04:まさかの疑惑
最近の兄の作る弁当はすごい。
昼休み。
私の広げた弁当を見て、朝子は目を瞬かせた。
「元々手の込んだお弁当ではあったけど、ここ最近グレードアップしてない?」
そんな朝子の言葉に、私は頷く。
ここ一週間ほど、弁当に兄は相当力を入れているのだ。
「前に私が兄さんのお弁当作ったことあったでしょう?その時の弁当を完食した上、また食べたいと言ったツワモノが会社にいたらしくて……」
「何それ、人間?」
酷い言いようだが、私も同感だ。
「兄さんは断ったらしいんだけど、まだ毎日のように言われるらしいんだよね。」
「雪里さん狙いの女性社員が、シスコンぶりに目を付けてお近づきになろうとでもしているとか?……だとしても、そこまでする根性が凄すぎるけど。」
兄はモテるのでありそうな線ではあるが――
「でも、イケメンって言ってたから男だと思うんだよね。」
「……雪里さん狙いの男性社員が、シスコンぶりに目を付けてお近づきになろうとしていると。」
「うっ……さすがにそれはなくない?」
「まあ、冗談だけど。でもそれがどうしてその力作弁当につながるわけ?」
「私の弁当を食べたいと言わせないために、兄さんの弁当で満足させるためらしい。」
私の答えに、朝子は黙り込む。
そして、数秒の沈黙の後、重々しく口を開いた。
「それってつまり、そのイケメン社員とやらに、雪里さんはここ数日毎日手作り弁当を食べさせてるのよね?」
「う、うん。」
「……やっぱり雪里さん狙いの男性社員が。」
「その冗談はもういいって。」
「いや、今度は結構本気だけど。」
真顔できっぱり言い切られて、思わず硬直する。
「……えっ?」
「義理の兄ができても祝福できるよう、心の準備でもしておけば?」
「まさかそんな……ええっ!?」
普通に異性の恋人ができてもすぐに祝福できるかわからないのに、まさか……
そ、そんなことないよね?
そんな私に芽生えたまさかの疑惑の真相がわかるのは、更に1週間後のことだった。