第2話
病室のドアがスッと開き、神妙な顔をした看護師さんが入ってきた。
ぼそぼそと小さな声で失礼しますと挨拶をし、あたしの様子を見た瞬間、看護師さんの顔が驚愕の表情で一瞬固まった。
「……シマダさん?」
看護師さんの驚きの表情にあたしは目をぱちくりとし、声が出ないので頷くことで意志疎通を行う。
慌てた様子の看護師さんは病院だというのにも関わらず「先生! シマダさんが!」と叫びながら病室を走り去ってしまった。
看護師さんは随分慌てていたけれど、あたしはそんなに長いこと意識を失っていたのだろうか。
しばらくすると白衣を着た四十代くらいのお医者さんらしき人とスーツ姿の顔が厳つい見知らぬおじさん、同じくスーツ姿の二十代後半くらいでイケメンの若い人が病室に入って来た。
「私はこの病院の医師で上條と言います。 シマダユウキさん、意識ははっきりしていますか?」
たどたどしくあたしの名前を呼び、これでもかという程の作り笑顔をあたしに向けて話し掛けてくるお医者さん。
お医者さんはいいけど、後ろのスーツの二人はヒソヒソと何か耳打ちしながらあたしの方をチラチラと見ている。
感じ悪いなと思いながらもお医者さんに頷くことで質問に答える。
あたしの目線に気付いたのか後ろに立っていた二人のうち、おじさんの方があたしに話し掛けてきた。
「あぁ、すいません。 初めまして……ではないんですが、私どもの事を覚えてらっしゃいますかね。 二度目の自己紹介になりますが、神奈川県警の広瀬と申します。 こっちは同じく片山といいます」
警察?
二度目の自己紹介?
まったく意味が分からないので、キョトンとしているとお医者さんが「まだそういうのは止めてください」と警察の二人を制している。
なぜこんなところに警察の人が居るのか。
何か事件に巻き込まれたのか。
あたしはそんなに大怪我をしているのか。
傷は残ってしまうのか。
パパやママはどこに居るのか。
聞きたいことは山ほどあったが、喉からはひゅーひゅーと音が出るだけでやはり声が出ない。
「シマダさん、もしかして声が出ないのですか?」
訴えるような目であたしはお医者さんに頷きを返す。
お医者さんは何か考えるような素振りの後、警察のおじさんに何か耳打ちをしてあたしに向き直った。
「シマダさんは六日前に身体の三割を火傷した状態でこの病院に運ばれて来ました。 その時に刑事さんが軽い事情聴取をしたのですが、記憶が混乱しているせいか酷い興奮状態でしたので、仕方なく鎮静剤を投与して再度安静にしてもらった次第です」
そんなに長い時間意識を失っていた事にびっくりしたけど、それ以上に予想以上の大怪我をしていたことに泣きそうになった。
これじゃ彼との一泊旅行なんて絶対に無理だ。 せっかく買った水着も彼に見せることが出来ない。 最悪……。
「治療は既に済んでいます。 火傷の痕は時間が経てばそれほど目立たなくなるので大丈夫ですよ。 また声が出ないのは熱傷のせいではなく、精神的なショックで出なくなっているものだと思われます。 喉に異常は見つかりませんでしたから」
安心させるような声音であたしに説明してくれるが、あたしの不安は一向に晴れてはくれない。