜物だと形容したが、ちびリカの料理はさながら、食物を悪夢に変える黒魔術の産物である。家庭科の授業で一緒の班になったクラスメイトたちは何も言わないのか、と颯人が常々疑問を抱くほどだ。

「そういえば、梨花ちゃんって水泳部なんだっけ?」

 話頭を転じた梨花の顔を、ちびリカが「どうしてそんな事を知ってるの?」と問いたげな顔付きでまじまじ見つめる。

「颯人くんに聞いたの。明日、大会なんだってね」

「先輩の応援ですけどね」

 短く答えたちびリカが、颯人を視線で射殺さんばかりに睨みつける。自分の与り知らぬところで兄が自分の情報を漏らした事に憤慨しているのだが、濡れ衣を着せられた颯人はたまったものではない。下手に弁明してもややこしい事になるだけだと察し、目配せだけでちびリカに謝る。

 兄妹が無言で交わす応酬などどこ吹く風で、梨花はちびリカになおも話し掛ける。

「一年生のこの時期なら、応援要員でもしょうがないよ。秋になれば、新人戦に出してもらえるんじゃない?」

「……無理だよ」

「どうして?」

「あたし、同じ学年の中でもタイムが遅いから。どうせまた応援要員だよ」

 めくれた腕の皮を爪で擦りながら、ちびリカはいじけたように言った。

 梨花はスプーンを動かす手を止め、微笑みを向けた。

「今は他の子よりもタイムが出なくても大丈夫だってば。頑張って練習を続けてれば、すぐ追いつけるよ」

「でもあたし、水泳始めたの小学校五年からだし……」

「始めた時期は関係ないよ。今は成長期なんだもん。秋に間に合わないとしても、来年の今頃になったら力の差なんて、きっと埋まってるよ」

「本当に追いつけるのかな。自信ないよ」

「梨花ちゃん、泳ぎは好き?」

 少し考えて、ちびリカは肯いた。

「じゃあ、大丈夫だよ。好きこそ物の上手なれって、昔から言うでしょ? 誰かに勝ちたいって気持ちも競技をする上ではもちろん重要な資質だけど、いかに泳ぎを楽しめるか、どれだけ水泳と向き合えるかのほうがずっと大事。本当に好きで続けていれば、結果は後から付いてくるものよ」

「英梨さんも、水泳やってたの?」

「梨花ちゃんと同じくらいの年頃にね。今じゃさっぱりだけど」

 ちびリカの問いに答えた梨花の声が僅かばかり震えたが、颯人もちびリカも彼女の機微を気取ることはできなかった。

「大人になるとね、好きな事を好きな時にできなくなるの。その時になって、あの頃もっとやっておけばよかった、て後悔しても手遅れなのよ。だから今のうちに、存分に泳ぎを楽しんでおきなさい」

「――うん、分かった」

 梨花とちびリカが会話を交わす様子を、颯人は蚊帳の外で眺めていた。

 同一人物だから当然なのだが、よく似通った顔立ちの二人のやり取りは、姉が妹の悩みを取り除いてあげているように見えた。それほどまでに梨花は、ちびリカの警戒心を見事なまでに解いてみせていた。何より颯人にとって意外だったのは、梨花が大人の振る舞いでちびリカに助言を贈ったことだった。

「二十歳ともなれば、相手や場面に応じて仮面を使い分けるくらい、わけないよ」

 自室で率直な所感を颯人がぶつけると、ちゃっかり風呂まで馳走になった梨花は、西洋ファンタジーの世界を舞台にしたアクションゲームに興じながらしれっと答えた。

「あいつ、梨花が何者なのか、全然訊いてこなかったな」

「第一関門は無条件通過ってとこかな。あとはお父さんとお母さんを、どうやって騙くらかすか、だね」

「騙くらかすって、あんまりいい響きじゃないな」

「どう言い繕ったって、本質は一緒でしょ。偽のプロフィールをでっち上げて、架空の人物になりすますのに変わりはないんだから」

 ゲームモニター代わりのテレビから目を離さず、梨花は悪びれもせず返した。

 画面の中では梨花が操るキャラクターが、迫り来る敵を流れるような無駄のない動きで次々に打ち倒している。コントローラーを操る巧みな手捌きを、颯人は背後から感心しつつ観察していた。

「随分と上手いな。隠しアイテムの取り忘れもないし」

「お兄ちゃんの形見分けに貰って、散々やり込んだゲームだからね。プレイするのは久し振りだけど、今のお兄ちゃんよりずっと上手いよ」

「スポーティーなのにオタク気質でもあるからな、梨花は。ゲームが好きだし、漫画にも詳しいし、こっそり創作活動までしてるんだもんな」

 梨花の操作が、わずかに乱れた。

「ちょっと……なんでお兄ちゃんがそれを知ってんの?」

「漫画を借りに行った時、机の上に開きっぱなしになったノートを見つけたことがあって、つい読んじゃったんだ。ええっと、詩のタイトルは『機械仕掛けの乙女』だったっけ」

「ストーップ! それ以上言うなっ!」

 顔を羞恥で紅潮させ、梨花が振り向きざまに喚く。

「出だしは確か、昨日と今日の隙間で、銀色の星が囁くようにきらめく夜に――」

「やめてー! 黒歴史を発掘するのはやめてーっ!」

 梨花はコントローラーを床に放り出して、抱えた頭を激しく左右に振った。

 颯人の顔に浮いた笑みには、嗜虐の色が混じっていた。

「なんでそんなに恥ずかしがるんだよ。俺はむしろ、感心したんだぞ。年齢の割にはよく書けてるな、て。そもそも詩にしろ小説にしろ、人に読んでもらえてナンボだろ?」

「うるさい! だからって暗誦することないじゃないっ! それに、あたしはそういうのはとっくに卒業したの。だから、とっとと忘れてっ!」

「薄汚れた少女は錆び付いた銅製の足を引き摺って――」

「やめろって言ってんでしょうがっ!」

 座ったままの姿勢で、梨花が颯人の脛に怒りの正拳突きを叩き込む。痛みに息を詰まらせながら、颯人は痛打された箇所を抑えてのたうち回った。

「ちょ、お前……脛はやめろよ、脛は」

「しつこくからかうからでしょ、痛い目にあって当然よ!」

「だからって、殴ること――」

「うるさい、二人共!」

 騒ぎを聞きつけたちびリカが、目に角を立てて怒鳴りこんできた。

 水を打ったように、室内が静まり返る。

 呆然とする颯人と梨花を、ちびリカは腕組みしながら交互に睥睨した。

「まったくもう。何があったか知らないけど、いい年こいた大人が二人も揃って、中学生みたいに騒がないでよね。近所迷惑でしょ」

「お前こそ、こんな時間まで起きてて大丈夫なのか? 明日早いんだろ」

 床に転がったままで颯人がやり返すと、梨花はふんと鼻を鳴らした。

「勉強中。それに、まだ十時だし。子供じゃあるまいし、とやかく言わないでくれる?」

「子供扱いされるのを嫌うのは、お子様の証拠なんだけどな」

「何よそれ。逆ギレ?」

 今にも焦点から発火しそうなほど、颯人を見下ろすちびリカの視線は鋭い。

「ごめんね梨花ちゃん、勉強の邪魔しちゃって。ゲームで盛り上がっちゃって、つい大声が出たの。これからは気を付けるわ」

 兄妹の間に流れる険悪な空気に、梨花が割って入った。

 しおらしい詫び言に気勢をそがれ、ちびリカの顔から険が消えていく。

「はしゃぐのは勝手だけど、英梨さんもお兄ちゃんも、ほどほどにしてよ。あたしも、そろそろ寝なきゃいけないし。いい、わかった?」

 返事も聞かずにドアを強く閉め、ちびリカは自室へと戻っていった。

 放っておかれたテレビの画面には、モンスターに袋叩きにされて倒れ伏したキャラクターが大写しになっていた。

 おどろおどろしいゲームオーバーの音楽に被せるようにして、颯人が呟く。

「あいつ、今も書いてたのかな」

「蒸し返すな、馬鹿っ!」

 憤然としながら梨花は颯人を押しのけ、ベッドに転がり込んだ。荷重を受け止めてベッドマットが撓み、中に仕込まれたスプリングが軋みを立てた。

「疲れたからもう寝る。おやすみっ」

「なんで俺のベッドで寝るんだよ。父さんか母さんの部屋に行けよ。あそこのベッド使っていいからさ」

 頭まですっぽり夏掛け布団をかぶった梨花に声を掛けるも、石のようにぴくりとも反応を見せない。

「じゃあ、俺があっちの部屋で寝るからな」

 立ち去りかけた颯人に答える代わりに、梨花は布団を捲り上げ、ベッドの空きスペースを掌で叩いた。

「ん」

「なんだよ、一体?」

「行かなくていい。ここで寝て」

 梨花の口振りは誘うというより、拗ねた子どもが駄々をこねるような響きだった。

「そういうわけにもいかないだろ」

「いいから」

「そもそも二人で寝たら狭くてしょうがないだろ。このベッド、シングルなんだし」

「狭くてもいいから」

 頑として、梨花は意を翻す気配すら見せない。

 彼女を説伏する行為が時間の無駄だと悟った颯人は、観念して部屋の電灯を消し、梨花に背中を向ける格好でベッドへ潜り込んだ。

 待ってましたとばかりに、梨花が獲物を捕らえた蜘蛛のように手足を絡めてくる。

「おい、何だよ」

「いいじゃん、昔はこうやってよく添い寝してくれたじゃん」

「何が添い寝だよ。これじゃ、抱き枕だろ」

 抗弁に耳を貸さず、梨花はしなやかな腕と足でがっちりと颯人を拘束して解放しようとしない。振り解こうと颯人が身を捩ると、ますます体を密着させてくる。

 ラベンダーエキスを配合したボディソープの香りが鼻孔をくすぐり、背中に梨花の体温と、大きな搗きたての餅のように柔らかくボリュームに満ちた双丘の感触が伝わる。知育玩具のパズルのピースが合わさるようにして、梨花の薄い下腹部がぴったりと颯人の尻にフィットし、呼吸に合わせて蠢動を繰り返している。

 壁掛け時計が時を刻む音が、颯人の耳を打つ。

 じっとりと汗ばむのは、エアコンを切ったせいばかりではなかった。

「なあ、もうちょっと離れろって。暑くてしょうがないよ」

 時折発せられる颯人の抗議を聞いてか聞かずか、梨花は小さな忍び笑いを立てる。それが自分をからかっているのか、それとも幸せな夢を見ての笑いなのか、颯人には判然としなかった。

 ――変な気起こすなよ、俺。

 世の男性が羨むシチュエーションの只中にあって、颯人は情欲に流されまいと、理性を総動員して自制に努めた。

 梨花の抱擁にまんじりともしないまま、時間だけが過ぎていく。颯人の頭の中では、柵を飛び越えんとする羊たちが、遥か地平線の向こうまで列をなす光景が広がっていた。

 彼がようやく寝入ったのは、しらしらと夜が明け始めた頃だった。


 翌日の夕刻。

 颯人は黄昏色に染まる住宅街を、自宅へ向かって歩いていた。

 空っぽの胃袋が、いい加減まともに仕事をさせろと、ひっきりなしに鳴る。家を出る時に齧った食パンは、とっくの昔に胃袋から消え去っていた。

 颯人が目を覚ましたのは昼過ぎのことで、ちびリカは既に大会へ出掛けてしまっていた。 大欠伸をしながらキッチンへ降りた彼を待っていたのは、エプロン姿の梨花だった。

「泊めてもらってるお礼よ」と彼女が用意したのは、湯気を立ち上らせて寝起きの胃袋を刺激してくる料理の品々だった。

 スライスしたソーセージとピーマンを具材に使い、粉チーズを惜しみなく振ったナポリタン。玉ねぎとコーンが泳ぐ琥珀色のコンソメスープ。その脇には、お好みに応じてどうぞと言わんばかりに、粗挽き胡椒とタバスコの小瓶が置かれている。

 テーブルの中央に置かれたサラダボールには、ドレッシングを掛けた新鮮な生野菜が山と盛られていた。

 ちびリカの惨憺たる料理の腕前を知っているだけに、颯人の驚きようといったらなかった。奇術を見せられた子供のように、彼の視線がテーブルの上に釘付けになる。

「冷めない内に、どうぞ召し上がれ」

「それじゃ遠慮無く、いただきます!」

 促されるがまま、梨花の料理を口に運んだ颯人の表情が、瞬時に凍りつく。

「なあ……このナポリタン、何入れた?」

「ちょっとケチャップが多すぎてさ。しょっぱいかなって思って、砂糖で中和させたの。隠し味は、ちょっと変わったところでオイスターソースをぱぱぱ、とね」

 料理の基本も調味料の特性もまるで無視した超理論が、梨花の口から飛び出す。

 パスタはアルデンテのはるか手前、硬い芯がしっかりと残った茹で加減である。オイスターソースは隠し味どころでなく、ケチャップの味を押しのけるほどに自己主張し、砂糖の甘さと相まってナポリタンの味を完全に破壊していた。

 口直しにと、スープを一口飲んで、颯人が顔を顰める。異常な塩気と、混ざり合わずに喧嘩しあう数多くの風味とが、渾然一体となって舌の上で暴れる。

「コンソメが無かったから、和だしと醤油と鶏がらスープの素とブイヨン……ええっと、あとは何入れたっけ。胡椒と麺つゆ、片栗粉に、はちみつもちょっと入ってるかな」

 目眩がするようなレシピを聞き流しながら、とろみが利いたスープをスプーンでかき混ぜると、溶けきらなかった調味料がボールの底面をじゃりじゃりと擦った。

 これはさすがに安全牌だろう、とサラダを頬張った颯人は、自分の考えがいかに楽観的であったかを思い知る。なぜ野菜を切ってドレッシングを掛けるだけの単純な手順で、ここまで不味く作れてしまうのか、と首を傾げたくなる代物だった。

 梨花の黒魔術は、七年の歳月を経てもなお健在だった。

 フォークを置き、颯人は席を立った。

「ごちそうさま」

「え、もういいの? 全然食べてないじゃない」

「うん、寝起きで胃が本調子じゃないんだ」

「じゃあ、どうして食パンにバター塗ってんのよ」

 ジト目で指摘する梨花を無視して作ったバタートーストを齧りながら、颯人はそそくさと自室へ戻り、身支度を整えて家を出た。

 母の見舞いがてら、メディカルクラークから今後の通院スケジュールや翌日の退院手続きなどの説明を受けるためだ。

 面会と、退院の準備は夕方まで続き、颯人は小腹を満たす暇すら持てなかった。

 彼が空きっ腹を抱えていたのは、そういう理由である。

 ――今夜は、店屋物で済ませるか。

 ぼんやり考えながら玄関の戸を開けると、梨花が悄然と立ち尽くしていた。

「何やってるんだよ、こんなところで」

「ちびリカが帰ってこないの」

 梨花の声は、遊びに出掛けたまま帰って来ない我が子を案じる母親のように、不安げに沈んでいた。

 下足箱の上に置かれたクリスタルクロックの針は、午後六時を指していた。

「片付けやらミーティングやらで、遅くなってるんじゃないか?」

「確かに大会の後で後始末はあったけど、こんなに遅い時間にはならなかったよ」

「じゃあ、友達と話し込んでるか、道草食ってるってとこなんじゃないかな。じきに腹を空かせて帰ってくるさ」

「それならいいんだけど……」

 颯人の気休めに、梨花は納得していない素振りを見せた。

 直接訊いたほうが早そうだと思い、颯人はスマートフォンを取り出して電源を入れた。

「あれ、メールが来てる」

 差出人はちびリカだった。

 タイムスタンプを確認すると、メールが発信されたのは、颯人がメディカルクラークから説明を受けていた時間帯だった。

『友達と花火に行くから遅くなる』

 普段の態度そのままの素気ない五七五調の文章に、颯人は舌打ちした。

「まったくあいつ、人の気も知らないで」

「何て書いてあったの?」

 颯人が突きつけたスマートフォンの画面を目にして、梨花の顔がみるみる青ざめる。震える口元に手を当て、明らかに動揺している。

 サンダルを突っ掛けて飛び出そうとする梨花の腕を、颯人が素早く掴んだ。

「おい、そんなに慌ててどこ行くんだよ?」

「離してよっ! ちびリカを止めなきゃ」

「落ち着いて説明しろよ。何がどうしてっていうんだ?」

「言ったでしょ、花火大会で事故が起きるって」

「だから落ち着けって。事故に巻き込まれるのは俺なんだろ? 俺が屋台に近寄らなけりゃ、何事も起きないんだろ?」

「違うの。事故に巻き込まれたのは、お兄ちゃんのせいじゃないの」

「全然話が見えないよ。もっと詳しく教えてくれ」

 せっつかれて梨花は一瞬怯んだような表情を見せたが、眦を決して颯人を見据えた。

「お兄ちゃんに言いそびれていた事があるの」

 梨花はカットソーの裾を握りしめ、三秒ほど躊躇ったあとで胸元まで捲り上げた。

 ブラジャーのカップに押し込められた形の良い乳房と、齧られたりんごのようにくびれながらも程よく脂肪をまとった脇腹があらわになる。

「あの日、事故の現場に居合わせたのは、お兄ちゃんだけじゃなかったの」

 歪みのない、美しい曲線で構成された梨花の体。

 その左半分に、引き攣れた灰褐色の植皮跡が、仮足を四方八方に伸ばした巨大なアメーバの如くべったりとへばりついていた。

「梨花も、花火を観に行ってたのか」

「前の晩にお兄ちゃんから誘われてね」

 颯人の心が、鉛のようにずしりと重くなる。

 梨花の予言が無かったら、颯人は駄目で元々、ちびリカで花火に誘うつもりでいた。

 一緒に花火を見物することで、ツンドラの大地もかくやと思われるほど冷えきってしまった兄妹の仲を修復するきっかけになれば、という淡い期待が彼の中にあったからだ。

 その目論見が、妹の体に目を背けたくなるような傷痕を残す結果を生んでしまったことに、颯人の心は疼いた。

「大会から帰ってすぐ、夕飯も食べずに家を出たからお腹が空いてて、花火が始まる前に屋台に行きたいってねだったの。爆発が起きたのは、焼きそばの屋台の手前。事故は花火の暴発じゃなくて、屋台で使ってるコンロのガスが爆発して起きたの」

 梨花の細く震える右手が、古い傷痕をこわごわと撫でた。

「お兄ちゃんほど酷くはなかったけど、皮膚をごっそり張り替えなきゃいけなかった。綺麗に治らなかったのは、見ての通り。同じような痕が、肩や二の腕にも残っているわ。これを見たら誰もが気味悪がるんじゃないか、て未だに怖くてたまらない。恋人を作ることはもちろん、肌を露出する服を着ることすらできないのよ」

 油が切れたロボットのようにぎこちない手付きで、梨花はカットソーの裾を下ろした。

 颯人の頭を、梨花がちびリカに掛けた言葉がよぎる。

 ――好きな事を好きな時にできなくなるからね。

 醜形恐怖で水着姿になれないことを悟った時、梨花は水泳を諦めたのだろう。

 梨花にとって、素肌を見られることと傷痕を見られることとは、同義なのだから。

「なんでそれを最初から言わなかったんだ?」

「お兄ちゃんを止めさえすれば、ちびリカが花火を観に行くこともなくなるから、言う必要が無いと思ったのよ。あまり触れたくない、余計なことまで思い出すから」

「余計なこと……?」

「お父さんとお母さん、事故の後に諍いが絶えなくてね。お父さんはお母さんの監督不行き届きを咎めて、お母さんは仕事にかまけて家庭を顧みなかったお父さんを詰ったの。二人が離婚したのは、お兄ちゃんの三回忌が終わったすぐ後。それ以来、家族三人が一堂に会するのは、お兄ちゃんの年忌法要の時だけ。あの事故のせいで、あたしたち家族はばらばらに壊れちゃったのよ」

 梨花は顔を伏せ、血が滲むほど強く下唇を噛んだ。

 颯人は梨花の話を聞き終えるなり、スマートフォンを操作し、ちびリカに電話を掛けた。 コール音も鳴らないまま、留守番電話サービスに繋がる。

「くそ、あいつ電源切ってやがる」

 舌打ちして、颯人は靴を脱ぎ散らしリビングへ駆け込んだ。

 数分後、玄関へ戻ってきた颯人の手には、母の車のキーが握られていた。

「運転できるんだろ? 行くぞ、ちびリカを助けに」


 神社へと続く幹線道路には、花火目当ての車のバックライトが、巨大な赤い蛇がのたくるように長々と連なっていた。

 かたつむりよりも鈍い車列の進み具合に、颯人も梨花も焦れていた。

「前の車は、何やってんの? ちっとも進まないじゃない」

 梨花が目を吊り上げ、声を荒らげる。 

「なんだってこんなに混んでるのよ。いつもはここまで酷くないのに」

「今年は花火とレーザーショーのコラボが話題になってるから、見物人が多いんだ」

「ああもうっ! よりによって、なんでそれが今年なのよ!」

 口から火を噴きそうなほど激高した梨花が、ハンドルを乱暴に平手で叩いた。彼女の苛立ちを代弁するように、クラクションがけたたましく吼える。

 颯人はカーナビに目を走らせ、神社までの距離表示を読んだ。

 目的地まで、ニ・四キロ。

 シートベルトを外し、颯人は助手席のドアを押し開けた。

「いきなりどうしたのよ、お兄ちゃん」

「走って行く。このままじゃ間に合わないだろ。梨花は後から来い」

「――うん、分かった。気をつけてね」

 ドアを力一杯閉め、颯人は薄暗がりに包まれる歩道に飛び出した。

 何度も通行人にぶつかりそうになりながら、颯人はひたすらに神社を目指して疾駆する。

 道行の半分も行かない辺りで、その足運びが目に見えて遅くなる。

 汗に濡れて重くなったシャツが、走るリズムに合わせて背中をばたばたと打つ。

 額から伝った汗が目に入り、灼けつくような痛みに颯人は呻いた。

 普段ろくに運動らしい運動をしていない颯人にとって、スピードを維持して走り続けることは途方も無い難行だった。

 ――俺、こんなに体力無かったか?

 もつれる足を懸命に動かして、ようやく海沿いの神社に辿り着いた頃には、浜に打ち上げられた魚のように息も絶え絶えになっていた。

 さほど広くもない神社の参道は花火見物の客で溢れ返り、その両脇を隙間無く屋台の列が埋めていた。

 鳥居に凭れ掛かり、肩で荒く息をしながら巡らせた颯人の視線が、人混みに消えようとしているジャージ姿のちびリカを捉えた。

「梨花っ!」

 全身で叫ぶ颯人の声に気付いたちびリカは周囲を見回し、自分を呼ばわる兄の姿を群衆の中から見つけ出したが、一瞥だけして顔を逸らした。

「待てよ、梨花っ!」

 ちびリカは振り返らず、友人たちと共に、芋の子を洗うようにごった返す人の波へ取り紛れていく。その小さな背中に追い縋るように、颯人はよろよろと歩を進めたが、人混みをかき分けて妹を捕まえるだけの体力は、彼の中には残されていなかった。

 ちびリカが目指しているであろう焼きそばの屋台がどこにあるのか、颯人が知る由もなかったが、魔の瞬間が刻々と迫っていることだけは明白だった。

 どうにかして、彼女をこの場に留めなくては。

 摩擦で煙が出そうなほど瞬時に高速回転した颯人の脳が、一つの策を導き出した。

 ――梨花を足止めできる手段は、もうこれしかない。

 中腰のまま、颯人は大きく息を吸い込んだ。

「梨花! 止まらないんなら、この場でお前の詩を、大声で朗読してやるぞ!」

 道行く人々が、ちびリカの友人たちが、大音声をあげる颯人に視線を投げた。

 ちびリカの足が、ペグを打ち込まれたように止まる。

「昨日と今日の隙間で、銀色の星が囁くようにきらめく夜に!」

 颯人の口から紡がれたフレーズに、ちびリカが振り向く。

 日に灼けた顔は、炎にくべられた鉄のように赤黒かった。

「薄汚れた少女は、錆び付いた銅製の足を引き摺って!」

 水泳で鍛えあげられた細い足が、石畳を蹴った。

「無関心をまとった亡霊のような人の海を、縫うように――」

「本当に朗読すんなあっ!」

「ぐっほぁ!」

 駆け寄りざまに繰り出された鋭い膝蹴りが、颯人の顎にクリーンヒットする。

 後方にひっくり返った颯人の胸倉を、ちびリカが絞るように掴み上げた。

 その幼顔は、阿形の金剛力士像を髣髴とさせる憤怒に満ち溢れていた。

「なんでお兄ちゃんが、あたしの詩を知ってんのよ?」

「うぐ、そ、それは……」

「勝手に読むとか、ほんと信じらんない! それだけならまだしも、こんな大勢の前で恥をかかせるとか、頭おかしいんじゃないの? 大体ね、お兄ちゃんはいっつも――」

 機関銃の如く放たれたちびリカの口撃は、大気を震わせる鈍い轟音と、眩い閃光によって途絶した。

 突如として出現した暴威に薙ぎ払われた屋台の残骸が、天を焦がさんばかりの炎に包まれ、黒煙がもうもうと上がる。周囲は瞬時に怒号と悲鳴で満たされ、逃げ惑う客達と野次馬とが押し合いへし合いになり、たちまちのうちに境内は混乱の坩堝と化した。

「え、なに? なに?」

 詩を暗唱されたことも兄を詰ることも、頭から吹き飛んでしまったのか、ちびリカは眼前に現出した阿鼻叫喚の地獄絵図にすっかり狼狽して、颯人の胸にしがみついた。

 顎に走る痛みを堪えつつ、ちびリカの細い体のどこにも怪我がないことを認めると、颯人はなおも噴き出る汗を拭おうともせず、参道の修羅場をよそに生ぬるい安堵の息を大きく吐き出した。


 濃紺の空にぶら下がった弓張月が、夜の主役が自分であることを誇示するように、黄白色の光を振りまいていた。

 パトカーと救急車の回転灯が飛ばす赤い光が、灯台のように夜の海面を舐めまわしている。月がもっと明るかったなら、花火職人と運営委員とが浜辺で丁々発止とやりあう光景を目にすることができただろう。

 颯人は神社の裏手にある、猫の額ほどの広さの岩崖の縁に腰を下ろし、ちびリカに蹴られた顎を掌でさすりながら、沖合を漂う集魚灯の群れをぼんやり眺めていた。

「結局、花火大会はこのまま中止になるみたいね」

 密生する松林の暗がりから梨花が姿を現し、颯人の傍らに屈みこんだ。

「懐かしいね、ここ。小さい頃、よくお兄ちゃんに連れて来てもらったっけ」

「母さんに内緒で、こっそりな」

「誰も来ない穴場なのは相変わらずだね。秘密の話をするには、うってつけ」

 清涼飲料水が入ったペットボトルを、梨花が顔の横で振った。

「ちびリカを助けてくれた、ささやかなお礼よ」

「あいつはどうしてるんだ?」

「車で待たせてる。友達も、さっき親御さんが迎えに来たわ。怪我は無かったけど、間近であんな大事故が起きたから、少なからずショックを受けてるみたい。休ませれば大丈夫だと思うけどね」

「そっか、無事なのは何よりだ」

 受け取ったペットボトルをらっぱ飲みしながら、颯人は梨花の胸元に目を走らせた。その視線に気付いた梨花は、襟口から自分の体を覗き込み、しょんぼりと肩を落とす。

「消えてくれるかなって期待したけど、やっぱり駄目みたい。考えてみれば、あたしの時は事故を予言してくれるタイムスリッパーはいなかったからね」

「このまま、未来に帰るのか?」

「漫画や映画なら、あたしがお兄ちゃんに見送られて元の時代へ帰る感動的なエンディングを迎えるところだけど、戻る方法が分からないことにはね。傷痕も残ったままだし、現実は甘くないってやつよ」

 颯人の隣で夜の海を眺めながら、梨花は大きく伸びをした。

「でもいっか、ちびリカはこんな醜い傷を負わずに済んだし、未来に戻ったところで、気が滅入る生活が待ってるだけだし。これはこれで良しとしよっかな」

「未来に帰れないなら、これからどうする気だ? 明日、母さんは退院するんだぞ」

「その前に、出ていくよ」

 何の躊躇いも見せずに言った梨花の顔を、颯人はまじまじと見つめ、「そうか」とだけ返した。

「戻れるアテも無いことだし、この時代に腰を据えることにしたよ。当面は安宿暮らしだろうけど、いずれは保証人が要らない不動産屋で部屋を借りて、仕事も探そうと思ってる。これから値上がりする株の売買で一儲けして左団扇で暮らす、て手もあるかな」

「どの銘柄が値上がりするかなんて、逐一チェックしてたのか?」

「いや、全然。株なんてこれっぽちも興味ないし」

「駄目じゃん」

 二人の間で、小さく笑いが起こる。

 ひとしきり笑い終えると、颯人は疑問をぶつけた。

「そういえば、どうしてちびリカには事故のことを事前に教えなかったんだ? 未来から来たことを伝えたくなかったとはいえ、警告くらいできただろ」

「それって、時間を遡ったことを打ち明けるのと一緒だよ。初対面の人間からいきなり『花火大会で事故が起きるから現場に近付くな』て言われても、合理的な理由付けが無ければ信用できないでしょ。なんであたしがそんな忠言をするのか、タイムスリップ抜きで説明するのはまず無理だろうなって思ったからね」

「――言われてみれば、確かにその通りかもな」

 もしかすると、梨花はちびリカに余計な心配を掛けたくなかったのかもしれない。苦い過去を背負うのは、自分一人で十分と考えたのだろう。

 勝手に解釈し、颯人はそれ以上を追及しなかった。

「ともあれ、俺とあいつは事故に巻き込まれずに済んだ。目的が達成できたんだから、めでたしめでたし、ってとこか」

「うん? あたしの目的はまだ達成されてないんだけど」

「どういうことだ?」

「それを話す前に、訊いていいかな。どうして昨夜、あたしに何もしなかったの?」

 梨花がからかうように訊ねる。

「年頃の男の子なら、あんな風に密着されれば理性が吹っ飛んでもおかしくないじゃない。それなのにお兄ちゃんってば、借りてきた猫みたいに大人しいんだもん」

「当たり前だ。実年齢が上とはいえ、妹なんだ。手を出すわけないだろ」

「ふうん、妹だから、何もしなかったんだ」

 鼻先と鼻先が触れんばかりに、梨花が颯人に顔を近づけた。

「ちびリカには、いたずらするのに?」

「え?」

 平手打ちを食らったように唖然とする颯人の両肩を、梨花が強く押した。

 不意を突かれて颯人は、抵抗する暇もなく後方に転がった。

「いきなり何するんだよ! 危ないだろ。崖だぞ、ここ」

 慌てふためく颯人に、梨花は両手をついて覆いかぶさった。

 絹糸のようなさらさらの髪と、生暖かい吐息が颯人の顔をくすぐる。

「質問に答えて。どうしてちびリカの部屋に忍び込んで、いやらしい事してるの?」

「な、なんだよそれ。何を根拠にそんな事……」

 目を泳がせながら颯人が言い澱むと、梨花の顔に薄く嘲笑が浮かんだ。

「あたしが何も知らないと思ってるの? 忘れたわけじゃないよね、お兄ちゃん。あたしとちびリカは、十三歳までの共通の記憶を持っている同一人物だってこと。パジャマをめくっても、ちびリカが起きていないとでも思ってた? 下着をずらしても気付かれてないと高をくくってた? ちびリカが素気ない態度を取ってたのは、お兄ちゃんの変態行為が原因だって、どうして分からないのかな」

「……」

「あたしが花火大会の誘いに乗ったのは、お兄ちゃんの真意を確かめるため。本当は厭で厭でしょうがなかったけど、どうしても理由を訊きたかったから、我慢したの。もっとも、事故が起きたせいで、それどころじゃなくなったけど」

「――いけないことなのか?」

「え、何が?」

「妹の体に触ることがだよ。兄貴が妹に愛情を抱くのは不自然なことか? 愛情を抱いたなら、身も心も自分のものにしたいって願うは、人間本来の自然な姿だろ? 愛する異性にスキンシップを求めることの、何がいけないっていうんだ」

 開き直る颯人に、梨花は呆れ顔を見せた。

「大した論法ね。だけどそれは屁理屈でしかないわ。お兄ちゃんは、少なからずの背徳感を抱えながら、持て余したリビドーを妹で発散させてる。その後ろ暗さを正当化するために、愛情だなんてお題目を掲げているだけなのよ。純粋に情愛を抱いてるなら、堂々とちびリカに思いの丈をぶつければいい話じゃない。卑劣すぎて、反吐が出そう」

 言い終えて梨花は、颯人の反応を待ったが、彼の口から抗弁が出てくることはなかった。

「反論が無いところを見ると、図星ってとこかしら。やっぱりお兄ちゃんは欲望の赴くままに、か弱いちびリカを慰み者にしてただけなのね」

「――目的って、俺にそれを問い質すことか?」

「違うわよ。今のはただの事実確認。本題はこれから」

 梨花は上体を起こし、服の上から傷痕をゆっくりとさすった。

「この傷のせいで、世界中があたしを醜いと罵っているような妄執に囚われたわ。皆があたしを見て、嘲り笑ってる気がする。人前に肌を晒すのが怖くてしょうがない。水泳なんてとても続けられそうにない。部屋で膝を抱えながら、どれだけ泣き明かしたか憶えてないわ。そんなあたしに追い打ちをかけたのは、他ならぬお兄ちゃんなの」

「俺が、何をしたっていうんだ?」

「退院して二ヶ月くらいが経った夜に、お兄ちゃんはあたしの部屋に忍び込んできたの。体はガリガリ、髪はボサボサ、顔に包帯をでたらめに巻きつけた亡霊みたいな姿でね。怯えて身を竦ませるあたしに、お兄ちゃんは有無を言わさず、鬱屈した暗い感情をぶつけてきた。愛情の欠片もない、一方的で、身勝手で、暴力的な方法でね」

 梨花はそこで一旦、言葉を切った。

 タールのように粘っこい沈黙が、二人の間をゆっくりと通り過ぎた。

「有り体に言えば、お兄ちゃんに犯されたの」

 兄の忌まわしい所業を吐露する梨花の口調は、北極から汲み上げた海水のようにどこまでも冷淡で、無数の棘となって颯人の心を抉った。

「行為の最中、お兄ちゃんはずっと『お前がいけないんだ、お前のせいでおかしくなったんだ』て呪文みたいに呟いてた。手足をばたつかせて身を捩って、お兄ちゃんの縛めから逃れようとしたけど、筋力はお兄ちゃんが上だったから、為す術もなかった。今までの人生の中で、最低最悪の十分間。アソコにうんちをされたほうが、よっぽどマシよ」

 梨花は苦り切った顔で、吐き捨てるように言った。

「騒ぎを聞きつけたお父さんに羽交い締めにされるお兄ちゃんを、あたしは泣きじゃくりながら、思いきり罵ってやったの。『体に大きな傷を負ったのはお兄ちゃんが花火に誘ったせいなのに、こんな事までするなんて、人間とは思えない。お兄ちゃんの顔なんて、二度と見たくない。いっそ死んじゃえばいいのに』てね。あたしの言葉に操られたかのように、お兄ちゃんが歩道橋から身投げしたのは、その二日後」

 額にじっとり脂汗をかいて押し黙る颯人に構わず、梨花は話を続けた。

「棺の中に横たわるお兄ちゃんの死に顔を見ながら、激しい後悔の念に駆られたわ。あたしの言葉が引き金になって、お兄ちゃんは自分で自分を殺した。あたしに復讐する暇すら与えずにね。永遠に晴らされることのない、眼から血の涙が迸りそうになるほどの恨みを抱えながら生きなきゃならない気持ちが、理解できる? 何度も生きるのが厭になったけど、その度にあの写真を見つめながら、お兄ちゃんを殴って蹴って絞めて切って刺して抉って刻んで磨り潰す妄想に浸ることで、辛うじて自分を保つ事ができたの。どうにか立ち直って、まともな思考ができるようになったのは、高校を卒業してから。あたしの掛け替えのない青春は、お兄ちゃんに滅茶苦茶にされたのよ」

 颯人はすっかり気圧され、胸の内に秘めた怨恨を洗いざらいぶちまける年上の妹の顔を、ただ呆けたように見つめ続けていた。

 口を挟もうとしたが、喉からは掠れた息が漏れるだけで、言葉にならない。

「だから過去に戻れたと気付いた時は嬉しくて、思わず涙が出そうになったの。神様があたしに、完全に諦めてた復讐のチャンスをくれたと思った。もしかしたら、あたしの魂を奪おうとする悪魔の狡猾な罠なのかもしれないけど、この際どっちだって構わない。この手でお兄ちゃんを殺せるなら、どっちでもね」

 梨花の口から飛び出した「殺す」という不穏な単語が、槍のように颯人の全身を貫いた。

 ドラムをハイテンポで打ち鳴らしたように心臓が動悸し、神社を目指して走っていた時に流したものとは異質の、冷たい汗が背中を伝う。

 潤したばかりの喉がひりひりと乾く不快感を和らげるように、颯人は唾を飲み込み、怯懦を悟られまいと精一杯の平静を保ちながら口を開いた。

「事故を教えたのは、俺を助けるためじゃなかったのか?」

「まさか。あたしの手で、お兄ちゃんを殺すためよ。事故で怪我を負ったら、いずれお兄ちゃんは自殺しちゃうでしょ。それじゃ、復讐できないじゃない」

「じゃあ、家に転がり込んできたのは?」

「お兄ちゃんをじっくり監視して、殺す算段を立てるため」

「今まで見せてた親しげな態度は、全部嘘だったってことか」

「会った時から全部、お兄ちゃんを敬愛する妹を演じた仮面劇よ。上手だったでしょ、あたしの演技。一番難しかったのは、自分の心まで騙すこと。猫をかぶりながら、何度も吐きそうになってたのよ。昨日の夜だって、ちびリカの部屋に行かせないためとはいえ、体の震えを隠してお兄ちゃんに抱き付くのが、たまらなく悍ましかったもの」

「けど、俺は怪我を負わなかった。ちびリカを襲う可能性も消えたじゃないか」

 梨花は「やっぱり分かってない」と呟きながら、頭を振った。

「本当を言うとね、家に帰るまでは『お兄ちゃんを殺す必要はあるのかな』てほんの少しだけ考えてたの。理由はお兄ちゃんの言う通り、お兄ちゃんが精神を病む可能性が消滅するから。でも昨日、ちびリカに嫌われる心当たりを訊ねたでしょ? あの時、考えたの」

 梨花がおもむろに、ゆらりと立ち上がった。

「お兄ちゃんはちびリカを傷つけている自覚が無いし、その可能性すら全然頭にない。怪我なんかしなくても、いずれお兄ちゃんはちびリカを凌辱するんじゃないか、てね。さっきお兄ちゃんが開き直るのを見て、推測は確信に変わった。だからやっぱり、お兄ちゃんは殺さなきゃいけない。ちびリカを守るため、ひいてはあたしの積年の恨みを晴らすため。それがあたしの本当の目的。こんなに早く実現するとは望外だったけどね」

 淡々と殺意を口にしながら、冷ややかに梨花が颯人を見下ろす。

 人懐こい妹の仮面をかなぐり捨て、月の光を背負う不気味な影法師と化した梨花の姿に、颯人は全身が粟立つほどの底知れぬ戦慄を覚えた。

 ――口先だけじゃない。こいつは間違いなく、俺を殺す。

 逃げ出そうとしたが、骨を抜き取られたように足に力が入らない。

 途端に急激な目眩に襲われ、上体を支えることすらままならなくなり、横ざまに地面へ倒れ込んだ。

「あれ……? 急になんら、いったい……?」

「案外、速く効くもんだね。美味しかった、カリウムサプリ入りの特製ドリンクは? ここに来る前に、近くのドラッグストアに寄って調達したの。一瓶丸ごと混ぜたから味でバレるかなって思ったんだけど、よっぽど喉が渇いていたみたいだね」

 梨花の冷酷な台詞が、ぐるぐると回る頭の奥に不快なエコーを伴って突き刺さる。

 心臓と胃が暴れだしたような吐き気が襲う中、横倒しのままで身悶えながら、颯人は梨花の残忍な笑みを見た。

「これも定番ってやつよね。全ての真相を話してから相手を殺す。サスペンスドラマなら邪魔が入るとこだけど、ここには人が来る気配すらない。やっぱり現実は非情ね」

「ちょ、ちょっと待てよ! 殺すことはないらろっ! そんな事聞かされて、あいつにちょっかい出すわけないらないか。それに、あいつを助けてやったのは事実らろ!」

 曖昧になった呂律の命乞いに、梨花は笑みを引っ込めた。

 腕を組み、遠く海の彼方を見やりながら、難しい顔で呟く。

「うーん、そうねえ。確かに今回のちびリカの行動は、想定外なのよね。もしかすると、あたしみたいな怪我だけじゃ済まなかった可能性だってあるし。お兄ちゃんに感謝するのがスジってもんなのよね」

 何度も小さく肯き、梨花は颯人に向き直った。

 やおら、すらりと伸びた足が持ち上がり、横たわる颯人を力一杯蹴り付けた。

「でも、それはそれ、これはこれよ」

 梨花の言葉を名残に、颯人の姿が崖上から消えた。

 仮に彼の体調が万全だったとしても、梨花の殺意に抗えたかどうか。

 颯人の体が磯の岩盤に叩き付けられて骨が砕ける音を、押し寄せる波がかき消した。

 梨花は崖上から磯を覗きこんだが、半月の光だけでは払拭しきれない闇に視界を遮られ、溜め息を漏らした。

「どんな顔して最期を迎えたのか見たかったけど、これじゃあね」

 足元に転がる空のペットボトルを拾い上げて、崖下へ投げ落とす。

 乾いた小さな衝突音が、梨花の耳に届いた。

「あれ、英梨さんだけ? お兄ちゃんは?」

 不意に掛けられた声に振り向くと、松林の入り口に立つ、ちびリカの小さなシルエットが見えた。

 梨花は白々しく辺りを見回しながら、ちびリカに歩み寄った。

「どこ行ったんだろうね。あたしも探してるんだけど、全然見つからないのよ。それより梨花ちゃん、車で休んでなくて大丈夫?」

「うん、もう平気。なかなか戻ってこないからあたしも探してるんだけど、どこほっつき歩いてるんだか。まだ文句を言い足りないのに」

「何かされたの、颯人くんに」

「それはちょっと、言いたくないな」

 苦笑いを浮かべたちびリカに、梨花は柔らかい口調で問い掛ける。 

「ねえ梨花ちゃん、颯人くんのことは好き?」

 ちびリカは腰に手を当てて、しばし考え込んだ。

「うーん、好きにはなれない、かな」

「どうして? この世で一人きりのお兄さんじゃない」

「それは……さっきやられた事より、もっと言いたくない」

「そっか。じゃあ、これ以上訊かないわ」

 梨花はそっと、ちびリカの小さな頭に手を置いた。

「お腹空いたでしょ? 二人だけで何か食べよっか」

「お兄ちゃんは?」

「子供じゃないんだし、放っておいても帰ってくるわよ。何が食べたい? 晩ご飯も、あたしが作ってあげ――」

「いつも行ってる洋食屋さん! そこのオムライスがふわっふわで、デミグラスソースがたっぷり掛かってて、すっごく美味しいの。そこがいい!」

 料理をさせまいと慌てて捲し立てるちびリカの姿に、梨花はふっと目を細めた。

「奇遇ね。あたしも大好きなの、オムライス」

 同じ名前を持つ少女と女性は、和やかに談笑しながら松林に消えた。

 誰もいなくなった崖の上には、岩に砕ける波の音がただ響き渡るばかりだった。

木っ端微塵に玉砕したので、供養代わりのリサイクルです。


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