二章4 シリアス展開になると思った?残念!尻ass展開でした
見事に汚いタイトルだと関心はするがどこもおかしくはないな
俺はあの後、鳴り止まない歓声の中、冒険者たちにもみくちゃにされた
「お前すっげーな!まじカッケ―ぜっ!」
「お前最っ高だぜコノヤロー!ドラゴンを単独討伐とか信じらんねーぜ!」
「助かった、終わったと思ったよ」
冒険者たとの様々な言葉が飛び交う
カイルが俺の元によって来る
「よぉカイル…言ったろ?大丈夫だってよ」
俺はカイルに笑ってそう言い放つ
すると、カイルは一瞬目を点にさせ、直ぐに笑顔になると、俺の頭をわしゃわしゃと撫でまわした
「ったく、すげーぜホントよ、お前のおかげだぜ」
しばらく勝利の余韻に浸っていると、緊張の糸が切れたからか、なんだか眠くなってきた
「あぁ、なんだか安心したら眠くなってきたわ、カイル、あと頼むな」
「なっ…駄目だミナマエ!死ぬな、そんな事言って死ぬんじゃねぇよっ!」
「いや死なねーから、勝手に殺すな」
カイルはてっきり勘違いして俺がこのまま死ぬと思ったらしい
本当に眠いから一眠りするだけだ、あと頼むってのは後処理を頼むって意味だよ馬鹿
あぁ、ほんとに、もう駄目だ…おや…すみ…
そうして、俺の意識はそこで途絶えた
「う、うぅ…ん」
気が付くと俺は横になっていた
あれ、俺…あのまま寝ちゃったんだな…ここは、どこだろう…どこかのベッドかな、あの後誰かが運んでくれたくれたのかな
俺はゆっくりと目を開ける、すると――
「うぅわああぁぁぁぁっ!!」
俺の頭は一瞬で完全に覚醒した
目を開けた瞬間、アーノルドさんが俺の顔を覗き込んでいたのだ
なんだこれ、なんだこれふざけんな性質の悪いドッキリみたいなのはやめろ
思わず顔パンしそうになった俺をいったい誰が責められようか
「お、おはようございますアーノルドさん…」
「…チッもう少しだったのに…お前ら、ミナマエが目を覚ましたぞー!」
!?
今何て言いました?もう少しって何が?俺に一体何をする気だったんですか?
あ…今思い出せば、ギルドで初めてアーノルドさんに会った時、ふざけてホモ認定したけど、カイルは必死になって否定したけど、アーノルドさんは怒りはしても、否定はしなかった…このことから導き出される答えは――いや、よそう、これ以上考えちゃ駄目だ
「英雄のお目覚めだーっ!」
「よぉー!目ぇ覚めたってなー!」
冒険者の面々が部屋に押し寄せてくる
「あぁ、何とかな…なぁ、ここってどこなんだ?」
入ってきた冒険者の一人に聞いてみる
「あぁ、ここは冒険者ギルドの前にある宿屋だよ、眠っちまったあんたをアーノルドの旦那が介抱してくれてたんだよ。俺たちも手伝うって言ったんだが、旦那が一人で大丈夫だって言うんでな、任せちまってたんだ」
…おや?
雲行きが怪しくなってきてませんか?何だか妙な汗をかいてきたぞ?
アーノルドさんを見ると、俺を見て何やら舌なめずりをしている
…あれ、おかしいな、きっと幻覚に違いない、大丈夫、俺はまだ童貞だし処女だ、大丈夫だ何の問題も起きていない
「いやーそれにしても、あの後も大変だったんだぜ?倒したグリーンドラゴンをギルドに持っていくのもかなり苦労したし、町に帰って来たら来たで、町人の大歓声でな、宿屋に着くまでもエラい大変だったんだぜ?町を救ってくれた英雄を一目見たいとかでな」
自分に暗示をかけていると、冒険者が話し出した
何だか思っていたよりも大変なことになっていたようだ
てか英雄って…何だかこそばゆいな、宿屋から出たらサインとか求められたらどうしよう…その時あたふたしたら、何かこう、英雄っぽくないよな、どうしよう、今からでも練習しておくべきか…
「よぉミナマエ、体はもう良いのか?」
そんなことを考えていると、カイルも部屋にやって来た、というか幾らなんでもこの部屋に大勢来過ぎだろ、もう入んねーよ
「あぁ、おかげさまでな、何ともねーよ」
「しっかし、グリーンドラゴンを一人で倒しちまうとはな…マジでお前は、この町の英雄だぜ…っとそうだった、ミナマエが目を覚ましたら冒険者ギルドに来るように伝えてくれって伝言を受けててな、体が何ともないようなら、ギルドに行ってみてくれ。恐らく今回のグリーンドラゴン討伐に関する話だろうけどな」
「ん、そうか…呼ばれてるなら、待たせるのも悪いし、行くか」
そうして俺は部屋を出て宿屋を後にした、すると町人と思しき人だかりが宿の前に大勢いて、俺の姿をみとめた瞬間、俺に向かって押しかけて来た
「貴方は町の英雄だ、ありがとう」
「何と御礼を言っていいか…本当にありがとうございました」
「グリーンドラゴンを倒しちゃうなんてすごいですね」
皆して喋る喋る、一人一人喋ってくれません?一斉に喋るから何言ってるのかわかんねーよ
「それほどでもない」
俺は謙虚にもそれだけを言うと、ギルドに呼ばれているんで、と言い、人垣を掻き分けてギルドへと入る
するとギルドの職員が俺を見て声を掛けてくる
「おぉ、お待ちしていました、お疲れのところお呼び立てしてすみませんでした」
「いえいえ…それで、何の用でしょうか?」
「もう他の冒険者の方々から窺っているかも知れませんが、今回のグリーンドラゴン討伐に関するお話です」
カイルが言っていた通り、やはりドラゴンを倒した件についての話のようだ
「あぁ、やっぱりそれに関しての話ですか、町を救ったからお金くれるとかそんなんですか?」
俺は冗談混じりにそんなことを口にする
「えぇ、その通りです、グリーンドラゴンを討伐したことによるギルドからの褒賞と、町人の皆さんが、ぜひ町の英雄にと集めた、二つの報酬の受け渡しと、冒険者のランクアップの手続きが主ですね」
まじか、ふざけ半分で言ったのに当たっちゃったよ
てか町の皆が集めたお金って…そんなの貰ってしまっていいのだろうか、何だか申し訳ない気になってしまう
「あの…本当にお金貰っても良いんですか?ドラゴンだって、俺一人で倒したわけじゃないのに…」
「何を謙遜してらっしゃるんですか、他の冒険者の方は口を揃えて言っていますよ、ドラゴンは貴方一人で倒したと。それに、我々も町の中からですが、貴方方の戦いを見ていました、そう謙遜せず、もっと堂々と胸を張って下さい、貴方はこの町の英雄なのですから」
するとギルド職員はそんなことを言い出した
英雄英雄って言われても、何だか全然実感が湧かない
でもまぁ、貰えるものは貰っておこう、実際金が無いと生活していけないしね
「はぁ…じゃあ、いただきます、ありがとうございます」
「えぇ、ぜひ受け取ってください、これが褒賞になります」
渡されたのは、随分大きな皮のバッグだった
中を見てみると、札束が山ほど入っている。何これぇ…いったいどれだけの金額なんだ
「これ…いったい幾らあるんです?」
「三千万円になります」
…思考が停止する
今何と言った?三千…万?え?何その大金
「三千万…ですか?え、本当に?」
「えぇ、三千万円丁度になります、グリーンドラゴンの素材を全て売れば、さらに二千万円ほど増えますが、如何致しますか?」
如何致せばいいんですか?
なにこれどうしよう、こんな大金扱ったことないからどうすれば良いのかわかんない
助けてカイル、俺はどうすればいいんだ
ギルドに居る他の冒険者が金額を聞いてこっちを見てくる
「えーっと…どうしましょう、かね?」
「わ、私に聞かれましても…」
職員さんとの間に微妙な空気が漂う。沈黙がつらい
「そ、そうだ…ドラゴンってすげー美味かったから、肉は町の皆で食って、何か使えそうな鱗とかは冒険者用の武具の材料にでもしたらいいんじゃないですか?なんて…」
なんかテンパってそんなことを口走ってしまった
ギルドの職員さんを見ると、何か目尻に涙を浮かべている
「貴方と言う方は…町を救うだけでなく、そんなことまで…」
おい何か盛大に勘違いされたくさいんだが
でもこれで良いはずだ、多分。こうすれば、ドラゴンの素材を独り占めしたヤな奴って思われないはずだ
「では、ドラゴンの肉を使って町ぐるみでパーティーを開くことにいたしましょう、きっと町の皆が喜びます。あと、ランクアップに関してですが…ミナマエさんは、まだ登録したばかりでしたよね?当然、登録したばかりですのでEランクだったと思います。しかし今回、グリーンドラゴンを単独で討伐されました、なのでかなり特殊な例ですが、ランクがEからAに飛び級で昇格という形になります」
なんということでしょう
いきなりEからAですって、やはりドラゴンを倒すということはかなりすごいことなのだろう
この調子でSランクもちょろいんじゃないかな?
「さて、それではさっそく、ドラゴンの肉の調理を各料理人にお願いして来ましょう、町の人にも用意を手伝ってもらわなければ」
「あぁ、それなら俺も何か手伝いますか?」
「いえいえそんな、パーティの主役に手伝いなんてさせられませんよ。貴方は宿で休んでいてもらって構いません、まだお疲れでしょうし」
「そんなに言うなら、お言葉に甘えて休んでます」
あんまりしつこく手伝うって言うのもかえって迷惑かと思い、おとなしく休ませてもらうことにする。まぁぶっちゃけ手伝いだってめんどくせーから、やらなくていいならそれに越したことは無い
そんなわけでまた宿に戻ると、冒険者の方々は一階の部分にたむろしていた
「よぉ皆、これからドラゴンの肉で町全体でパーティやんぞパーティ、鱗とかの素材はここの皆でわけよーぜってことにしたぞ」
それを聞いた冒険者たちから歓声が上がる
喜んでくれているようで良かった
「でもお前、良いのか…?ドラゴンの貴重な素材を皆にわけるって」
「何言ってんだよ、ドラゴン退治は皆で一緒にやったんだからさ、そうすんのが当然だろうが」
俺がそう言うと、またも冒険者たちが騒ぎ立てる。いちいち喚かないといられない性質なのかこいつら
それからは、冒険者たちもパーティの手伝いにと、町の中を奔走しに出て行った
「まったく、お前には驚かされてばかりだぜ…」
カイルが俺に言ってくる
貴方は手伝いに行かないんですか?サボりですか?
「おぅ、もっと驚いて跪いて崇め奉っても良いんだぞ?」
「っは、何馬鹿言ってやがんだよ…じゃ、俺も手伝い言ってくるわ、おめーはここでまだ休んでろよ、まだ疲れが残ってるだろうしな」
「あぁ、そうさせてもらうわ…何かあったら呼びに来てくれ」
そう言い、俺は部屋に入りベッドに飛び込んだ
ふぅ…何かすげーことになっちまったなぁ
ドラゴンなんてファンタジーなもん倒しちまうとはなぁ、それにしても…俺のあの力はいったい何なんだろうな…何て、考えていても分かるわけないか…
一人の村娘を救い、村を救い、今度は町を救った
こんだけやっても、俺の点数はまだマイナスだ、でもこの世界に来る前、自称神は言っていた
『異世界で善行積んできゃまずマイナスのままで終わるなんて無いからよ、まぁ途中で死んだりしなければだがな』
本当に善行を積んでいけばプラスになれるのだろうか、と思ってしまう
まぁもっとも、この点数は長い期間をかけて、それこそ一生懸けて積んでいくものなのだろうけど
正直まだまだ安心出来ないけど、こんな異世界生活も悪くないのかも、だなんて思えてくる
この世界では友達も出来た、少し恥ずかしいけど、町の皆に英雄だなんて呼ばれている――楽しい、と思う、思える
俺の顔は、知らず頬が緩んでいた。そのまま、心地よい睡魔に襲われてきた。やはり体に疲れが溜まっていたのだろう、俺の意識はゆっくりと沈んでいった
「ん…」
外の喧騒で目が覚める
いったいどの位寝ていたんだろうと思っていると、部屋にカイルが入ってきた。おい、ノックしろよ
「よぉミナマエ…その顔は今起きたところか?丁度良かった、準備が終わったんでな、お前を起こしに来たんだ」
既に準備が終わったところを見るに、どうやら結構な時間眠ってしまっていたようだ
「ん、そうか…」
俺は軽く伸びをして宿を出ると、既に酒を飲んでいる人も何人かおり、大変騒がしい
俺はそのままカイルに檀上っぽいところに連れてこられた、町の皆がこっちに注目する
一瞬町全体がシン…と静まる。これはあれか、俺に何か一言言えと、そういう流れか
「あー、こほん…皆!今日は町の皆の生還を祝して、飲んで食って、朝まで騒ごうぜ!」
俺は皆に見られて緊張しながらも、大きな声でそう言った
その瞬間、周囲の皆から歓声が上がり、そこから町全体でのお祭り騒ぎが始まった