第19話 「LCOの美少女の秘密」
(面倒な事になったな)
コロシアムから脱出し、俺たち三人は、大和十八連合隊のギルドホームに戻ろうとしていた。
新たに手に入れた職業専用のスキル《連携剣銃術》の能力に少し驚きながら。
ただ単に、攻撃が繋げられるようなっただけじゃねぇか、と思っていたこのスキルだが、その効果は凄まじい物だった。
試しに、抜刀術スキル三閃世界の後に、銃術スキルピンポイントショット、以下PSを繋げて発動させてみた。
するとどうだろうか、三閃世界の攻撃終了後、自動的に体が動き(正確には、腕が動き)元の体勢に戻ると、射撃体勢を取りそのままPSを発射したのである。三閃世界の硬直時間は、体感で約三秒。だが、その硬直時間を無視して次の攻撃へと連携したのだ。(この後に発生した硬直時間は、PSと同じだった事から三閃世界の硬直時間は完全に無視されていたと推測される。)
だが、中には連携が上手くいかない物も存在していた。
《剣衝撃》は、俺が今所持するスキルでは一つとして連携できる物が無かったし、パワードライブからの旋風斬も一瞬動きがモタついてから次の攻撃に繋がった。
三閃世界からのPSとパワードライブからの旋風斬では、何か条件が足りないとかそういう物が存在するのだろうか?
っと、話が逸れていた。何故、俺が面倒なことになったと呟いたのは、現在の状況だ。
こうなったのは、多分……いや、確実に武器のせいだろうか。
「いやー、キーモンスターは強敵でしたね」
「……それ、何のネタだよネロ」
コロシアムから脱出し、聞こえた第一声がソレである。……そして、俺はそのネタは知らん。知っていたとしても、突っ込みはしないぞ。
「あー、疲れた……というか、何でコロシアムの中の相手には、攻撃通らないのよ……」
「まぁ……コロシアム内部の敵は、通常フィールドの倍以上のステータス補正が掛かっているからね。兄さんの攻撃が当たらなくても不思議ではないと思う」
「ソレを早く言ってよっ!!」
第三者から見れば、パーティーでゲームの話をしているようにしか見えない三人。盾職に魔職、そして見慣れない武器を携行する緋色の髪の少女。(無論、これは俺の事なのだが)
銃剣カテゴリーに属する俺の武器『ガンブルブレイド∞』。片手剣や拳銃とは違い、近距離と遠距離の両方に対応出来る特殊な武器だ。
ユニークジョブ転職時に入手となったこの武器は、初期武器扱いの為レア度はそれほど高くない。だが、周りの様子が少し変だな。
「……変な視線の奴がいますね」
ネロの呟いた一言でもう一度、俺は辺りを見渡す。メインストリートを一本中に入った道を通って居るので人通りが少し寂しい。黙りながら、道を歩いていると横を通り過ぎるプレイヤー達の視線がこちらを向く。その中には、仮想の世界なのに背筋がゾクッとするような視線もあった。
何と言うか、背筋を逆撫でされているような……そんな感覚だ。
「……何か……変。悪寒がする……」
心の底から思った事を呟いてみる。声色の違いを読み取ったのか、カズキが並列で歩くのを止め俺の後ろに着く。
前後のプレイヤーで中心のプレイヤーを挟み込む『ディフェンス』と呼ばれる行為だが、元々は戦術・陣形として編み出された物だ。
一人目のプレイヤーを通り越してもその次、それまた次とプレイヤーが現れMobの体力を削っていく戦術で、直線突進系のMobを狩るときに重宝する。更に安全性を求めるのなら、中心の人物の左右にもう一人ずつプレイヤーを配置する『ディフェンスクロス』と言う陣形を組むのが好ましいとされるが、人数が足りないしそこは仕方が無いだろう。
「なーなー、そこのねーちゃん」
後ろにカズキが来た事に安心したが、前方は安心できなかった。
全身で"不良"です。と語っているような奴らに絡まれたのだ、その数五人。全員が金髪で首元にネックレスのようなアイテムをチャラつかせている。
俺は、こういうタイプの人種は嫌いである。何かといって突っかかって来てトラブルの元となるからだ。
「退いてくれませんか? 俺達は、彼女をギルドホームまで連れて行かなければならないんだけど」
「そーユー訳にゃいかねぇな。逆に俺達は、そこの彼女に用があるんだが」
そう言って不良改め、"チンピラ"の一人が前に出ると、俺に粘っこい視線を向けてきた。身長の違いにより、俺がチンピラを見上げる格好となり、奴らの顔は何処か小ばかにしているようにも見えた。
どうやら、カズキの話を聞いても五人は、道を譲る気は無いらしい。
「……退いて頂けませんか? 私は彼らのギルドホームに用事があるのですが」
カノンに駄目出しをされ続け、ゲーム内での言葉遣いは強制的に矯正された為、カノンやフィーリアさんが使うような言葉の使い方は自然体で出す事が出来るようにはなった。(時々、テンションがそれを上回って元の言動に戻る時はあるけど。)
「おぉ、結構可愛い声してんじゃん。それに、何か変わった武器持ってるし。なぁ、特攻隊長とパフェシルなんて置いてって俺達と一緒に真実世界でお茶でもしようぜ」
パフェシルって誰よ。と喉から言葉が出そうになるが、ぐっと我慢する。
特攻隊長=神風特攻隊長のカズキって式が合うのならば、パフェシルってのは、ネロの事だろう。
パフェシル=パーフェクトシールド=絶対防御の盾とかそんな意味合いの二つ名かな?
「行きません。それに、お茶であれば大和十八連合隊のギルドホームでも飲めますので」
きっぱりと、拒否の色を示しチンピラと距離を置く。こういう奴らは、しっかりと言わなきゃダメだろうからな。
それに、今このチンピラに着いて行くなど言い出したら、正気を疑われる。
ネロも勿論驚くだろうが、リアルでカズキに『男に興味があるのか!』なんて絶対に言われたくないし。
「ンだと……? 俺達の誘いを断るってのか。人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって」
そして、俺の拒否にチンピラが切れる。
あー、逆上タイプでしたかー。
(面倒な事になったな……)
一人、ため息を漏らす。
「てめぇっ! 調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
俺のため息で沸点に達したのか、白く華奢な俺のアバターの腕へと手を伸ばしてくる。
「……いい加減にしろや……」
「あ?」
「いい加減にしろって言ってるんや……」
俺の腕にチンピラの手が触れる直前、ネロが小さく呟く。既に沸点に達しているであろうチンピラ達は、その言葉を漏らさずに聞き取った。
……と言うか、こんな声のネロ始めて見たぞ。ついでに何か大阪弁っぽいのが混ざってるんスけど…。
「いい加減にしろ? 何を言ってやがる、俺達はこの彼女が持ってる武器に興味があって話しかけたのに気分悪そうに話してるのはお前らだぞ!」
「黙れ。どうせお前ら、この子を真実世界に連れて行くとか言って、実際は幻想世界の安全圏外に待機しているイエローの所にでも無理やり連れて行こうとしていたんやろ」
「……」
図星なのかよ……。
このゲームには、勿論国家権力など存在しない。権力が存在しないと言う事は、法律も存在しない。その為、ゲームシステムが法律の代替を行うのだ。
ネロの言った『イエロー』も、その法律を犯したプレイヤー達の通称だ。
イエローは、軽犯罪。強盗だったり、異性アバターへの暴行・接触など、かなりの範囲の犯罪がここに分類される。
更に度が過ぎ、決闘を行わずゲーム内で殺人を犯した者は、殺人プレイヤーと呼ばれるようになり、イエローもレッドもそれぞれの色にターゲットカーソルの色が変わる。
そして、そんな危険なイエローやレッドプレイヤーから一般の『ブルー』と呼ばれるプレイヤー達を守る為に存在するのが、"安全圏内"だ。
ターゲットカーソルがイエローやレッドのプレイヤーは、安全圏内に入ろうとすると不可侵領域と表示されそれより内部に進入する事はできない。
だが、故意ではなく偶然プレイヤーなどに攻撃が当たってしまいダメージを与えてしまったり、体力を削り取ってしまい、犯罪者となったプレイヤーの為に更生クエストと言う物も用意されている。が、凄まじく面倒なのだとか。
「もう一度言おうやないか。……お前ら失せろ。二度と俺達の前に姿を現すな。そうすれば、GMコールを掛けるの止めたるわ」
「……チッ」
舌打ちをし、俺達から離れていく五人のチンピラ達。その顔は、物凄い形相で俺達を睨み付けていた。