第一話
昔から僕は病院が嫌いだ。
独特の香りや緊張感のある雰囲気。貼り付けた笑顔で接してくる医師や看護師。どこを見ても白い室内。
否応なしにも、自分の立場が理解させられてしまう病院が本当に嫌いだった。
予兆は些細なもの、首の痛みからだった。
始めのころは大した痛みでもなく気にせずに済んだのだが、日に日に増していく痛みに耐えきれず地元の大学病院に来たのが、高校二年生に上がったばかりの時だった。
”転移性骨腫瘍”
診察を受け重々しい空気の中、医師から宣告された病名だ。要するに癌。
肺がんが発症し脊椎へと転移したとのことだった。医師から言われた余命は約一年。手術治療を行ったとしても手遅れとのことだった。
その日から病院が僕の第二の家となった。
二週間に一度、抗がん剤治療を受けに通う日々。
学校や友人には事情をある程度説明した。皆が心配し、励ましてくれた。
担任の三枝先生は親のいない僕を心配し、家に来ては手料理を振る舞ってくれた程だ。
家と学校と病院。
それが僕のすべてになった。
そして今日。
医師の宣告から十一か月が過ぎた。
鏡に映る僕は、抗がん剤治療により下痢や嘔吐が続き、以前の自分からは想像できないほどに痩せこけている。頭からは髪がなくなり帽子を手放せなくなっていった。食欲もなく、体の痺れからまともにものも持てないほど。
最近は癌による痛みもひどく、薬を飲まなければ眠れないほどだった。
骨が溶け、神経が焼き切れるような痛みは狂ってしてしまうほどに僕を苦しめた。
しかし、それも今日はなぜか体が軽かった。なぜだろう。今日が特別な日だからだろうか。
ベッド脇にある学生服にそでを通す。
今日は卒業式だ。