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「手を離すな、走るぞ。」
そう言って足に力を込めると驚く早さで走り始めた。
それは私の身体が浮くほど。
「きゃあああああ!!!いや!!!いや!!!!!」
能力なのだろうか、追ってくる人の姿は一瞬にして見えなくなった。
「も、もう少し…うぇぇっ、もう少し気をつけてとか言ってくださいよ…」
酔った。
「知るかよ。」
その態度に無償にイラっときた。
「さっきからなんなんですか!?ユウトは殺したし名前も能力も名乗らないし!!!」
「高梨春人、能力は修復能力と俊歩、終わり。」
意外とあっさり名乗られた。
なんとなく、調子が狂う。
「ハルト…さん、ですか。」
ハルトはすぐそばにある自動販売機を思い切り蹴り中のコーラとスポーツドリンクを取り出しスポーツドリンクを私に投げた。
なるほどそんな使い方もあるのか。
感心…してしまった。
「仲間割れかは知らないが、俺はお前といたもう一人を倒さなければならない、そしてお前の能力を持っている人間もだ。」
「私の能力を持っている人…ですか。」
「そ、まずそっちから、なんだけどどんな顔なの。」
「何がですか。」
話の半分もついていけない気がする。
「だから、お前を殺した人間だよ。」
「そんなの知るわけないじゃないですか!」
「使えな!!お前もうどっか行け!!!」
「ひ、酷い!使い捨てするんですか!?アカラギに聞かないといけない事が山ほどあるんです!絶対いやです!!!」
この人と話してるとなんか疲れる。
スポーツドリンクの蓋を開けると一気に飲み干した。
久しぶりの飲み物だ。
「はぁ…近くのフードコートで殺された…んだと…思います…。その時から能力使えなかったし…場所知らないでしょうし私がいないとダメですよね!?」
ハルトはいやそうな顔をした後仕方ないと言う様にため息をついた。
「…はやく行くぞ。」
フードコートについた。
追いかけられる度に走られる為私の胃の中はすでに嘔吐準備OKだ。
今頃ならまだ能力を自慢しているか殺されかけているだろう。
しかし街は広い、探すのは難しい。
「ハルトさん…何かいい策は思いつきませんか。」
「上かな。」
「上…?」
上を見上げると月がこちらを見ていた。
まぶしい、なんでこんなに眩しく感じるのだろう。
「高いビルといえば?」
「由紀治ビルですかね…でもなんでですか?」
「もう能力者は俺とアカラギ…?とそいつだけだ、なら、今頃は追われているつまり」
「高いところから追われているのが何処にいるのか探すんですね!」
「行こう…」
不機嫌そうな顔をした。
最後まで言いたかったのだろうか。
「ハルトさんは何が願いなんですか?」
「…殺された友達を生き返らせたいだけ。」
「彼女ですか?」
「違う。」
即答された。
私はこの人に友達を殺された。
「私も友達を生き返らせたいです。」
「俺を殺せば叶うんじゃね」
私がこの人を殺す?
「まあアカラギに殺されて終わりだろうな。」
「うっ…」
笑えない。
ビルの屋上に来ると下を見た。
吸い込まれそうだ。
私がもし、この人を殺したらどうなるのだろう。
今下に見える暗闇のように、私の心も黒く塗りつぶされてしまうのだろうか。
「見つけた。」
ハルトがニヤリと笑った。
「殺すのを見たくなかったらここにいな。」
「え?」
ハルトはそう言うとビルから飛び降りた。
「ええっ!?!?」
下を見たがもうすでに誰もいなかった。
私には追いかける勇気は出なかった。
「このまま…逃げられたりして……」
このまま、一人で終わる?
ハルトがアカラギを殺した後に殺せば、願いは叶う。
みんなを生き返らせれる。
そんな勇気、私にはない。
人なんて殺した事ない。
人が殺されるのだって、見たことなかった。
殺されそうになる事だって、なかった。
ただただ胸が痛くなって、屋上の風がふくなか私はその場にうずくまる事しかできなくなった。