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level1.1 家の魔王様の話

 絶叫して絶望しかけたアルだったがピリムのいれてくれた紅茶を飲むことでなんとか平静を取り戻した。

「しかし、姫様。そうなると魔王様を殺す方法なんてありませんよ?」

「そうなのよねぇ」

 ピリムの言うことは正論であるということをアルはわかっていた。

「そもそも、他の魔王も父上みたいに化け物じみてるのかしら?」

「そうですねぇ」

 額に指を当て思い出そうとしているメイド。

「確かに、私のお会いしたことのある魔王様方はあれくらいが普通だったとおもいますが」

「あんな化け物みたいな存在が他にもいると思うと頭が痛くなる」

「まぁ、全ての魔王が化け物じみているわけではありませんがね」

 魔界には何体もの魔王が存在する。

 その魔王全てがいる意味力の権化といわれるほどである。

「そうよねぇ。ティスマス様なんて予言者だもんね」

「あの方には未来が見えてますからね」

「一番弱い魔王ってガルデンドル様かしらね」

「確かにあの方が一番弱いでしょうが‥」

 ピリムが苦笑を浮かべながら答える。

「あの方の二つ名は"不死身"ほとんどゾンビみたいなものですから」

 カップが空になったところに再びメイドが紅茶を注ぐ。軽く匂いを楽しみながらアルは思考を続ける。

「ほんと、どうしたら魔王を倒せるのかしら」

 誰にむけても呟いたものではなくなんとなくのものだ。メイドは、主の考えを待つのか後ろに控えた。

「安全かつ確実に倒す方法‥」

 ぶつぶつといい始めるアル。

「姫様」

「なに? なにか名案でも浮かんだ?」

 期待に満ちた目でメイドを見上げる姫君。それに対してピリムは、

「いえ、ぶつぶつ言う姫様がぶっちゃけ気持ち悪いので魔界てぃーぶいを見ていいかの確認のために声をかけた所存です」

 ニッコリ笑顔で主のことなど考えずに自分の思ったことを言ってくる。

 アルはうんざりとしたような顔をしながら、

「いいわよ。好きになさい」

 ため息を付きながらも手ヒラヒラとを降り許可を出した。

「ありがとうございます」

 返事するやいなや部屋に設置されている魔鏡(魔力を通すことで映像を映し出す大きな鏡)に向かい魔力を放ち始める。

「また通信販売?」

 軽くため息をつきながらアルはニコニコしながら魔鏡を見ているピリムに話しかける。

「はい♪ このまえは『これであなたも暗殺者!初級編』の暗殺剣を買いました」

 眩しいくらいの笑顔で説明をしてくれた。騙されてることは言わないほうがいいだろう。

「まぁ、無駄遣いしないようにしなさい」

「痩せる靴を買った姫様に言われたくありません」

 ぼそっとメイドが毒をはく。

 その言葉になにか思い当たることがあるのかアルの横顔に緊張感が漂い始める。

「な、なにをいってるのかわからないわ」

 手に持ったディーカップが小刻みに揺れ、満たす液体に小さな波紋を作り始めている。

「姫様のベッドの下、ダイエット商品でいっぱいですよね? さすがにあれだけ集めていたら気付きますよ?」

 聞かれたから答えたと言わんばかりにピリムはあっさりと答える。当の姫君は動揺を隠すことが困難なほど狼狽していた。

「あ、あなた、見たの!? ベッドの下を!」

「? それはまぁ、メイドですからお部屋のお掃除の時にたまたま! ベッドの下を覗いたらたまたま! 怪しげな鍵つきの箱を発見してしまって、たまたま! 開けただけですよ?」

「それはもう悪意しか感じないわ!」

 ついにアルが叫ぶ。

「どうやって鍵開けたのよ!? というか普通鍵閉まってるの開ける!?」

「そこに箱があったら開けたくなりませんか?」

「なるけど! あきらかにわたしのものってわかるでしょ?」

 ピリムは不服そうに頬をふくらませ、唇をとがらせる。

「いいじゃないですか。見ても減るもんじゃなし」

「言うに事欠いてその言いぐさ! 万死に値するわよ!」

 ついに怒りの限界点を越えたのか、アルは持っていたカップを放り投げ、右拳にに魔力を収束し始める。それと同時に魔鏡が通信販売の番組を流し始めた。

「あ、姫様。そろそろ番組始まりそうなので後にしてもらってもいいですか?」

「あたし、姫よ!? 扱い雑すぎるわよ!?」

 あまりな扱いの雑さにアルは絶叫するが、メイドは全く気にしない。

 メイドはアルのほうをちらりと眺め、

「細かいことを気にする女は殿方にモテませんよ?」

とぼそりといい放った。

「余計なおせわだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 なんだか叫んでばかりの姫である。

『魔界全域の皆様、今晩は♪ 今宵も血沸き肉肉踊る魔界てぃーびぃーのお時間です』

 オドオドしい音楽と共に場違いのような明るい声が魔鏡から響き渡る。

 魔鏡には青白い顔をしたスーツ姿の男と、もう寝てるんじゃないかと言われてもおかしくないほど机に突っ伏している、女?が写し出されていた。

「あ、始まりましたから姫様、静かにしてくださいね♪」

 アルの殺意の宿った攻撃を片手で軽くそらしながらピリムはにっこりと笑顔で言い放つ。その瞬間、アルとは比べ物にならないほどの殺気が部屋を支配する。

「ひっ‥」

 肌に突き刺さるような寒気をアルは感じ取っていた。

 今はまだ笑っているメイドだがあきらかに雰囲気がちがう。

「お静かにお願いしますね♪」

 顔は笑っているが目が笑っていない、そんなピリムを見たアルはもはやうなずくしかできなかった。


 

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