終章1
「ここは…」
異世界から消えた俺は、とある部屋にいた。どうやらここは、自称神がいたあの部屋のようだ
しかし部屋には誰もいない、いったい自称神はどこにいるのだろうか
辺りを見渡すと、後ろにラムネの瓶のようなものが転がっていた。中にはビー玉のようなものが入っている、とても綺麗な、そう、まるで地球をそのまま小さく凝縮したかのような球体だった
その球体に見惚れていると、部屋の外から何やら話し声が近付いてくる
話し声は部屋の入口の前で止まり、入口の扉が開けられ、誰かが入ってくる
「いやー中々に白熱したな!やっぱり人間生け花は改良して良かっただろう、あの人間、最後は泣きながらプルプル震えてやがったもんな、俺は絶対に24時間耐えてみせる…とか言ってな、まぁ結局駄目だったけどなっ」
「いやーおもしろかったですねーでもまー何か生け花要素はなくなった気もしますけどねー」
「まぁ面白かったんだからいいじゃねぇ…お?誰だてめぇ」
「んー?何で人間がこんな所にいるんでしょーねー?」
「ん?いやまて、こいつ、極上の魂をしてやがるぞ!穢れが一片も無い!…あれ?でも何か変な魂してやがるな、何だこれ?」
「なーんですかねーこの人間ー変ですねー」
部屋に入ってきた二人は、俺を見て好き勝手言っている
…もう、俺の顔すら覚えていないのか
こいつらの口調、態度からはっきりと伝わってくる、こいつは、神なんかじゃない
何故あの時気付かなかったのだろう、思えば、怪しい言動はたくさんあった気がする
でも、あの時気付けていたとしても、結局はどうしようもなかったのかも知れないな
こいつらは、間違いない、悪魔だ。でも、それでも一縷の望みに懸けて、俺は二人に質問する
「なぁ、俺さ、自殺したせいで点数がえらくマイナスだったからさ、異世界送りにされたんだ。それでさ、点数がプラスになったからさ、異世界から出てきたんだ…なぁ、あんたら、神と天使なんだよな?悪魔なんかじゃ、ないよな…?」
俺の質問を受けて、二人はお互いの顔を見合わせて、こっちを見る
「ぷっ…あっはっははっはっひひっぃひ」
二人は同時に吹き出し、そして腹を抱えて笑い出した
…もう、それが答えだった、こいつらは悪魔だ、神なんかじゃない
「お前、何で分かったんだよっやっぱあれか?こいつの天使っぽさが欠片も無いせいか?」
「ちょっと魔神様ー違いますってー私の演技は完璧でしたってー」
二人は未だ笑いながら寸劇を続けている
「異世界で天使に教えてもらったんだ、あんたらは悪魔だってな。…なぁ、あんたら、俺を騙してたのか?点数を稼ぎ終えた俺は、輪廻転生出来るのか?」
「点数を稼ぎ終えた…?んな馬鹿な」
魔神と呼ばれた男は、俺の後ろに転がるラムネ瓶を見やると、合点がいったような表情になる
「ははぁ、お前だったのか、俺の魂の欠片をかっぱらった奴は…まぁ、俺の力を使えば、そりゃ楽に点も稼げるか。ってか俺らが悪魔だって、いったい誰に教えてもらったんだ?異世界では俺たちは神として認識されているはずだから、ありえないはずなんだけどなぁ」
「質問に質問で返すのは卑怯じゃないか…?先に俺の質問に答えてくれよ」
「悪魔なんだから卑怯で結構!…まぁ質問には答えてやろう。単刀直入に言おう、俺たちはお前らに、決して嘘は付いていない、点を稼ぎさえすれば、輪廻転生は出来る」
「ほ、本当か…!」
「…が、輪廻転生出来るからと言って、させてやるつもりもなかったけどな、っはっはっは」
「何…?」
「魂に穢れがあるとだなぁ、美味くないんだわこれが、はっきり言って食えたもんじゃない。だからお前らに自分で魂の穢れを落としてきてもらい、綺麗になったお前らを俺たちが食うってわけさ。まぁ遊びだな、遊び。お前らが穢れを落とせれば俺らは美味いもんが食える。たとえ穢れを落とすのに失敗しても無間地獄に落として遊ぶ。どうだ、最高だろ?」
目の前の魔神はふざけたことをふざけた態度で平然と言い放った
俺たちの命は、遊びの道具だと、はっきりと言い切ったのだ
最悪の気分だった、怒りとか悲しみとか、とにかく色々な感情が頭の中で渦巻いている
感情の渦が激しくなるにつれて、体に漲る力が加速度的に増してくる
「お?なになに怒ったの?ねぇ怒ったの?あ、あとお前は俺の魂の欠片をパクってやがるから、尚更輪廻転生なんてさせてあげないぞ」
魔神が尚も小馬鹿にした態度で俺に聞いてくる
「お前らはクソだ…最低のクソッタレだ…!今なら、ノアの気持ちも理解出来る…」
「ノア?誰だ?そいつ」
こいつ、ノアのことも覚えていないのか
俺は怒りで震える拳を握りしめる
「お前が面白半分であの世界に閉じ込めた天使の名だ、クソ野郎…いちいち覚えちゃいないってか。所詮大勢の中の一人か、俺たちは」
「天使だぁ…?そういや随分前にそんなこともしたことあったような気もするな。奴らの力は厄介だからな…ってか、おいおい、そんなに肩肘張んなよな、お前だってそうだろ?子供の頃、虫なんかをひでぇ殺し方したことがあるはずだ、お前、その虫の名前なんていちいち気にしてたか?してねぇよなぁ?同じなんだよばーか」
魔神にそう言われ、俺は何も言い返せなかった、事実だからだ
でも、それでも俺は――
「確かに虫を殺したことはあるさ、でも俺は、虫との意思疎通が出来ていれば、きちんと話し合うことが出来ていれば、殺したりなんてしなかった!」
「っはっはははっ嘘だな、お前ら人間は、嬉々として虫どもを殺している、それこそ面白半分でな。今のお前がそう考えているのは、学習したからだ、学習させられたからだ、周りの大人って奴にな。イケマセンってなぁ」
「………」
「俺の魂の欠片を吸収したお前なら理解出来るはずだ。闘争は、殺戮は、他者を蹂躙することは楽しいと!子供はそれを知っているのさ、だが周りの大人って奴が、常識という名の鎖が、その感情を縛り、心の奥底に隠してしまう」
「お前ら人間の本質も、俺たち悪魔と何ら変わらないんだよ」
体から急速に力が抜けていく
体に力が入らない、汗が噴き出る、呼吸が荒い
俺は、俺たち人間は、悪魔と同じだというのか…?
「あっはっはー流石魔神様ー悪魔の囁きとは人間も良く言ったものですよねー。何か今にも死にそうな顔してますよーこいつー」
心が折れそうだ
誰か助けてくれ、俺は、俺は――
「…?これ、は…」
俺の胸の中に、暖かな光が満ちている
これは、ノアの――
まるで、ノアに激励されているような気分だ
そうだ、俺はこんな所で絶望している場合じゃないんだ!
魔神を、悪魔を倒す、そして、俺たちは自由になるんだ!
「さて、じゃあ魂の欠片を回収させてもらおうかなっと」
魔神が俺に腕を伸ばしてくる
俺は、その腕を払いのけ、魔神に言い放つ
「むざむざやられてたまるか、俺は、お前を倒す!」
俺がそう言った瞬間、魔神は心底楽しそうに、顔を歪めて笑った
魔神の隣にいる悪魔はため息を吐くと、ほどほどにしてくださいねという言葉と共に部屋から出て行った
「ふ、っふふふ…良いね、良いぞお前、人の身で俺と戦おうとするその気概、精神、賞賛に値するぞ」
「お前に褒められても嬉しくなんてないね」
「まぁそう言うな、俺は純粋に褒めているのさ…お前の魂は、俺の魂の欠片以外にも何やら混ざっている…万が一にも俺を殺せるかも知れないぞ?さぁ全力で来い!」
その言葉を皮切りに、戦いのゴングが鳴った