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ゼロじゃない  作者: 峻祐
9/10

第9話  『いつか静かな月の夜を』



「世界のつながり」


 本来ならつながるはずのない、空想と現実の世界をつなげてしまったおばあちゃん。

 異なる世界観の世界がつながってしまった場合、それはどうなってしまうのだろうか。


 物語の中ではパロディで片付けられてしまい、二つの世界観が衝突してしまえば駄作となる。

 読める作品となるのは、一つの世界観の中にキャラクターのみが迷い込んでしまったものがほとんどだ。

 世界観が異なるということは、その世界に共通する常識が異なり、物理法則までもがおかしくなるということ。


「つながっちゃいけないものだろ」

「果たして、本当にそうかしら」


 俺の否定を、おばあちゃんは嬉しそうに笑い飛ばす。


「世界観の転換が、今までになかったわけではないわ」

「物理法則は変わらない。その常識の認知度が変わっただけだろ」


 天動説から地動説へ。

 その他にも、常識の大きな転換は今までにあった。


 でも、それはすべて新たな発見から導き出された当然の帰結。

 未知のものを発見し、系統立てて、物事の道筋を一般化した結果だ。

 そこに世界観の転換はあっても、何一つ変わらない物理法則の上で世界は成り立ってきた。


「錬金術は否定できる。それがまやかしだと証明もできる」

「現代物理学の病よ。どうして、見たものがすべてだと言い切れるのかしら」

「すべても何も、再現できないものは誤認であって、再現できるものはすべて物理法則の中にある。例外ですら、同一条件化での再現ができるからこそ、今の世界は成り立っているんだよ」


 そう。

 今の世の中、例外ですら再現性があるんだ。


「あなたの能力であるあらゆる確率も、現代物理学の上に成り立っていると」

「確率はあくまで起きうることの可能性であって、未知のものが起きることの確率は限りなくゼロに近い」

「ゼロに近いだけで、ゼロじゃないわ」

「詭弁だよ」

「いいえ。ゼロではないのよ」


 何だ、この言いまわし。

 まるで妹の台詞みたいな。


「現に、この場所は存在するのですもの」

「この場所は物理法則が違うとでも言うの」

「魔法の定義なんて楽しいこと、私が設定しないとでも」

「魔法の定義」


 そうだ。

 ジュノーさんは俺たちの目の前で俺たちの世界の物理法則を凌駕してみせた。


 いや、あれは生物学か。

 それとも時間の概念をいじったのか。


「ちょっと待ってよ」

「何かしら」

「もし物理法則がまったく異なる世界があるとして、そんな二つの世界が共存するなんてことがあるわけが」

「片方の物理法則が、もう片方の下位概念として存在するならどうかしら」

「未開な土地扱い」

「そして、侵略的野心が発揮できないほどの少数しか渡れない場所だとしたら」

「ガリバー旅行記か」


 思わず口に出た俺の呟きは、おばあちゃんの意に沿うものだったらしい。

 満面の笑みで拍手をしてくれた。


「前例はあるのよ。もしくは、オマージュ元と言うべきかしらね」

「どれだけ読み漁ってるんだよ」

「年寄りになると、時間は有り余るものよ。ましてやこちらの世界にいれば、時間の流れはさらにゆっくりとしたものになるのだから」

「十二倍だっけ」

「おおよそね」


 それこそ、嫌いな小説にさえ手を出してしまうほどの時間の余りようだ。

 活字に飢えているそこいらの小学生よりも性質が悪い。


「いつか世界が崩壊する危険性は」

「いつの時代も、発展と破壊は繰り返されるものよ。エンドレスワルツだったかしら」

「それは革命と発展と崩壊」

「そうそう。世界が飛躍的に発展した裏側なんて、誰も気にも留めないわ。ただ、便利になり社会の秩序が大きく入れ替わったという事実だけを、民衆は享受するのよ」


 誰が管理をするんだよ。

 続編まで出された洋画だって、管理する組織があって成り立つというスタンスを取っていたのに。


「アキラ。貴方には、世界がつながっていることを知って欲しかったのよ」

「俺に管理しろなんて言われても、無理だよ」

「貴方には見えるのでしょう、確率が。そして、もうあらゆる世界のつながりは否定できないものになってしまっている」

「だから」

「その確率をいじることのできる貴方なら、世界を渡ってしまう存在は先程のように侵略的野心の生じることのない少数に抑えることができるわ」

「管理者ではなく、監視者」

「そうね。そして、何の力も行使する必要のない傍観者」


 一度世界を渡ってしまったものをどうにかする力は、俺にはない。

 その存在を感知することもできず、ただ確率的にごく章でなくなったときを知ることができ、下位概念を従えるための絶対数がわたることのできないように、扉を極限まで狭めることができる存在。

 俺に、そうなれと言っているんだ。


「妙な尻拭いだよ、まったく」

「それが私の孫に生まれた義務かしら」

「見返りがまったくないと言えないところが悲しくなるな」

「もう一人の孫にもよろしくね」

「智世なら、俺に言われなくても元気だよ」


 俺の言葉に、おばあちゃんは笑っていた。

 そして、おもむろに俺の背後を指したんだ。


「そろそろ時間よ、アキラ」




とりあえず、完結させなきゃ意味がない。

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