二章2 異世界なのでクーリングオフは効きません
入ってきた男はそう叫んだ
何やらドラゴンがこの町に向かっているらしい
流石異世界、いるかもとは思っていたが、ドラゴンなんてのも実在するようだ
とにかく、そんな危なっかしいのが来てるんなら、さっさとこの町から退散しよう
こんな町に居られるか、俺は帰らせてもらうからなっ!
「冒険者のみなさん、緊急クエストです、緊急クエストです、登録している方は至急、グリーンドラゴンの討伐ないし町の防衛の任に着いてください」
急いでこの町から回れ右しようとしていたら、受付嬢さんがそんなことを言い出した
私は関係ないので帰らせていただきます
「ミナマエさん、貴方も町の防衛い着いてください」
この受付嬢、何やらトチ狂ったことを言い出した
「いやあの、緊急クエストとかそんなん知らないですし…冒険者登録のキャンセルって出来ません?」
「出来ません、緊急クエストは例外なくその町にいる冒険者全員が参加です」
いや知らんし、そんな説明されなかったぞ、というか登録するとき何一つ説明されなかったぞ?
「そういうのは登録する前に説明してもらえません?」
「聞かれなかったので」
受付嬢はいい笑顔でそんなことをぬかしやがった
こいつぬけぬけと良くもまぁそんなことが言えるな、そういうの手抜きって言うんじゃないですかねぇ?
「とにかく、ミナマエさんはもう立派な冒険者です、大丈夫、戦闘に参加出来なくても出来ることはあります、精一杯頑張ってください」
受付嬢さんはまたしてもいい笑顔で言い放つ、もう俺こいつ嫌い
とりあえずギルドから外に出ようとした時、目の前に文字が浮かび上がった、これで三度目となる
《ドラゴンに襲われた町を救え》
町人生還 +
敵殲滅 +
敵前逃亡 -
ディケイ町に未曾有の大災害が迫ろうとしています
助かった町人の数に応じて点数が加算されます
敵前逃亡し町がドラゴンに消し飛ばされると、大量のマイナス点が加算されます
こんな文字が浮かび上がったではないか
なにこれ…ふざけてるの?
無理ゲーにもほどがあるでしょう、ゴブリンの時も思ったが、こんなの出来るわけねーからマジで
でも敵前逃亡すると大量のマイナス点か…どうしよう…
と、とりあえず、外に出てドラゴンとやらを見てみよう
ギルドに入ってきた男は、グリーンドラゴンが迫ってきているとしか言わなかった、つまり、もしかしたらグリーンドラゴンはただの散歩中で、たまたまここが通り道だっただけかも知れない。うん、きっとそうだ、そうに違いない、そしてそのまま町を素通りしていくんだ、だから大丈夫
大丈夫じゃありませんでした
これからは情報は正しく伝えましょうね
迫っていているってかもう間近まで来てんじゃん、これ
もうこれ散歩さんてレベルじゃない、グリーンドラゴンさん全力疾走だこれ、短距離ランナーかなんかですか?
もうなんかすげーおっかねぇ、なんだこれ、超でけぇ、超やべぇ、全長十mオーバー位ありそうだ
町の少し離れた位置で、冒険者と思しき人たちがグリーンドラゴンを引き付けている、勇敢すぎるだろ
冒険者たちは必死にグリーンドラゴンを攻撃しているが、正直まったく効いていないっぽい
おいおいどうすんだこれ…
あ、コミュ障とアーノルドさんもいる…戦ってる…すげぇな…怖くないのかな…
皆必死な顔して戦ってる、でも俺は、死ぬわけにはいかないんだよ、無間地獄なんて、絶対に行きたくないんだ、だから、俺は――
コミュ障がドラゴンの尾の一撃を受けて吹き飛ばされている
他の冒険者も、ただの尻尾の一撃で大勢が吹き飛んでいる
アーノルドさんも、ドラゴンの懐に飛び込んで攻撃しているが、相変わらず効いている様子は無い
もう、諦めろよみんな…このままじゃ、死んじゃうぞ…死ぬんだぞ?怖くないのかよ、お前ら…
コミュ障が震えながら立ち上がり、ドラゴンに突き進んでいく
もうやめろ…こんなの見たくない、俺は、俺は…!
「カイルーー!!」
自然と体が動いていた
俺は飛び上がりドラゴンの横顔を蹴り飛ばす
俺の体はどうしちまったんだろう、巨大なドラゴンの顔を蹴り飛ばすくらい高く飛ぶなんて、それに、ドラゴンが俺の蹴りで数m吹っ飛ぶ、俺はいつからこんな超人になっちまったんだ…?
胸の内から、力が湧いてくる、でも、この力に身を委ねてはいけない気がする
「お、お前…」
カイルが俺を見て固まっている
「何だよ…」
何だかんだ言って、俺はこいつに死んでほしくないんだ
カイルはどう思ってるか分かんないけど、俺にとってはこの世界で初めて出来た、友達なんだ
恥ずかしくて、こんなこと絶対に言えないけど
カイルはそんな俺の心境を見透かしたのか、呆れたように笑う
俺も釣られて笑う、こんな状況なのに、笑ってる場合じゃないのにな
「ミナマエ、油断すんなよ、骸骨剣士を倒せたお前でも、グリーンドラゴンは荷が重いだろう」
んなこたー分かってんだよ、それに、ドラゴンがこの位じゃ倒せないだろうってこともな
ドラゴンはゆっくりと体を起こすと、憤怒の形相で俺を睨んでくる
っは、きやがれトカゲ野郎…俺も負けじと睨み返し、中指を突き立てる
俺の挑発が癪に障ったのか、ドラゴンは猛スピードで俺に突っ込んでくる
それを横に飛ぶようにして転がり、何とか避ける
「ミナマエあぶねぇ!」
カイルが俺に叫んでくる
あぁ?突進はちゃんと避けたぞ――
「――っがっふ」
何だ?何が起きたんだ
俺はどうなった?体が動かない、俺は地面に横になっているのか?
遅れて、体中に激痛が走る
「あっ…ぐうぅあぁっ」
痛い、痛い
何だっくそっドラゴンが随分遠くにいる…違う、そうか、やっと理解した、俺はドラゴンに吹き飛ばされたのか、突進は避けた、なら尻尾か?おそらく尻尾にやられたんだろう
くそっくそっ…勝てない、なんだあの強さは…
「ごほっゴボっ」
口から血が溢れてくる
内臓系を損傷したようだ、これはまずい、そうこうしている内に、ドラゴンは俺にとどめを刺すべく、俺に向かって突進してくる
死ぬ、このままじゃ、死ぬ…どうすれば、どうすればいい――
その時、胸の内がざわつき、疼き出した
(これは…この力は…俺は…)
どうせこのまま何もせずにいても死ぬだけだ、なら、俺は――まずいと分かりつつも、俺はその力に身を委ねた
その瞬間、俺の体に力が漲ってきた、全身の傷がみるみる治っていく
俺は立ち上がり、ドラゴンの突進に備える
ドラゴンも俺の異変に気が付いたのか、走るスピードをさらに速めた
俺は頭を突き出し突進してくるドラゴンに両手を突き出し、突進を受け止める
「ぐっぐく…」
凄まじいパワーだ、受け止めきれず、地面を滑って行く
この力を持ってしてもなお、止められないのか
俺は必死に地面から足が浮かないように踏ん張る
数十mは押されただろうか…だが、受け止めきれた
ドラゴンの目が驚愕に見開かれる、俺はドラゴンの頭を押さえていた両手をしっかりと握り、勢いよく持ち上げ振り回し、その勢いのまま投げ飛ばした
轟音を響かせ、ドラゴンが地に横たわる
さぁ、ここからが本番だ…