プロローグ
この作品は、最近よく耳にするVRMMO作品です。
そして、ログアウト不可能系ですがデスゲームでは無いのでお願いします。
ヴァーチャルリアリティの技術がお披露目され稼動し始めた2054年。それから、三年の年月が経った、2057年。純日本産のゲーム開発会社、レグルスによって新たなVRゲームのβテストが開始された。
その名は、『Last Cross Online(ラスト・クロス・オンライン)』。通称:LCOと呼ばれるファンタジーゲームだ。
プレイヤーは、ゲーム内で複数存在する種族、多岐にわたる職業を選択し、天空古城:ロストヘルムから、広大な世界に散らばってしまった属性のクリスタルを集めると言う、グランドクエストの名の下に広大なゲーム世界を駆け巡るストーリーだ。
VR技術によって作られたゲームとしては、五番目ではあったが、既出のファンタジー系VRMMORPGとは、少し変わったストーリから製作段階の情報が公開された時点で注目されていた。
レグルス社がベータテスターとして募集した人数は、千五百人。その一般ベータテスター応募に集まった人数は、驚きの七百万人。
その応募総数の結果に、テレビでも大々的に報道され、ベータテスターに選ばれなかった者達の無念スレなる物も乱立したのだという。
この話を受けレグルス社は、ベータテスターの人数の増員を決定。既に決定した千五百人と追加ベータテスター七千五百人、運営側で選択された千人の総勢一万人によって、Last Cross Onlineのβテストは、開始された。
だが、レグルス社によって開発されたこのゲームは、国を揺るがす程の事件に巻き込まれて行く。
…………そう、ある組織の手によって
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俺の名前は、柊太一。インドアもアウトドアも好きなごく普通の中学生だ。ゲームは、もちろんするしキャンプとかもお祭り騒ぎが出来るから好きだ。そんな俺には、一歳年の離れた双子の弟と妹が居る。
黙っていれば、黙々とオンラインゲームに勤しむ弟、柊和輝と、時間があると筋トレをやり始めるアスリート系の妹、柊穂之香だ。だが、今回、俺の部屋の扉を蹴破る勢いで駆け込んで来たのは、和輝の方だった。黒髪のボサボサ髪と平均よりも若干痩せ気味の体格を持つ和輝は、肩で息をしている。
「『ラスト・クロス・オンライン』のベータテスターに選ばれちゃった」だってよ。……少し、驚きすぎじゃないか? と、最初俺も思った。
だが、外れる覚悟で送った二通とも当たっていたと付け足して言うから流石に驚いたな。
「『――――少年よ、元の世界を見てみたくはないか?』」
いきなり、何を言い出すんだ。コイツは……
「何が言いたい?」
「いやー、勿論、このゲームへの誘い。二枚あっても片方無駄じゃん。要らないならクラスの奴に売るけど?」
良く分かってるな。確かに、LCOは、テレビでも報道されるほど人気のゲームタイトルだ。俺が、情報を収集していない訳がない。そして、そのゲームのベータテスターの権利が目の前にあるって?
「勿論、参加させてもらうとも、そのリアルラックに免じてな」
「それって結構酷いよ!?」
まともに勧誘しなかったのは、流石、我が弟といった所だろう。コイツも、中学生ながら重度のインドア派ゲーマーである事は、俺を含め穂之香や和輝の友達からも知られている。(そして、超が付くほどのリアルラックの持ち主だったりもする。)
ラスト・クロス・オンラインのキャッチコピーが、さっき和輝が言った言葉だって言うのは、俺も知っていたが、まさか使ってくるとは思ってはいなかったのだが………。
「っと、そんな事よりも、ダイバーをどうするかだよ。アレまだ高かったんじゃなかったっけ?」
AR・VR技術が確立されて数年が経ち、『ダイバー』と呼ばれるヘルメット型の専用機械は、発売当初より幾分か値段が下がってきている。
しかし、高校生と中学生の身分がベータテスターに選ばれました。はい、じゃぁダイバーを買いに行って来ようかで買える様な代物ではない。一台で軽く据え置きゲーム機二台分近くはするからだ。
だが、この点もベータテスターに選ばれた時点で考慮されていたのだろう。
「あ、大丈夫だよ。ダイバーも一緒に付いてきたから」
oh......最近は、ダイバーは付加商品か何かなんでしょうか。確かに、買いに行く手間と、俺達の小遣いは助かるけどさ……
和輝に持ってきてもらった『ベータテスターのご案内』と書かれた電子端末のカートリッジを今となっては珍しくなった据え置きPCに読み込ませると、俺は、部屋の壁一面に貼られた有機ELディスプレイに画面を表示させる。
まず最初に目に入ってきたのは、おめでとうございます。貴方は、Last cross Onlineのベータテスターに云々って言葉が続くが、そこは読み飛ばし、ゲーム内の事について情報を整理していく。
案内書を見る限りには、LCOの世界には、二つの世界があり、一つが現実世界と瓜二つの真実世界。
もう一つは、このゲームの舞台となる幻想世界が存在するらしい。
真実世界は、その名の通り現実にある建物や、観光名所等が存在し現在の状態では、日本列島の全てが真実世界で再現されていると書かれている。
逆に幻想世界は、自然と石に囲まれた世界のようだ。どこか、外国の田舎を連想させるようなゲーム世界の写真が載っていていかにも平和そうである。だが、この世界に異変が起きているのは、俺も承知済みだ。
確かストーリーは、幻想世界の均衡を取っていた属性のクリスタルが破壊され無数に散らばった。ただこの時、世界を超えて真実世界にまで飛んでしまったクリスタルもあって、真実世界と幻想世界という二つの世界を行き来して、目標を達成していくって話だった。
運営の悪戯か、現実世界そっくりにゲームの世界を作るなよ……って思わず突っ込んでしまったのは、何時だったっけ?
更に、案内書を下の方にスクロールしていくと、こんな一文が目に入ってきた。
「えっと、何々? 『今回のベータテストは、かなりのアクセス数が予測されます故、幸運にも選ばれた方々にもプレイ制限を設けさせてもらいます』」
ここまで予測済みだったか、レグルス社。段階的にログイン出来る人数を増やしてサーバーの負荷状況を確認しようって言う考えなんだろう……
俺は、その下に書いてあるプレイ制限の開放時期を和輝から貰ったパスワードを調べてみると、意外と遠かった。
「う、うがぁ!? は、八月二日から……だと…」
このゲームのβテストが始まるのが、七月二十日。俺も和輝も夏休み初日だ。運営は、学生達が一斉に休みになり始めるその周辺を狙って決めたに違いないが、今回はその制限が悪意に感じられた。
「あー、兄さん。『ハズレ』の方を引いてくれたんだ。クスクス」
「あ、てめっ、和輝。この事知ってやがったのか!?」
いつの間にか、部屋の扉を開けていた和輝に笑われた事に一瞬イラつきながら言葉を返す。
「いやー、俺も今知ったよ。一週間以上もやりたいゲームが出来ないんじゃ兄さんも大変だねぇー。あ、ちなみに俺のは、七月二十日。開始初日の組だったよ」
「そっちのパスワードよこせっ!」
俺は、和輝に飛び掛る勢いで叫ぶが…
「ざーんねんっ。これ確認した直後に俺は、自分の登録を済ませておいたよ。つまり、兄さんにパスワード渡しても使えないよ」
「こ、こんな事があっていいのかぁぁぁぁぁ!!」
ゲーマーとしては、テスト初日に遊びたいと言う好奇心がある。しかし、それは叶わぬ夢となってしまった。
俺は、半分嫉妬、半分妬み+αの感情が心の中で混ざり合う。
そんな状態が数日続き、夏休み初日を迎える事となった。
現在、俺は、和輝の部屋にいる。当の呼び出した本人は、既に自分のベッドの上に寝転がり準備万端である。初日からダイブすると言うのだから流石というか『勉強をしろ!』と一喝したくもなった。勿論、それ位で止められる様な奴じゃない事は、百も承知なのだが。
「じゃ、兄さん。先にLCOで遊んでくるねー」
「テメェ、コッチノ制限解除サレタラスグニ追イツイテヤルカラナ」
そんな俺の反応に臆する事も無く、ダイバーを頭に装着した和輝は、ログインに必要な単語を発する。
「ダイブスタート。ゲームネーム『ラスト・クロス・オンライン』」
軽快な電子音が響き和輝の意識が仮想世界に飛び立った事を確認すると俺は、自室に戻る。一般の学生は、今日から夏休み……と来れば何をする為に俺が部屋に戻ったのか分かるのではないだろうか?
「……五日で勉強を全て終わらせるか……」
残っている……訂正。今年出された夏休みの課題は、全部で五科目。国語・社会・数学・理科・英語。
このうち、国語と社会・英語は、俺はあまり好きではない。どちらかと言うと、理数系の教科の方ばかりに力を入れる傾向がある。
「とりあえず、面倒になりそうなヤツを先に終わらせとくか……」
そう呟いて俺がディスプレイに表示させたのは、国語の課題。総ページ数が三十とあり俺にとっては、膨大な量。……漢字ばっかりで頭痛くなりそうだ…
「……終わらせなければ、俺に未来は無い。せっかくだから俺はこの思考を貫くぜ!」
元ネタは、知らんが時間が残されていないのは確かな筈だ。
後、数日。その間に終わらせなければ、LCOのプレイ時間を割く必要が出てくるからだ。
そんな、格闘が続きはや数時間。国語と英語の課題を消化し終わると外は、紅に染まり始めていた。かれこれ、八時間は、ディスプレイとにらめっこをしながらキーボードを叩いていた計算だった。
「とりあえずは、二教科終了……ひ、久々に頭をフル回転させたぜ」
既にグタグタな俺だが、まだ、三分の一。そして、今終わらせた二教科よりも手間取る課題が残っているから力を抜く訳にはいかなかった。
夕飯を急いで胃に流し込み自室へまた飛び込む。和輝の奴は、まだダイブ中で戻ってきていない。まぁ、母さんに夕飯要らないって言ってただけあって長時間ダイブする事は、確定だったんだな。
アイツの事だ、こんな長時間ゲームをし続けているという事は、早々にかなりのレベリングを行なってヒャッハー! でもするつもりなのだろう。
「今日は、後、社会を削れるだけ削っておこう……」
そう心に決めた俺は、日が差し込まなくなり暗くなった部屋に明りをつける。外では、ツクツクと虫が鳴き始め、気温は、昼よりも下がって勉強をし始めるには丁度いい位となってきていた。