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一章5 自覚のないゲス野郎 その名は水前 帝

歩き出して、ふとその足を止める

俺はこの世界の地理をまったく知らない、地理どころか何にも知らない

このまま適当に歩ったところで、迷子になるだけだろう

この少女はこの辺の地理に詳しいのだろうか、訊いてみる


「ひっ…わ、私の村は、盗賊に襲われて、もう誰もいないです…他の村にはいったことがないから、分からないです…」


何てことだ、とんでもない地雷を踏み抜いてしまった

頭を撫でてごめんねと謝っておく

しかし、これじゃあいったいどこに行けばいいのか分からない、どうするか…

これからどうすればいいかと思案していると、後ろから蹄の音が近付いてくる

なんだろうと振り返ってみると、そこには馬車がいた

馬なんて初めて見た、でっかいな…


「お前さんたち、どうしたんだね?こんな所で突っ立っていて」


優しそうな顔をしたおっちゃんが御者台から声を掛けてきた

これはチャンスだ、乗っけてってもらおう


「すみません、そこで盗賊に襲われて、ここまで逃げてきたんですが、何分道が分からなくて、立ち往生していたんですよ」


「確かにここに来る途中、盗賊と思しき死体があったが、凄惨な光景だったな、お前たちよく無事だったな」


「えぇ、何が起こったのかいまいち分からないんですが、とにかく僕たちは運良く助かったんです」


「そうか…隣のお嬢ちゃんはよほど怖い目にあったに違いないな、ひどく怯えているようだ、かわいそうに」


いいぞ…おっちゃんは同情してくれているようだ

これは付け入る隙は十分にありそうだ


「それで、あの…もしよろしければ、一緒に馬車に乗せてもらえませんか?」


なるべく貧弱一般人を装い、弱弱しく声を掛けてみる

こんな頼み方をされては断れまい


「あぁ、もちろんいいさ、旅は道連れって言うしね、中に入ってゆっくり休むといい。あ、中に護衛の剣士さんがいるから、仲良くね」


「あ、ありがとうございますっ」


おっちゃんは快く俺たちを引き受けてくれた

打算的な考えをしていた自分が恥ずかしい

見ず知らずの俺たちを乗せてくれるというのだ、このおっちゃんには何かしら恩返しをしなければな


「おじゃましまーす」


馬車の扉を開けると、おっちゃんが言っていたように、一人の男が目を瞑り座っていた

俺たちが中に入ると、男は片目をあけ、俺たちを一睨みすると、すぐさま目を閉じ、後で追加報酬せびってやる…と小声で言っていた、ご迷惑おかけします

男はいかにもゲームとかアニメに出てきそうな軽鎧を装備し、帯刀している

流石異世界、銃刀法違反とかはないらしい

男はそこそこにイケメンだが、どう見ても成人している歳に見える

良い歳してこんな恰好をしていると出来の良いコスプレにしか見えない

俺がじろじろ見ていたのが目障りだったのか、男は目を開き鬱陶しいと一言告げるとまた目を閉じる

寡黙な人なのだろうか


「お名前は何ていうんですか?その剣かっちょいいですね、触ってもいいですか?」


名前が分からないとコミュニケーションも取れないと思い聞いてみる

ついでに剣にも手を伸ばす、本物の剣なんて初めて見たから正直とても興味がある


「おいガキ…鬱陶しいと言ったはずだ、お前らと馴れ合う気は無い、それと、剣には触るな」


男は目をあけてそれだけ言うと、再び目を閉じてしまった

…感じ悪っ!

何だよこれ、たしかに護衛対象が増えちゃって、そりゃごめんなさいっては思ってるけどさ、ここまで冷たくする必要なくない?俺の隣に座ってる少女なんてもうさっきからビクビクしっぱなしだよまったくもう

ちょっとでもイケメンとか思ったけど撤回だな、お前なんてコミュ障でいいよもう

というか、そういえばこの少女の名前もまだ知らないんだよな、まぁまともに話をきけるような状態じゃなかったからな

ここで喋るとまたコミュ障に睨まれそうだから、馬車から降りてから聞いてみよう

そういえば、この馬車は何処に向かっているのだろうか、行き先も聞かずに乗ってしまったんだよな

前方のふすまっぽい扉を開けると、御者台に座ったおっちゃんの後ろ姿が見えた

馬車に乗りさえすればこっちのもんなので、さっきと一転してフレンドリーに話しかける


「ねぇおっちゃん、そういえばこの馬車って何処に向かってるの?」


おっちゃんに聞いてみると、後ろからコミュ障の露骨な舌打ちが聞こえてきた、何て陰湿な野郎だ


「あぁ、そういえば坊主達にはその辺全然説明していなかったな。これからマール村を経由して、ディケイ町に商品を仕入れに行くんだよ。前の町で商品が完売してしまったのでね」


おっちゃんは商人だったようだ

とりあえずの目的地はマール村というところだそうだ


「そのマール村ってところには後どの位で着くの?」


またしても、後ろでコミュ障が静かにしていられないのかとか呟いている。うっせー根暗野郎文句があんなら直接言ってみろ


「あぁ、もうすぐ見えてくるはずだよ、村と村の距離はさほど離れていないからね」


なんと、もうすぐ着くようだ

頑張れば歩いてでも行ける位の距離だったようだ


「もうすぐ村に着くってさ、そこでゆっくり休むといいよ」


俺は未だ震える少女を労わる

見た所年下のようだし、このように紳士な対応を忘れない

相変わらず話しかけると怯えてしまうようだ、心の傷はよっぽど深いのだろう、かわいそうに

少女の頭を撫でて安心させてあげていると、おっちゃんが訝しむような声を上げた


「ん…?村の様子が何か様子が変だ…」


おっちゃんの言葉を受けて、コミュ障が馬車の天蓋を開けて外を見やる


「あれは…ゴブリンか、ゴブリンに村が襲われているぞ」


俺も天蓋から頭を出して見てみる

ここからだとまだ少し遠くて分かり辛いか、確かに村が騒がしい気がする

緑色のちびっこい人型がうろちょろしているが、あれがゴブリンなのだろうか、やはり遠くていまいちよく分からない


《強襲された村を救え》

村人生還 + 

敵殲滅  + 

敵前逃亡 - 


今度は村がゴブリンたちに襲われています

助かった村人の数に応じて点数が加算されます


目の前にふざけた文字が浮かぶ

だからできるわけねーだろこんなの


「な、なんですって?ど、どうしましょう、剣士さん…」


「ゴブリン程度なら何匹束になろうが俺の敵じゃない、村人に恩を売って臨時ボーナスだな」


何て野郎だ、卑しい、汚らしい、汚らわしいの三点セットフル装備だこのコミュ障

他人の不幸を何だと思ってやがるんだ

だがしかし好都合だ、コミュ故障に村を救ってもらえば、俺は労せずに点数を稼げる

よし、この作戦で行こう


「剣士さん、頑張ってくださいねっ」


俺はいい笑顔でコミュ障にそう言うと、馬車が止まった。村の入口に着いたようだ

コミュ障は嬉々としてゴブリンに突っ込んでいった

おっちゃんが馬車の中に入ってくる


「いいかい?絶対にこの中からでてはいけないよ、大丈夫、この馬車には下位だけど結界が張ってあるから。だから、出てもいいっていうまで絶対に出てはいけないよ?」


二回も言われた

余程大事な事なんだろう

つまり、コミュ障が村を襲っているゴブリンを全滅ないし撤退させるまでは出るなということだろう

というか頼まれても出るもんか

何だゴブリンって、何だ結界って、こちとらこの世界についてなーんにも知らない赤ん坊と同じなんだぞ、何でこうもトラブルが立て続けに起こるんだよ

周囲からは、ゴブリンのものと思しき断末魔と、村人の歓声が聞こえてくる

コミュ障の奴、カッコつけて出て行ったけど本当に強かったようだ

これなら楽勝ムードだろう

そんなことを考えていると、馬車に何かがぶつかってきたようで、強烈な衝撃が響いた

外からはコミュ障の焦った声が聞こえてくる、どうやらコミュ障が馬車に吹き飛ばされてきたようだ

強かったようだなんて言ったけど前言撤回しなければならなくなりそうだ


「くそっ何で骸骨剣士がこんなところにいやがるんだっ!」


何やら想定外のことが起こっているようだ、大変言い訳がましい

骸骨剣士とやらにやられているのだろうか、扉の隙間からそーっと覗いてみる

するとコミュ障の持っている剣が、骸骨剣士と思しき骨に弾き飛ばされている

そこで俺は何を思ったのか、馬車の扉を勢いよく開け、外に飛び出してた


(おいおい、何してるわけ?俺…)


そのまま飛び出した勢いのままに、今にもコミュ障に斬りかからんとしている骸骨剣士に向かって体当たりをかます

骸骨剣士は、予想外の方向からの奇襲に対応しきれず、体当たりにより吹き飛ぶ

想像していたよりも大分吹き飛んで行った、骸骨だから軽いのだろうか


「ガキ!何で出てきた、下がってろ!」


「うるせーコミュ障!体が勝手に動いちまったんだよ、つーか俺が助けなかったらやられてたじゃねーか!」


「はっオメーがこなくても余裕だったっつーの、ったく余計な真似しやがって」


素直に礼も言えないのかこいつは

コミュ障は飛ばされた剣を拾いながらとても癪に障る台詞を吐いた

というか俺今、かなりピンチなんじゃないか?

一歩間違えれば死ぬんじゃないか?

体当たりで吹き飛ばした骸骨剣士がゆっくりと起き上がる、だが気持ちしんどそうだ、体当たりが効いているのだろうか


「おいコミュ障、あいつには剣よりも打撃の方が良いんじゃないか?俺の体当たりが効いてるっぽいぞ」


「骸骨剣士をただの体当たりであそこまで吹き飛ばすとか、ガキ…お前何もんだ」


こいつ何か勝手に勘違いしてるっぽいぞ

ああいう骨系モンスターには打撃の方が通るのが常識だろ、ゲーム的に考えて

震えながら立ち上がる骸骨剣士は、何やら周囲のゴブリンたちに指示をしているっぽい。骸骨剣士がゴブリンたちを村にけしかけたのだろうか


「やはり、こいつがゴブリン共を先導しているらしいな…」


そうらしい

というか、こうしてしっかりゴブリンを見てみると…

緑色の薄汚い小さい半裸のおっさんだ

皮脂汚れがやばい、おでこというか、顔面が油塗れでテカテカしている、これはひどい

顔面バイオハザードだ

見るもの全てを不愉快にさせる面だ


などとおどけてはいるものの、どうしよう

俺はただの一般人なわけで、おそらくこのゴブリンにも勝てやしないだろう、さっき骸骨剣士を吹っ飛ばせたのだって明らかにマグレだ

ここはコミュ障に全てを押しつけて、俺は馬車に戻るのが得策だろう


「おらぁっ!」


コミュ障が掛け声とともにゴブリンに斬りかかる

ゴブリンがコミュ障により斬り捨てられていく

鮮血が舞い、ゴブリンが倒れる

傷口からは内臓がずるりと這い出てくる

目の前でいきなりスプラッタ映像を見せられ、吐きそうになる

盗賊の時もそうだったが、こういうのは何時まで経っても慣れないだろう

コミュ障は向かってくるゴブリンを次々斬っていく

何故だろう

何だか、この血まみれの光景を見て、さっきまで吐き気を覚えていたのに、いつの間にか俺もやってみたいなんて思い始めている

俺はどうしてしまったのだろう

俺はこんなにも好戦的だっただろうか?

俺の足は、自然とゴブリン共に向かって進んでいく

また、気分が高揚してきた

目の前でこんなものを見せられて、闘争本能とやらが刺激されているのだろうか


「あはっはははっ」


俺は自然と笑みを浮かべていた、何だか楽しくてしょうがない

一匹のゴブリンが俺に向かって襲い掛かってくる

突き付けられた錆びた短剣を素手で掴みへし折り、そのままゴブリンの顔面を殴り飛ばす

頭蓋骨が砕ける感触が最高だ

ゴブリンの醜い顔がさらに酷くなりながら吹き飛んでいく

薄汚い血が拳に付着したが、何だか血を見ると気分がもっと良くなってくる


「あぁ…あっあぁはは」


俺は笑いながらゴブリン共を殴り飛ばしていく

拳に残る骨を砕いた感触がやみつきになりそうだ


「お前、何だ、お前…?」


コミュ障が俺に向かって畏怖の表情で話しかけてくる

っはは、良い顔だ


「あぁ…?んなこたーどーでもいいだろうが、それより、こいつらは俺の獲物だ、手出したら殺すぞ、いや、手出さなくても殺そうかなぁ」


コミュ障の顔はみるみる恐れに染まっていく


「わ、分かった、俺は手を出さない、こいつらはお前のものだ…」


コミュ障が震える声でそう言う

その姿が情けなくて、思わず吹き出してしまう

さて、ゴブリンは粗方殺したし、骸骨剣士を殺すか、でも血が出ないからつまんなそうだなぁ


「あ、危ない!」


コミュ障がいきなり叫びだした

うるせーなぁ、やっぱりこいつも殺そうかなぁ

何て思っていたら、俺の腹から剣が生えてきた

後ろを振り向くと、骸骨剣士が俺に剣を突き刺している、その顔は笑っているように見えた

骸骨剣士が剣を引き抜き、傷口から鮮血が飛び散る


「がふっ…ははっあぁはっははげほっ」


あぁ、楽しいな

俺の体から血が溢れる

っふふふ…油断していると俺もこいつに殺されるだろう

死が間近に迫っている…死ねば無間地獄に落ちる…そのぎりぎりのスリルが、たまらない…

俺は未だ笑っている骸骨剣士を睨みつける、すると骸骨剣士は一瞬たじろいだ、その隙に俺は骸骨剣士に向かって回し蹴りを放つ

骸骨剣士は回避が間に合わず、あばら骨のあたりから上下に分かたれ、そのまま動かなくなった


「ふぅ…楽しかったな…しかし、この傷はどうしようか…放っておくわけにもいかないし――」


なんて思っていると、傷口が徐々に再生し始めた、これは…


「良いねぇ…これなら、もっともっと戦える(あそべる)ってことじゃねぇかよっははは」


《強襲された村を救え》

村人生還 + 〇

敵殲滅  + ☓

敵前逃亡 - 〇


クエストクリアです、点数が加算されます

村人は全員無事なため、点数に加点が付きます

敵の殲滅が出来ていません、何人かのゴブリンを取り逃がしています

まだまだ点数はマイナスです、この調子でどんどん善行を積んでいきましょう

きりの良いところまでと思ったら少し長くなってしまいました

主人公の豹変の理由とはいったい…?

これから主人公はバトルジャンキーへと変わっていってしまうのか…?

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