二章1 一難去ってまた一難、二難、三難
あの後は特に何もなく順調に進んでいる、もう少しでディケイ町に着くとのことだ
決して馬車での移動行程の描写がめんどうだったとかそんなんではない、本当に順調すぎて何も描写することがないだけである
「ねーねーディケイ町ってどんなとこなの?」
俺はコミュ章に話しかける
マール村での一件以来、コミュ障も普通に話してくれるようになった。もうコミュ障の名も返上かも知れない
「どんなところって言われてもな…割と商業が盛んだったかな、んー何か他に特色とかあったかなぁ…?まぁ、後は着いて実際に見てみた方が早いだろう」
こいつ説明役を投げ出しやがった、何て野郎だ職務放棄だろそれ
何て言っていると御者台の方からおっちゃんの声が聞こえてきた
「二人とも、町が見えてきたよ」
どうやら町が見えてきたようだ
天蓋から顔を出して外を見る、すると前方には前の村とは比較にならないほどのでかさの町が見える
というか、あれは…何か、町全体が大きな壁に囲まれている
すごくファンタジーちっくな町だ、いかにもな異世界の町ですって感じだ
それに、町の右奥にパルテノン神殿みたいなのフォルムをした建物が建っている、流石異世界だ、ファンタジー臭全開じゃないか
「町のあのでっけぇ壁ってなんだよ、まるでファンタジーじゃないか。それに何だあの神殿みてーなの」
「何だファンタジーって…ある程度の規模の町なら、壁位あるだろ、そりゃ」
「何その壁とかあって当たり前じゃんみたいな言い方、止めてくれます?そういうの、ちゃんとした説明を所望します」
「何なんださっきからお前は…モンスター共から町を守るために壁があるって説明の何が不満なんだお前」
「はーあぁ?お前さっきモンスターがうんぬんとか言わなかったじゃねーかおい、ってか何だモンスターって、やっぱそういうのいるのな」
「モンスターがいるって、そりゃいるだろ、お前も実際に戦ったじゃねーか、ゴブリンや骸骨剣士と」
「いやだから俺は知らねーっていってんだろうが決め付けないでくれます?」
「さぁさぁ二人とも、町に着いたよ、馬車を預けてくるから、二人は馬車から降りてね」
言い合いをしているうちに着いたようだ
馬車から降りて町を見上げる近くでみると壁がよりでかく見える
さて、町についたのは良いけど、これからどうするか…コミュ障に金をせびって当面の生活費を貰うほか無さそうだ
「さて、剣士さんここまで護衛ありがとうございました、これが報酬になります」
コミュ障はおっちゃんから報酬を貰っている
どんな貨幣なのかと見ていると、何と円だった、日本円
紙幣に印刷されている顔は違うが、あれ絶対日本円だ、何なんだこの世界、異世界のくせして何で日本円が流通してるんだ…でも分かり易いからその方が助かるな
「さて、これからミナマエ君はどうするんだい?」
おっちゃんが俺に聞いてくる
うーん、本当にどうしよう、当面の生活費はコミュ障からいただくが、その後どうやって金を稼ぐかが問題だ
「お前、あれだけの強さがあるんだから冒険者にでも登録すればいいだろ」
またしてもファンタジーちっくな単語が飛び出した。冒険者だって?
「何だ冒険者って、あれか?冒険者ギルドってのがあって、そこにある様々な依頼をこなしていって、ゆくゆくは最高ランクのSランクを目指すとかそんなんか?そんなんなのか?あ?」
「何でケンカ腰なんだてめーは…ってかその通りだよ、なんだよ知ってるんなら話は早い、登録して冒険者になれば、お前なら生活には困らないだろう、まぁ登録するには登録料が必要だが、そいつは自分でなんとかするんだな」
コミュ障がにやけ面で言ってくる
無一文からどうやって金を手に入れればいいんだっつーの、俺は錬金術師じゃねーんだぞ
「そこで、一つ相談なんだ「断る」
「おいまだ何も言ってねーだろくそ」
「どうせ碌でもないことに決まってるだろうが」
「まぁ聞けよ、俺は金が無い、無一文なわけだ、これはいけない。いけないので、俺に金をくれ」
「清々しい乞食っぷりだなてめぇ、答えはもちろんノーだ」
「おーおー良い返事じゃねーか、骸骨剣士に殺されそうになってたへっぴり腰を身を挺して助けてやったのは誰だっけぇ?」
「さーて、誰だったかな、覚えてねぇや」
こ、こいつ…白を切るつもりか、ならこっちにも考えがあるぞ
「そうか、お前はそういう態度を取っちゃうわけか…良いんだよ俺は?その冒険者ギルドでお前のあることないこと言いふらしてきても」
「おいまてよ、そういうのは良くないと思います、早まるなよ」
「じゃあどうすればいいか分かるよなぁ…?」
俺はコミュ障にしたり顔で言い放つ
横からおっちゃんの蔑む様な視線を感じるが気にしない
するとコミュ障は財布から俺に金を渡してきた…一万円だけ…だと…?
「おいまてよ何だ何だよこのはした金はよぉ、舐めてんのかコラおい」
「せっかくくれてやったのに何だその言いぐさはえぇオイ?そんだけありゃ登録料を払っても今日の寝食には困らねぇだろうが、何が不満なんだくそったれ」
「貧乏人はこれだから困る…まぁ、こいつで我慢しといてやるよ、ここまでありがとうなおっちゃん、またどっかで会おうな」
俺はそれだけ言うと冒険者ギルドへと向かって歩き出した
町の入口に案内板があるので迷うことなく着けるだろう
「おい何でお前も来るわけ?ここはもうさようならの雰囲気だったじゃん、違うの?」
何とコミュ障が付いて来るではないか
こんなお供は要りません
「何勘違いしてんのか知らねーけど、俺もギルドに用があるから行くだけだ、別にお前についていってるわけじゃねーっつの」
「あ、そーっスかーそりゃすんませんでしたー」
どうやら俺の勘違いだったようなので素直に謝っておく
っと、どうやらここが冒険者ギルドのようだ
いかにも冒険者ギルドですって感じの建物だ、いやよくわからないけど。まぁとにかく入ろう
「おっじゃましまーっす」
俺は元気にあいさつをして扉を開けると、中の人がこっちを見てくる、こっちみんな
掲示板っぽいところにいっぱい張り紙があったり、いかついおっさんとかエロい格好のお姉さんとか受付嬢さんなんかがいる、異世界っぽさ満点だ
さて、じゃあさっさと登録を済ませてしまおうと思っていると、薄汚ねー髭を生やしたおやじが声を掛けてきた
「よぉ、久しぶりだなカイル、景気はどうよ?そっちのガキは見ねぇ顔だな」
凄まじい馴れ馴れしさだ、どなたですか?
てかコミュ障の名前が判明した、カイルと言うようだ、でも呼んであげない
「よぉアーノルド、あぁ、景気は最悪だな、こっちのガキはこれから冒険者に登録する新人だよ、頭のイカれたクソガキさ」
おいおい随分な紹介の仕方じゃねぇかくそ野郎
俺も負けじと対抗する
「ずいぶんな言い方じゃねぇかコミュ障、骨野郎に無様に殺されそうになってた貧弱野郎め」
「て、てめぇ…相変わらず口の減らねぇ奴だな」
「骨野郎って…まさか骸骨剣士のことか?そんな奴に会ってよく無事だったなお前ら」
あれ?骨野郎は以外にも強キャラだったのかな?
いやいや…だって骨だぞ骨、ゲームでもああいうのは大して強い部類じゃないだろ
「あぁ、まぁ…な」
コミュ障が言葉を濁す
てかこんな話に付き合っている暇は無いんだよ、何が悲しくて男だけで雑談に興じなくちゃいけないんだよ
「とりあえず俺は登録してくるぞ、後は仲睦まじいお二人で乳繰り合っていてください」
俺がそう言うと、ギルド内にいた数名が二人を見てひそひそと何か言っている
「お前マジふざけんなよ?何根も葉もないこと言ってんの?」
「あぁ、すみません、随分中が良さそうでしたんで、てっきりそういう仲なのかと」
周囲からはやっぱりあの二人…とか、どっちが攻めなのとかいう腐った声が聞こえてくる
さ、流石にやりすぎたかな?関係ないアーノルドさんも巻き込んじゃったし
アーノルドさんを見ると、額に青筋を立ててピクピクしている、これはやばい
「ごめんなさい、調子こきました、みなさん、この二人は決してそういった仲ではありません」
「はぁ…まぁいい、ガキの言うことだ、気にする方が馬鹿らしいか…ったく、ふてぶてしい新人もいたもんだぜ」
おぉ、許されたぞ
やっぱり素直にごめんなさいするのが一番だよね
相変わらずコミュ障はこっちを睨んでいるがここはスルーして受付へ行こう
「お姉さん、冒険者の登録をお願いします」
「はい、登録料として5千円掛かりますがよろしいですか?」
受付嬢さんに話しかけると、営業スマイル全開で答えてくれた
つーか円って言ったな今、やっぱり通貨は円なのか
「はい、大丈夫です」
そう言って俺は一万円を渡す
5千円のお釣りが返ってくる、相変わらず紙幣に印刷されている顔は知らない人だ、この世界の人なのだろうか
「はい、それではこちらに必要事項をご記入ください」
紙とペンを渡され、記入していく。そういえば言葉も文字も日本語なんだな…俺が日本人だから自称神様はこの異世界に俺をよこしたのだろうか、だとしたら中々気が利いているじゃないか
記入し終わり、紙とペンを返す
「はい、えーっと、ミナマエ様ですね、では少々お待ちください」
受付嬢さんは紙をデスクにある妙ちくりんな物体に投入すると、ファックスみたいな音を出しながら金属っぽいプレートが出てきた、無駄にハイテクだ
「はい、こちらがミナマエ様のギルドカードになります、ご確認ください」
言われてカードを受け取る
カードを受け取るときに手が触れてドキッとしたりなんてしていない、してないったらしてない
カードを見ると、確かに名前や年齢、出身地、ランクが記載されていた、ランクはEになっている
最初はEから始まって最終的にはSになるのだろう、でも何でAの次がSなんだろう
「はい、合ってました、ありがとうございました」
俺がそういうと、受付嬢さんは何か面食らったような顔をした、え、何で?
「あぁ、すみません、随分ご丁寧な対応をなさるものですから、つい…こちらこそ、ありがとうございました」
何か変な事言っちゃったとかではなかったようだ、良かった
さて、これで登録も済んだわけだ、もう宿でもとって休みたいところだが、そうも言っていられない
コミュ障が一万円しかくれなかったので残り5千円しかないのだ、働かなければならない
恐らく掲示板に貼ってあるのは依頼だろう、一通り目を通して、受けられそうなやつがあったら受けよう
そんなことを考えていると、出入り口の扉が勢いよく開け放たれ、一人の男が転がり込んでくる
その男は慌てた表情で叫んだ
「た、大変だ!ドラゴンが、グリーンドラゴンがこの町に向かってる!」