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猫科人科目。  作者: 黒字
3/35

3.扉は慎重に開けましょう。

私は花篭ひかるです。48歳、女性です。

純日本人って容姿です。155センチの小さめな身長にそれなりの体を保有してます(胸はCカップ、ウエスト無し、ヒップは少々下がり気味)。髪の色は勿論黒。若い頃から若白髪があったけど最近頓に白髪が増えてきました。瞳の色も黒。それも真っ黒なので気味悪がられる事も多々あります。肌の色も万年小麦色の色黒です。濃すぎる色素に悩んだ事も有りますが、遺伝子レベルで悩んでもしょうがないかと幼い頃より放棄しました。

体が弱かった為、異性に興味を持つ事も無く40歳近くまで独身でしたが、何とか縁があり結婚しました。しかし3年前に旦那が交通事故に遭い、また一人となりました。旦那の一人娘がおりますが物凄く自立している為、手が係らず少々不満ぎみ。

旦那の保険金が思いのほか高額だった為、生活にまったくの心配はありませんでしたが、子供の手が離れているのとことの外暇を持て余し、仕事をしようとハローワークヘ馳せ参じました。

そこで、バッタリお会いしたのが米倉美代さん。

事務員の募集に来たと言うみよちゃんに、即時雇用されました。(提出前で良かったね~)

みよちゃんは娘が通っていた英会話教室で知り合ったママ友。私より2歳年上で大柄な美人さん。息子の虎之助君は娘より2歳上でイケメン系列。英会話教室を止めた頃には交流も少なくなってたのだけど、旦那の事故以来よく心配してくれる。(ありがたい)

事務員募集に私の事が頭を翳めたらしいが、葬儀を終えてから半年しか経っていなかった為、まだ早いかと断念したらしい。(グッドタイミングね)


で、そのみよちゃんと飲みに行ったはず。

ん。行ったよ。「イケメン居酒屋」へ。

まぁ確かにイケメンだったし学生アルバイトらしからぬ客捌きに驚いたね。高額なホストよりも楽しいし、奥で料理を作ってるご主人の味の趣味にも感嘆したし。何よりみよちゃん大喜びで花しょってたからねー。

私はそのとろけそうな笑顔を肴にビールを飲みつつ、平和だな~と、これからも毎日続きますようにと願ったのですが。

2件目のおかまバーで大盛り上がりして、潰れたみよちゃんとタクシーに乗り込む。

勝手知ったるなんとかで、みよちゃんを自宅へ届け、「じゃ~また来週ね~」と別れて私は自分の住むマンションへとのんびり歩きだす。一人は気楽ね。等と思いながら。

ああ着いた。と、マンションを見上げながら、ふっと苦笑いをする。

そのままエントランスへ入る事無くマンションを通り過ぎ、細い道路が途切れた十字路で足を止める。その斜め角にスタンディングバー「アバロン」が在る。

1年前、急な雨と気まぐれな気持ちを持て余し、何気なく押した赤く重たい扉。

この扉を押す度に、逸る気持ちと切ない気持ちが押し寄せる。

(時間を置いたのになぁ。)溜息と共に押す赤い扉が今日はやけに重い。


「いらっしゃいませ」

カウンターの中から国籍不明の男性が流暢な日本語で出迎えてくれる。

多分同じくらいの年代。若すぎる感も無いがお説教に価値を見出す年齢でも無いと思う。実の所、年齢不詳。


「こんばんは」

数ヶ月ぶりに足を踏み入れた私に心地よい笑顔を向けてくれる。(あ~ほっとするな)

そのままカウンターの一番奥に視線を向ける。(やっぱり居る)

アッシュブラウンのゆるい巻き毛。整った顔立ちは彫が少し深い。サファイアを思わせる深青の瞳。自分の言葉を紡ぎだす形の良い唇。少し日に焼けたサンドベージュ色の肌。

(今日は白いシャツにチノパンだ。ここまで似合う男性はそう居ないよね)等と関心してしまう。

「ヒカル」

大きな手に引かれ、騎士だと言う逞しい体に包まれる。(来てしまった)

「ヒカル」

低く艶のある声に耳元で囁かれると、ゾワリと粟立つ心。(やっぱり来てしまった)


「・・・フェイ・・・行けない。」

やっと出した声は僅かに掠れ、抱きしめられているからか潜もってしまう。

この年になって幼過ぎる行動に理性が働く。

だって、フェイの国って何処?知らない場所に行くのには抵抗がある。


額にやわらかい物が触れる、とパチっと何かが弾けた気がした。

「何も考えないで。私にまかせて。」

どういう意味だろう?顔を上げて口を開きかけた時、頭上に光の渦が満ち溢れ眩しくて目を開けていられない。

「何?」と一歩後ずさり、眩しさにその手を離してしまった。

白い光に包まれた時、私の意識も真っ白になり混沌の世界へと身を投げた。

僅かに聞こえた「ヒカル」の声と共に。






翳みがかかったような意識の中、淡く光る 細く青い糸が揺れる

丸くなって震えていた小さな子猫はそっと顔を上げ、安心したように青い糸を追いかける


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