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アルティースとルーエルの物語

作者: みし
掲載日:2014/10/14

『出会いそして新たなる旅出・・・。』



 僕は、ルーエルと言う。赤羽帽子のと言う2つ名を持つ。

 赤羽帽子の名がついたのは吟遊詩人だった父親の形見の帽子をいつもかぶっていたからだ。

 僕は結構この帽子を気に入ってはいる。かなりくたびれているけれども。

 だけど僕は吟遊詩人では無く、一介の戦士だった。赤羽帽子のルーエルと言えば、この近辺でも少しは名の知れた戦士であることは自覚していた。

 この近くの村で請け負ったゴブリン退治の仕事をそうそうに終え、街へと引き返しているところであった。

 旧王国に分裂と戦乱がおとずれて既に半世紀が過ぎ去っている。

 当然街道や荒野の警備や監視は手薄になっている。そう言ったところをねらって、奴等は悪さをしでかすのさ。村の方では戦争と謀略で忙しく当てにならない領主に頼むよりは僕等のような放浪の戦士にこういった奴等の退治を依頼してくる。放浪の戦士というのもなかなか悪い職業ではないと思っている。少なくとも今は金に困るようなことはないし、行く村むらでもうさんくさげに見られることもない。むしろ冒険話を聞こうと向こうからやってくるぐらいだ。

 東の空に一つ一つ星が散りばめられていき。太陽はその色を赤く染めていく。

 天空には赤き月と緑の月が地上を照らしていた。

 もうしばらくすれば白い月が顔を出すであろう・・・。

 『もう夕暮れどきだ。急いで帰らなくっちゃ。』

 剣を肩にかけて鼻歌交じりに足早に歩いていこうとすると遠くで金属がぶつかりあう音が鳴り響いてきた。

 僕はこう見えても耳は結構いいほうだ。

 さらに耳をすませれば。

 馬のいななきが聞えてくる。

 『何かあったのかな。』

 こうなってくると胸の奥底から湧きだしてくる好奇心を押さえ切れなくなる。

 どうやら父親の気質を多分に引き継いでしまったようだ。

 元から吟遊詩人っていうのは好奇心旺盛なのが多い。

 一つでも多く面白いことを経験したがるのだ。

 もう、すでに心の中を好奇心で満たしながら剣撃の音の方へ近づいていった。

 見つからないように静かに近づいていく。

 こういうとき皮の鎧は便利だ。金属製の鎧はかちゃかちゃとうるさい音を鳴り響かせるから。

 あんな重いものを良く好き好んで着るものだといつもおもってしまう。

 『おっ・・・丁度いいところに草むらがある。』

 僕は隠れながら向こうを仰ぎ見てみた。

 向こうにいたのはプレートに、ハルバードを持った騎士の様だった。

 戦っている相手は野粗な顔つきで曲刀を持った連中が3体ほど、下には同様の死体が何体か転がっていた。

 オークだ。

 『こんな所までオークが出てきてるとは・・・。』

 オーク達は、少しずつ間合いを詰めながら騎士に近づいていく。

 ハルバードが一閃する。

 振り回された武器はオークたちをかすめはしたが決定打にはならなかったようだ。

 オーク達は再び間合いを縮めてくる。

 一方プレートメイルで身を固めた騎士は疲れてきている様だった。

 肩で息をしていた。

 本当ならここで出ていくべきだろうけどその戦いに見入ってしまいそんなことは思いもしなかった。

 こんなに興奮するような事はどのくらいぶりだろう。

 半年ぶりか、1年ぶりか・・・。

 とにかくその時の僕は子供のように無邪気にその戦いを見ていた。

 汗ばんだ手を握り締めながら・・・・。

 騎士は一歩下がると、今度は突きを繰り出してきた。

 『惜しい!』

 思わず舌打ちしてしまいそうなほどぎりぎりでかわされてしまった。

 その時オークの1匹が間合いを詰めて、飛び掛かっていく。

 『危ない!』そう叫びそうになった。

 幸いそのオークの一撃はヘルムをかすめていったにすぎなかった。

 しかし、騎士に覆い被さっていたヘルムが飛んだ。

 そして、その騎士の顔を夕空に写しだす・・・。

 金色の髪の毛が舞った。

 それは星の光に照らされまばゆく光る。

 騎士はとっさに身構えなおし、突撃してきたオークをなぎ払う。

 「どさっ」一体が倒れる。

 残りは後二体だ。

 正直言って僕はここで助けに出ようか出まいか悩んだ。

 次の瞬間。その騎士の顔がこちらを向いた。

 『女だったんだ・・・。今まで気がつかなかった・・・。』

 思わず息を飲んだ。

 その姿は、星から生まれ出た聖なる精霊ともいうべきであった。

 美しかった。

 そのまま卒倒しそうになるくらいに・・・。

 でも次の瞬間その思いは別の事でかき消えていった。

 倒したはずのオークが再び起き上がって後ろから切りかかろうとしていたからだ。

 「危ない!!」そうさけんで飛び出して、次の瞬間には無我夢中で走っていた。

 『こんな美しい人をしなせてたまるか。』ってね。

 そのまま後ろのオーク目掛けて飛び掛かったんだ。

 その後は何をやっているのか覚えていなかった。

 そのオークとつかみ合って、殴りあって、転がって双方ノックダウンした事ぐらいのことしか。

 「・・・・・・・・・。」

 ふと、目がさめると心地好い夜風が頬に当たった。

 側にはあの騎士が座っていた。

 「全く無茶なことをするものだ。お前のようなやさ男がオークと殴り合いをしているとは。まあ擦り傷と打撲だけですんだからいいものを。こんな時間に一人歩きなんかするものではないぞ。」

 騎士が笑いながら言った。

 失礼な。これでも僕はこの辺りでは少しは名の知れた戦士だぞ。

 ふてくされながら言い返した。

 「ええ、あなたこそこんな時間に一人歩きしているじゃないですか。僕はこの辺では少しは名の知れてる戦士ですからね。赤羽帽子のルーエルといえばね。その程度の事ぐらい知らずにこんな所を歩きはしませんよ。」

 女騎士はまた笑いながら言った。

 「ふ、ふ・・。なかなか面白い奴だ。が無理はするなよ。身体中傷だらけなんだから・・・。」

 そう言われて気がついた。身体中に痛みが走った・・・。

 「いててててて・・・・。」

 「だから無理するなと言っただろう。」

 僕等は笑った。

 女騎士はアルティースと名乗った。

 ある用事でここを旅していると言った。

 「宜しければ、一緒に行ってもよろしいでしょうか。」

 僕はたずねた。

 「足手まといにならなければな。まあ、スカウトぐらいの役には立つだろう。」

 僕は戦士だっていったのにぃ・・・。

 アルティースは笑った。

 僕達の旅は今始まったばかりのようだ・・・。



『旅立ち』



 「何時まで寝ておる。早く起きないと日が暮れるぞ。」

 アルティースが耳元で叫んだ。びっくりして僕は目がさめた。

 「ふぁぁぁ〜。まだ日もでていないじゃないか、もうちょっと寝かせてよぉ。」

 とごねてみる。

 「だめだ。何時までもおまえみたいな奴を寝かして置く訳には行かぬ。それともここで猛獣の餌食とでもなるか。」

 冷たく言い放つとアルティースは僕の毛布をはぎ取った。

 「ひぇ〜、まだ眠いのにぃ〜。」

 「ほら、とっとと朝食をとれ。早くしないと置いてゆくぞ。」

 アルティースは身仕度を済ませると、素早く馬に乗った。

 「わぁ、待ってくれよぉ。置いていくなんてひどいよ。」

 僕はあわてて荷物をまとめると干し肉をかじりながらアルティースの後を追いかけていく。

 「なんだって、そんなに急ぐのさ。日が明ける前に出発して、真夜中頃にキャンプをはる。しかも見張りまでやらされて・・・・。毎日じゃないかぁ。ちょっとは僕の身体の事を気遣って欲しいよな。君は馬に乗っているからいいけど・・・。」

 「『ついていく、』と言ったのはおまえの方だ。何なら置いていってもいいのだぞ・・・そうかうまか・・・。おまえにそのようなものを買う金は持っていないだろう。まあ、しかたが無い。少しは足手まといにならなくなるだろうから、次の街でおまえ用の馬を購入してやろう。もう子供みたいに駄々はこねるなよ。で、どんな荷馬がいいのか?」

 笑いながらアルティースが言ってくる。

 「荷馬なんて乗れないでしょう。ちゃんとした乗用馬にしてくださいよ。これでも乗馬は得意なほうなんだから。」

 ちょっと怒りながら言い返してみた。本当に乗馬は得意だ。父親ゆずりの感性かは知らないが動物と相性がよかった。何となく相手の気持ちが読めるのだ。あとはそのポイントを押さえてやるだけでよかった。手綱無しでも乗りこなせる自信はある。

 「そうか、乗馬は得意か。人にはなにかしら一つは取り柄があるとは言うが、良かったなおまえにもその『取り柄』と言うものがあって。」

 ひどい言い草だ。僕は思った。でも妙に怒れなかった。笑いながらしゃべるアルティースはとても可愛かった。そのせいかもしれない。そう言わせるために僕が話を導いているだけかもしれなかった。時々アルティースの悲しげな横顔を見ることがあった。そんなとき僕はなぜ彼女がこんなに重い鎧をきて騎士なんて職業をやっているんだろうと思ってしまう。ドレスを着ているほうがよっぽど似合うのに・・・。

 「言っておきますけど、僕は馬乗りだけが得意じゃないですからね。剣だってそこそこの腕前だし、リュート弾きだって・・・・。」

 ここまで言ってしまったと思った。リュート弾きなんて小さい頃親からちょっと習っただけじゃないか。

 「じゃあ、弾いてみろ。なぜかリュートがここにあるぞ。」

 アルティースは何時の間にか馬から降りて、そっと僕の袋の中からひょいと取り出して見せる。これも父親の形見だ。手放しているのが惜しくて、いつも持ち歩いているやつだ。

 「なぜ、中にあるとわかったの。」

 おどろいて聞き返してみた。

 「なに、たいしたことではない。寝ている間に荷物を調べさせてもらっただけだ。いろいろ変わったものが入っているな。おまえの袋の中には。そんなでかい袋を肩から釣り下げているので興味がわいてな。」

 またアルティースは笑いながら言う。

 彼女に笑われると僕は本気で怒れなくなってしまう。それでもあわててリュートを取り返した。

 「これは父親の形見なんだ・・・。この羽根帽子も・・・。もう亡くなったけど。母親は小さい頃になくなって、吟遊詩人の父に育てられたんだ。おかげでいろんな街を旅できたけど・・・。」

 僕は感傷深げにつぶやいた。

 「そうか、私の両親ももういない・・・。」

 空を見上げながらアルティースが小声でつぶやくのが聞えた。寂しげな声だった。こういうときの彼女はとてもはかなげに見えた。守ってやりたいくらいに。でも僕の方が守られそうだけど・・・。

 「ほら、早く弾いてみろ。リュートは得意だと言うのは嘘か。」

 アルティースはいつもの調子に戻っていた。父から習ったうろ覚えの曲を奏でていく途切れ途切れであった、自分で聞いていて恥ずかしいぐらいに・・・。ふとアルティースの方を見てみた。アルティースは物思いにふけっていた。

 彼女はそれに気付いたようであわてて僕の方を見返した。

 「ああ、なかなか良かったぞ。ちょっと貸してみろ私も一曲弾かさせてくれ。」

 めずらしいこともあるものだと思って僕はリュートを渡した。

 アルティースがリュートを奏でる。

 それは、同じ楽器から出ているとは思えないように優雅な音色を導きだしていた。その曲はさみしくそして悲しい曲だった。

 「私にはこの曲しか弾くことが出来ない。何時覚えたのかもう忘れてしまったが。」

 そうつぶやいていたのが何故が強く印象に残った。

 それから、道中でそのつぶやきが無性に気になって僕は何度か彼女の昔の事を聞いてみようとした。だけどやっぱり出来なかった。

 それに、すぐにアルティースがいつもの調子に戻っていたので僕はいつものように防戦一方になっていた。『いつか言い返してやる』、そう心に近いながらアルティースの

言葉を堪え忍んでいた。

 そのうちに街の城壁がその顔を見せはじめた。

 「ほら、アルティース。街が見えてきたよ。」

 僕は言ってみた。

 「私にはすでに見えていたのだがな。」

 そりゃぁ馬の上とじゃ見える距離が違うよ。

 何か言うとまた言い負けそうだったのでしばらく黙っていることにした。


『街にて』

 リシュロスの街にたどり着いたとき、すでにその日も暮れようとしていた。

 夜空は美しく星ぼしがきらめいていた。

 青い月が静かに光を放っている。

 僕はぼんやりと星空を眺めていた。

 「ほら早くしないと。街の門が閉まってしまうぞ。」

 夜空の星明かりの元でもアルティースはやっぱりアルティースであった。

 「ただ僕は奇麗な星空を眺めていただけなのにぃ。」

 口惜しそうに言った。

 「そうか、そんなに寒い道端で野宿がしたいのか。別に止めはしないがな。」

 「そんなつもりで言った訳じゃないったら。ただあまりに夜空が美しいから・・。」

 「わかった、わかった。じゃあ先に行っているからな。門があいていれば後から勝手に入ってくるがいい。」

 アルティースは振り返ると勝手に街の方へ歩いていってしまった。

 「ちょっと待ってよぉ!」

 僕はあわてて、後を追いかけた。

 そして、夜が明けた。

 静かに朝日が登ってくる。

 『何てすがすがしい朝なんだろう』僕は思った。

 そう言えば、ここ数日ろくに寝ていなかったからな。しかもベットの上にはいなかったし・・・。

 しばらくの間、空白の思考に身を任せてみる。なかなか気分がいい。

 しかし、束の間のそんな気持ちもアルティースの声でかき消えてしまった。

 「ほぉ、やっと起きたか。すぐに支度を整えて朝飯を食べてこい。」

 言われなくてもわかっていますって、僕はもう子供じゃないんですからね。

 次の瞬間、跳ねるように起き上がると、さっと手を振り上げた。

 「いてっ!!」

 壁に手をぶつけた。痛い・・・。

 「ほら、馬鹿なことしてないで早く下にいかんか。」

 アルティースは無表情に言った。

 こういうときは、『痛かった?大丈夫?』って聞くのが普通じゃない?

 でも彼女のそんなところにひかれてるのかもしれない。

 気を取り直して、階段を駆け降りていく。

 「そんなに急いで転んでも知らないからな。」

 アルティースが言った。

 大丈夫だって。いくらなんでもそこまでどじじゃないよ。僕は。

 たったったと小走りで、一角に席を確保した。

 彼女が階段をゆっくり降りてきた。

 「やれやれ、騒がしい奴だ。」

 あきれた調子で僕に言った。


 軽く朝食を済ませたあと、僕はアルティースに言った。

 「今日一日ぐらいゆっくり休もうよ。あまり無理すると後で響くからね。」

 「どこかで聞いてきたようなことを・・・。」

 あきらめたように彼女は言う。今日はどうやら物分かりが良いみたいだ。

 でもその後の科白をきいて茫然とした。

 「じゃあ早く荷物を取ってこい。すぐ出発するからな。」

 「もう?」

 たまらず聞き返してしまう。

 「一晩じゅうぶんに休んだだろう。まだ若いんだから疲れたなどと年寄り臭いこと言っているんではない。すぐにいくぞ。」

 ちょっと、それはないよぉ。愕然として上にいく。背中に哀愁が漂っている僕であった。

 「ああ、一日ぐらい休んでもいいものを・・・。」

 臨時休暇を諦め切れないようにぐずぐずしながら降りていくとアルティースの姿はもう見えなかった。

 あれ?いくらゆっくりしてたからって、それはあんまりだよぉ。ひどいよ。ちょっとまってよ。

 僕はあわてて宿屋から飛び出した。

 飛び出した目の前に巨大な壁が見えてあせって立ち止まる。

 「あっ!」

 思わずつんのめって転びそうになる。

 目の前にいたのは2頭の馬だった。

 アルティースが笑って僕を見ていた。

 「そんなにあわてて一体何処にいくつもりだ。」

 「え・・・、まあ・・・、ちょっと・・・。」

 照れ隠しに笑って見せる。

 「ほら、あんまりおまえがたらたら文句を言うのでちゃんと乗用馬を用意しておいてやったぞ。おまえがよだれをたらしながら寝ている間にな。」

 「ふぁぁ。」

 身体から力が抜けていくような気がした。なんだそんなことだったのか。あわててそんした。でもいつの間に用意したんだろう。今日の目覚めは結構いいほうだったのに。

 「この馬、おまえにはもったいないぞ。後生大事にしてやるといい。」

 「ふぁい」

 気のない返事をしてしまう僕。

 「それからちゃんと面倒も見るのだぞ。餌をやり忘れるんじゃないぞ。馬の健康にも気を使ってやるのだぞ。それから・・・・」

 ・・・なんか、親にペットを買ってもらった子供に言うような事を言っている。きっと僕の事を勘違いしているんだ絶対!

 「・・・名前をつけてやれよ。これから一緒に旅をする仲間なんだからな。」

 ・・・名前?

 名前かぁ。しばらくよさそうな名前を考えてみる。

 フェンレフレーヴェン。なぜか、この名前が浮かんできた。

 エルフ語で夜風の旅人という意味だ。なかなか良い名前だと思う。

 「この名前は、どう?」試しに聞いてみる。

 「ふ〜ん。おまえエルフ語もしゃべれたんだ。意外だったな。」

 最初はそっけない返事だった。それから、続けた。

 「なかなか良いと名前だと思うぞ。おまえの考えたものにしては、少なくとも赤羽帽子のルーエルよりは数段良い名だぞ。2つの名前を聞いて『どちらが馬ですか』なんて聞かれなければいいのだがな。」

 いくらなんでも、それはひどいよ・・・・。僕は思った。

 まあ、いつもの事だから・・・。すぐに僕は気を取り直す。

 「よろしく。フェンレフレーヴェン。」

 馬の背中をたたいて明るく挨拶する。

 「ヒヒン。」

 フェンフレーヴェンの方からもおじぎをしてきた。良い馬である。

 「よかったな。良い子守り役が出来て。」

 横からアルティースが言った。


 『夜の風』


 それからすぐに僕等は馬上の人となった。

 リシュロスの街を出て、街道を東へと馬を進める。

 『やっぱり、馬の上は徒歩よりずっと楽だなぁ〜。』と思う。

 「ふんふんふん」

 鼻歌混じりで上機嫌であった。爽快であった。風を頬に受けながら、高いところから景色を眺めながらいくのはいつでも気持ちがいい。行きかう他の旅人は徒歩の者が多いのでそれを見下ろしながら道を歩むのもまた気持ちがいい。

 『なんだか急にえらくなったみたいだ。』

 「えへん」

 などと咳払いをしてみる。

 「風邪か。まあ何とかは風邪ひかないというから大丈夫だろうが。」

 横からアルティースの声。

 「う、う〜ん。」

 またしても、やられた。

 あ、馬まで笑っていやがる。こら馬のくせに態度がでかいぞ。

 「ところでさあ、前から気になっていたのだけど目的地は何処なの。」

 さり気なく聞いてみた。

 「遥か彼方この大陸の東端だ。そこにはケンポウとかを使う国があるらしい。一度そういう物を見てみたいと思ってな。」

 御冗談を・・・。

 「で、本当は?」

 「・・・。この街道を東へまっすぐ行く。場所は『すでにない街』とでも言っておこうか。」

 この街道を東へまっすぐ?

 むかし、親に連れられて国じゅうを旅していたので大体どの道をどういけばどこにいくのかぐらいは覚えている。

 東ってことは、やっぱりあそこを通るよな。

 「げっ!!」

 思わず口にだしてしまった。

 「東へ行くと竜牙教騎士団領をかすめていくじゃないか。あんなに危険なところをとおるの?」

 「そうだ。」

 アルティースはそっけなく言った。

 悪名高き竜牙教。

 それは近ごろ出現した宗教の一派である。

 源祖の竜牙とかいう物を崇めていてこの世界はその竜の牙によってうまれたとか。

 それだけならどうって事はないのだけど、他の宗教の信者やこの宗教を信じないものを邪悪だ、異端だなどと決めつけてうむを言わさず虐殺していくという。その宗教直属の騎士団が竜牙教騎士団である。狂気と殺戮の戦闘集団として恐れられている。竜牙教の聖騎士が来るよと言えばどんな子供でもおとなしくなるし、中には泣き出してしまう

子もいる。竜牙教騎士団のランス突撃は小さな街の城壁なら跡形もなく消し去ってしまうといわれ死の突撃と恐れられているとうわさばなしで聞いたことがある。

 あんなところ通っていったら竜牙教の聖騎士とやらに殺されに行くようなものじゃないか。

 「本当に行くの?」

 恐る恐る聞いてみる。

 「おじけづいたのか。帰るなら今のうちだぞ。」

 まさか!それじゃあ今までついてきた意味がないじゃないか。

 「本当に?」

 念のためもう一度聞いてみる。

 「ああ。私は何度もここを通っているぞ。大丈夫だったのは見ての通りだと思うが・・・。」

 あきらめてこれ以上聞くのは止めることにした。

 『ああ、やっかいごとに巻き込まれたものだ。』

 自分の不幸を呪いながらとぼとぼと馬を進める。

 じゃあ、なぜついていくのを止めないかって?

 それはなぞだ。

 今の僕はアルティースと別れたくはなかった。

 地獄に行くなら地獄までついて行くつもりだ。

 でも当面は竜牙教の聖騎士と出くわさないことを祈るばかりであった。

 日が暮れた。

 夜の風が心地よかった。

 フェンレフレーヴェンの名前は伊達じゃなかった。この馬は夜になるといっそう生き生きしてみえた。

 「もう、半日も進めば竜牙教の勢力圏に入る。」

 キャンプの炎の前でアルティースが言った。炎で赤く染まった彼女の姿はとても魅力的にみえる。僕はぼんやりとみつめながな話を聞いていた。

 「そこで、聖騎士どもに出来るだけ見つからないように進まなければならない。足かせつきでまともに戦ったら勝てるかどうかわからないからな。」

 「もしかして足かせって僕の事?」

 僕は反射的に尋ねてみた。

 「今日は物分かりがいいな。」

 アルティースがいう。

 「これでも一応戦力にはなりますよぉ。」

 すかさず僕は言い返した。

 「何回かここを通ったが、なぜか夜に出会うことはまず無いのだ。そこで、昼間はどこかに隠れて休息し、夜は急いで旅をすることにする。そのために良い馬を探してきたのだからな。」

 アルティースは正当な僕の反論を無視して勝手に話を進めてしまった。

 ようは見つかりにくいから昼は休んで夜に旅をするって事だよな。

 「よくわかりました。」

 僕はそう応える。

 「それで今夜と明日の昼は休息することにして、明日の夜に出発することにする。だから明日の夜に眠いなどという事は言わないように。」

 「はい。わかりましたぁ。」

 「よろしい。」

 アルティースは笑った。


『夜の風・続き』


 それから一晩中、僕は物思いにふけっていた。これから何かがあるぞっていうときに眠れなくなるのはいつもの事だった。そんなときはたいていどうでもいいようなことを考えていることが多い。あとから何でこんな事を考えていたんだろうってことを思ったりもする。

 『竜牙教騎士団かぁ。一体どんなやつらなんだろう。』

 僕は考えてみた。

 数々の非道の行為をこの耳に聞いてはきたものの実際見たことはなかったからだ。親譲りの好奇心から想像力を高めていく。

 どんな人間が集まっているのか?なぜ竜牙教に入信したのか?あんな殺戮をしていて良心がいたまないのか?どんな物を食べて普段は何をしているのだろうか?

 興味はつきなかった。

 会う機会があったら本人に聞いてみようかなぁ。でも、うむを言わさず攻撃してきそうだな。そうなったらやだなぁ。やっぱり出会わないにこしたことはないだろうなぁ。

 僕の考えは不安と興味が交錯しあって結局何を考えているたのかよくわからなくなってしまった。

 『まあいいや。いざとなったらそのとき考えればいいのだから。』

 いいかげんかもしれないがこれでも一応僕のポリシーである。

 『今日はなんて奇麗な夜空なんだろう。』

 ふと、空を見上げて思った。夜空は星がちりばめられとても奇麗だった。

 白き月も地上をまばゆいばかりに照らしていた。

 『なんて叙事詩的な風景なんだろう。』

 僕は思いをめぐらせていた。

 燃えつきかけた焚き火の向こうにアルティースの寝顔が見えた。

 『何て可愛いんだろう。ふだんはあんなに口が悪いのに・・・。』

 近づいてほっぺたにキスしてみたい気分だった。

 でも、アルティースの事だから近づく途中で気がつかれて投げ飛ばされて、またなんか言われて終わりだろうな。

 あとは、そんなたわいの無いことを延々と考えつづけていただけだった。

 気がついてみればもうすでに東の空が白んでいた。

 『あれ、もう朝だ?いつの間にそんな時間が過ぎたのかなぁ・・・。』

 首を傾げて考えてみる。

 「ふぁぁぁぁぁあ」

 さすがに寝てないと眠いや。昼間はゆっくり寝よ。

 毛布をくるみ直して横になる。

 そこにいつ起きてきたのかアルティースの声。

 「今まで起きていたのか。さしずめ恐くって眠れなかったと言う所だな。」

 当たってはいないが外れてもいなかった。

 眠かったのでその事についての反論は保留にしておくことにして眠ることにした。

 それから僕はひたすら眠った。

 夢も見ないぐらいに・・・。

 いや見ても覚えていないだけかもしれないけど・・・。

 「そろそろ起きぬか?」

 アルティースの色気もない掛け声によって目が覚めたときは、時は日が暮れようとしていた。

 「あぁぁ、良く寝た。」

 良く寝た後は気分がいい。何だか絶好調だ。

 「ちゃんと腹ごしらえをしておけよ。」

 焚き火の方をさしてアルティースが言った。

 「言われなくても食べておきますよ。」

 僕は毛布をしまいながら言った。

 「さすがに食い意地だけは一人前だったか。まあそれはそれで良い心掛けだな。」

 アルティースの口も絶好調だった。

 夕食?をぱくついたあと野営地を片付け、荷物をまとめて、夜の旅に出かけることとなった。

 「夜は危険だからな。前がよく見えないし、夜行性の化け物や死霊のたぐいに出くわすことも無いとはいえんしな。それでも夜に旅をするのは竜牙教騎士に会うよりは安全だからだ。」

 アルティースが僕に念を押すかのように言った。

 『そう言えばそんなのもいたな。グールとかゾンビーとかそんなのが。殺されると奴等の仲間入りだもんな。それは嫌だな。』 思わず身震いしてしまった。

 見られたかなっと思ってアルティースの方を横目で見てみた。

 僕はほっと息を撫でおろした。

 良かった、よそ見していて。

 「さて、フェンレフレーヴェン行こうか。」

 確かに夜の旅行は危険であった。

 気付かれるのを避けるためにたいまつのあかりもともしていない。

 月と星の明りだけをたよりに街道を進む。

 ここら辺りから街道は荒れ果てていたのでちょっと気を抜くと荒野の真ん中ってことにもなりかねなかった。荒野の真ん中っていうと得体の知れない化け物がうろついてい

るもんな。竜牙教はそんなのも殺戮しているからここらは街道より荒野の方がかえって安全だって噂を聞いたことはあるけど・・・。

 もっともアルティースのいうことには、「あの馬はおまえより賢いからおまえが余計なことをしなければ道に迷うことはないだろう、」だけど・・・。

 でも、夜の旅っていうのもなかなかこれは風情があるものだなぁとも感じてみた。

 夜空の星を眺めながら馬で旅するのは・・・。

 風が気持ち良かった。

 真冬ならとても寒いけど。それ以前に雪で旅どころではないかぁ・・・。

 この季節ならいつか夜に旅して見るのもいいかな、なんて思ってもみた。

 でもいつかって、どのくらい先のことなんだろう。

 僕の前をアルティースが黙々と進んでいる。

 アルティースのいうことは嘘でもないな。

 こんなによそ見をして考えごとをしながらでも馬の方はちゃんと後をついていっているし。

 えらいぞ、フェンレフレーヴェン。さすが僕が命名した馬だけはあるな。

 夜の僕らの旅はまだまだ続いた。

 気が遠くなるくらいに・・・。

 暗闇に見る景色もいい加減に飽き飽きしてきた。

 『あ〜あ。なにかおもしろいことでもおこんないかなぁ。』などと思ってみる。

 でも、竜牙教の騎士団はちょっとごめんこうむりたい。

 本当はちょっとあってみたい気もするのだけど。

 特に考えることもなく、馬上で暇を持て余しながら旅は続いていた。

 相変わらず、アルティースは僕の前方を黙々と歩いていた。

 『よくあんなに黙っていられるなぁ。』

 僕の感想であった。

 もう、なにかしゃべりたくて口がうずうずしてくる。

 ああ、本当になにかないかなぁ。

 そんなことを思っていると本当になにかがおこった・・・。



『流浪の戦士』

 遠くにたいまつの明かりが見える。

 馬のひずめの音もする。

 かなりの人数の一団らしい・・・。

 「最近ついていないな。」

 前でアルティースが呟くのが聞こえた。

 「あんな間抜けな連れはできるし、前には竜牙騎士団ときている。」

 間抜けの連れとはなんだよう。僕は馬を進めてアルティースと並んで言いかえしてみた。

 「あれが竜牙騎士団とは限らないだろぉ。」

 「こんな時間にこんなところを群れをなして進んでくるような奴らは他にはいないだろう。それにたいまつなど灯しては進んではこないはずだ。」

 「じゃあ、ともかく隠れてやりすごそうよ。」

 僕は提案してみた。

 「ここが隠れられるような場所ならな。」

 僕はまわりを見回した。確かに隠れられそうな場所はないや。たとえ馬がいなかったとしても・・・。

 「あとは敵が弱いことを祈るだけだな。」

 アルティースは吐き捨てるようにいった。そして武器を構えた。

 それにあわせて僕も剣を抜いた。

 「ともかく奇襲をかける。それで少しはましに戦えるだろう。」

 アルティースは馬に鞭打って駆け出した。

 「待ってよぉ。」

 言い終わるかならないうちに愛馬フェンレフレーヴェンは勝手に駆け出していく。

 「ひぇ〜」

 僕は振り落とされないようにしがみついた。

 みるみる間に敵との間が縮まっていく。

 見たところ7,8人はいそうだ。

 2:8かぁ、どう見ても勝ち目はないなぁ。半分あきらめかけて馬を飛ばした。

 もっともどう見ても馬の方が勝手に走っているだけなんだけど。

 アルティースの方が先に敵集団に着いて集団の真ん中に突撃していく。

 「いけえ、いけえ」

 とやけになって僕も突撃する。

 この不意討ちは成功したみたいで、相手の一部は避けきれずに落馬した。

 残りの連中はあわてて馬の体勢を立て直す。

 落馬した仲間をふみつけながら・・・。

 「弱い奴には死だ。この程度のことで落馬するとは・・・。」

 敵のリーダー格らしき男が呟いた。

 ひどい奴らだ。

 「邪教の輩か。しょうこりもなく我々に挑戦してきたことは認めてやろう。だがおま

 えたちは聖なる竜牙教の栄光のために消えてもらう。」

 そういうと曲刀を抜いて僕らに向かってきた。

 敵が勝手に味方を踏みつぶしたおかげで2:5でまだ何とかなる見込みはあった。

 アルティースなら3人ぐらいなら戦えるだろう、と僕は信じていた。

 そのあいだに2人の攻撃をかわしていればいい。

 すかさず剣をかまえなおして相手に向かっていく。

 「ええ〜い。」

 敵に一撃をくらわせた。あまり大した打撃は与えられなかったが・・・。

 「なかなかやるな、だがこの程度では兎も殺せぬ。」

 といいながら僕に向かってくる。

 アルティースの方は激しい突きですでに敵を一人葬っていた。2人を相手に互角以上に戦っている。

 僕も必死に戦った。死んでからもアルティースになにか言われるのはいやだから。

 でもさすがに1:2はつらかった。

 次第に竜牙教の聖騎士どもに押されていった。

 敵の攻撃を受けとめるのがやっとだった。

 その腕の動きもたまっていく疲労によってだんだん鈍くなっていった。

 「うぐっ」

 アルティースの攻撃がが決まって向こうではもう一人倒されたのがわかった。

 あと少し頑張れば・・・。

 と思った瞬間横腹に一撃を食らった。

 「ぐぉっ。」

 そう叫ぶと宙に浮いていくような感覚に見回れた。

 それは感覚だけではなく、実際に落馬したことに気づいたのは、地面に背中がたたきつけられたときであった。

 目の前でフェンレフレーヴェンが駆け出していくのがみえた。

 どこへ行くの?フェンレフレーヴェン。僕を見捨てていくの。この情けない僕を・・・。

 もう駄目か・・・。

 思わず目をつぶる。

 今まさにとどめがささらんかというところで、

 「こんな奴あとからくる本隊の奴にでも任せておけ、あの女騎士崩れの方を先に何とかするのだ。」

 ほっと息をついた。

 痛い体を動かして見てみれば確かにさらに大人数の一団がたいまつを灯して進んでくるのが見えた。

 20人はいるみたいだ。

 『これではアルティースも危ない。』

 体を無理に動かしてみるが背中に激痛が走って無理のようだった・・・。

 切られた腹部にも痛みが走った。

 「うっ」

 僕はうめいていた。

 遠くの方には馬群が徐々に近づいてくる。

 アルティースは3:1でも互角に戦っていた。むしろ押しているぐらいだった。

 でも僕は悲観的だった。

 さすがにアルティースでも後からくる連中と互角には戦えるはずはないや・・・。

 疲労はたまっていくし、あの大人数では勝ち目はないからなぁ。

 僕はなんとかして起きあがってもう一度戦いたかった。

 しかし、受けたダメージは以外に大きく立ち上がることはおろか身を起こすことさえ出来やしなかった。

 今ほど自分の境遇を呪ったことは無いかも知れない。今でもこれから先も・・・。

 「どうっ」

 またアルティースが敵を倒した。

 以前、出会った時と比べアルティースの動きは格段によかった。

 そのときよりめつきが違っていた。

 最初は血路を切り開くため死ぬ気で戦っていると思っていたのだがそうではないことに後から気がついた・・・。

 『本当に死ぬ気だ・・・。』

 アルティース自身が何かから逃れるかのように、そんな感じをうけた。

 そして、その戦いぶりは何かが取りついているようなそんな気がした・・・。

 それは復讐の精霊のような気がした。

 復讐の精霊?

 ふと僕は思った。

 アルティースの過去に何があったのだろう?

 そういえば彼女の過去については何も聞いていなかった。

 何が彼女をあそこまで駆り立てているのだろう。

 僕にはわからなかった。

 そういえばフェンレフレーヴェンはどこに消えたんだろう。

 かろうじて動く首を動かして見る。

 闇に目がなれているとは言え遠くの方はよくわからなかった。

 騎士団の第二隊はもう眼前にまで迫っている。

 アルティースは武器をなぎはらって、同時に二人の敵を打ち倒した。

 しかし、敵が来るまでに一呼吸置く程度の時間しかなかった。

 せめて動くことができれば・・・。

 アルティースの盾となることすらできない自分を呪った。

 敵の大将と見える男が進み出て話始めた。

 「邪教徒ながら見事な戦いぶりだな。それは誉めてやろう。しかし、我が教団にたてついた罪は深い。もっとも邪教徒である時点で殺すに値するのだがな。」

 「おまえらなどに誉められたくは無かったな。」

 アルティースが低く静かに言った。

 「この場に及んで刃向かうつもりか。あきらめれば、自ら命を絶つ時間を与えようと思ったのだが。どうやら、それもいらなかったらしいな。おまえが嫌というような責め苦を味あわせてから殺してやることにしよう。」

 「それはおまえができればの話だがな。」

 アルティースは言いかえした。

 「20人相手に勝つつもりでいるのか。そのおごり高ぶった態度には敬意を表してやろう。が、おまえに勝ち目は無いぞ。」

 大将の合図で一斉に刀を抜く音がした。

 その音が聞こえて来る前にアルティースは敵中に飛び込んでいった。

 やっぱりアルティースは死ぬ気だったんだ。

 今確信がもてた。

 その気になれば、敵から逃げ回ることもできたのだから・・・。

 敵の乗馬より僕らの馬の方がはるかに優秀なはずなのだから・・・。

 アルティースは何を思って、敵のど真ん中へつっこんでいったのだろう。

 あいにく僕にはそれ以上はわからなかった。

 戦場は、前方へと移っていた。

 その気になれば逃げることもできた。

 体さえ動かせれば・・・。

 敵の馬なら何頭かあたりをさまよっている。

 『まさか、僕を逃がすつもりでとびこんでいったの?』

 勘違いかも知れなかった。

 しかし、そんな気がしてならなかった。

 私をおいて逃げされと・・・。

 でもたとえ動けたとしても僕は逃げはしなかっただろう。

 アルティースとともに戦っているはずだ。

 いつもなら逃げているのだろうになぜ今だけはこんな気持ちになるのだろう。

 僕はそのことについてそれ以上深く考えることはできなかった・・・。

 アルティースは奮闘していた。

 襲いかかる敵群の攻撃をを払い、受け流しながら戦っている。

 相手が20人いようと勝てるような気がした。

 すでに2人倒れされていた。

 意外な苦戦に敵の大将は苦虫を噛み砕いているようだった。

 なおもアルティースの奮戦は続いた。

 一方の敵に切りつけると、武器の後部で後ろに回り込もうとしている敵をつき落とした。そのきりかえしで、もう一人の敵をなぎはらった。

 紙切れを切り裂くかのように敵が倒されていく。

 しかし、アルティースがすでに肩で息をしているのはわかった。

 あの戦い方では数分と持たないだろう。

 僕は意外と冷静に判断を下していた。

 そのとき・・・、

 僕は後ろから不意につかみあげられた。

 体のあちこちが痛んだ。

 そしてつかみあげた男が叫んだ。

 「この男の命がおしければ武器を捨てるのだ。」

 『アルティース。この男の言うことなんか聞いたらいけない。』 と僕は叫ぼうとしたがけがのためか声がでてこなかった。

 「わかった。どのみち殺されるのはわかっているが、私はその男が殺されるのは見たくないからな。しかし、卑怯な奴らめが。」

 アルティースは言った。

 『どうしてそんなことを言うの。僕のことなんか放っておけばいいのに。』

 僕は思った。

 「邪教徒がらしからぬことを言うな。邪教徒に正当も卑怯も存在するはずはないだろう。しかし、その潔さを買って二人同時に殺してやろう。このような温情をかけるのでいつも邪教徒に甘いといわれるのだがな。」

 敵の大将は笑った。

 「外道が。」

 アルティースは吐き捨てるように言った。

 「おまえたちの処刑は竜牙様に捧げる儀式のいけにえとして葬ってやろう。光栄に思うが良い。」

 男は言った。

 僕はひっつかまれて、そのままひったてられていった。

 「あぐぅ、ぎゃっ。」

 身体中のあちこちが痛んでうめいていた。

 「男の子なら、その程度の痛みでうめくんじゃない。」

 僕のせいで捕まったアルティースの言葉だった。

 僕らは後ろ手に縛られて、しばらくほっておかれた。

 儀式とかの準備をするために。

 2,3人の見張りはついていた。

 腕が動いて、武器さえあれば何とかなるのだが・・・。

 無謀と思える考えであった。

 「何で、あのとき武器を捨てなかったの。」

 小声で僕はアルティースに聞いてみた。

 「では、何故乱戦の隙に逃げなかったのだ。あの程度ならけちらしてこれたのではあるのだが。」

 まさか!?

 いくらアルティースでもそれは無理だ。

 僕はそう思った。

 「けがで動こうにも動けなかったんだ。たとえ動けたとしても僕はアルティースを援護しにいったと思うよ。」

 断定的に僕は言ってみた。

 「それでは、おまえだけ逃がそうとしても無駄であったか。」

 アルティースは苦笑した。

 「そう、私もあの1対20もの乱戦に生き残れるとは思っていなかった。それゆえおまえだけは逃がしたかったのだが・・・。」

 「それで・・・・。」

 僕はさらに聞いてみる。

 「おまえは逃げようとしなかった。それであのようなへまをおかした。それなら少しでも助かる道を選んでみたのだ・・・。」

 アルティースはさらに声を低めて言った。

 この説明には少しふにおちない点もあったが大筋の点では理解することができた。

 「それで、これからどうするの。」

 僕はアルティースに期待をこめて言ってみた。

 「それは今、考えているところだ。」

 アルティースはあっけなくいった。

 とても今にも処刑されようとしている人間の会話ではなかった。しかし、それは何となく助かりそうな気が気がしていたからに違いない。

 「それでこれからどうしよう?」

 アルティースにもう一度尋ねてみる。

 「まずこのいましめをとくのが先決だな。あとはなるがままだな。」

 アルティースは笑った。

 「そこの異教徒ども何をはなしている。しずかにしていろ。」

 見張りの一人がどなった。

 その後はしばらく二人とも静かにしていた。

 半時が過ぎた。

 それほどダメージは深くなかったらしく僕はかろうじて動きまわれるレベルにまで回していた。

 僕は常日頃から革鎧の下にかくしてあったダガーを取り出して、密かに縄を切っていた。

 慢心していたのか、彼らは鎧下にかくしていたものを探しだそうとはしなかった。

 不幸中の幸いとも言える。

 アルティースに目配せして合図をおくる。

 少しずつ近寄ってアルティースのいましめもといてあげた。

 この縄がかかっているふりをするのは結構むずかしい。

 見張り達は、儀式の準備の方に気が取られているらしく、特に気づいた様子はなかった。

 しかし、何でこんなところで宗教儀式なんか始めるんだろう。きっとこの宗教の流儀何だろうな、と思いながら、見張り達の信心深さに敬意を表した。その方がチャンスが得やすくなるからだ。

 僕とアルティースは、その準備に見張りが気を取られている隙に密かに後ろに回り込んでうむを言わさず頭部に一撃を食らわせた。

 「うぐぅっ。」

 見張り番はかすかな嗚咽をもらして崩れ落ちる。

 この調子で二人の見張りを気絶させ、その場から忍び足で出て行った。

 「武器はシミターだけか。少し戦いにくいな。」

 アルティースが言った。

 「仕方がないですよ。武器があるだけましでしょう。」

 僕はさとすように言った。

 「まあそうか。最善を尽くすことにしよう。」

 そうは言っていたが、15,6人を相手に奇襲をかけたところでどうなるものでもなかった。

 混乱を引き起こしてその隙に逃げようと僕は提案してみる。

 「奴らを生かしておいては別の人々の迷惑になるだろう。私は一人でも多く倒してからこの場を去ろうと思うのだが。」

 アルティースが強行に言った。

 「でも、それでは助かるものも助かりませんよ。」

 アルティースにしてはおかしな意見をいうなと思いつつも、そう言ってみた。

 「私はそうは思わないが。」

 アルティースも言いかえした。

 そうこう話し合っているうちに、儀式の準備をしているあたりが騒然となっていた。

 「異教徒の襲撃だ!!」

 そういう叫び声がした。

 聖騎士どもは武器をかまえるとその敵襲のあった方向に向かって行った。

 「今のうちに逃げましょうよぉ。」

 僕は言った。

 「いや、これこそ敵を倒していけとの光明神リレーン様のお言葉に違いない。ルーエル行くぞ。」

 そういうと、アルティースは突撃して行った。

 この件についてはあきらめることにして後について行った。

 ほんとは生死をかけた選択だとは思うのだけど・・・。

 その方向に行ってみれば、十何人もの竜牙教騎士と馬に乗ったたった一人の戦士が戦っていた。

 何故かその馬に見覚えがあった。

 そうあれはフェンレフレーヴェン・・・。

 そしてフェンレフレーヴェンの上に乗っている戦士は戦士は軽装で、バスタードソードを片手に持って戦っていた。

 月の光で漆黒の髪がさまざまに輝いていた。

 黒髪といえばこの地方ではかなり珍しい。

 いったいどこからやってきたのだろう。

 一度いなくなったフェンレフレーヴェンと一緒に、後はその戦士の戦いぶりを呆然と見ているだけであった。

 一瞬風がゆらめいたような気がした。

 次の一瞬、謎の戦士は敵中を駆け抜けていた。

 さらに一瞬遅れて、どうっという音がする。

 敵が馬から落ちる音だった。

 それも一体だけではなかった。

 何体も・・・。

 一瞬に敵の半数を倒してしまったのだ・・・。

 僕は目をまるくして立ち尽くしていた。

 これではアルティースも見ているしかなかった。

 戦士は、馬首を立て直すともう一度敵中に飛び込んでいった。

 聖騎士どもは、体勢を立て直す間もなく見えざる刃にかかって倒れていった。

 風がゆらめいているような錯覚に包まれていた。

 強かった。

 同時に恐怖も感じていた。

 そこに立ち尽くしたまま動くこともできなかった・・・。

 遠目でながめていたらしい騎士の大将がやってきていった。

 「なかなか、やるの。しかし、こいつらは我が聖騎士団の中でも下っ端よ。私が本当の竜牙教騎士の強さを教えてやろう。」

 そういうと、そいつに向かって飛びかかっていった。

 僕には心無しかその声がふるえているような気がした。

 気のせいに過ぎないかもしれないけど・・・。

 竜牙教徒の曲刀が一閃した。

 その刃は致命傷を与えるに十分な一撃であった。

 が、戦士の方はすでにその場にいなかった。

 そのことに相手が気がついたのは、倒れていく瞬間だったと僕は思う。

 あっけなく最後の一人も倒してしまった。

 そうするとその戦士は口を開いた。

 「この馬が寝ているところにやってきてあんまりせっつくものでな、何が起こったのだろうと思ってきてみたらこの有り様だ。」

 馬をたたきながら言った。

 「フェンレフレーヴェン。どこに消えたかと思ったら・・・。」

 僕は口をつまらせながら馬の方に近寄った。

 「おまえの馬だったのかなかなか賢いな。」

 男は言った。

 「しかし、このようなところを何故旅をしているのですか。」

 アルティースが尋ねた。

 「あての無い流浪の旅とでもいっておく。」

 断定的な口調で言った。

 「見たところこの地方の者では無いようだが・・・。」

 アルティースは続けて聞いた。

 「そう、もっと南の方からやってきた。」

 「ふーん。」

 僕は、珍しいところからやってきたものだと思った。でも何でそんな人がこんなところをうろついているんだろう・・・。

 「で、何でこんなところを旅しているの?」

 僕は口をはさんでみた。

 「それがよくわからんのだ・・・。」

 男は笑った。

 「それはそうと怪我をしているようだな。傷薬をやるからちゃんと治しておけよ。」

 僕に薬を投げ渡した。

 「ど、どうも。」

 「そちらの女騎士さんにはこれを渡しておこう。」

 と言って渡したのは不思議な色の小瓶であった何か液体が入っているようだ。

 「これは一体なんだ?」

 アルティースは言った。

 「そのときになればわかるだろう。」

 男は言った。

 んっ!

 急に思いだしたけど、リュートは大丈夫かな。

 袋からリュートを取り出して見てみる。

 よかった大丈夫みたいだ。

 僕はほっとした。

 それを見ていた男が僕からリュートを取り上げて、眺めながら言った。

 「そのリュートはどこに手にいれたんだ。」

 「どこってこれは親の形見だよ。」

 「なら、大事にしろよ。」

 そういうと僕にリュートを返した。

 「これからどこへ行くのだ。」

 アルティースが男に向かって尋ねた。

 「まあ、とりあえず妨げられた睡眠を取り直して、その後はゆっくり考えることにしよう・・・。」

 それから付け足して、

 「おまえ達の名前はなんて言うのだ。もしかしたらまたあうかもしれないからな。」と聞いてきた。

 「こっちの騎士がアルティースで、僕が赤羽帽子のルーエルっていうんだ。で、あなたの名前は?」

 「あての無い旅をしているから流浪の戦士とでも言うのかな。」

 と彼は言っただけだった。

 「ちょっとぉ。それは名前じゃないでしょ。ちゃんとした名前は?」

 と言って見たところすでに男の姿は闇にかききえていた。

 「不思議な奴だ。」

 アルティースは言った。

 「しかし、あいつの百分の一でもおまえが頼りになれば苦労はしないのだが。」

 アルティースは相変わらずであった・・・。

 こうして、訳がわからないまま苦境を抜け出した僕らはさらに旅を続けていた。

 幾日も、幾日も・・・。

 月々は日々その容貌を変えていく。

 つい先日死にかけたのが嘘のようにその後の旅は静かだった。

 僕らは、荒れ果てた街道を進んで行った。

 いいかげんに夜の旅もあきてきたなぁと僕は思った。

 来る日も来る日も暗闇と星空だけの光景が続いていた。

 不気味なぐらい静かだった。

 なんにすら出会わなかったのだから・・・。

 恐いぐらいだった・・・。

 人間だけではなく、動物や怪物のたぐいにまでにも・・・。

 永遠に不毛の荒野を旅し続けているようであった。

 逃れざる宿命を背負わされて・・・。

 たまりかねずに僕はアルティースに聞いた。

 「ねぇ、あとどのくらいすれば目的地につくの?それ以前に、この竜牙教の土地からいつ抜け出せるの。」

 アルティースは、しばらく黙っていた。日々アルティースは物静かになっているみたいだった。

 「あと1日もすれば、最初の目的地にはつくだろう。」

 それきりであった。


『今は無き街』


 それから丸1日の間、黙ったままの旅が続いた。

 そして、だんだんと平坦な道は緩やかに起伏していた・・・。

 僕は、この状況の変化をうれしく思った。

 なんにしろいつも同じようなところを進むのはたいくつなものだから。

 アルティースの心も複雑に揺れ動いたようだった。

 アルティースの過去に何があったのだろう・・・。

 そう思いながら、馬はマイペースな足どりで歩んでいくのを感じていた。

 そして少しずつ目的地に近づいているようだった。

 目的とするところが見えたのは、夜も白み始めた時であった・・・。

 静かに青い月が輝いていた。

 その場所はすでに廃虚とかした街であった。

 街の城壁は砕け散り、建物は無惨な姿をさらしだしていた・・・。

 朝の日差しに染まり赤く燃えていた。

 僕らは操り人形のように馬を進めて行っただけだった。

 そして半壊した門が、僕らをむかいいれた・・・。


 街の中はさらに悲惨だった。

 崩れかけた建物、がたがたになった道、散乱している人骨・・・。

 なにかが通り過ぎたような後だった。

 それは何もかも奪い、そして破壊していったようなそういう思いが心を占めた。

 風は、亡き人々の怨念をのせむなしく吹き、かたかたと鳴り響いていた・・・。

 物悲しい思いが僕にとりついていた。

 僕らは中央広場であったところに馬を置いて、そこからは歩いていくことにした。

 その先は馬では歩けないほどにひどい有り様だったから。

 「さあ、こっちだ・・・。」

 アルティースは言った。

 僕はその後に黙ってついて行った。

 あちこちに散らかっているがれきをよけながら進んで行った。

 がれきの他は何もない・・・。そんな気がした。

 かつてここは人々が行き交い、買い物をしたり、話をしたり、歌を聞いたりしていたのだろう・・・。

 僕の心にそんな思いが根付いていた。

 いつこのような廃虚と化したのだろう?

 そんなに古い時代の廃虚ではないよね。僕は思った。

 そう、どう見てもせいぜい20年前のものだろう。

 そういえばアルティースは何歳なんだろう・・・。

 僕は唐突に思ってみた。

 ふと、気がつくとそこは、ある屋敷の廃虚だった・・・。

 破損は街の他の場所ほどはひどくなかった。

 それだけ丈夫につくられていただろうからかな。

 それでも、傷みがひどい。

 アルティースはしばらくそこに立ち尽くしていた。

 しばらくの間微動だにしなかった。

 僕は声をかけづらかったので、アルティースとその屋敷を眺めていた。

 ふぅん。

 とりあえずはこの屋敷を一回りしてみた。

 意外と壊れていないなこの家。

 僕は思った。

 でも昔はすごかったんだろうな。

 かつて見た、大理石づくりの大邸宅を思い出した。

 父親がそこに呼ばれたときについていったんだけども。

 ゆっくりと一回りすると、アルティースはまだそこに立っていた。

 そのときのアルティースの表情はとても寂しげで悲しげだった・・・。

 アルティースの口が微かに動いたのがわかった。

 それは、「ただ今帰ってきました・・・。」 といっているような気がした。

 「さあ、中にはいるぞ。」

 アルティースの呼びかけで僕らは屋敷の中に入っていった。

 中にはいるとすぐにアルティースはランタンを灯した。

 屋敷の中は、すでに日が出ているのに暗く、湿っていた。

 しかし、意外とまともであった。

 所々に血の後が見えるのが気にかかったのであるが。

 僕はアルティースにこのことを聞こうとは思ったが、彼女の方はどんどん先に進んで行った。

 「穴が空いているかも知れないから気をつけろよ。」というとどんどん階段を降りて、そしてある大きな扉の前に止まった。

 僕は屋敷の中を鑑賞する暇もなくアルティースの後について行った。

 その扉はたいへん頑丈にできていたようだ。

 アルティースはどこかからか、鍵を取り出して扉を開けた。

 「ここは大丈夫だったらしいな。」 アルティースは独り言を言っていた。

 そこは地下室ではあったが、かなり豪華に出来ていた。

 美しい絵が飾られ、調度品がならべられ飾ってあった。

 アルティースはそのようなものには興味を持たず、奥にある戸棚をおもいっきり動かした。

 そこは白い壁があった。

 しかし、アルティースが少し壁にふれると壁は壁でなくなっていた。

 「あっ、かくし扉だね。」

 妙にうれしくなって僕は言ってみた。

 「そんなことはどうでもいいからついてこい。」

 アルティースは僕にむかって言った。

 そこは、廊下が先へと続いていて突き当たりにもう一つの扉があった。

  アルティースが、 その扉を押し開けるとそこはいろいろな武器や防具が置かれていた。

 「わぁすごい。」 僕は歓喜の声をあげた。

 「・・・・」 アルティースは黙ったままであった。

 そして、しばらく何かを探しているようだった。

 邪魔しては悪いと思ったので、部屋のすみのほうでよけて部屋の中を眺めていることにしていた。

 『ふーん、これはすごいや。』

 すばらしいつくりの剣や鎧が飾られたいたからだ。

 すでにそれらは年期が経ていて、独特な輝きを見せていた。

 きっとこれは魔法がかかっているに違いないな。でなければ、錆び付いているはずだろうな。こんなに湿っぽい部屋に長い間ほっておかれたんだもの。

 「ここにあったか。」

 アルティースが静かに言った。

 それはロウで封印され、くるめられている一枚の羊皮紙だった。

 「ねぇ、それは何なの。」

 「・・・これは、とても大事なものだ・・・。」

 アルティースは言った。

 「そんなに大事なものなの。」

 「そう。父が私に書き残した唯一のものだからな。」

 淡々とアルティースは話しはじめた。

 「この手紙を父は二十歳になったときに読むように言った。今日はちょうどその日にあたる・・・。」

 「どうして、こんなところに隠してあったの。それに、この街は・・・・。」

 僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれなかった。

 「・・・・。」

 アルティースは何かを思いだしたようで悲しみをこらえきれないようであった。

 「・・・・。」

 さらに沈黙が続いた。

 「無理してはなさなくてもいいよ。嫌なことをきいちゃったかな。」

 ゆっくりと首を振ってアルティースは答えた。

 「いや。いつまでも話さない訳にはいかないだろう。」

 何とか持ち直したようだった。

 「それは、今から15年ほど前の事だ。竜牙教団が突如勢力を伸ばし始めたときだったと思う。それは、急激で不意な事だった。突然聖戦を宣言した奴らは、近隣の村や街を襲撃し始めた。そして、その軍隊はすぐに私の生まれた街にも進撃してきた。この街の支配者であった私の父は、すぐさま兵を率いてその攻撃に備えた。しかし、奴らは多勢でしかも強壮だった。父の軍隊は一度城外で戦ったが戦闘にならなかったほど完敗したと聞く 。 心ならずも父達は城内に立て篭もって撃退を試みた・・・。だが、その試みも3日と持ちはしなかった。たやすく竜牙教の狂信者どもは城壁を破り、乗り越えて進入してきたのだ。家は放火され、逃げまどう者達を虐殺していった。街路は朱に染まったという。」

 「それで、それでどうなったの?」 僕は尋ねた。

 「そして、父も撃退かなわずもこの屋敷に篭もって、最後の抵抗を試みた。父は私にそのときこういった・・・。

 『もはや、私は彼らの進軍を止める事は出来ない。そしてやり過ごす事も出来ないだろう。アルティース。おまえはこの地下通路を抜けて、逃げろ。』と

 「私は『お父さんやお母さんは逃げないの?』と聞いた。その返事はこうだった。

 『それでは殺された街の人々に申し訳ない。』 私は泣き叫んだが侍女達に無理につれていかれた。密かにこの通路を抜けて見た街が赤々と燃え上がっていたのは今でも忘れる事は出来ない・・・。

 そして、最後に父が伝えたのは「ここに遺言を託す。二十歳になったら読め。と言う事だけだった・・・。」

 「そんなにつらい事があったんだ。なのに僕は・・・。」

 僕は言った。

 「あまり気にするな。ついてきていいと言ったのは私だからな。いつかは話さなければならない事だろう。このことは・・・。」

 アルティースは落ちついて言った。

 そんな事があったなんて・・・。

 僕は今になって衝撃を受けた。

 もっと早く気がついてもおかしくなかったのに・・・。

 僕は僕の勘のにぶさを呪った。

 それに比べたら僕なんか・・・。

 幼い眼で見た、その殺戮の場はアルティースの心に何を植え付けたのだろうか。

 剣を取って戦いの日々を送っているのも、そのせいかもしれない。

 アルティースの戦いぶりは何かを忘れたい為のようだったもの。

 つらい戦いの事を忘れるために戦いの日々を送る・・・。

 なんて因果何だろう。

 僕はそう思った。

 「アルティースがそんな過去をもっていたなんて・・・。」

 僕は言った。

 「あまり気にするな。もう15年の前の事だしな。」

 でも、アルティースの瞳は潤んでいるようだった。

 嫌な事を思い出させてしまったかな。僕は後悔した。

 でもアルティースの別の一面をかいまみたような気もした。

 アルティースが僕に問いかけた。

 「おまえも読んでみるか。」

 アルティースは遺言の手紙を開いた。

 開かれた手紙は黄ばんでも、字がにじんでいるようなことはなかった。

 魔法的な処理が行われているようだった。

 羊皮紙に刻まれた文字は、一字一句丁寧に書き込まれていた。

 アルティースの読む後ろからのぞき込むようにして、手紙を読んだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 我が娘アルティースへ


 おまえに宛てたこの手紙を読んでもらえただろうか。

 読んでもらえるだけでもうれしく思う。

 それは、二十歳までおまえが無事に育ったと言う証であるのだから。

 おまえはどのような娘に育っているのだろうか、いまとなってはそれを知る手段がないのはとても残念だ。

 いまこれを書いている時分は夜中である。

 彼らの攻撃は一時おさまっている。

 この手紙を十分に書く時間が出来たというものだ。

 私は明日には、屍の山の上にいるであろう。

 朝までゆっくりとこの手紙に費やす事にしよう。

 これを読むときおまえがそのような昔の事を忘れているとうれしい。

 竜牙教団は、これを開いた時には滅んでいるであろうか。

 私たちのような犠牲者がさらに増えていないか、それが気がかりだ。

 もし、ここらに竜牙教が生き残っていたとしてもそれは過去の事としてすべて忘れてきて欲しい。

 幸せな結婚をして、幸せな家庭をもち、おまえが幸福に暮らしているのなら私は何も言う事はない。

 それが、いくら貧しい生活であったとしても。

 おまえが幸せに生きてくれる事だけが、ここで死んでいった者達や私への供養になるのだから。

 二十歳にもなれば恋人はもういるだろう。

 もしかしたらもう結婚しているかもしれないな。

 仲良く喧嘩などしないようにな。

 母もそう思っている。

 最後に一言。

 イリタニリ・アースィ・ネ・アリアクーシャリセルネム サーン・ウィ・ネンネネル

(緑の月の導きがまちがっていたとしても、それを否定してはならない=>それがたと

え運命だとしても、それを恨んではいけない。と言う意味のエルフ語)


追伸 ここにある、武具や防具は好きに使っていい。売り払えばかなりの金額になるであろう。一生働かなくても楽に食べていけるぐらいにはなるはずだろう。先祖伝来の武具を失う事はうれしい事ではないが、すでに滅びた家にこのようなものは必要ではないのだから。


 ロルミート・エル・アフォーエン伯爵しるす   (日付及び署名)


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 アルティースの父親の手紙は、このような事が書かれていた。

 「どうやら、私の生き方は父の願いとは別の生き方だったようだ。」

 手紙をしまいながら無表情にアルティースは言った。

 「だが、それもまた父の言う運命というものだろう。私は私の今の生き方を否定するつもりは無いし、肯定するつもりもない。しかし・・・」

 アルティースは黙っていた。

 僕は、アルティースの瞳が再び潤んでいることに気がついた。

 しかも、それはあふれ出して頬を伝わり星くずとなって床に落ちていった。

 アルティースは泣いていた。そして言った。

 「ここまで、私の事を思っていてくれたとは・・・。」

 アルティースは泣いていた。ただ泣いていた。

 「あのとき、私は私だけをのけ者にしているものとばかり思っていた。いつも私だけがどうして生き残ったのだろうと思っていた。あの時一緒に死んでいれば良かったと思っていた。しかし、しかし、それは私の一方的な勘違いに過ぎなかった・・・。」

 アルティースが泣いている。

 その泣き顔はとても愛らしかった。

 いつものアルティースとは違っていた。

 いつものどことなく寂しげで、勇敢な顔つきはそこにはなく、愛らしく可愛らしい乙女の姿がそこにあった。

 僕は無性に抱きしめたくなった。

 そして気がつくと力づよくアルティースを抱きしめていた。

 おもいっきり泣いていいよと言うように。

 アルティースも僕に身を任せていた。

 しばらくそうして、その場に立ち尽くしていた。

 それから、静寂の時が流れた。

 アルティースは落ちつきを取り戻し、いつもの顔に戻っている。

 僕は何故あんな事をしたのだろうとおろおろとうろたえていた。

 「柄にもあわない事をしてしまったようだな。まさかおまえに慰められるとは。」

 アルティースは言った。

 「だが、これでけじめはついた。さあ、そこにある中の好きな武器や防具を身につけていけ。おまえのはぼろ過ぎるからな。これからさらにつらい旅が待っているだろうからな。」

 「えっ?もう帰るんじゃなかったの。」

 けじめがついたと言ったので、騎士をやめてふつうの娘に戻るのかと僕は思った。

 「まったくその反対だ。竜牙教の本拠地に乗り込んでこれをたたきつぶす。」

 「でも、あの手紙には・・・。」

 「そう、あの手紙にはそれが運命ならばそれを恨んではならないといっている。私がこうしてここに来れたののも運命の導きかも知れない。竜牙教を滅ぼすために。」

 「それは、無茶苦茶な解釈じゃないの。それにそれは無謀だよ。絶対に。」

 僕は問いつめた。

 「もういい。私はそう決めたんだ。だからどうにかなるだろう。おまえは早く武器と鎧を選んでただ私についてくればいい。騎士とその従者の関係だ。」

 それはあまりに無茶な話だよぉ。

 アルティースを抱きしめたことを今となっては後悔した。

 「まぁ、うれしかったぞ。おまえがああ言う事をしてくれるとはな。」

 何か複雑な心境であった。

 まぁ、いいか。

 とにかく、鎧とかを決めないと。

 僕は部屋の中を物色した。

 「うーん、どれがいいのかなぁ。」

 こうして見てみるとなかなか決まらないものである。

 重戦士じゃないから重い鎧はかえって邪魔になるから駄目だし・・・。

 領主の館なので当然プレートメイルなどが多い。

 それらははじめっから考慮に入れなかったのだけどそれにしても数が多すぎる。

 「どうしよう・・・。」

 アルティースの顔をうかがっている。

 口には出していないけども、「どれでもいいだろ早くしろ」って言っているみたいだった。

 それから、悪戦苦闘の末一振りの剣と鎧を選びだした。

 「なかなか良さそうなの選んだなだな。僕は。」

 自分で自分をほめてしまった。

 鎧は、特殊な皮でつくられていた柔らかい皮鎧だった。

 やはり鎧は軽くて動きやすいのがいいからね。

 皮鎧の割には丈夫でかなりの打撃吸収力がありそうだった。

 剣は、一見すると普通の長剣に過ぎなかった。

 ただそこに刻まれていた銘が気に入ったので、この剣にしようと思った。

 それにはスィーレミストゥール、「静かなる使徒」と刻まれていた。

 「では、さっそく。」 僕は鎧を着てみた。「ぴったりだ。」

 この鎧、非常に着心地が良かった。まるで僕が着るためにつくられたもののようだった。

 「なかなか、あっているぞ。」

 アルティースも言ってくれた。

 「で、そのまま本拠地に乗り込むの。」

 「いや、その前に行きたいところがある。そこに少し用があるのだ。昔世話になった人のところだ。」

 「昔?」

 「そう、この街を脱出したときからわが娘のように育ててくれた、育て親のところへだ。」 

 馬をつないでいるところまで戻り、ひと休みすると馬上の人となった。

 また数日の旅が続いた。

 今度も何事もなく平穏な旅だった。

 情景はあれ放題の草原から、徐々にのどかな田園風景と移り変わっていく。

 竜牙教の勢力範囲からは抜け出したようだった。

 その田園の道の果てに見える白い城。

 そこが僕らがめざしている場所らしかった。



『老伯爵』


 「開門。」

 アルティースが城門の前で叫んだ。

 「誰だ。」

 むつかしい顔をした老門番が顔を出した。

 「あっ、アルティースお嬢様。よくぞご無事で・・・。みんなここの住民は心配しておりましたよ。突然旅にでられたので・・・。」

 『へぇー。そうだったのか。』僕は思った。

 「すぐに、門を開けますから。」

 そして、老門番は詰め所に向かって叫んだ。

 「アルティースお嬢様のお帰りだ。早く領主様にお知らせしろ」

 誰かがあわてて、駆けていったようだった。

 あまりの滑稽さに思わず吹き出してしまいそうだった。

 それを見ていたアルティースは、

 「おまえもいつもあんな風なんだぞ。」

 と僕に向かっていった。

 「わしはボーエンというんだ。そこの従者さんはなんていうのかい。」

 えっ?僕。

 自分を指さしてみると老門番はうなずいた。

 「赤羽帽子のルーエルっていいます。でも僕は従者じゃないですけど・・・。」

 「従者じゃない?すると旅の道化師かなんかかな。」

 まったく勘違いされている・・・。

 僕はしばらくの間この門番と不毛なやりとりをしていた。

 そのあいだアルティースはおもしろがって見ているだけだった。

 「ねぇ、アルティース。この人に何かいってやってよ。」

 とうとうアルティースに助太刀を頼まなければならなくなった。

 「こいつは、私の使い走りをしている従者だ。もっとも自分自身ではそう思っていないが。」

 アルティースがクスクスと笑いながらいった。

 門番は勝ち誇ったように僕の顔を見た。

 「もうっ、アルティースまでっ!!」

 いつか僕の立場をこの老人にわからせなければ・・・

 そう、僕がアルティースの従者じゃなくてパートナーであるっていうことを。

 「ぎぃ。」

 そんなことを思っていると、突然門が開いた。

 「おまたせしました。」

 初老の紳士の声であった。

 「よく帰って来られました。アルティースお嬢様。私の事を覚えておられますか?執事のレーディルです。みんな心配しておりましたよ。お嬢様が突然いなくなられたので、伯爵様もずいぶんと心配されておりました。」

 「そうか、だがそのお嬢様という呼び方は止めてくれ。」

 矢継ぎ早にしゃべる執事の声をアルティースは遮るようにして言った。

 「わかりました。お嬢様。さぁ早く屋敷の方へ。そちらの従者様もご一緒に・・。」

 どうやらこの人にも説明する必要があるな。

 僕はそう思いながらアルティースとともにレーディルの後についていった。

 まっすぐと街路を通り抜けると、ちょっと小高いところに白い古城があった。

 そして、僕らはその古城の門をくぐり抜けた。

 「馬はそこで預かりますから。」

 僕は馬の手綱を馬番に渡した。

 城の中央にある建物へと案内された。

 「しばらく、お待ちください。いますぐ伯爵夫妻をお呼びいたしますので。」

 そういうと初老の執事は建物の奥へと入っていった。

 「へぇー。アルティースはここで育ったの?」

 「そうだ。父とここの伯爵は故知の友人だそうで、私はここにつれていかれた。」

 アルティースはいった。

 「ここに12年ぐらいいたかな。長い旅がはじまるまでの間。」

 「でも、なんで出ていっちゃたの。」

 「それはおまえの想像に任せる。」

 と、アルティースは言っただけだった。

 「さあ、早く中におはいりください。そちらの従者の方も。」

 まただ・・・。

 僕は思いつつも屋敷の中に入っていった。

 中にいたのは年老いた老夫妻だった。

 「アルティース。よく帰ってきましたね。」

 老婦人が言った。

 「おやまあ、こちらの従者さんも大変だったでしょう長旅で。」

 どうして、僕は従者とまちがわれるのだろう。

 「ちょっとぉ。」

 僕は反論しようとしたが、別の声に遮られた。

 「アルティースよ、よく無事で帰って来れた。おまえがぷいっといなくなってしまって、心配していたぞ。」

 老紳士の声だった。

 「そこまで心配してくださるなんて・・・。どうしても外の世界に出たかったもので・・・。」

 アルティースは言った。

 「いやなに。子はいつか巣立っていくものだ。別に気にしやせん。」

 その老人の声は年のわりには張りがあって、落ちついていた。

 「そうそう、いま取り引きの話をしていたところだった。おまえも知っておるだろ。ダールさんだ。」

 「ああ、あの酒豪の。」

 アルティースは笑った。

 「また、家の酒樽空にしていかなければいいけど。」

 「そんなに飲むの?」

 僕は聞いた。

 「まあ、ドワーフとしては普通だろうな。」

 老伯爵は言った。

 ドワーフか。そういえばこのあたりにドワーフの集落があったはずだよな。

 「立ち話もなんだから。2階の応接間に行きましょうか。そこの従者さんも遠慮せんでいいぞ。」

 「僕は従者じゃないって。」

 とは言ったもののみんなすでに階段を上っていた。

 あわてて僕は後を追いかけた。

 アルティースも何か言ってくれるといいのに・・・。

 そして応接間に入ると中にはすでに酒を飲んだくれている酒樽・・・じゃなくてドワーフがいた。

 「お、アルティースちゃんかい。久しぶりだねぇ。しばらく顔を見ていなかったけども、どこかに行っていたのかね。いつのまにか騎士の鎧をつけているし。」

 ドワーフはでかい声で聞いた。

 「少し遠くの方へ・・・。」

 アルティースは言った。

 「遠くかね。最近は何かと物騒だからねぇ。大変だっただろう。」

 「ええ、まぁ。」

 「まあ暇があれば、またわしの村へ来るといい 。アクセサリーのひとつでもみやげに渡してやろう。」

 「あ、はぁ。」

 アルティースもたじたじのようだった。

 「こちらのお付きの方はだれかね。初めて見るな。」

 「赤羽帽子のルーエルといいます。」

 「ルーエルか。なかなかのいい名だな。わしはダールというドワーフの商人だ。騎士の付き人っていうのもなかなか大変だろ。」

 「僕は従者でも付き人でも・・・。」

 「がはははは・・・。」

 突然ドワーフが笑いだした。

 「そうそう、最近なかなかおもしろいことがあってな・・・・。」

 全然きいちゃいない。

 しばらくの間僕らはこの酒樽商人の世間話を延々と聞かされる羽目になった。

 「ねぇ、アルティース。このおっさんいつもこんな風なの。」

 「そうだ。気にしないのが一番いいぞ。」

 気にするなっていわれてもねぇ。このでかい声じゃ嫌でも聞こえてくるよ。

 「そろそろ、晩餐会の仕度が出来ましたのでこちらへどうぞ。」

 この執事の一言に僕は救われた。

 「ああ、やっと逃げ出せた。」

 あんなのもっと聞かされたらたまったものではない。

 「うーん。これからおもしろくなるのになぁ。残念。また後で聞かせてやるぞ。」 もういいよ。

 こうして驚異のおしゃべりドワーフの魔の手から逃れた僕らは晩餐会の席についた。

 あのドワーフも一緒である。

 団らんの一時がそこにあった。

 老伯爵夫妻とともに・・・。

 「アルティースや。いつまでこのリードルの街にいるのかい。」

 老婦人は尋ねた。

 「今日一晩休ませていただいたら明日にも出発したいと思っています。」

 「そんな事を言わずにゆっくり滞在して行けばいいだろう。」

 「いや。急がなければならない用事があるので・・・。」

 「その用事がすんでからでもいいから、しばらくここに居てくれないかね。年を取ると周りはどんどん寂しくなっていくのでな。」

 リードル伯は言った。

 「時間があれば・・・。」

 アルティースは言った。

 「そのときは旅の話でも聞かしてもらおうか。」

 「わしの旅の話なら今すぐいくらでも話してやるぞ。」

 ダールが口をはさんだ。

 あんたのはもういいよ。

 晩餐会が終わって僕はアルティースに聞いた。

 「本当に明日出発するの。」

 「ああ、急いで寄っておきたいところがある。」

 「そこはどこなの。」

 「頼んで置いたものを取りに行くのだ。それより、疲れは十分に取って置けよ。」

 「そうするよ。」

 僕は言った。



『魔法のつるぎ』


 次の日の朝。

 僕らは、伯爵達に見送られて城を後にした。

 「アルティース、無事に帰ってくるのだぞ。そちらの従者さんも。」

 従者ではない事を説明しておくのを忘れていた・・・。

 「行くぞ。」

 僕はアルティースの後をついていった。

 しばらくして、アルティースは道をはずれて森の奥へと馬を進めた。

 「ねぇ、道からはずれているけどいいの?」

 「ああ。こっちで間違いない。」

 目的の場所はここから半日もしないところであった。

 その場所は森の中のひらけた空間に建っている石造りの建物だった。

 「こんなところに建物があるとはねぇ。」

 アルティースは馬から降りると、その建物の扉を叩いた。

 「アルティースだ。」

 しばらく待つと中年の痩せた小男が出てきた。

 「これは。これは。3年ぶりですかね。」

 「そうだな。ナーヴレンド、注文したものは出来たか。」

 「あれですかね。それが・・・。」

 「まだ出来ていないとは言わせないぞ。」

 「いや、材料がひとつどうしても見つからないんで。」

 「そんなにおまえが見つけるのが大変なものがあるのか。」

 「それは、紫石竜の涙なんです。あれだけは八方つくしても手に入らない。」

 紫石竜の涙?

 あれを手に入れるのはほとんど不可能に近いって聞いたことがあるな。

 僕は記憶の糸をたどっていった。

 大体紫石竜自体が伝説の生物だものな。

 「9割9分までは出来ているのですが、あれがあると無いとじゃ大違いですから。」

 「無いとどうなのだ。」

 「威力は10分の1に落ちます。」

 アルティースはひどく残念そうな顔をしていたがしばらくして何かを思いだしたように袋から小瓶を取りだした。

 「これが何かわかるか?」

 「中に液体が入っているようですねぇ。調べてみないとわかりません。」

 男は言った。

 「ちょっと時間がかかるんで中に入って待っててください。」

 そういうと奥の方に消えていった。

 「あの人は誰なの。」

 「錬金術を生業としているナーヴレンドという奴だ。」

 「で、なにをつくってもらっていたの?」

 「特殊な武器だ。むかし、竜牙教を調べているときに面白い事がわかったのだ。それについてはまだ秘密にしておくが、それを応用したものだ。」

 「ふぅん。」

 しばらくして、男は驚いたように駆け出してきた。

 「これは、紫石竜の涙ですよ。どこでこれを手にいれたんで。」

 「旅の途中で流浪の戦士とやらがくれたんだ。」

 「まぁ、なんて奇特なのか何にも知らなかったのか小さな国がひとつは買えそうなものをあげちまうとは・・・。これで、完ぺきですよ。」

 「後はまかせた。どのくらいかかりそうだ?」

 「これさえあれば、すぐに出来ますよ。半日もあれば。」

 「それは助かる。」

 アルティースはほっとしたように言った。

 「それじゃ、今から取りかかります。」

 男は言った。

 「よかったね。アルティース。」

 「これで、竜牙教と互角に戦える。」

 「そんなに強いのあれは?」

 「強いと言うよりは、一種の催眠効果で敵を無力化させるのだ。それもなぜか竜牙教徒にしかきかないらしい。このことを私はどこで知ったかは覚えていない。確かそのときにこの錬金術師のことも知ったと思うのだが。」

 『不思議な事があるものだなぁ』僕は思った。

 この事件に関してあまりに偶然が多すぎる事だ。

 何かの作意を感じもしていた。

 しかし、こういう事は気にしないたちなのでこのことはすぐに忘れた。

 そこにナーヴレンドが出てきた。

 「もう少しで完成だ。少し休ませてもらうよ。」

 椅子に腰掛けながら言った。

 「あとどの程度なんだ。」

 「暗闇で半時ほどねかせれば完成です。」

 「そんなことをするのか?」

 「ええ、道具全体に魔力を行き渡らせるのにやる初歩的な方法ですよ。」

 「そうか。」

 アルティースは感心したふうに言った。

 そして、半時が過ぎていった。

 僕らは話をしながら時が過ぎるのを待っていた。

 錬金術師が、砂時計を見て言った。

 「そろそろ、いいでしょう。ちょっと見てきますよ。」

 彼は奥へ行った。

 「いよいよだね。」

 「ああ。」

 しばらくして、それを抱えてナーヴレンドが来た。

 「すごいでしょう。」

 「剣か。」

 アルティースは聞いた。

 「この形状がもっとも威力を発揮しますからね。」

 「剣はあまり得意ではないがいい事にしよう。」

 アルティースは長柄の武器を使っているものな。

 「伝説の魔剣エルダスティーにも劣らぬ出来だと思いますよ。これは。」

 得意そうに言った。

 エルダスティーと言えば、いかなるものをも斬り裂き神殺しの魔剣として有名な武具だ。父に聞いた伝説によるとエルダスティーあらわれる度にその形状が変わるという話がある。必ずしも剣であるとは限らない。

 「そこまではとうてい及びもつかないだろうが、名剣の範疇には入るだろうな。」

 剣を眺めながらアルティースは言った。

 「そう言われると光栄ですよ。」

 「びゅん!」

 アルティースが試しぶりをすると威勢のいい音がなった。

 「すごいや。」

 僕は感心した。

 「まさに風を斬るって感じだね。」

 「これなら、行けるな。」

 「ナーヴレンド、礼を言うぞ。」

 「いや、私は道楽でやっているみたいなものですから。」

 「費用はあれで足りたか。」

 「ええ。ただ紫石竜の涙を買うとしたらあの程度ではすまなかったとは思いますけどね。」

 「これは、代金だ。」

 アルティースが渡したのは一粒の鮮やかな宝石だった。

 「これは多すぎやしませんか。私にはもったいないですよ。」

 「おまえのやった仕事はこれでも少ないくらいだ。」

 「そうですかね。じゃあ貰っておきますよ 。」

 魔法のつるぎを受け取った僕らはその建物を後にした。

 「それでは、お気をつけて。」

 ナーヴレンドは外に出て見送っていた。

 「おもしろいひとだね。」

 森の陰にその建物が見えなくなった頃、僕はアルティースに言った。

 「おまえほどではないがな。」

 アルティースは言った。

 「しかし、この剣が手に入った事で竜牙教を壊滅させるのがかなり楽になった。」

 「でも、ふたりでは無謀すぎやしない?」

 「ひとりよりかはましだろう。」

 アルティースは、続けた。

 「ところで、私は剣という武器を使った事がないのだ。」

 「えっ、本当に?」

 驚いて聞き返した。

 「ああ、だが何とかなるだろう。そこに剣の先生もおられるようだし。」

 「僕の事?」

 「他に誰がいると思う。」

 アルティースにこんな風に言われたのは始めてだった。

 とてもうれしい。

 「授業料は高いよ。」

 僕は笑いながら言った。

 「代わりに根性を入れ替えてやろう。ただで」

 アルティースも笑いながら言い替えす。

 「これはやられた。」

 僕らは竜牙教の本拠地へ向けて旅を続けた。

 前とは違うコースを通っていた。

 「南へ行ったん抜けてから突入する。」

 アルティースは言った。

 「なんで?」

 「そのほうが中心部までの距離が短いからだ。」

 馬上で、そしてキャンプ地で僕はアルティースに剣の使い方を教えた。

 アルティースは飲み込みがはやくあっという間に基礎はマスターしてしまった。

 しかし、なんで剣を使った事がないんだろう。騎士っていえば普通は剣にランスに、モーニングスターと相場が決まっている。アルティースのようにポールウェポンを使う例はあまり多くなかった。

 またアルティースの飲み込みの速さには驚いた。本当に剣を使った事は無いんだろうか。このままだとすぐに追い越されそうだった。

 「後は、実戦を積むだけだね。もう僕が教えられる事は無いよ。」

 僕は柄にもあわない事を口走っていた。

 それは、つるぎを受け取ってから10日も立っていなかった。

 再び、竜牙教の勢力圏に突入する直前だった。

 「なんとか間に合いそうだな。」

 アルティースは言った。


『急襲』


 その後僕らは運良く、敵に出会うこともなく竜牙教の領内に突入していった。

 「すでに竜牙教の勢力圏に入っている。これから竜牙教の本拠地を急襲する。それはこの位置だ。」

 アルティースは地図を広げて見せてくれた。

 その地図にはここ一帯のことが精巧に、詳細に書かれていた。

 「こんな地図どうやって手にいれたの。」

 僕は聞いてみた。

 「それは、秘密だ。」

 「もったいぶらないで教えてよ。」

 「いや、教えない。」

 アルティースはそういうと再び地図をしまいこんだ。

 「では、いくぞ。」

 そのまま、馬に乗って進んでいった。

 僕もフェンレフレーヴェンに乗り後についていく。

 道無き道を進んでいった。

 何もない荒野がそこにあった。

 前は夜を歩んでいたが、今度は白昼堂々と旅していた。

 「ねぇ、大丈夫なの。見つかりはしない?」

 「見つかってくれた方が、実戦の訓練になるだろう。」

 そのあと、僕は何も聞かなかった。

 アルティースは一度決めたら滅多な事では折れないからなぁ。

 そのアルティースの待ち望んでいた実戦の機会は待つまでもなく訪れた。

 向こうから少数の巡回部隊らしいものが見えてきたからだ。

 「さすがに、中心部に近づくと人数は少なくなるな。」

 アルティースは言った。

 「なぜ?」

 「奴らの言う邪教徒は普通ここまで来ないからな。」

 「ああ、そうか。」

 僕はすぐに理解した。

 「では、行くぞ。」

 アルティースは突撃していった。

 なんで、すぐに突撃していくんだろう。

 騎士ってそんなものだとは聞いてはいるのだけど。

 僕も、「静かなる使徒」を構えて突入していく。

 その戦いは戦いと言うほどの代物ではなかった。

 不意をうたれた敵の聖騎士は十分な防御体勢を整える暇もなくアルティースのやいばによって打ち倒されていった。

 剣での実戦が初めてとは思えないほど巧みに剣を操っていた。

 僕の出番はなさそうだった。

 戦闘はすぐに終わった。

 後に残ったのはかつて竜牙教徒であった者と主人を失った馬だけだった。

 「すごいや。」

 僕はアルティースを賞賛した。

 「これでは、準備運動にもならんではないか。もっと増しな敵を探すぞ。」

 目的は、本拠地を叩きつぶす事じゃなかったけ。

 「そんな、時間つぶししてる時間があるの?」

 「いや、あまりに手ごたえがなかったのでな。」

 その後、早足で馬を進めていった。

 一刻も早く竜牙教の本拠地にたどり着きたいからだ。

 アルティースが言うには竜牙教の本拠地はラードロームという古い街にあって、その中心には竜牙聖殿という、巨大な神殿が建っているという話だ。

 「そんなに大きいの。」

 「噂ではな。そこにいるのが竜牙教の最高司祭だ。今の竜牙教は奴ひとりの意志決定で動いている。だから奴を倒せば竜牙教も自然消滅するだろう。」

 「本当にそんなのでいいの。」

 「大丈夫だろう。」

 僕とアルティースは、その途中で何度も敵の少数の巡回部隊と出会った。

 しかし、その度に撃退していった。

 アルティースの腕はどんどん上がっていった。

 「こんなに派手に倒していっていいの?」

 「あいつらが、それを手ががりにして私達の居場所を探しだそうなんて頭を持っているはずがないだろう。それにまだこの剣の威力の1割も発揮させていない。」

 「それでもねぇ。」

 「もっとも、ラードロームにたどり着いてからは十分気をつけないと行けないだろうがな。」

 「そこには魔法使いとかはいるの。」

 ふと思ったのでついでに聞いてみた。

 「いるかもしれないな。そこの司祭クラスなら神聖魔法ぐらいは使えると思って当然だろう。しかし、純粋な古代魔術の使い手がいるかまではわからない。噂に聞けば、かなりの手だれがいるというが。」

 いまにして思ったが、魔法使いがいればかなりやっかいな相手になる。

 僕らにはそれに対抗する魔法が使えないからだ。

 「やはり、相手が魔法を使う前に倒すしかないだろう。」

 アルティースはいかにも簡単そうに言った。

 本当にそれが簡単に出来ればいいのだけど・・・。

 そういう懸念など気にならないように僕らは破竹の進行を続けた。

 「意外ともろいんだね内側は。」

 「急速に膨張した集団というものはそういうものだ。やつらは外への侵攻と剪滅のことしか考えていないから、まさか自分の本拠地の中枢が急襲されるなんてことは思いつきもしないだろう。」

 「だから、こんなに手薄な訳なんだ。」

 「そう、外側をかいくぐってしまえばな。」

 僕らは竜牙教の本山のあるラードロームへ向けてさらに旅をしていった。

 さすがにこの周辺まで来ると、荒野ではなく緑が広がっている。

 「へぇ、さすがにこの辺はちゃんとしているんだ。」

 変に感心したふうに僕は言った。

 「さすがに、食物を食べなくては竜牙とやらの加護があっても生きてはいけないだろうからな。」

 アルティースは言った。

 「ここからは、見つからないように進まなければな。」

 警戒しながら僕らは馬を進めた。

 「ばれないように変装していけばいいんじゃないの?」

 僕は提案をする。

 「いや、それが奴らには異教徒を区別する物があるらしい。それがわからなければ試して見ても無駄だろう。」

 「それなら、隠れていても見つかるんじゃないの。」

 「相手が見えていなければそれは出来ないそうだ。」

 「なら、見つからなければ言い訳だね。」

 さらに警戒を押しながら馬首を聖殿に向けた。

 やがて、重層な城壁と壮大な神殿の姿があらわれた。

 「こんなに大きかったんだぁ。」

 「いよいよ、だな。」

 アルティースは言った。

 「ここらに馬を隠しておけ。」

 「えっ。」

 「街の中へ進入する。」

 「どうやって入るの。」

 どうやって入るのかそれはひとつの疑問だった。

 「ラードロームの古い地図がある。これは、盗賊ギルドで使っていたやつで裏道とか地下水道、秘密の抜け道まで事細かに描かれている。」

 「そんな便利な物があったんだ。」

 そうでなければ、あんな無謀な事は出来ないもんな。

 「馬はどうしよう。」

 「隠して置けば大丈夫だ。少なくともおまえよりは頭がいいからな。」

 「じゃあ、行こうか。フェンレフレーヴェン、おとなしくしていろよ。」

 近くの森かげに馬を隠していくと僕らは城壁に近づいた。

 「このあたりだ。」

 アルティースは言った。

 壁をこんこんと叩いてみる。

 確かにこのあたりは音の響きが違う。

 「どうすれば動くんだろう。」

 しばらく試行錯誤の末にその隠し通路の入り口をこじ開けた。

 「堅いなぁ。」

 「長い間使われてなかったからしかたないだろう。」

 アルティースが入ったのを見て僕も中に入りすばやく扉を閉めた。

 「どうやら見つからなかったみたいだよ。」

 ランタンの明かりを灯すと暗い通路を進んでいった。

 道はかなりねじ曲がっていた。

 枝分かれが多くわかっていても迷いそうだった。

 「ずいぶん入り組んでいるね。」

 「盗賊が使っていたものだからな。」

 盗賊も大変なんだ。

 しばらく、いったりきたりしているような道筋を進むと地下水道へでた。

 「ここが、中央通りあたりだな。」

 アルティースは地図で確認を取っていた。

 「まだ、目的地にはほど遠いな。」

 「どこらあたりに出るの。」

 「神殿の真裏あたりに出ようと思っている。」

 しばらくアルティースは地図を眺めていた。

 「大体わかった。こっちの方角だ。」

 暗くじめじめした地下道を進んで行く。

 また途中で分かれ道を通り抜けて隠し通路に入っていく。

 複雑な道筋を進んでいった。

 「もうちょっとなんとかならないの。」

 僕は愚痴をこぼした。

 「いまさらこれの設計者に文句をいってもしようがないだろう。」

 それを聞いたアルティースはが言った。

 「あと、少しだぞ。頑張れ。」

 再び隠し通路に入ると次に出てきたのは古井戸の底らしかった。

 「さて、ここをどう登るかだ。」

 アルティースが上を見上げて言った。

 「あそこに出っ張りがあるよ。」

 僕は登るための突起を指さして言った。

 「なるほど、ではついてこい。」

 アルティースは重い鎧をつけているにも関わらずするすると登っていった。

 僕も負けずにするすると登っていった。

 出てみると、本当に神殿の真後ろのようだった。

 眼前に巨大な建物が迫っていた。

 ここは木々や草むらに囲まれて死角になっていた。

 「あまり、手入れはしていないようだな。」

 アルティースが周りを見ながらいった。

 「おかげで見つかりにくくなって助かる。」

 「それで、中にはどうやって進入するの?」

 「それは夜になってからだな。」

 僕らは夜になるまで腹ごしらえをして休息した。

 「実はこの建物は昔からあったものを改造したものに過ぎないのだ。」

 アルティースは言った。

 「設計図さえ手にいれられれば抜け道のひとつやふたつは見つかるものだ。」

 「で、どうやってはいるの。」

 「それによると、この近くに廃屋があるはずだ。そこから入れるはずだ。」

 それはすぐに見つかった。

 「よくまだあったね。」

 「そこまで気がまわらない連中の集まりだからな。」

 僕らはそこから、進入した。

 通路は一直線で、地下の酒蔵に出た。

 「こんなところに出るのか。」

 「では、急ぐぞ。」

 アルティースと共に見つからないように、そして静かに上を目指して駆け出していった。


『決戦』


 石造りの階段をのぼり終えた僕らは、最高司祭のいる部屋目指していった。

 「どこのにいるのだろう。」

 「中の部屋割りは結構変わっているからな。私にもわからぬ。まあそれらしいところにいるだろう。」

 ここは、厨房の付近だった。

 夜中であるので、人影は見えなかった。

 ネズミならいるかもしれないけども。

 「静かに行くぞ。」

 アルティースは言った。

 「でもプレートだとがちゃがちゃ言わない?」

 「いままで、この鎧が音をたてたのを聞いたことがあるか?」 そういえばないなぁ。

 「ううん。」

 「そうだろう。これは特殊な鎧だ。滅多な事では音もたてないし、軽い。」 なるほど、そうだったのか。

 僕の疑問は氷解した。

 「では、行くぞ。」

 夜になって、暗くなった通路を進んでいく。

 驚くほど無防備だった。

 衛兵の陰すらも見えなかった。

 まさか、異教徒がこんなところにいるとは思わないものな。

 中央玄関のホールに僕らは出てきた。

 やっぱり誰もいない。

 門の外で誰かが見張っているらしかったが、内側は明かりもなく静かだった。

 「本当にこの中に人がいるの。」

 「間違いなく、ここが竜牙聖殿だ。夜はさすがに人はいないのだろう。だが、司祭クラスの人間は必ずいるはずだ。」

 「2階を見てまわろうか。」

 中央の階段をのぼって、2階へと行く。

 ここもがらんとして静かだった。

 「ひと通り、見てまわろうか。」

 ぐるっとまわってみたけども、それらしき部屋は存在しなかった。

 「こっちは全部空き部屋だったよ。」

 「こっちもそうだ。」

 「どこにいるんだろう。」

 「そうだな。」

 アルティースは屋敷の図面を取り出して見ていた。

 しばらくして、気がついたように言った。

 「ここから地下にいける階段がありそうだな。」

 アルティースの指さしたところは、1階中央奥にある何もない空間だった。

 「じゃあ、そこに言ってみようか。」

 階段を降り、その場所にいってみた。

 「なんか、ここが開きそうだよ。」

 見るからに怪しそうな部分を指さしていった。

 「どれ。」

 アルティースがその部分にふれると簡単に隠し扉が開いた。

 その奥には地下に続く階段があった。

 僕らは中に入って、静かに扉を閉め直した。

 そのとき外が急に騒がしくなった。

 「見つかったのかな。」

 「いや、そんなはずはないはずだ。」

 アルティースは断言した。

 しばらく耳を済ませていると、「侵入者だ。門の方へ急げ。」と聞こえてきた。

 「僕らの他にも侵入者がいるみたいね。」

 「私以外にそんな奴がいるとは思わなかったぞ。」

 アルティースは失笑した。

 「逆に言えばチャンスだな。奴らが気を取られている隙に行くぞ。」

 地下に続く階段を降りていった。

 そこに広がっていたのは地下の礼拝堂みたいなところだった。

 眼を凝らしてみると奥の方で何かやっている人間が数人ほどいた。

 「剣の力の一部を使うぞ。」

 アルティースは、何やら呪文を唱えた。

 次の瞬間、僕は強烈な魔力を感じた。

 「魔法の防壁だ。少しぐらいの魔法ならたやすく跳ね返す。」

 そして息をひそめて言った。

 「行くぞ。」

 音を消しながら、僕らは急接近していった。

 やはり、そこにいたのは竜牙教の司祭達だった。

 完全な不意討ちとなった。

 構えていた剣をふるった。

 向こうが気がついた瞬間に僕らはふたり打ち倒した。

 「衛兵はどこだ。侵入者だ。」

 一撃を受けなかった司祭のひとりが叫びながら近くの紐をひっぱる。

 部屋中に大きなベルの音が響いた。

 他のふたりは呪文を唱えていた。

 ホールドの魔法らしいな。その口調ですぐに判断がついた。

 次の攻撃に移る前にその呪文は僕らの方へ飛んできた。

 しかし、それは到達する前に障壁によって四散してしまったようだった。

 「えぃ!!」

 次の一振りで、残りの敵をすべて打ち倒してしまった。

 「弱すぎるよね。こいつらは。」

 「まだ奥に親玉がいるようだな。」

 アルティースが奥を指さして言った。

 「そうみたいだね。」

 さらに奥へ続く空間がそこにあった。

 それは下り坂になっていた。

 「追手はこないか。」

 「いや、今のところその気配はないよ。」

 もう一組の侵入者に気を取られていたのか、衛兵がやってくる気配はなかった。

 そのまま、下へ降りていく。

 眼の前に大きな扉があった。

 「鍵がかかっているな。」

 アルティースは一目見て言った。

 「開けれるか。」

 「僕には無理だよ。」

 大体僕は戦士であって、盗賊ではない。

 「少々荒っぽいがこうするか。」

 アルティースは剣をふるった。

 扉は見事に砕けた。

 「やけに荒っぽい侵入者ですね。」

 奥から声が聞こえた。

 「自ら生け贄になりに来るとは感心な方々です。」

 「おまえは誰だ。」

 僕は叫んだ。

 「私ですか。私は竜牙教の最高司祭アーディル・ファンレビュート。もっともすぐ死ぬ人に名前を教えてもしようがないでしょうがね。」

 口の端を少し上にあげて皮肉っぽく笑った。

 「ついに追いつめたぞ。潔くこのやいばにかかって地獄にいってこい。」

 アルティースが叫んだ。

 「おやまあ、威勢のよい騎士なことだ。まあ私は竜牙様の第一のしもべ。死んだとしても竜牙様との一体になれるだけで地獄などに落ちるはずがありません。もっともあなたに殺されるような事は無いですがね。」

 アーディル・ファンレビュートは、そういう片手を振り上げた。

 すると後ろから何体かの竜型の物体があらわれた。

 「さぁ、竜牙の騎士たちよ。彼らを生け贄として受け取れ。」

 そういうと、その竜型のものは僕らに襲いかかってきた。

 「行くぞ、ルーエル。」

 アルティースは叫んだ。

 僕も「静かなる使者」を構えて敵と交戦する。

 竜型のゴーレムに、切りつける。

 少しずつだが確実に当てていく。

 敵の動きもよくわかった。

 あの程度なら今の僕にはたやすくかわせる。

 アルティースの方は、すごかった。

 敵に触れるだけで、敵の動きは停止していく。

 あの魔剣の力なのかな。

 僕も頑張らなければ。

 そして、数分かけて僕がようやく1体を倒した頃アルティースは残りすべての動きを停止させていた。

 僕の方は粉々に砕け散っている。

 「ふむ、思っていたよりかは強いらしいな。しかし、その程度なら私を倒す事は到底出来ないだろう。」

 竜牙教の最高司祭は妖しく笑った。

 「これは小手調べに過ぎぬ。次のはもっと手ごわいぞ。」

 そして、再び右手を上に振り上げる。

 「竜騎兵よ。あのふたりを打ち倒せ。」

 竜騎兵と呼ばれあらわれたその存在は、金属光沢をはなっていた。

 「金属製のゴーレムか。ちとやっかいだぞ。」

 剣を構えなおした。

 アルティースはそのまま飛び込んでいった。

 今度の敵はなかなかすばやかった。

 こちらの動きを関知しているかのように攻撃をかわしていく。

 ふたりでかかっても、こっちはかわすのが精いっぱいでいつ直撃を食らうかはわからなかった。

 アルティースは、捨て身で飛びかかった。

 「あっ。」

 竜騎兵の攻撃はその瞬間アルティースを直撃したかに見えた。

 しかし、アルティースは吹き飛ばされはしたものの衝撃を剣で受けとめていたおかげでダメージはほとんど受けなかったようだ。

 そして、同時に竜騎兵の動きは止まった。

 「おかしい、なぜ動かぬ。妖しげな事を・・・。」

 アーディルは言った。

 「では呪文の方はどうかな。」

 アーディルは呪文を唱えた。

 「あれは、古代魔法だ。気をつけろ。」

 アルティースはアーディルに飛びかかる。

 僕も突進していった。

 しかし、魔法の詠唱の方が先に終わったようだった。

 僕らはそこにたどり着く前にはじき飛ばされた。

 「障壁をはらせてもらった。次は・・・」

 アーディルは再び呪文を唱えた。

 アルティースも剣に向かって魔力を解放するコマンドを唱えた。

 ふっと、周りのエネルギーが無くなっていく感触を味わった。

 「やはり、その剣は妖しかったか。」

 アーディルが詠唱を止めて呟いた。

 「大気中のマナをすべて吸収させるとは考えたな。だが、時間稼ぎのお遊びもそろそろ終わりだ。」

 最高司祭は高笑いをしながら叫んだ。

 「竜牙様はすでに復活した。おまえらなどひとたまりもなくかたずけるであろう。」

 最高司祭はさらに笑った。

 「これでこの世は竜牙様のもの。そして私はこの世界の支配者というわけだ。」

 そして唇をねじ曲げて言った。

 「まもなく、後ろの門からあらわれる。そして私と同一化するのだ。」

 後ろの壁が崩れ巨大な門が出現した。

 「前口上はそれで終わりだろうな。」

 突然後ろの方から声がする。

 聞きおぼえがあるな。

 僕は思った。

 振り返るとそれはあのときの流浪の戦士だった。

 「おまえが竜牙とか呼んでいるのは古代文明の遺物のひとつにすぎないのに。」

 「しかし、もう手遅れだな。」

 アーディルは「な」を強調した。

 後ろの門が開き、巨大な竜を型どった銅像みたいなものがあらわれた。

 4,5mはあった。

 アーディルはその中に吸い込まれていった。

 その奥から司祭は叫んだ。

 「これが、竜牙様よ。まだ完全ではないが。すぐに完全になる。」

 その声はだんだんと竜牙にとけ込んでかき消えていった。

 それは次第に膨張していく。

 「危険だ。早くこの建物から脱出しろ。」流浪の戦士が叫ぶ。

 僕らは駆け出して、玄関から外に飛び出す。

 建物は徐々に崩れ落ちそこから巨大化した竜牙が姿を現した。

 「ワガナハ竜牙コノヨノ始マリ。ワレハ原初ニモドルコトヲホッス。」

 そして、僕らを向いて言った。

 「ソレヲ邪魔スル者ハ。真ッ先ニ滅ボサネバナラヌ。」

 「君らは後ろへ引け。」

 流浪の戦士は叫んだ。

 戦士はバスタードソードを構えた。

 僕は呆然としていたがアルティースに引っ張られて後ろに下がった。

 「ここはあいつにまかせた方が良いようだな。」

 「本当に大丈夫かなぁ。」

 「あれの腕は並じゃない事はわかっているだろ。」

 流浪の戦士は敵の動きを見ていた。

 不意に竜牙の尻尾が揺り動かされ、戦士に命中した。

 「ああっ!!」

 叫んでしまったが、流浪の戦士はすでに僕の視界から消えていたのだ。

 竜牙自体の身体を踏み台にして上へ上へと飛び上がっていく。

 そして、頭上に一撃を与える。

 そのまま空中を滑空して地上に降り立つ。

 そのときアルティースは言った。

 「竜牙から瘴気のたぐいが吹き出しているようだ。もっと下がるぞ。」

 「でもあの戦士は大丈夫かなぁ。」

 「見たところ平気のようだ。」

 竜牙と流浪の戦士との決戦はさらに続いた。

 竜牙は息をつかせぬような攻撃を送り出していた。

 突然火花が散ったり、炎が燃え上がってりした。

 それが幾度もなく続くので、そこら一帯はちかちかと点滅しているようだった。

 流浪の戦士はそれらを見切っているかのようにかわしているようだった。

 とは言ってもあれだけの攻撃を受けてやられていないのだからそう思ったに過ぎないのだけど・・・。

 「アルティースはわかる。動きが。」

 「いや全然追いつかない。」

 アルティースもこうだった。

 流浪の戦士は巧みに攻撃をかわしつつ着実にダメージを与えているようだった。

 「もはや人知を越えた戦いだな。」

 アルティースは呟いた。

 いったいあの戦士は何者なんだろう。

 僕も思った。

 あれほどの動きを続けられるなんて・・・。

 しかも、縦横無人に飛び跳ねていた。

 竜牙の動きは鈍くなっているような気がした。

 しかし、ダメージを受けた個所は徐々に回復しているようだった。

 「あれじゃあ、戦士が疲れて倒れてしまって終わりだよぉ。」

 そうすると僕らはどうしようもならないから終わりだな。

 「この剣があれば賞賛は少しは残っているだろう。」

 アルティースは言った。

 「でもその剣はどうなっているの。触れただけで敵を動かなくしたのでしょ。」

 「そう、これは竜牙に関係するあるものがあってそれに作用してそれ本体を破壊するんだそうだ。良く理解できなかったが。」

 「ふーん。全然わからないや。」

 竜牙と戦士の戦いは一進一退を極めていた。

 竜牙の攻撃はことごこくかわされ、戦士の攻撃はあたるがすぐに再生されて行くからだ。

 「どうなるんだろうこれから。」

 「私にも予想できないな。」

 その後息詰まる攻防がさらに続いていた。

 僕らは黙ってそれを見ているしかできなかった。

 アルティースもそうだった。

 「私が倒したかったのだが、やはりあそこまでいくと無理だな。」

 アルティースは呟いた。

 「愚カナル反逆者ヨ。ナゼワガ身ニソコマデ刃向カウ。」

 竜牙の声が聞こえた。

 戦士は答えているようだったが遠すぎてわからなかった。

 その一瞬の隙に流浪の戦士は跳躍し、疾駆して僕らのところまで来た。

 その息は切れていなかった。

 「その剣を貸して欲しい。いい加減とどめをささないとな。」

 「これか。」

 アルティースは言った。

 男はうなずいた。

 「いいだろう。しかし、なぜこの剣がいる。」

 「この剣の力があれば竜牙を楽に倒せるからな。」

 「わかった。」

 アルティースは剣を渡した。

 戦士はバスタードソードをその場に突き刺して再び竜牙に向かって言った。

 「まだ下がる必要があるな。」

 流浪の戦士がここにきている間に、向こうもこっちの方に近づいたらしくそいつは眼前にいた。

 「そうみたいね。」

 流浪の戦士は左手でバランスを取り、右手に剣を持ち跳躍した。

 息をつかせぬ攻撃をよけながら。

 そして、頭上から剣を一振りした。

 流浪の戦士は地上に降り立った。

 後ろを振り返って。

 竜牙は動きを停止させた。

 そして、地に崩れ落ちた。

 「やれやれだ。」

 戻ってくるなり言った。

 「この剣を返さないとな。」

 アルティースの剣を返すと自分のバスタードソードを地面からぬいて泥を払った。

 この不思議な人物に対して聞きたいことがいろいろあった。

 「いったい何者なのあなたは。」

 「ただの人間に過ぎない。しかし、少し特殊だ。」

 それはあれだけの動きをするのは尋常じゃないよな。

 「あの竜牙はなにものなのだ。」

 アルティースが聞いた。

 「古代文明の遺産のひとつだ。説明しても理解できないだろうからそれ以上は説明しない。」

 「古代文明と言うと例の魔法帝国の事?」

 「そうだと言っておこう。」

 「あの紫石竜の涙はどうやって手にいれたのだ。そしてなぜ私に与えた。」

 「それについては答えられない。まぁ気まぐれだろうな。」

 気まぐれにしては出来すぎていると思う。

 「では、また会えたら会おう。」

 そういうと彼方へ消え去ってしまった。

 「まだ聞いてない事があるのに。」

 「もしかしたら、あの弱点を教えてくれたのは彼かもしれない。」

 アルティースは呟いた。


『そして・・・』


 流浪の戦士が去って、ここに残されたのは僕らふたりだけになった。

 竜牙教徒は四散してしまったみたいだった。

 街はがれきの山となっていた。

 空は妖しくきらめいている。

 青い月が輝いていた。

 アルティースは呆然と立ち尽くしていた。

 「これで、私のするべき事は終わった。」

 アルティースは静かに言った。

 「もう、終わったのか。」

 静かに感慨深げに言った。

 「僕がアルティースについていくって言ってから・・・。長かったけれども今思えばほんのひとときの出来事に過ぎなかったもの。」

 「まるで、夢でも見ていたようだ。」

 アルティースは言った。

 「長い夢を・・・。ここにいたるまでは長かった。終わってみれば空虚だけが残っているような気がする。」

 「そうだね。」

 時は静かにゆっくりと流れているようだった。

 「星がきれいだよ。」

 「ああ。」

 そして、静寂の響きが夜にこだまする。

 ただ、感傷にふけっていたかった。そんな気分だった。

 アルティースもそうだったと思う。

 時は流れる。

 星ぼしはゆっくりとその姿を移し、やがて夜が白み始める。

 「もう朝か。もう少し眺めていたかったのに。」

 「そうだな。」

 アルティースは静かにうなずいた。

 「しかし、天が刻々とその位置を変えていくのに私たちがいつまでもここにいる訳にも行かないだろうな。」

 アルティースは背伸びをした。

 「これからどうしよう。」

 アルティースとももうお別れかな。そんな気がして言った。

 「さぁ、何にも考えてないからな。」

 アルティースはさらに続けた。

 「私は何もする事がない暇人になってしまったからな。ルーエル。おまえが行き先を考えろ。今度は私がおまえの後についていく事にする。」

 アルティースは微笑んだ。

 「えっ、ほんと?」

 自分の耳を疑ってアルティースに聞き返した。

 「ああ、私がついていないと何をしでかすとわからないからな。おまえは。」

 もう、そんなことは耳に入っていなかった。

 「じゃあ、すぐに出発しよう。一度行ってみたかったところがあるんだ。」

 「すべておまえにまかせるぞ。」

 僕はアルティースを抱きかかえた。

 「じゃあ、僕が馬がいるところまで運んで行くよ。」

 「意外に軽いんだね。」

 「これ、女性に向かってそんな事を言うものじゃない。」

 アルティースは笑った。

 「いや、鎧がだよ。」

 「ああ、そうか。」

 またアルティースは笑った。

 でも、ちょっとつらいかな。

 あれだけすごい戦いがあったのに馬達は大丈夫だった。

 「フェンレフレーヴェンただいま。」

 馬がじゃれついてきた。

 「よせやい。いまから、遠くへ旅に出かけるぞ。」

 フェンレフレーヴェンは高くいなないた。

 とてもうれしそうだった。

 「さあアルティース。早く行こうよ。」

 そして僕とアルティースの新しい旅がはじまる。


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