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猫科人科目。  作者: 黒字
30/35

28.親の愛は大きいものです。

数日後の早朝。とても良いお天気です。

「この度は短いな」クロムさんとお別れです。

「俺もやる気が出てきたからね。次に会う時はいい報告を持ってくるよ」とウィンクです。

美人さんは何しても似合うから困るよね。溜息を付きながら「お守り」と言って深い緑色のシュシュをクロムさんの髪に結んであげる。レモングラスの香料と安全祈願のおまじないを込めて。

「フェイが浮気をしたら俺の所においでね」と言って、軽くキスをした。唇に。

「二度と来るな」フェイに抱き上げられてさっさと家の中へ連れて行かれる。

クロムさんの大きな笑い声が馬車の音と共に遠ざかって行った。


「んーっ・・・」(クロムさんのばかーっ)

「消毒だ」そう言って口づけるフェイは少しだけ怒っている。かな?




それから1時間後、私達も出かけます。マリー様と一緒に森へ向かうのです。

一度お城へ寄って、マリー様の馬車を警護する形で出発します。見送りは国王と王妃だけですが、それで良かったのだと思います。

国王はマリー様のご実家へ使者を送ったそうですが、娘の不始末に只驚いて詫びたそうです。これまではマリーがこうなったのはアオイとイリスの所為だと言って憚らず、自国の政務に関わる事もしないで来たといいます。近い内に登城して来ると言う事なので和解も近いと思います。ただ、マリーの事は任せると一任されたようです。


森までは1日半の道のりだと聞きました。今夜の宿は森の手前にあるムーンハウスと呼ばれる宿泊施設なんだそうです。森へ向かう人は必ずここで一晩を過ごして行くのだそうです。なんだか楽しみです。そうそう、ララァとシャァそれとルナはお留守番です。ルナも一緒に行こうと誘ったけど断られました。なのでルナにはくれぐれも二人の邪魔をしない様にと言っておきました。


馬車に揺られながら、つらつらと考え事をしていたら何時の間にか眠ってしまいました。

「・・・ヒカル、ヒカル」(はい)

「んーもう少し」心地よい馬車の揺れに目が覚めません。

「お前は、馬車の中でも猫の様に丸くなって寝るのだな」ん。気持ち良いよ。

「昼にするぞ」もうそんな時間なのか。

「はーい」ララァが持たせてくれたお弁当が有る。

外の木陰で大きなクロスを広げて、私とフェイとお城の従事の方(馬車を引いてくれている二人)でランチです。ララァのお弁当の他にマミィからのデザートも付いてとても豪華でした。少し離れた所でマリー様と待女のお二人もランチを取っています。でもマリー様の表情はあの時のままで、話しかけてもお返事をされません。それがとても悲しいです。


お昼を食べた後の馬車は、やはり眠くなります。今度はフェイも一緒に寝てしまいました。

夕暮れ時ピンク色の景色にふと目を開けるとフェイも一緒に起きたようです。「綺麗だね」と言うと、「ああ、そうだな」と微笑みます。私はフェイの寝顔が綺麗だと言ったのだけど。

「ヒカルのピンク色に染まった頬の方がもっと綺麗だがな」とエロい発言に真っ赤になります。(どーしたら良いんだ、この狭い馬車の中)俯いて自分の手を見ていたらその手を握り引き寄せられます。膝の上に乗せられ、顎を上に向かされて口づけを落とされます。ミュージックプレイヤーのイヤホンを片方づつ付けて聞きながら、外の景色を一緒に眺めていました・・・数分だけど。ムーンハウスに付く頃には私の上半身は赤い斑点だらけになってしまいました。(ああ悶え死にしそうです)



日が落ちる前に着いたムーンハウスは崖の上に点在していました。真っ白く丸い建物。上から見下ろした私は道端に落としてしまった雪見だいふくを想像してしまいました。(想像力が欠落している)その中央にある一番大きな雪見だいふくまで馬車で行き、降りた先には水色のストンとしたワンピースを着た女性が二人待っていた。先にマリー様達が一つの戸の中へ消えて行った。私達はそれとは反対側の上へ向かう階段を案内された。20段程上ると装飾を施された大きな扉があり、二人でその扉に触れると内側へと大きく開いた。

「わあー」空の上に居るみたいなのである。360度大パノラマな部屋は内装は全て白。その白色が七色に変わっていくのは絶景です。

「丁度良い時に来れたな」陽が沈みかけたピンク色と登り始めた青い月の光で満ち溢れているのです。嗚呼、こんなに美しい光景は見た事がありません。声も出せず、身動きも取れない私の前に跪き「森の姫、お会いできて光栄です」と水色のワンピースの女性はそう言い、すっと立ち上がると私の手を取って白いソファーへと座らせてくれた。フェイの方へ顔を向け一つ頭を下げると部屋を後にした。



ソファーから殆ど動かず只景色を眺めている。どれ程そうしていたのだろうか。

「ヒカル」隣に居るはずのフェイが遠い。

「どうしたのだ」ずっと手を握ってくれ、細かく震え続ける体を支えてくれている。

何も言えずなんとか笑顔を作るので精一杯だ。(森の声が聞こえる)

フェイに体を預けまた外の景色を眺める。(沢山の声に耳を覆いたくなる)

そのままの態勢で目を瞑り意識を手放す。(でも聞かなきゃいけない)

「森へは来たくなかった。お前を離したく無い」髪に顔を埋めるフェイ。

ぽうと光り出した私の体を繋ぎとめる様に強く抱きしめた。



翌朝、パノラマの日の出を見ていると青いワンピースの女性が手伝いにやって来た。手を取られ湯殿へと向かう。体を洗い真っ白なワンピースに袖を通す。お互い何もしゃべらずにもくもくと身支度を整える。フェイも白いシャツにコッパン姿になっていた。(1番好きな姿だ)その胸に飛び込む。優しく包み込んでくれる人。(大好きだよ)


朝食を取り、森へ向かう通路へと案内される。マリー様は別の通路へと出発された様だ。私達が向かうその先には一本の角を有し青い鬣の白馬【一角獣】が待っていた。

{姫、どうぞ私の背に}首を下げて促される。フェイに抱き上げられてその背に乗せられる。ガイアと同じ位の大きさだけど、線が細く感じられる。聖獣だからかもしれない。

フェイは一角獣の青い鬣を撫で首をぽんぽんと軽く叩いて一緒に歩き出す。

{王子は良き人}(そうだよ)

木々のアーチが続く道は緑で溢れている。その道を1時間位進んだ所に東屋が有った。

一角獣の背から降り、フェイと共にそこへ向かう。そこにはマリー様と待女が待っていた。


私達を待っていたかのように森の声が降り注ぐ。

{マリー 私の庭へようこそ}マリー様が微笑んでいる。

{私と一緒に暮らしましょう}マリー様が立ち上がる。

{あなたはどうしますか}待女の方が答える。「ご一緒致します」

{森の奥で待っております}

東屋の更に先に続く道へと進み始めたマリー様が足を止めこちらを振り返る。

「先に行っているわ イリス」にこりと笑って前を向き森の奥へと消えて行った。


東屋の中には手を繋いだままの私達が残された。振り返った先にはあの美しい一角獣は居なかった。

「マリー殿を連れて行かれるのか」フェイが誰とも無しに声を掛ける。

{私達にも責任がある。マリーが悪い訳ではないわ、娘もアオイもそれは分かっているでしょう。}

{愛しい子、彼らの名を}

「アオイ、お父様。 イリス、お母様」フェイの手を強く握りしめる。

名前が言霊となり二つの白い影が私の体から現れる。

{愛しいヒカル、あなたの信じる道を進みなさい}同じ顔が頬を撫でる。

{我が天使、道はお前の前にある}同じ瞳が頭を撫でる。

「とーさん、かーさん・・・ありがとう」今まで守ってくれていたんだね。

{愛しい子、心は決まったか}

「私はフェイと共に歩みます」フェイが強く握り返す。

{ヒカルをお願いします}かーさんはフェイにそう言ってマリー様の後を追って行く。

{フェイ、久しぶりだな}とーさんは嬉しそうにフェイと握手をしています。

「叔父上もいらっしゃったのですね」フェイも嬉しそうだ。

{ヒカルを頼む}そう言って私の顔を見つめる。

「はい。離すつもりはありませんよ」と私を引き寄せる。

私達を見て優しく笑いかーさんの後を追って行く。

「とーさん、かーさん、また会いに来ていい?」(これっきりは嫌だよ)

二人とも此方を向いて笑顔で返す{いつでもいらっしゃい}ふわりとやさしい風が髪を乱す。

見えなくなるまで目で追って、見えなくなっても目が離せなかった。

「声を出さずに泣くな」と言われフェイの胸に埋まり思い切り泣いた。


マリー様は在るべき物を見ていたのでしょうね。これから彼女のささやかな生活が幸せであるよう願いたいと思っております。さて、お話も終盤を迎えております。残り数話となりましたが引き続き読んで下れば幸いと思っております。

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