第5話 「明らかにおかしいだろっ!!」
人ごみが出来た広場から離れ、引っ張られ続ける俺。未だショックからは立ち直っておらずまだすすり泣いている。
この状態を横を通り過ぎるプレイヤー達は、チラチラとこちらを伺うと可哀想にといった表情しつつ離れていく。
「ほらっ、兄さん。もう人居ないから」
「うぅ~、何で俺だけこんな目に……」
いつの間にこんな場所に来たのだろうか、俺は、和輝と穂之香と一緒に一つの家の前に来ていた。玄関と思しき扉には、バイオリンの弦と楽譜に使われる記号のようなものが刻まれておりドアに視線を合わせると、【幻想交響楽団】という文字が浮かんできた。
「ここは?」
「率直に言うなら、私の所属しているギルドのギルドホームね。さ、入って入って」
その言葉に俺は一瞬躊躇う。何故なら、このギルドに入るためでもなければギルドの人間でも無いのだから。
「いや、姉さん。俺は、ちょっとマズイんじゃない? 赤の他人のギルドだし……」
「あー、それについては大丈夫。もう、マスターとかには話つけてあるから。『私の兄弟が来るかも知れないから』って」
ギギギッ と重そうな扉を開きながら穂之香は、和輝に話しかける。扉を開けると、そこは、外とは全くの別世界。大理石のような石材で作られた柱。床には、赤い絨毯が敷かれクラシック系の音楽が流れ落ち着いたムードが空気を包む。
「うわぁ……」
「噂には聞いていたけど、コレほどだったとは……」
思わず言葉を漏らしたのは、俺の方。噂を聞いていたのは、和輝の方だ。
「どう? ここが、私達のギルド【幻想交響楽団】よ! なかなかおしゃれじゃない?」
腰に手を当てどうだっ! と表情浮かべる穂之香。確かにこの規模の物件をみれば、かなりのギルドレベルを持っていると考えられる。
「あら? カノンちゃん、おかえり、お兄さん見つかったかしら?」
不意に左側から声が掛かる。そして、『カノン』と言うのは、多分穂之香のアバターネームの事だろう。
穂之香→ほのか→カノン。自分の名前を逆にして思いついた、と聞いた覚えがある。
「えぇ、フィーリアさん。後ろに居るウィザードがカズキ、私の弟です。それで、……こっちが今日ログイン出来るようになった……私の兄です」
「ふーん、大和十八連合隊……真実世界側で作られた巨大ギルド所属か……」
品定めをするかのように和輝を見るフィーリアと言う名のホビットの女性。腰には、小振りのナイフ、そして首からフルートのような物をぶら下げている。
二分ほど和輝を見た後、次は俺に視線が向けられる。
「……カノン? この人って本当に貴女のお兄さん? 女にしか見えないんだけど?」
「じ、実は……ですね」
穂之香がフィーリアさんに説明する。その説明を聞いている最中に幾度と無く彼女の表情が変わった。
驚いたり、面白がったり、笑ったり………、あの、どう考えても俺の事馬鹿にしてるでしょ?
「ゲームにログインしたら、キャラクターの性別が逆になってしまっていた……ねぇ」
「そうなんですよ! 俺もどうしたら良いか分からなくて……」
「太……ライラ兄ぃ、女の子は、そんな話し方しないわよ」
ちょっとちょっと、カノンさんっ!? リアルの名前を広めようとしないでくださいよっ!
俺の本名をバラそうとしたのは置いておいて、話し方について、穂之香から注意が飛ぶ。だが、突然性別の逆の話し方をしろと言われても無理というものだろう。こっちだってまだ、戸惑ったままなんだからさ……
「むっふっふー、ライラちゃんは、私達の話について来れない様だねー」
「ライラちゃん言わないでくださいよ!?」
もうヤダここ。俺は、男なのに何故こんな扱いを受けなけりゃならんのだ。
またまた涙目となった俺だったが、フィーリアさんの促しで幻想交響楽団の一室に移動する。
「まず、最初に聞きたいんだけど、本当に貴方は、カノンのお兄さんよね?」
「勿論です。いっその事、リアルでの姿を見てもらいたいぐらいですよ」
「まぁ、兄さんは、リアルでも女顔だったりするけどね」
コラ、和輝。悪戯に話をややこしくするな。そして、フィーリアさんも真剣な顔をしてその話を聞かないでっ!!
「なるほどねぇ……、いっその事ゲーム内では、女の子になっちゃいなよユー」
「ぜっったい嫌です!!」
いきなり、何を言い始めるんだこの人はっ! 俺を弄って遊ぶのが楽しいのかっ!? こっちはそれどころじゃないっての………
ちなみに、俺以外の奴の考えは、色々なのだろう。和輝は、俺達の話を聞いて面白がっている。フィーリアさんは、俺に無理難題を押し付けようとしている。そして、穂之香は……
「ライラ兄さん、今回ばかりは仕方が無いと思うわ、だから……ね?」
「ここに俺の味方は、居ないのかッ!?」
ま、周りに味方が一人もいねぇ……。
この間にも、フィーリアさんが初心者の"女の子"に丁度いい装備があったはずだから部屋から取ってくるねー、等と言い出すものだから俺は、全力で拒否をした。
そんな話をかわし、部屋の隅に据え付けてあった鏡で初めて自分のアバターの全体像を見る。
身長は、少し縮み約百五十センチ位だろうか、発育途中の少女のように華奢な体。肌の色は、やはり腕と同じ様に透き通るような白。そこに、緋色の腰まで届くストレートの髪、髪と同じ様に赤い瞳。
髪と瞳の色は、俺自身がアバター製作時に設定した物だ。
更に、一番の問題は――、
(胸があるってどういうことだよ……)
男の時には無かった二つの双山が胸から出ていた。しかも、穂之香のアバター、カノンの胸より少しだけだが大きい。……と言っても、カノンの胸じゃ、競える奴なんか……
「兄さん? 謝るか、今、私に剣で捌かれるのどっちがいい?」
えええええええ!? 何!? 読唇術でも使ったのか、コイツはっ!?
「サ、サァ、ナンノコトデショウカ?」
「ふーん、ならいいけど?」
少々、ドス黒いオーラを出しながら俺から遠ざかっていく妹の穂之香。あっぶねぇっ!! 殺される所だった……
離れていった穂之香の事を頭の片隅に置きつつ、再度自身のアバターをくまなく見渡す。
……うーん、やっぱり胸が邪魔だ!
「ほほぅ、ライラちゃんは、胸の重みが気になっているようですな」
「だから、ちゃんじゃないですって……」
俺が、鏡で自分の姿を見ていると背後からフィーリアさんの声が掛かる。話を返しているわけだが、目線は、ずっと鏡に向いたままだ。そして、その自分の姿を見て現代日本では、何処の女子でも持っていなさそうな物を発見する。
腰に着けられたホルスターに入る黒光りする拳銃『インフィニティ・レールガン∞』。大きさは、現在の華奢なアバターでも、手から少し飛び出るほどと先程の『アバター製作ルーム』(勝手に命名)で持った感じと変わりは無い。扱う分には、大丈夫だろう。
「ん? 兄さん、その武器は?」
「えっと、最初のアバター製作画面で入手した奴。『インフィニティ・レールガン∞』って言うらしいんだけど――」
『はぁっ!?』
俺の携えていた武器の名前を聞いた途端驚愕とする三人。
「まさか、本当にそんな幸運な人が居るなんて……」
「でも、確かあのシリーズのアイテムが選択される確立って数千分の一って聞いた覚えが在りますよ」
「えと、そんなに凄いものなんですか? 一応、レア度が六とかあったんで驚いたりはしたんですけど……」
全くもって状況が理解できない俺は、驚いている三人に話しかける。一瞬、冷たいような眼差しを向けられ、その後に頭に手を当てた和輝が説明を始めた。
「えっと、兄さん。その武器はね、いっっちばん最初に入手出来るかもしれないレア武器なんだよ」
「まぁ、レア度の高さからそうだろうとは思っていたけどな、でもそれだけ?」
「そんな訳無いでしょ! インフィニティシリーズって言ったら初期装備最強のアイテムなんだぜっ!?」
ほうほう、そうなのか。あまり実感が出来ない俺は、殆ど言葉が右から左な訳だが、三人は、そうはいかないらしい。
話を聞くと、インフィニティシリーズと言うのは、ごく稀に初心者用装備の代わりに現れる事が在ると言うレアアイテム扱いの物らしい。取引や売買、譲渡を含め一切不可、だが、それに見合う性能を備えている。
銃――俺が、入手した『インフィニティ・レールガン∞』もそのシリーズの一種で、元の初心者用武器は、『ハンドガン∞』。装備条件が、DEX値10以上、ATK値上昇率は、+30。
それに比べ、インフィニティ・レールガンは、装備条件が、アバターレベルLv1以上、と言う制限だけでATK値の上昇率は、+540。この上昇率は、大体プレイヤーレベル30前後の武器に匹敵するのだと言う。
コレだけを聞けば、インフィニティシリーズの武具が入手出来れば、かなりの格上狩りが出来ると思うだろうが、ゲームシステム的にもそれは想定済みで、自分のレベル+10レベル以内に入っていない格上の敵には、攻撃が殆ど当たらない。よって、高レベルモンスターを刈りまくって即座にレベルが上がっていくという現象は起きづらいのだという。
だが、同レベル帯となれば、話は別となってくる。単発が、レベル30クラスの一撃なのだ、始まった直後の適正Mobとなれば、即死である。
「明らかにおかしすぎるだろっっ!?」
そう俺は、高らかと叫んだ。
読者の皆様、始めまして。作者の火御雷です。
まず最初に、こんな辺境の地にある小説を見て頂きありがとうございます。
気分転換に書き始めたこの小説ですが、これからも頑張っていきます。
誤字、脱字等を減らすように努力はしていますが、発見された場合、報告して頂けると、有りがたいです。
感想などもお待ちしております。