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二章3 英雄的行動

力に支配されるな、力に身を任せず、力をコントロールするんだ!

やれる、俺はやれる!


「オオオアァァァ!!」


俺は叫び、自分を奮起させ、ドラゴンに向けて突っ込む

未だ起き上がれずにもがくドラゴンの横っ腹に思い切り拳をめり込ませる、何度も、何度も同じ個所を連続して殴り、ようやく鱗を突き抜け、拳が体にめり込む

拳に筋線維を引き千切っていく感触が伝わる

ドラゴンの体に突っ込まれた手を開き、筋肉を鷲掴み一気に引き抜く

ブチブチと小気味良い音が鳴り、鮮血が飛び散る

顔に付着した血を舌で舐めとると、今まで飲んだどんな飲み物よりも美味だった。えも言われぬ美味さだ

俺はすぐさま、もう一度同じ傷口目掛けて拳を振るう

ドラゴンが苦痛に吼える

痛みに歪んだ声が最高に耳当たりが良い

そんなドラゴンの悲鳴を肴に、手に滴る血液を啜る

あぁ、最高の気分だ


「グルオオォォォッ」


ドラゴンが起き上がり、俺の腕に噛み付いてくる

俺の左腕はあっさりと食い千切られ、ドラゴンの胃に収まった

腕から感じる激痛さえ、今は快感に変わる

左腕からはおびただしい量の血液が噴き出す

だがすぐさま傷口は再生し始め、消失した左腕は何事も無かったかのごとく生えてきた


「おっ…っとと」


どうやら傷は再生されても、失った血液自体は元には戻らないようだ、貧血の時のようにフラフラする

ドラゴンは今食い千切ったばかりの俺の腕が生えてきたことに驚いているようで、こちらを見て固まっている、チャンスだ

俺はお返しと言わんばかりに、ドラゴンの胸に手刀を突き入れ、その傷口に歯を立て肉を食い破る

咀嚼すると、程好い弾力と舌触りがとても素晴らしい、なにより鮮度が良い

血も美味かったが、肉も素晴らしい美味さだ

こいつを、もっと喰らいたい――

そんな意思を込めて、ドラゴンの瞳を見詰める、するとドラゴンは一瞬たじろぎ後ずさるが、直ぐに視線だけで殺せるような瞳で俺を見返してくる


「グルルァァァ…」


「はははっきやがれクソトカゲ」


楽しい

命のやり取りが楽しい

骸骨剣士とやってるときもそうだったが、あの時の何倍も楽しい

あれだけ攻撃を加えたにもかかわらず、ドラゴンは未だまったく衰える様子が見られない

本気を出しても、勝てるか分からない強大な敵だ

もっとだ、もっとやろう、自然と笑みが零れる、これが笑わずにいられるか

と、そんな最高の気分に水を差す馬鹿が現れた、冒険者だ


「うおぉぉっ加勢するぜ!」


「無事かあんたっ?腕に噛み付かれていたように見えたが…」


「ミナマエ、大丈夫か?」


ドラゴンに攻撃している奴が何人かいるが、まるで効いていない

ふー…何だ、何なんだお前ら?

邪魔だよ消えろよ殺すぞ?


「失せろ邪魔だ」


俺は冒険者の馬鹿共にそれだけ言い、再びドラゴンと視線を交わす

ドラゴンも、周りの冒険者の事なんて眼中に無いようだ


「無茶だ!グリーンドラゴンを相手に一人で相手をするなんて、正気の沙汰じゃない!」


馬鹿共の中の一匹がふざけた発言をする

あー…殺すか、もう


「――待てミナマエ!駄目だ、それは駄目だ!」


カイルは俺が何をしようとしたのか分かったらしい、必死になって俺を止める

つーか俺に指図するんじゃねぇ


「お前ら、ミナマエは俺たちを巻き込まないように心配してこんな憎まれ口を叩いているだけだ、それに俺たちじゃ、今のミナマエには邪魔にしかならない」


おいおい何そんなに必死になってんだよ

そんなふうに言われたらますます殺したくなってくるじゃねぇか


「――あぶねぇ、避けろ!」


馬鹿共が俺に叫ぶ

だからうるっせぇんだっつーのピーピー小鳥みてぇに鳴きやがって


「――がっ…」


尻尾による不意打ちにより地面に叩き潰される

体中から骨の軋む音と砕ける音が聞こえる

馬鹿共に気を取られていたせいでまたしても尻尾の攻撃を受けてしまった


「はぁ、はぁ…ふぅ…」


何だ…?傷の治りがさっきよりも遅い?

それに、さっきまでの気分の高揚がない…死に対する理性や恐怖が働いてき出している

俺は、いったい何を…

力に支配されるななんて言っといて、結局は支配されてしまった。今度は覚えている

俺はどうしちまったんだ…?俺はいつのまにあんなにも凶暴になったんだ?血を飲んで美味いだなんて、どうかしてる、俺は――


「グルルォォッ!」


思考に耽っていると、ドラゴンが再び俺を叩き潰そうと尻尾を振り上げる

俺はそれを間一髪でで転がり避ける

尻尾が地面に叩きつけられた衝撃と風圧で吹き飛ばされる

冒険者たちが俺を不安げな目で見ている


「ぐっ…くそっ…」


俺はなんとか受け身を取り、衝撃を緩和する

ドラゴンは俺を一瞥すると、もう俺を脅威と見なしていないのか、群がる冒険者を排除する方向性に切り替えたようだ


「に、逃げろ!あんたらじゃこいつに勝てないっ!」


俺は冒険者たちに叫ぶ

さっきから、体に力が上手く入らない


「お前だけおいて逃げられるかよ、それに、ここで俺たちが逃げたら、町がめちゃくちゃにされちまう!」


何でそんなに頑張れるんだ、お前ら…?

町が何だよ、自分の命が一番じゃないのか?命あっての物種だろうが

カイルやアーノルドさんはドラゴンの猛攻をなんとか掻い潜り、ドラゴンに攻撃しているが、相変わらず攻撃は弾かれている、だがカイルやアーノルドさんの顔には、ちっとも諦めの色は見えていない

何で、そんなに…カイル…何でそんな顔で戦えるんだ、もうよせ、充分戦ったじゃないか、もういいだろ


「うおぉっ」


「この先には行かすなっ!」


他の冒険者も諦める気は無いらしい、何なんだ、お前ら…おかしいよ、よせよ

健闘空しく、冒険者たちはドラゴンにあっさりと吹き飛ばされていく

カイルもアーノルドさんも、ドラゴンの尻尾で呆気なく飛ばされる

カイル…俺たちは、ここで死ぬのか?

…冗談じゃない、こんなところで死ねるか、死なせるか…俺の大事な、友達を…!


「もう一度、頼む、さっきの力をよこせ、今だけでいいから、この力の正体とか、そんなのどうだっていいから、頼むよ、お願いだ」


俺は胸に手を当て、自分に問いかける

あの力がないと、俺も、皆も殺されちまう、だから、もう一度…今度はちゃんと、皆を守れるように――

自分自身に哀願していると、胸の底に何か暖かいものが灯ったような気がした

だが、一見暖かく感じるそれは、その実触れた瞬間に身も心も凍えてしまいそうな、そんな危ういものに思えた。でも俺は、躊躇うことなくそれに触れる

今どうにかしなければ、皆死ぬのだ。なら今、ここで踏ん張らなければ、笑って生きていくことなど到底出来ない

その何かに触れた瞬間、自分の体にとてつもない力が滾ってくるのを感じた

今までの力とは何処か違う、暖かな力だ、でも、少しでも気を緩めたら、直ぐにでも冷たく暗い力に変わってしまいそうだ


「ミナマエ、お前…」


「カイル…大丈夫だ、今度は大丈夫だ、必ず、こいつを倒す」


カイルは俺の変化にいち早く気が付き、声を掛けてくる

また妙な力のせいで戦闘狂みたいになっていないか心配なのだろう

ドラゴンも俺の変化に気が付いたのか、振り返り俺を睨みつける

その顔は、死にぞこないが…と、侮蔑の表情をしているように見えた

邪魔な虫を払うかのごとく、ドラゴンが俺に尻尾を薙ぎ払ってくる


「ミナマエッ!!」


カイルが俺に叫ぶ

大丈夫だ、この力なら、負ける気がしない

俺を心配してくれる気持ちが、俺の力をさらに強めてくれる

俺はそれを、その場から一歩も動かず、片手で止める

ドラゴンの顔が驚愕に変わり、もう一度、今度はさっきよりも速く、鋭く打ち付けてくるが、俺は変わらず片手で受け止める


「オオアァッ!くたばれえぇっ!!」


そのまま尻尾を引っ張り、引き寄せられたドラゴンの顔に渾身のストレートを叩きこんだ

ドラゴンの頭部から、骨が砕ける音が響き、頭部が大きく陥没する

ドラゴンは小さく鳴き声を漏らすと、そのまま地に倒れ、息絶えた


「…やった…ぃやったぞーっ!!」


俺は諸手を挙げて叫ぶ

勝った、俺は勝ったんだ!


《ドラゴンに襲われた町を救え》

町人生還 + 〇

敵殲滅  + 〇

敵前逃亡 - 〇


クエストクリアです、点数が加算されます

町人は全員無事なため、点数に加点が付きます

まだ点数はマイナスです、この調子でどんどん善行を積んでいきましょう


目の前に文字が浮かぶ

やったぞ、俺は、町を守れたんだ…

俺の叫びに少し遅れて、冒険者たちからも歓声が上がった

っはは、やったぜ…

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