05:進化するお弁当
その後も兄の弁当は進化を続け――
「ついにお重になりました……しかも三段。」
ドーンと机の上に鎮座する重箱に、朝子の呆れた視線が突き刺さる。
「運動会か。っていうか一人で食べきれる量じゃないでしょ、それ。」
「だよねー。」
そう言って私は、肩を落とす。
兄さん、これって私への愛?それとも……怖くて聞けない!!
昼休み。
私はお重を広げて声を張り上げた。
「よければみんな食べて!」
一人では食べきれない量だけど、働きながらも早起きして作ってくれているその労力を思えば兄の弁当を残すなんて論外だ。――ここ最近の必要以上の労力については、微妙な心境だけど。
「わぁ。おいしい!平石さんのお母さんって、料理上手だね!」
「いや、母さんは料理音痴。これは兄さん作。」
ありがちな誤解は、すぐに訂正。
私の言葉に、クラスメイトがどよめく。
「すげえ。兄貴がこんな料理作るのかよ!」
「ほんとプロ級だよ!」
クラスメイトの絶賛に、私は鼻高々だ。自慢の兄だからね。
わらわらと私のお弁当に群がるクラスメイトの中ただ一人離れた自席に座り続ける人物に、クラス委員長の園田君が声をかける。
「すっごい美味いから、真海も食べてみろって!」
その言葉に、真海君がこちらへと視線を向けた。
派手さはないが人形のように整った顔立ちと、黒フレームのシンプルな眼鏡の奥の無機質な印象を与える感情を見せない瞳。
滅多にいないような美少年故に女子からの人気は密かに高いが、静謐と孤独を愛するかのような独特な雰囲気から、熱狂的な人気というよりもこっそり見てキャーキャー言われている人物だ。
真海君は、兄作の弁当を一瞥すると静かに首を振った。
「俺はいい。興味ないから。」
相変わらずクールだ。
話しかければ返答はしてもらえるが、淡々とした答えしか返ってこないのが常。そのクールさがいいと言う女子も多い。
え?私?
私はブラコンだから兄さん一筋ですとも!
真海君が興味を示さないのは、別に意外でもない。
声をかけた委員長も、一応声はかけたというだけで気にした様子はない。
人の輪の中に入ってくるタイプでもないし、そもそも真海君は小食で食に興味がなさそうだし。
別に私は彼にキャーキャー言ってる女子じゃないから詳しくは知らないけど、同じクラスにいるにも関わらず彼が何かを食べているところをほとんど見ない。
昼休みですら、缶コーヒーを片手に読書しているイメージしかないくらいだ。
男子ってガツガツ食べるイメージがあるんだけど、真海君は例外中の例外だ。
朝と夜はちゃんと食べているんだろうけど、昼食べなくて良く持つなぁと私は思う。
兄さんの弁当はおいしいから、たとえウエストがどんなに気になろうと私には食べないなんて不可能だしね!