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ゼロじゃない  作者: 峻祐
3/10

第3話  異世界から来ました


「……×□▲▼」


 どう考えても日本語じゃないよな、これは。

 もしかしたらと思って遼一と妹に視線を向けてみても、二人とも勢いよく首を左右に振るばかり。


「どうするよ」


「本当に知らないのか、アキラ」


「知らん」


「救急車を呼んで、任せてしまうとか」


 俺たちが顔を寄せ合って相談していると、女の子が布団の上で上半身を起こした。


「……あの、ここは」


 え……日本語、話せるの。

 もしかして、咄嗟だったから母国語で話しかけてきてたとか、そういうオチですか。


「ここはアキラの家で、気を失ってたんだよ、アンタ」


 日本語が通じるのならといった感じで、遼一が率先して会話を引き受けてくれる。

 女の子も話が通じてホッとしたのか、少しずつ表情が緩んでくる。


「とりあえず、アンタの名前を教えてくれるかな」


「マグシア王国の第二王女、シュノーと申します」


「マグシア王国ね。ここは日本なんだけど、留学生か何かかな」


「ニホン……」


 うーん。

 まだ意識がはっきりしてないのかな。


 まぁ、まず、マグシア王国ってどこだ。


「おい、地図帳持ってこい」


「うん」


 妹に地図帳を取りに行かせ、俺は自分の腕を指しながら、遼一と話しているジュノーさんに話しかけることにした。


「ケガ、してるだろ」


 遼一とのやりとりに割り込むような形になってしまい、ジュノーさんが少し面喰った表情で俺を見つめてくる。

 それでも俺が腕を指していることに気付くと、納得したように小さく頷いてくれた。


「消毒するから、袖をまくってもらえるかな」


「はい」


 脱脂綿なんてものはないから、使い古しのタオルと消毒液とを両手に構えて、ジュノーさんが袖をまくった腕を確かめる。

 二の腕のところにぱっくりと傷口が開いていて、あまりに痛そうな傷口に思わず眉をひそめた。


「しみるよ」


 そう断ってから消毒液を吹きつけると、ジュノーさんが泣きそうな悲鳴を上げた。


「お兄ちゃん、何やってんの」


「いや、消毒しないとダメだろ」


 悲鳴を聞きつけて急ぎ足で戻ってきた妹に詰られて、俺は憮然として言い返した。

 俺たちのやりとりが理解できているのか、ジュノーさんは俺に頭を下げてから、傷口の下に当てていたタオルをやんわりと断ってきた。


「我は願う。肉体の回復を」


 何かのまじないか。


 俺がそう思った目の前で、ジュノーさんの傷口がみるみるうちにふさがっていく。

 横目で妹の反応をみると、俺の錯覚ではなかったらしい。


「……何なの、今の」


「さぁ」


「ゲームみたいだな」


 俺たちの反応に、ジュノーさんが微笑む。


「回復魔法は女神の祝福を受けた者にしか使えないと聞きます。初めて御覧になりましたか」


 いやいや、そんなに優しく微笑まれてもね。

 魔法自体、初めて見たわけなんだけど。


 これは夢か。

 夢にしては、かなりリアルなんだが。


「アキラ、どういうこと」


「俺に聞くな」


 完全に現状から置いていかれている俺と遼一に、ジュノーさんがさらに混乱に拍車をかけてくる。


「貴方も魔法使いでしょう」


「え……」


 いや、そんな、断定するの。

 てか、何で俺が魔法使いなの。


「えーと……うん、多分、そうかな」


「まぁ、彼女なんていたことないしな」


 妹よ、どういう意味で肯定だ。

 そして遼一、お前はどうなんだよ。


「あのな、俺はまだ二十歳前だ」


「あ、そうか。三十まで童……」


「遼一。妹の前でその話題はおかしい」


「お兄ちゃん、恥ずかしがらなくてもいいよ」


「智世、殴られたいか」


 俺たちの寸劇を見ても、ジュノーさんはきょとんとした表情で小首を傾げただけだった。

 それを見て、ネタが通じなかったことを反省する。


「おい、通じてないぞ」


「結構有名なネタなんだけどな」


 軽く咳払いをしてから、改めて妹から地図帳を受け取る。

 ここは、さっさと話題を変えてしまおう。


「コホン。貴方の生まれはどこですか」


「これは、何ですか」


「いや、世界地図だけど」


 あ、そうか。

 日本が中心になってるのは日本にしかないんだっけ。

 そう考えると、意外と面倒だなぁ。


「ここが日本で、ここがアメリカ」


「初めてみました」


 位置関係もわからないのかな。

 そうなると、身許を確かめようがない。


「ここは、ジッカではないのですか」


 何の実家だ。

 俺と遼一が顔を見合わせると、俺たちが理解できていないことに気がついたジュノーさんの目に、大粒の涙がこぼれ出した。


「え、あ、おい」


「どうしたの」


 あわてる俺たちに、ジュノーさんの涙声が届く。


「送還は失敗したのね……これでマグシアも終わりだわ」


 もしかして、異世界に召喚されましたってんじゃなくて、異世界から人が飛んできちゃったよってヤツなのかッ。


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