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ネクストステージ  作者: 藤 一 
第一章
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第四話

僕が、ブレイン・リヒトがブレイン家の嫡男としてこの世に生を受けてからはや十二年の歳月が過ぎた。

父のデマクはヘルメス王国軍の少将をやっている。

生真面目で融通が利かないが熱血漢で情に厚い。軍上層部にいるせいか男は強くあるべきと幼いころから鍛えさせられている。

一方、母のイシスは穏やかで常におっとりとしている。

父のデマクを支えようといつも努力を続け、僕やルーチェにも愛情を持って接してくれる優しい人だ。


そんな恵まれた僕にも、家族にすら話せない秘密がある。


僕には”前世の記憶”がある。

この世界とは時代が違うだけなのか、根本となる世界が違うのかは分からないが”今”の僕が生まれる前の僕の記憶を持っている。

地球の日本という国で育ち、十八歳で若くして死んだ僕。

生まれた瞬間から記憶があったわけではない。

三歳のころ、謎の奇病で僕は苦しんでいた。

ブレイン家の主治医があらゆる手を尽くしたが一向に良くならない。

高熱にうなされていた僕はずっと夢を見ていた。生まれる前の記憶を繰り返し、繰り返し。謎の奇病から三日三晩経った頃には体は正常に戻っていた。

そして、残ったのは前世での記憶。

三歳の脳に十八年もの情報が入ったのだ。それは熱ぐらい出るだろうと今では思う。当時はひどく混乱したものだ。熱のせいで頭がおかしくなってしまったと屋敷内ではささやかれてしまった。


この世界は過去なのか、未来なのかそれとも違う世界なのか。それが最初に首をもたげた疑問だった。

ヘルメス王国以外もなのかは分からないがこの世界の言語は日本語と変わらない。文字もだ。平仮名、カタカナに終わり漢字までも。


そしてこの世界には”術”というものがある。”術”には数えきれない程の種類があり、様々な超常現象を起こすものが多い。そしてその中には前世で聞き覚えのあるものもいくつかあった。


この点から出た答えは「謎」であった。でたらめな点が多いのだ。国の名前などは横文字なのに対し、使われる言語は日本語だという点。そして前世の世界ではなかった、超常現象をおこしてしまう”術”という謎の力。おそらくは別世界だと思いながらもうっすらと前世の世界からの影響が感じ取れてしまうからだ。


そして僕の二つ目の秘密。

癒しの力である。右手で触れたものを癒す力。

このことに気付いたのは前世の記憶が戻ってからしばらくしてからのことだった。街へ出かけているときに路地裏で弱っている犬を見つけた。衰弱しきり、どこかで怪我をしたのか足を引きずっていた。

屋敷に持ち帰って治療してあげようと思い、右手で触れた瞬間に僕の中から何かが抜け落ち子犬の中に入っていった。すると子犬はたちまち元気になり走り去っていった。

それから、この力を虫や花でためし理解していった。両親に遠まわしになんでも治せる”術”はあるのかと聞いたところ大笑いされ否定されたのでこの力は自分だけの秘密にするようにした。


五歳のころ初めて友人ができた。

そのころになると僕はよく街へと繰り出しふらふらと出歩いていた。母は心配していたが、父は「元気があっていいじゃないか」と出歩くことを許してくれていた。

そんな時、果物売りをしている少女を見かけた。ぼろ布を身につけ、汚れた顔も気にせず、道行く人に無碍にされながらも必死に果物を売っている。

ヘルメス王国は比較的に治安がいい。日本を知っている僕から見てもだ。それでも貧しい者たちはいる。家を追われ路地に座り死んだ目をした人たち。


だから僕は、いつも通りその少女も気に留めるつもりはなかった。しかし、目に留まるものがあった。僕とは対になっている金色の髪と黒い瞳。そして、なによりも笑顔だった。生きたいとその笑顔が、瞳が語っていた。

あの時の気持ちは同情ではなかったと言い切れる。

応援したかったのだ。

その少女を。


「林檎を一つもらえないかな。」


僕がそう声をかけると少女はなぜか顔を赤らめながらもはにかむような笑顔で林檎を売ってくれた。

僕のお小遣いでは少し高かったのだがおいしそうな林檎だった。

その日から僕は屋敷から街へと繰り出し、彼女のところへ通うようになった。

日に日に打ち解けてくれた少女は僕にいろんなことを話してくれた。

元々いた国をでて転々としてきたこと、お母さんが病気になってしまって代わりに働いていること。

良くあることなのだろう。

仕方がないことなのだろう。

でも僕は関わってしまった。

知ってしまった。

なら精一杯助けてあげるのが人だと僕は思ったのだ。


思い立ってから行動までは早かった。

少女に母の居場所を聞き、僕の能力で病気を治した。

そしてこんな苦しい生活から抜け出せるように父と母を説得して二人が屋敷で働けるようにお願いした。

能力のことははぐらかしたが、二人には僕ができる精一杯のことができたと思う。

僕は道を示しただけあとは彼女たち次第だろう。


今日もそろそろシェリさんが起こしに来る時間だ。

それまでにはルーチェを着替えさせなきゃ。



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