二章5 ひとときの幸せ、立ち込める暗雲
「う、うまい!濃厚でいて舌の上でとろける様な深い味わいは、市販の肉とは段違いだ!」
ドラゴンの肉を食べた町の皆から、口々に賞賛する声が上がる
お祭り騒ぎは始まったばかりだが、既に酔いつぶれている人が何人か見られる
「あの…今回は、町を救っていただいただけでなく、貴重なドラゴンの肉まで分けていただき、大変ありがとうございます」
町の人が俺に頭を下げてそう言う
御礼を言われるのは何度目だろう、何度言われても慣れない
「いやいや、良いんですよ、それに、皆で騒いで楽しく食べた方が美味しいでしょう?だから、細かいことは気にせず、飲んで食べましょう」
俺はそう言うと、ドラゴンの肉を食べる
生で齧った時も美味かったが、調理したことによりより美味さが際立っている
ドラゴンの肉以外にも様々な料理が沢山置いてあり、どれもたいへん美味い
こうしてドラゴンの肉をわけて正解だった、皆、とっても楽しそうだ
「よぉミナマエ、ご立派な開始の挨拶だったじゃねーか」
「カイルか、だろ?かっこよかっただろ俺?」
カイルもドラゴンの肉を頬張っている。食べながら喋るんじゃありません
「これで、無事に町の危機を救えたな…一時はどうなるかと思ったけど、これで平和にやっていけそうだ」
「平和か…そうだな、でも、真の平和には――」
カイルが何やら含みのある言い方をする
「真の平和ってどういうことだ?モンスターの殲滅とかそういうことか?でもそんなの実質無理じゃないか?」
「あぁ、いやそういうことじゃねーよ、魔王がいる限り、モンスターの脅威は消えないからな」
ん?
今コイツさらっと何て言った?
「え、カイルお前今何つった?魔王?」
「お前こそ何言ってんだよ、魔王は魔王だろ」
聞き間違いじゃないじゃないですかーやだー
んっだよ魔王ってふざっけんなよ、何、そんなのまでいるわけこの世界って?
つーか今まで魔王の存在とか仄めかされすらしなかったじゃねーかよいきなり出てくんな
「で、お前の言い方だと、その魔王さんがいるせいでモンスターが襲ってくるってことなのか?」
「そうだよ…ってか、そんなん常識だろうが、どうした?まだ寝ぼけてんのか?」
いやいやいや…これ明らかにフラグでしょう
魔王を倒しに行くとか魔王が攻めてくるとかの。冗談じゃねーぞおい
もう嫌な予感しかしないもんこれ、せっかく美味いもん食ってる時にそんな物騒な話するんじゃねーよマジで
《魔王に襲われる世界を救え》
各地の人間の生還 +
魔王の撲滅 +
侵攻の阻止 +
敵前逃亡 -
この世界そのものが魔王の毒牙にかかろうとしています
助かった人間の数に応じて点数が加算されます
敵前逃亡し世界が魔王色に染まると、大量のマイナス点が加算されます
…
おい、何だよこれは
何このフラグ回収の早さ
いやいやいや、ないから、ありえないからこんなん
折角ドラゴン倒してお祭りしてるって時にこれはないわ
いきなり現れてこれはあまりにも酷いじゃない
もうちょっとゆっくり善行を積んでいけばいいじゃん、何をこんなに焦ってやらせようとするの?
つーか最後の行は何だこれ、何だ魔王色に染まるとって…ようは世界滅亡とかそんなんだろ?それもはやマイナス点うんぬんとか関係ねーだろ
「おい、どうしたミナマエ…?本当に寝ぼけてんのか?」
ぼーっとしていた(ように見えた)俺にカイルが声を掛けてくる
これ、魔王が攻めてこようとしてるってこと、皆に教えてもいいんだろうか
いや、下手に教えたら、無用な混乱を招くだけか…せっかくのお祭り騒ぎなのに、変に水を差したくはない
「いや、大丈夫だ、それより、少し話がある、ここじゃなんだ…場所を移そう、なるべく人気のない所が良い」
「えっ…俺にそっちの気はないんだが」
カイルが何やらトチ狂ったことを言い出す
「ちっげーよ馬鹿、何考えてんだ」
俺とカイルは人のいない一角に場所を移すと、話を切り出す
「いいかよく聞けよ…今、この世界に魔王が攻めようとしている…らしい」
「はぁ?こんな所に来るから何だと思ったら、急に何を言い出すんだ?それに、らしいって何だよ」
「たしかに、お前の言うことはもっともだ、でも本当なんだよ、このまま放っておくのはマズい」
主に俺の点数的な意味で
このまま俺が何の行動もしなければ、敵前逃亡と取られるかも知れないのだ。それに、世界が魔王色に染まると、大量のマイナス点が加算されるため、何が何でも阻止しなければならない
「いやいや、急にんなこと言われてもよ…そもそも、何を根拠にそんなこと言ったんだよ?」
「言葉じゃ上手く説明出来ん、でも本当だ。だから…俺に魔王の居場所を教えてくれ」
「お前、まさか――」
「そうだ、俺は、魔王を倒す」
2章終了
ドラゴン肉の味の感想が何処かで聞いたことある台詞だって?大丈夫、きっと気のせいだよ
だから通報とかしてはいけないよ