6 〜もう一人の能力者〜
「あぁ…どうすればいいのかな。」
一枚の手紙を見つめながら軽くつぶやいた。
私、坂道 雪に届いた手紙。
それには何かを刀に変える能力が手に入ったと書いてあった。
あまり信じ難い話だが、今持っていたペンは刀に変わった。
テレビをつけて気づいたが私たち能力者は人に殺されるかもしれないらしい。
理不尽だ。
あまりに遅くおきすぎた。
今は13時四十三分。
寝すぎてぼっとしていた頭も明細になってきた。
外に出るのが怖い。
もしかしたら今外に出たら殺されるかもしれない。
中にいるのが怖い。
もしかしたら中に入ってくるかもしれない。
「誰か…助けて…」
どうせなら寝てる間に死にたかったかもしれない。
空はいつもと変わらず天気で暖かい日差しを遮るカーテンは少し赤く黄色く染まっていた。
ピリロンッ♬
私の女子力の無い着信音が聞こえた。
こんな時に誰だろう、と重々しく携帯を取り出しみると私の親友の名前がそこには表示されていた。
「ユカ…」
『今日学校来てないけどどうしたの?』
そもそも学校があることすら忘れていた。
なんとなく外に出るのが怖く、ただ行かないといけないような気がして制服に着替える。
ユカがサボって家に着てくれるらしい。
ピンポーン
インターホンがなり、私は安心感に包まれた。
「ユカッ!」
ドアがあいた途端に思わず抱きつく。
「わっ!ユキどうしたの?」
「あのね、私能力者に選ばれたの…」
「え…?」
リビングに入り、向かい合ってソファに座った。
「ねえ、外に出たら殺されちゃうよね…」
「気づかれたら襲われるに決まってるわ、安全なここにいた方が良いと思う。」
自覚するほどずっと手が震えている。
さっきからテレビに襲われている能力者の映像が流れるのだ。
「こんなの見てたらもっと怖くなるよ、ユキ。」
私はユカがテレビを消そうとし、リモコンをとった手を止めた。
「え、ユキ?」
「私だけこんなに隠れているのに、同じ人の死を見ないなんてダメだよ。」
そう、私は戦いに参加せず、精神的に逃げ続けているのだ。
「…そっか。本当に酷いよね…こんな弱そうな人も襲うのよ。」
間一髪でよけているその姿は、いつ殺されるのかもわからず、見ていられない程だ。
その中に、楽しそうに仲間で行動している途中、仲間に殺される映像も流れた。
思わず口を塞ぐ。
これは死んでいる。
「酷い…」
ユカがぽつりとつぶやいた。
裏切り。
ユカは大丈夫。
だって、私と何年も付き合いがあるんだ、裏切りなんてない。
裏切りなんて…
「ユカ、ユカは、大丈夫だよね?」
「え?」
眉をひくりと動かした。
目の焦点は私にぴったりとあっている。
「もちろんでしょ…何言ってんの。」
「そ、そうだよね…」
さっきから、汗が流れ続けている。
「ユカ、ユカは本当に裏切らないの…?」
「…」
「…」
「答えてよ、ユカ。」
ねぇ、当たり前じゃんって言って。
「…」
「ユカ…」
「だって、私だって願いくらい叶えたいわ…」
ユカはポケットからカッターを何本も取り出すと、私に向かって構えた。
躊躇のないその姿勢に私はすぐ諦めた。
「ああああああ!!!!」
目をつぶりながらおろされた刃。
まだ死にたくないという想いが私に勝手に刃をかわさせた。
咄嗟に机の上にあるボールペンをとる。
「ユカの、バカ…!!!!」
大好きだったのに。
ボールペンを構えるとボールペンは日本刀の様なものになった。
すごい、本当に私能力者なんだ。
やすやすとカッターを跳ね返すと、ユカはその場にぺたりと膝をついた。
見下ろすユカは、惨めで、可愛くお化粧をした美人な顔は汗と涙でマスカラが黒い涙を流している。
私は剣を振り上げ、ユカの顔の十センチ右の床を刺した。
グサリとささり、ユカは気絶した。
「殺す訳、ないじゃん。」
きっと、もう逃げなきゃダメだ。
ここにいたって、いつか見つかる事はわかってる。
私はお気に入りのスニーカーをはくと前を向いた。
「…いってきます。」
涙は我慢して、最後になるかもしれない我が家に別れを告げた。