29.自宅は心の住家です。
ちょっと泣き過ぎた。目が腫れぼったく感じる。(ブサイクになってるわ)等と思っていたらスカートの裾をさわさわと揺らす物が居る。ちょんちょんと肩を突く物も居る。
「ヒカル、呼ばれておるぞ」(分かってるけど)泣き過ぎたんだもの。
「こちらを見よ」(やだ)必死で胸に顔を埋める。
顎に手を掛けぐいと持ち上げられる。(むー見んなよ、ブサイクなんだから)乙女心である。
「可愛いな」と言って笑った。(恋は盲目ってやつ?)
何も無かったはずの東屋は蔦で覆われ草花や果樹で埋め尽くされている。その周りでは鳥や蝶々まで飛んでいる。ちょっかいを出しているのはチェリー星人とかえるちゃん、肩に止まったのは小鳥さん。口々に{来てくれてありがとう。仲間を宜しく}と囁いているのが聞こえる。すると大きな果樹の木が枝を伸ばして白く小さな実を差し出して来た。
「ホワイトブラックベリーと云う森にしか実らない果実だ」フェイに教えられ実を口にする。(すーーーーーっぱい!)涙がまた溢れた。
私の涙を拭いながら「この香だよ」とフェイが言う。
「何の?」と聞いてみる。
「ヒカルの香だ」また私の髪の中に顔を埋め、首筋にキスを落とした。
{そろそろ日が落ちる、戻ろう}一角獣が戻ってきた。
帰り道はフェイと手を繋いで歩いた。隣には一角獣が一緒に歩いている。
{姫、私も名が欲しいのだが}(あー困ったな)隣のフェイを見ると少し驚いている。
手を繋いでいるから私が媒体になって聞こえるんだろう。何だか嬉しい。
{どうしても欲しいの?}と念を押して聞いてみる。
{ガイアはいい名前を貰ったな}情報収集力に参るわ。
{ルナも元気だろうか}ルナまで・・・。
{あのさ、フェイ、一緒に考えてくれる?}隣を歩く人が笑っている。
{私が考えたものでは喜ばないだろう}(そーなの?)一角獣の目が光る。
{少し時間を頂戴}そう言って青い鬣を撫でてあげる。
{分かった}
そのまま何も話さずに只歩いて帰った。
(ガイアは大地の精霊の名前だったのよね。それより格下の名前を付ける訳にはいかないし。じゃゼウスとか?いやいや神様じゃ無いんだからさ。・・・ユニコーン?何だか在り来たりだよね。んーペガサスは羽根有ったしな。・・・・・。)
隣を歩く一角獣を見つめる。一角獣も私を見つめる。
(本当に綺麗な青い鬣と青い瞳。宝石みたい)
白い建物が見えて来た。青いワンピースの女性も見える。そこに辿り着く前に足を止める。
手を繋いだままのフェイに一つ頷き一角獣に向く。
{シアン}
{名の意味は}
{青。あなたの青色}
{気に入った。ありがとう}
「はぁー良かったー」大きく溜息を付いた。
{明朝もここで待っている}
{どうして?}
{王子の城へ届ける}
{ありがとう}そっとシアンの額にキスをする。
フェイの手を引っ張って走り出す。「お腹すいたー」と言いながら。
その夜は沢山食べて、沢山しゃべって、沢山キスをして、沢山眠った。
明朝、シアンの元へと行き、その背に乗って森を駆け抜けた。妖精の道だと教えてくれた。
{王子、姫を落とさない様にしっかり抱いて下さい}にやりと笑うフェイ。
{抱くのは任せろ}この二人意外と気が合いそうだ。
瞬く間にお城の庭にある『イリスの泉』へ到着する。(正味15分?かな)凄いぞシアン!
私達を下ろし私の頬に擦り寄ってくる。キスの催促のようなので、額にキスを落とす。感謝を込めて。
{森へ行くときはここで呼べば迎えにくる}と言ってさっさと帰って行った。
「シアンはヒカルが気に入ったのだな」それは有り難いです。
突然帰って来た私達に皆驚いた。
事のあらましを説明するのに思いの外時間が掛かり、お昼を食べる頃には二人とも疲れてしまった。
「部屋で少し休もう」フェイの申し出に喜んで後を付いて行きます。
「ヒカル、見せたい物があるの」そう言って、マミィが呼び止めます。
フェイは何か言いたそうにしていましたが、直ぐに済むだろうからと先に部屋へ行ってもらう事にします。
「いえ、あなたも一緒に」そう言って先に歩き出しました。
城の長い廊下を抜け、来客用の塔を過ぎ、ローズガーデンを回り込んだ所に小さなログハウス風の建物が見えます。その建物へ向かう小道を進み戸を開いたマムが笑顔で迎え入れます。
「ここがイリスの部屋よ。今日からはヒカルの部屋にすると良いわ」
何故か凄く懐かしい気がする。自分の家へ帰って来た時の様な安心感がある。
テーブルの上には先日の青と紫のブレスレットがレース刺繍の小さなクッションの上に置かれている。
「なんだろう、ほっとする」本当に力が抜けて近くにあった椅子に座りこんだ。
「あなたはここで生まれて、ここで育ったのよ」ここが私の家なんだ。
「マム 本当にありがとう」心から感謝を込めて笑ってみせる。
「アオイの瞳とイリスの瞳を持つヒカルは皆の宝よ」私の両頬がマムの両手に包まれ見つめられる。名残惜しそうに手を離すとゆっくりして行く様に言い残して出て行った。
「知らなかったな」長椅子に足を延ばして座るフェイの上に私は抱かれている。
「母上を時々この辺で見かける事があったのだが、不思議に思っていたのだよ」来てたんだろうね。
「やっと自分の家に帰って来て「ただいま」って言えた気がするんだよ」(ここに住みたいって思うけど)
「好きなだけ居ると良い」やさしく髪を撫でるフェイ。
「ララァとシャァドとルナが待ってるもの」私には待っててくれる人達が居る。
「そうだな」旋毛にキスを落とすフェイ。嬉しそうだ。
「このまま少し休もう」(うん)こくんと頷く。
暫くして、そろそろ帰ろうかと思っていたら来客であります。いや。客?ってかマムとダッドなんだけど。
「フェイ、何故知らせなかったのだ」と国王様。
「本当にあなたと言う人は!こんな目出度い事を勝手に!」と王妃も怒っております。
「何の事だ」とフェイも首を傾げております。
「そなた達の婚約の印だ!」(あっ!)二人で耳に手を当て顔を見合わせる。
「何時言って寄越すかと思って待っていたのに、待ちくたびれたわ」
どうやら今朝から気が付いていたけど、話も長くなったしと気を使われたようです。
「今夜は祝いじゃ。ゆっくりして行かれよ」家の方には連絡を入れてくれたと教えてくれた。
その夜、国王、王妃、お兄様、お姉さまが顔を揃えて祝いの杯を挙げてくれた。
お話も終わりに近いのに、また名前を考えなければいけない事になってしまいました。ユニコーンで好いかなと安易に考えていたのですが、僕そんな名前ならいらないと言われた気がして、物凄く悩みました。たまたまプリンタのインクが無くなったので交換ついでに・・・・・。これも何かの縁ですよね。