03:料理禁止令
「お、お帰り。兄さん。」
不安を抑えきれずに玄関で出迎えた私に、兄は目を見開くと満面の笑みで抱きついてきた。
「ただいま桜里!」
ブラコンとはいえ、玄関まで出て帰りを迎えることはそうそうない。
それが嬉しかったのかご機嫌の兄の様子に、とりあえずクビってことはないはず……と安堵の息を漏らす。
「その、お弁当のことだけど……」
「ああ。ありがとうな!おいしかったって言いたいところなんだけど……」
不意に表情を曇らせる兄に、不安が再発する。
や、やっぱりクビ!?
しかし、兄のもたらした答えは、想定外のものであった。
「古城君に全部たべられちゃったんだよね。」
「……え?」
「あ、そうか。桜里は古城君のこと知らないよね。最近うちに中途で入社した営業の人なんだけど、桜里のお弁当を見て一口食べたいって言うから、まあ一口だけならと思ってあげたんだ。なのに全部食べちゃうんだよ!ひどいよね!?」
「え?……ええ!?」
私の弁当を見て一口食べたいと言いだすことがまず信じられないけど――とんでもなくゲテモノ好きとかならば、まあ、あり得るかもしれない。
でもそれを――全部一人で食べるなんて……自分で作っておいてなんだけど、まともな人とは思えない。
「また作ってもらってきてくれって言われたけど、作らなくていいからね。桜里の料理は、お兄ちゃんが全部食べる!」
「た、頼まれても作らないけど……。大体その人だって本気で言ったんじゃないだろうし。」
「いや、あれは本気だよ。あんなイケメンの胃袋をあっさりつかんじゃうなんて、兄さん心配だよ。」
「絶対不要な心配だから、それ。」
事情はさっぱりわからないが、よっぽど心臓の強い人がいて、兄をたててくれたんだと思う。
「そんなことないから、桜里はしばらく料理禁止だよ!古城君には、もう絶対食べさせない!!」
不要な決意を燃えたぎらせる兄をよそに、こうして私としては大変ありがたい料理禁止令が発令されたのである。
我が家で兄以外に、私をキッチンに立たせようとする人間なんていないからね。