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プロローグ

君は夢をどう思う?

あー・・・将来とか目を開けて見る夢じゃなくて、寝言の遠因だったりおねしょを誘発する方の夢の方。


人によってはきっとばらつきはあると思うし、反論もあるだろうとは思うのだけど・・・私にとっては1つの世界を見る機会だ。


ある夢の中では私は1人の剣士で、小舟で寝転がり大木の生い茂る森の中を流れる川を下っていた。

ある夢の中では私は犯罪者で、人を攫うべく路地を予測して走り女性を追い詰めていた。


夢の中での私にとってそれは当り前の事で、そうあるべくしてある。

小舟で川を下る理由はなんだったか・・・あぁ魔物退治だと思い出すかのように。

どうしてその女性を追い詰めたのか・・・あぁ擦れ違った時に美人だったからだ。

その瞬間を夢としては恐らく見ていないはずであっても、それらは当り前のように補完される。そうして擦り合わせる事で私はその1つの世界に私として馴染んで行くのだ。


ある夢で、何処かの研究所に攻め込んだ事がある。

シーンのはじまりはパイプの入り組んだ部屋に身を潜めている所から始まる。攻め込む対象がこの先にある事。そして味方の被害が出るのは此処からだという事から補完される。その夢を見始めた瞬間からこの夢が複数回見た物だと感じていた。いや恐らく複数回見た物であると体感出来たのが今回だったというだけなのかもしれない。

夢は目覚めに合わせて忘れて行く。それは起きている世界の記憶と擦り合わないからなのかもしれない。もしくはそもそも使っている記憶の引き出しが違うのだろう。少なくても私はそういうものだと思っている。

だからこそ逆に夢の中でだからこそ思い出せる記憶もあるのだと思っている。その夢で私は爆発のタイミングや不意打ちのタイミング、裏切りのタイミングを既に知っていた。可能な限り足掻いて助けたいと思っていた味方を救い、次への扉を見つけた所で自らの出番の終わりを感じ、その事に満たされた気持ちと共に目覚めた。

少なくてもその夢において私は1つの閉じた世界が先へと広がったように感じていた。


そんな私にとって世界のルールは世界の数だけ存在しても不思議ではなく、本の数だけ世界があり、人の数だけ世界があり、自分の感じられる物の外がある事を当たり前に思うと共に触れられぬ物には関われないと閉じており、また自分の触れられる物を知る事ですら膨大なのだと感じていた。


だからと言うわけではないが、夢を交差点として「当たり前」が交わる事や私が私を通して世界と世界を混ぜ合わせてしまう事も僅かながらもあるのだろうと、吐いた溜息が外の空気に混じっていくぐらいには当たり前のように思っていた。



だから今回もこの薄靄のかかったような意識の中、当たり前のようにこの世界の中から1つを選ばねばならないと感じながら、世界を俯瞰する風景を楽しみつつ物色していたのだ。

ざっと見渡した中でビルのような建造物は見当たらなかった。どちらかと言えば自然豊かに感じるぐらいだろう。所謂剣と魔法の世界って奴の方かなぁとぼんやりと思う。なんとなく選ぶのは国だろうと感じていたのだが、集落などが目に入り始めると選ぶべき1つは土地・地点だと補完される。逆に栄えているように見える城や街並みに目をやる。そのまま甲冑を着込んだ一団が並ぶ箇所へと目をやると、一人の男性がその集団の核として焦点が絞られていく。馬上にて身の丈を越える大型の槍を腰の高さに構え先を見据える様子を見せるその見据える先を追おうと意識すると、風景が一気に飛び荒野を歩む軍勢へと発破をかける男の姿に切り替わる。おそらくより意識をして見詰める事でより多くの事が知れるだろうとも思うのだが・・・知る事は即ち選ぶ事でもあると感じる。一度意識を閉じるかのように目を閉じて、再度木々の生い茂る森へと目を向け直す。そして自分へと意識を向けようとしてみる。


自分を意識してしまった為だろう。急速に風景は高さを失い。広がっていた意識は一点へと集束される。真っ白な光に満ちた所で暗転し、目覚めに気付く。


常に一定のリズムで鳴く声とかれこれ毎朝数年聴いているフレーズを耳にする。黒い線に繋がれたそれは光の明滅と共に震え音を奏でる・・・まぁ携帯電話でアラーム音だ。

携帯を布団の中へと引きずり込みアラームを止めがてら充電器を取りはずす。時刻は6時半を示していた。

「・・・うむ。」

1人頷き、携帯をそのまま布団の外へと落として再び目を閉じる。


意識が落ちる前に弁明しておくのならこれが何時もの起床だ。睡眠に向けてウトウトするこの瞬間が好きな為、あえて二度目のアラームで起きるように決めている。


小さな部屋に窓1つ。衣装ケースを台にして乗せた板を机代わりにノートパソコン。そのすぐ傍に今寝ている布団。一応変形可能なソファーの上に敷いてフローリングの床への直敷きは避けている。布団の足元もとい窓側から反対側の部屋の扉までにかけて並んだ3つのスチールラックに大半の生活用品が並べてある。そして冷蔵庫も電子レンジも室内だ。足の踏み場もないとまでは言わないまでも、物で埋まってしまっている実感はある。そして部屋の扉向こうはキッチン。そして風呂とトイレと玄関とが分かれて続く。所謂1Kになるのだろう。内見の後即決したこの部屋は不便な点もあるが個人的にはとても満足している私の領土だ。・・・と言っても所詮賃貸でしかないのだが。

そんな不毛な事を思っているうちに二度目のアラームが鳴る。

「仕方ない・・・起きるか。」

布団を押し退け、携帯を止め、着替えを始める。

スチールラックに適当に畳んで置いてある服を取り、着ていく。衣装ケースに戻す事はほとんどない。せいぜいシーズンオフの物をしまうぐらいだ。

片手にパンを食べながら鞄を背負い。仕事へと向かおうと玄関を開ける。

「・・・」

開けて、思わず一度閉める。再度開ける。

「・・・あー。うん。何処だ此処・・・」

住み慣れておおよそ一年立つこの部屋は5階建のやや古いマンションの一室だ。玄関の先に広がる景色は薄暗い廊下に、向いの部屋の玄関扉で右手にはすぐ階段が見えるはずだった。

しかし今目の前に広がる景色は自然豊かな森の広場と言った所だ。鳥の鳴き声に葉が風に擦れる音が心地良い。心地良いと感じざるおえないぐらいには理解が追いつけない。

そのまま外へと足を踏み出すと驚きが一転して納得へと変化する。

本来何かを理解した事によって得る納得ではあるが、納得が先行しむしろ何故驚いたのだかと苦笑いを浮かべる自分が其処にいた。


―なにしろ、先程選んだのだから―


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