30.女三人寄れば姦しいものです。
「ヒカル様!これは一体どういう事ですの!」ドレスを抱えてララァが怒っております。
「だって見えない所だし、着るのにも支障は無いよ」と言ってみたけど素直に謝った方が良かっただろうか。
実は、香袋やシュシュを作る時に自分のドレスの布地をパッチワーク状に切り抜いて使ったのであります。表面はまずいので、中のペチコートから拝借致しました。だって凄い分量の生地を使っていて、見えない所なのに刺繍や可愛い柄など色も豊富で少しくらいなら分からないだろうと思ったのです。
それにお金持ってないから、有る物を利用するしか無いじゃない?
「何着のドレスを使われましたか?」ララァの手には3着のドレス。
「んー10着前後かな・・・」と本気で考えるがどれだったか覚えていないし。
「・・・・・今度生地屋にお連れ致します。」ララァの目が怖いぞ。
「あのさ、生地屋より仕立て屋さんの端切れが良いんだけど言って貰えるかな」
前から頼もうと思っていたので言っておく。
「それでした今日こちらに来ますのでお会いしますか?」
「うん。ララァの幼馴染なんだよね?前から会って見たかったんだ」なんだか楽しみであります。
森へ行ってから1か月程過ぎ、そろそろ暑い夏も終盤に差し掛かったなと思える今日この頃は嬉しい位平穏に過ぎております。
日中フェイはお城へ行ってお仕事をする様になりました。(朝遅く行って午後早くに帰って来ますがね)これが本来の生活サイクルだった様です。時々ミュージックプレイヤーを装備して出掛けて行く姿は何とも可愛いです。
私はお家で読書に励んでおります。この国の建国とか、お伽噺とかいろいろ読んでます。学校に行こうかなと言ってみましたが、フェイに即座に却下されました。
しょうがないので歴史書関係を読んでます。分からない事は身近な人に聞くとほぼ正解を教えてくれるので助かります。(皆頭が良いです)
週に2回はお城へ行き神官のジローさんから治癒(私の属性)の施し方等を教わり、ローズお姉さまに護身術を習います。それが終わると自分の部屋へと向かい、マリー様から送られてくるお茶とお菓子を頂きます。マリー様のお茶は本当に美味しく家族皆で楽しんでます。マリー様も心穏やかに過ごされているのだろうと思います。
もちろんララァもマリー茶の大ファンで、「ヒカル様、本日のお茶も大変美味しいですよ。」と言って、マリー茶を持って入って来た。
「ララァ、とてもいい香りがするわ!」とララァの後ろから大柄な女性が一緒に入って来ます。(?)女性か?男性か?・・・男だよねー声太いし(こっちの世界にもいるのねー)
ザッツおかまちゃんです。何だか嬉しいなと思うのですよ。この手の人結構好きなのでね。
思わず目をきらきらさせながら破顔して迎え入れてしまったので、がっつりおかまちゃんに抱きしめられてしまいました。
「ララァ!私この子貰って行くわ!」(わーい!貰われて行ってもいーよー)余りにも嬉しそうにしてしまったせいかおかまちゃんの谷間に埋められてしまいます。(え?谷間?)
「だから会わせたくなかったのですよ・・・」と溜息を付くララァです。
彼女は仕立て屋のサンディカさん。この国きっての名仕立て屋なんだそうです。女性・男性問わずその人に合った洋服を作ってくれるといいます。しかしこの容姿のせいで固定客が少ないのが悩みだとか。(私はオーケーだよ)
「この子が噂のドールなのね」と言いながら、お茶を飲み終わると直ぐにメジャーを出して詳しい採寸を始めます。前にララァが図った採寸表を見て、人形の為の洋服注文だと思ったと言うのであります。そこまで貧相か?これでもCカップだぞ!日本規格だけど。それ以来私の洋服の注文が入る度にドールと言われていたのだそうです。
サンディカさんは私の好きな色や好きな形のドレスを聞いて熱心にメモを取り、色んなアイディアを出してくれます。その真剣な眼差しが凄くかっこいいと思います。その真剣な眼差しが有るものを見つけます。
「ドール、ちょっと立ってくれる?」ん?どうしたかな。と思いながら立ち上がります。サンディカさんの指差した場所には、スカート裾のペチコートが少し下がっています。
「ヒカル様!このドレスもですか!」とララァの叫び声。(ごめんなさい)
どうやらペチコートのパッチワークがまた一つバレてしまいました。
「ごめんなさい」と二人に向けて頭を下げます。だって製作者には悪い事したよね。
あははは!と大きな笑い声「大丈夫よ、簡単に直せるから気にしないで。」とウインクです。自分のバックから針と糸を出して、2段3段と重なっているペチコートに直接縫い付け始めました。(なるほど、こーすればいいんだね)そこで思い出しました。
「サンディカさん、端切れを譲ってくれませんか?」
「何に使うの?このパッチワークに関係あるのかしらね」
香袋とシュシュを持って来て見せます。「これを作るのには端切れで十分なんです」
シュシュを見て不思議そうな顔をし、これは何かと聞かれます。
こちらの世界の人々は男女関わらず(おかまちゃんも)髪が長い。それを結うのに使うのはリボンかピンだけで、ゴムと言う物が無いのです。ゴムは有るんですよ。パンツ用(下着)のゴムがね。それを使ってシュシュを作ってみた所、随分評判が良くお城の中では皆が使ってくれています。もちろんララァもです。一つをサンディカさんの髪に結んでみる事にします。
「これは便利で可愛いわ!」とご満悦の様子です。ドレスを大体直した後、端切れは沢山あるから明日にでも持って来てくれると約束して帰って行きました。どうやら制作意欲が湧き上がったらしいです。
それから一時程経った頃、窓辺の小鳥が騒ぎ出しました。(来たのね)
足音は軽いけど凄い勢いで戸が開き「ヒカルー!!」と声と共に私より少し大きな少女が抱きついて来ました。「シア!いらっしゃい」と受け止められる訳も無く、ソファに倒れ込み二人で笑い合いました。
「これから暫くは城に滞在する事になったわ。宜しくね、お姉さま」と満面の笑みであります。
「花嫁修業ってやつか。ユゥイも喜んでるだろうね」と言ってみたら「多分」と曖昧な返事であります。
少し考えて「あー先にここ来たの?」と困った顔をしてみせる。「だって、ヒカルの顔を見たかったんだもの。私が帰る時はあなた猫だったのよ!?」(あーそーだった)
「ユゥイ様からの文で大体の事は知ってるけど、顔を見ないと落ち着かなくて」と少し泣きそうな顔です。ユゥイは1週間程で戻って来ています。
「シア、ありがとう」二人で抱き合っての泣き笑いに、お茶を持って入って来たララァも笑っています。
「シア様、お茶を召し上がったら一度城へお向かい下さい。従事の方も馬車で待って御出でですよ」その前にこれに着替えて下さいませね、と何かを手渡しています。そして私の方に顔を向けて「ヒカル様も旦那様のお迎えに行ってみてはどうですか?」と。(お、それいいかも)そして二人で着替える事にしました。
ララァがシアに手渡したのは、何時ぞや言っていたメイド服です。シアは大喜びで着替えてます。その隣で私もメイド服に着替え、シアの髪の毛をツインテールに結んで上げます。シアのメイド服姿は、日本の秋葉系男子が萌えそうな程リアルな二次元少女となりました。
さて城へ着くと、そこにはユゥイが待っていました。それを見つけたシアはやっぱり嬉しそうに頬を染めています。シアが私の家でお茶を飲んでいる間にシアお付の待女達が先に到着し、もう間もなく到着すると知って待っていたのだと思います。シアが降りるなり抱きしめているユゥイ達を放っておいて、私は自分の部屋へと向かいます。
{一緒に帰ろ}フェイに送信します。(メールより便利)フェイ限定だけど。
{ああ、迎えに行く}テレパシーは便利です。
城内の自分の部屋へ行くとそこにはルナがおりました。
「居ないと思ったら来てたんだ」とルナの喉を撫でます。
{呼ばれたので}となんとも不満そうな返事です。私は笑いながら窓の外を覗いてみます。
{ヒカル!会いたかったよ}とシアンが頬を寄せて来ます。3日前にも会ったけど。ふふふ
「会いたかったのはルナでしょ?」と言いながら額を撫でてあげる。
シアンは度々遊びにやってくる様になって、その度にルナを呼ぶのだそうだ。そのついでにマリー様からの届け物を持って来てくれるので嬉しいけど。
ルナ曰く{アイツは面倒くさい}と渋い顔をするのであります。どうやら森に居た頃からシアンに追いかけられていたらしい。そう言いながらも来る所を見ると仲が良いのだろうと思われます。(可愛いな)
この部屋、元母の部屋の裏側にはイリスの泉が隣接しているのです。丁度背の高い木々が茂っている陰にこの部屋が有り分かりづらかったのですが、シアンが頻繁に来る為聞いた所分かったのであります。それ以来、遠回りせずに来ています。(でも皆には内緒です。シアンが許してくれないのでね)
ここへ来ればかーさんととーさんに会える幸せな場所です。だって壁には二人の肖像画が掛けて有り、かーさんが良く読んでいた伝記の本も有ります。先日その本をめくっていたらあるページに小さな花のしおりが挟まっているのを見つけました。とても嬉しくて涙が零れそうになりましたが、風の妖精に泣かないでと頬を撫でられ涙も拭い取られて行きました。この部屋の全てが私の宝物です。
フェイが迎えに来てこの部屋を出て行った後、ルナが窓に飛び乗り少しの隙間からスルリと出て行きました。その時に風が入り込み1冊の本をパラパラとめくります。
一枝の小さな花のしおりが入ったページを開きます。
『天使とは、神が光りから創造した存在と言われている』
もう一度風が吹きパタンと本を閉じて止みました。
登場人物を増やしたくない作者ですが、サンディカさんだけはどうしても登場させたくて、終盤だと言うのに無理やりのご登場です。作者は大のおかまちゃんのファンです。おかまちゃんを見ているだけで和みます。